表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/72

平尾香苗③

 過去に読んだ作品、好きな作家、バカミスなどなど尽きることのない話題。


 佐井君も同じ趣味の人と初めて会ったと言っていた。私と同じ熱量で、ミステリー小説について話をしている。


 話すのも楽しいが、聞くのも楽しい。


 途中で佐井君の視線がはずれたので、その方向に何かあるのかと思ったら何もなかった。


 佐井君は振り返り、私と目が合う。


 ニコッとした佐井君にドキッとしてしまう。


 それにしてもこんなに楽しい通学路は初めてだ。


 小平駅に着き、階段を上る。改札を抜けると佐井君が、どっち方面? みたいな顔をするので、私は所沢方面のホームを指さす。



「同じだ。何駅?」


「東村山」


「それは同じじゃなかった。俺は清瀬」


「そうなんだ」


「東村山までは一緒だね」


「うん」



 階段を降り、ホームに立つ。


 その間もずっとミステリー小説の話。私、短い間に何回「ミステリー小説」って言っているんだろう。この後も言うんだろうけど。


 シルバーに青いラインの入った電車が到着する。以前は真っ黄色のダサい電車だった。どういう趣味をしているんだろうか。


 車内は今日は空いていたので、並んで座る。手持ち無沙汰で椅子で遊ぶ。一定の方向から指で椅子をなぞると濃くなって線が線をひけて、反対になぞると元に戻る。小さい頃から電車に乗るとこれをやっちゃう。



「連絡先交換しない?」



 佐井君がケータイを出して言ってきた。


 ちゃんと話したのは今日が初めてなのに、連絡先を聞いてくるなんてチャラいな、と思いながらも断らずにうなずく。


 同じ趣味の仲間は大切にしたい。


 それに佐井君には彼女がいるんだから、大丈夫なはず。本当にチャラいようなら相手にしなければいい。



「ありがとう」


「ううん」


「じゃあ、それ読み終わったら、感想教えて。葉桜の季節に君を想うということ」


「わかった。教える」


「よろしく、それじゃあ」


「うん、また明日、学校で」



 東村山駅に到着すると私は電車を降りる。ここでお別れ。


 佐井君に手を振ると、佐井君も振り返してくれる。


 いつもならすぐに出発する電車が、なぜだか知らないけれど、なかなか電車が発車しない。


 あ、気まずい。これ気まずいよね。一応もう一回手を振っておこう。あ、振り返してくれた。佐井君も気まずそうだな。ケータイをいじって紛らわせよう。



――これ、気まずいよね。



 佐井君からメールが入っていた。



――気まずい。



 そんなやりとりをしていたら、やっとベルが鳴り、ドアが閉まった。


 ドア越しの佐井君がニコッと笑って手を振ってくれる。


 私も笑って手を振り返す。こういうのって女子の私からしたほうがよかったのかな?


 電車が走り出すと佐井君の姿は見えなくなった。当たり前だけど。


 ケータイを開いて見てみても、メールはない。特にあれ以上の会話は進まない。私も佐井君に用はないし、佐井君に私も用はないはずだ。


 次にメールを入れるのは私が本を読んだ後かな。


 清瀬駅に着いたら佐井君は彼女さんと会っているのかな? ま、私には関係ないけど。


 趣味の合うクラスメイト。それ以上でもそれ以下でもない。


 さあ、さっさと読み終えて感想を伝えよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ