第95話 閑話:偽装剣で遊びたい
閑話3話の2話目です。
「前は流れちゃったッスけど、改めてカフィで遊んでみたいッス!」
宿で休んでいると、唐突にエイミーがそんなことを言い出した。
「面白そうですわ。私もユーリさんになってみたかったんですの」
「ええ……。俺になって何が面白いのか全くわからんのだが……」
「良いから! やってみるッスよ!」
まあ別に良いけどな。カフィを取り出す。
『何かわたしの能力遊びにしか使われてなくない?』
(偽装が必要なことってあんまりないからなぁ。悪いけど我慢してくれ)
『ご主人様たちみたいに真っ当に生きてる人にはあんまりいらない能力だもんね……』
(だからってお前が悪人の手に渡ったらなんて考えたくもないけどな)
どんな恐ろしいことになるか。あらゆる人々が疑心暗鬼になって、国が崩壊しそうだ。
「じゃあ先ずはあたしがやってみるッス! 兄さん、貸して欲しいッス」
「あいよ」
エイミーにカフィを渡す。クラリスが自分にはなるなって注意するかと思ったが、特に何も言わないな。
「じゃーん! んんっ……どうでしょう、ユーリ様?」
「ひ、姫様っ!?」
いや、エイミーが化けた姿なのはわかっているが、あまりにも姫様らしい様子に驚いてしまった。
声が姫様なのはカフィの能力だろうが、上品さを感じる仕草が姫様らしさを強くしている。エイミーの模倣能力が高すぎる。
「へぇ、この方が……。確かに美しい方ですわね……」
「ユーリ様、こちらへ来てください」
「は、はい……って違う! 止めろエイミー! そっくり過ぎて逆らえない!」
「えー、もうちょっと遊びたかったのにー」
「俺で遊ぶんじゃない……」
もう疲れてきたぞ……。
「じゃあ次は私ですわね」
エイミーからクラリスにカフィが渡される。そして、クラリスは俺の姿になった。
「おおー……。確かにカチカチですわね。何だか力が強くなった気分ですわ!」
「俺の姿でその口調はキツイな……」
「大輪牡丹!! ……どうです?」
俺の姿のクラリスがカフィを持ち上げて振り下ろしている。そもそもカフィは短剣だから威力がなさそうってのもあるんだが……
「へっぴり腰ってレベルじゃないな。剣の訓練を始めたばかりの頃の俺より酷いかもしれない」
『かもしれないではなく、確実に酷いです。マスターはへっぴり腰でもそれなりに真っ直ぐ振り下ろせてましたからね』
クラリスのヘロヘロの剣筋は、絶対に何も斬れないと確信できるレベルだ。運動能力が低い訳ではなかったはずだが……。
『多分尋常じゃないくらい剣の才能がないんだと思うよー。あたし、流石にこのレベルは見たことないなー』
『そもそも剣の才能がない人なんて見たことないんじゃない? だって、』
『カフィ』
『あ、ゴメンね……』
『フィーは過保護だなぁ。別に教えたって大丈夫じゃない?』
『いつかは話すときが来ます。でもそれまでは……』
最近はこういうことが増えたな。フィーが話す必要がないって言うなら別に良いんだが……
(フィー。念のため聞いておくが、何か悪いことじゃないんだよな?)
『マスターの受け取り方次第……ですかね。でも何か直接害になることではないです』
なら良いか。フィー以外の、例えばヴィラかカフィなら聞けば教えてくれそうだが、別に無理に聞く必要もないだろう。
「兄さん! 見て見て! ほら、お化けー」
「あ? うおっ!?」
目の前にぼんやりと光る人影があった。
「……ああ、もしかして、アクアの旧都にいたお化けか?」
「そうッス! こんな奴が3匹もふよふよしてたッスよ! あれは怖かったッス……」
「そのお化けってモンスターなんですわよね? どうやって生まれたのでしょうか?」
モンスターは、悪性魔力から生み出される魔力のみを原動力とする種と、生き物が悪性魔力の影響を受けて変化する種がいる。
エイミーから聞いた限り、例のお化けは恐らく研究者が化けて出たものだ。
だったら、悪性魔力の影響でモンスターになったと考えるのが自然だろう。
「多分研究者に悪性魔力が影響して生まれたんだとは思うが……」
「それなら人型になりません? こんな白いフヨフヨしたものにはならないと思いますわ」
そうなんだよな。だからわからない。魂なんて呼ばれる物にも悪性魔力が影響するってことなんだろうか。
「きっと悪性魔力が勝手に器を作ったんスよ! で、そこに研究者の思念が入って生まれたッス!」
「そんなこと……ないとは言い切れないか?」
悪性魔力は様々な道具を生み出す。だったら、モンスターの器を作り出してもそこまで不思議ではない気もする。
「あ、でもお化けは悪性魔力で倒せたんだろ? だったら、そもそもモンスターじゃないんじゃないか? モンスターだったら強化されるだろ」
「あ、うーん……。ルーアの悪性魔力が強すぎて、器が壊れたんスよ! 生まれた時は漂う魔力から生まれたッスから、直接当てられたら耐えられなかったってことッス!」
「とりあえずエイミーさんはそろそろその姿止めてくださいません? その姿でペラペラ話されると結構不気味ですわ……」
「じゃあ次は兄さん!」
エイミーにカフィを渡された。何かに変化してみろってことか? うーん……あ、そうだ。
「え? 兄さんがフィーになったッス!?」
「ちょ、ユーリさん!? それどうなってるんですの!?」
フィーに、剣になってみた。どんな感じだろうか。
「……あ、これ全く体が動かせない」
『そりゃそうですよ……。もう、そんなにわたしになりたかったんですか?』
(いや、どうなるかなって……)
「重さもフィーと同じッスね。ふっ! はっ!」
「うおっ!? ばっ!? 止めろ! 振り回すな!」
「それ、斬れるんですの?」
「ほっ! あ、紙が切れたッス」
「エイミー、ストップ! これ、自力で戻れない! カフィを使って戻してくれ!」
変化した時にカフィを落としたようだ。この姿では剣を持つことが出来ないので、元の姿に戻ることすら誰かに頼らないといけない。
「えー、どうしよっかなー」
「何か一つ言うこと聞くから!」
「!! え、ホントッスか!? すぐやるッス!」
「それなら私がやりますわ!」
「あ、させないッス! カフィを渡すッス!」
「私がやりますわああぁぁぁ!!」
「こっちに渡すッスううぅぅぅ!!」
エイミーとクラリスがカフィを取り合って喧嘩を始めた。
……俺はいつになったら元の姿に戻れるんだろうか。




