南麗奈②
あれからしばらくは調子が出なかった。友達も私の変化に気が付き、優しく接してくれた。
中学二年生の女子は多感なのだ。周りの大人たちもそれを知っていて、心配はしてくれるが、干渉はしなかった。これは本当に助かった。
佐井さんへの思いは誰にも言っていないし、言うつもりもない。
私だけの思い出。私の秘密の成長過程。イニシエーションってやつかな?
「麗奈、元気になったね」
学校に着くと親友の花蓮が声をかけてくれた。
「ありがとう。心配させちゃったね」
「ううん。私が落ち込んでた時、麗奈に支えてもらったもん」
花蓮のお家で飼っていたダルメシアンのぶちが天国へ行ったときの話だ。
あの時の花蓮はずっと泣いていた。私もぶちと遊んだことがあったので、悲しかったけれど、花蓮はもっと悲しかったんだと思う。
「そんなこともあったね」
「うん。あの時は助かったよ」
「私も助かったよ。ありがとう」
「こちらこそ」
続々とクラスメイト達が登校する。
「おはよう」
「おはよう」
挨拶をして席につく。大切なことだ。挨拶のできる大人になりたいと思う。
将来のことを考えられるなんて、私も立ち直ったんだと実感する。
あの時は明日のことも、いや、一分先のことも何も考えられなかったんだから。