百村りか⑪
ホームルームの最中、それは突然のことだった。
「それ、姉な」
佐井君の彼女だとみんなが思っていた人は、お姉さんだった。
佐井君はこんな嘘をつくような人ではない。
それは私が一緒に放送委員会の仕事をしてきてよく知っている。
それに佐井君は彼女がいるのなら、それを隠すような不純なことはしないと思う。
「とにかく俺に彼女はない」
佐井君が言い切った。
ドクン
胸が鳴ったのがわかった。
胸の中で一度諦めたあの気持ちが再び動き出した。
なんだよ。彼女いなかったのかよ。
体育祭、もっと楽しめばよかった。
好きだけどあきらめなくちゃいけない人と二人で、みんなとは違うテントで待機していたあの地獄。
本当は天国だったんじゃないか。
「ちょ、ちょっと、男子だけで盛り上がってないで話進めてよ」
小川さんが勢いよく男子に言う。
小川さんって佐井君のこと好きなのかな?
好きっぽいよな。あからさまなアプローチがあるもんなぁ。
でも私だって距離は近いと思っている。
「それじゃあペアの続きをします」
学級委員の大沼さんが話を進める。
「ペアの希望はありますか?」
そうだった。レクのペアを決めている最中だった。
ってちょっと待って。
え、希望? 希望言えるの?
誰と組みたいか言っていいの?
それは……もちろん……。
ああ、でも言いにくいな。
あ、小川さんが手を挙げている。
そうだよね。挙げるよね。
どうしよう。
どうしたらいいんだろう。
もういいや、どうにでなれ。
勢いで手を挙げた。