百村りか⑩
それから数週間たった五月のこと、木曜日の朝の放送を終え、二人で教室戻った後のことだった。
一時間目まで少し時間があるが、クラスメイトのほとんどは登校していた。
佐井君と私はそれぞれ自分の席に着く。
「おはよう、りか。今日は放送委員の日だったね」
「おはよう、さくら。うん、そうだよ」
「今日のアナウンス、りかでしょ」
「う、うん」
くそ、ばれていたか。今日が初めてだったのだが、一発でばれてしまった。まあ、いいけど。
「放送委員、佐井君と一緒なんだよね」
「そ、そうだよ」
「ねえ、聞いた? 佐井君のこと」
「え、何かあったの?」
「彼女いるらしいよ」
「え、そ、そうなの?」
「一緒にいてもそういう話しないんだ」
「うん、しない」
「上田君が見たらしいよ。清瀬総合高校の制服を着た女と清瀬駅で待ち合わせしてたんだって」
「そ、そうなんだ」
「うん。結構かわいかったらしいよ。なんか佐井君って女の子と話すの慣れてる感じがしたけど、そういうことだったんだね」
「そ、そういうことだったんだね……」
がらがらと教室の戸が開けられる。
「おはようございます」
担任の佐藤先生がいい声で挨拶を言いながら入ってきた。
さくらとの話はそれで中断となった。いや、中断なのか? 再開がなさそうなので、終了か。
いや、それよりも何かもっと大きなものが終了した気がする。崩れたと言うべきか。
そっか……彼女いたんだ……。うん、いるだろうね……。いて当然だよ……。
なんとなく察していたじゃないか。それに目を背けていただけ。心地よい時間に浸っていただけ。
あーあ、これから木曜日、辛いな。体育祭なんて最悪だ。一緒に楽しもうと思っていたのに。あーあ、辛いな。
今後どうしよう……。どうすればいいんだろう。今まで何かあったわけではないし、変わらない接し方でいいのだろう。でもできるかな……。
彼女いるんじゃ……。しょうがないよね。