第91話 地を砕く
ファムリアの街を出発し、東へ向かう。その途中、
「ソル、どんな能力があるのか教えてくれるか」
『持ち主の体を硬化する。それだけだ』
大体予想通りの能力だな。問題はどれだけ硬くなるのか、だ。
「試してみないとなんとも言えないか」
ソルを抜き、両手で構える。そして能力を使ってみる。
「特に何か変わった感じはしないな。硬化しているからといって動けなくなったりはしないのか」
動きに支障はない。体の感覚がおかしくなったりもしないようだな。
「エイミー、ちょっと短剣で突いてみてくれ」
「え!? 兄さんをッスか……? それはちょっと……」
「試してみないとわからんだろ。あの伝説の通りならかなり硬くなっているはずだ。やってみてくれ」
「うう……。ちょんっと」
短剣で軽く突かれるが全く刺さらない。
「もっと強くやってみてくれ」
「ううう……。せやっ!」
それなりに強く短剣が振るわれたが、全く傷がつかない。エイミーの力はあまり強くないが、とはいえ普通なら結構ざっくり斬れるくらいには力が込められていた。
「エイミー、全力で来い!」
「ちょ、ちょっとユーリさん。エイミーさんが可哀想ですわ」
言われてエイミーの方を見ると、涙目になっていた。
「ちょ!? あ、ああ、悪い! ゴメンな? もう良いから」
「もう良いッスか? 兄さんを斬らなくても良いッスか?」
「ああ! もう大丈夫だ! お陰で硬化能力の確認も出来た。ありがとうな」
良く考えたら自分で自分を斬れば良いだけだ。エイミーには無駄に辛い思いをさせてしまった。
ソルを右手で持ちながらリィンを抜く。ソルを片手で振るうのはキツイが持っているだけなら大丈夫だ。
「ふっ!」
右手に持ち替えたリィンを全力で左腕に振り下ろす。
「なっ!?」
「兄さん!?」
ソルを持っているからかなり振り辛い。それに自分の腕は斬りにくい。いつも敵と戦っている時よりも大分弱い振り下ろしになってしまった。
とはいえそれなりに勢いをつけて斬ったにも関わらず無傷。全く斬れていない。
「おおー、結構硬くなるな」
『……とても最悪な気分』
「なんてことするんですの!? 腕は大丈夫ですの!? 見せてくださいまし!!」
「兄さんの嘘吐き! もう大丈夫って言ったのに!!」
『マスター、これは怒られても仕方ないですよ……』
『あたしでも好奇心で自分を斬るのは良くないと思うのに……』
『ご主人様? それはちょっと……』
『主様はいつも自覚が足りませんね』
『主、人前でやることではない』
全員から一斉に苦言を述べられた。クラリスに腕を取られ傷がないかを確認される。
「どうやら傷にはなっていないようですわね。まったく、少しは自分の安全についても考えて欲しいですわ」
「いや、仮に傷になるとしてもそんなに深くは斬れないだろうと思ったから……」
「そんなのわかんないじゃないッスか! 斬れたらどうするんスか! まったく、ホントにまったく!」
『……自分のマスターを斬るのに使われる剣の身にもなって』
「はい、ごめんなさい……」
謝るしか出来ない……。今後は宿とかテントとか、1人の時にやろう。
『そういうことじゃないんですよ』
東へ向けて進む。この辺りにはモンスターがあまりいないようだ。
それなのに山にはワイバーンか。そういえばガイアで騎士団長が討伐したワイバーンも山にいたらしい。ワイバーンの生態なのかな。
「ワイバーンってどんなモンスターなんスか?」
「俺も見たことはないな。竜種に次ぐ強さらしいが」
「ワイバーンは飛竜とも呼ばれる翼を持ったモンスターですわ。竜と付いているだけあってその強さは本物。楽に相手できるモンスターではありませんわね」
クラリスが得意げに語っている。だがこの情報は知識として知っているだけで、実際に見たことはないことを、俺は知っている。というかエイミーもわかっているだろう。
「そんな誰でも知ってることを聞きたいんじゃないッス。どんな攻撃をしてくるのか、どれほど力が強いのか、そういう話ッス」
「それは知りませんわ。見たことありませんもの」
「……クラリスって本当に頭良いんスか?」
「どういう意味ですの!?」
確実に俺やエイミーより頭は良いだろう。だが、頭が良いということと頭を使えることは別問題だ。
「知識があるからって披露すれば良い訳じゃないってことだな」
「そんなことはわかっていますわ。沈黙は金、無駄なことを口に出していらない情報を敵に与えることほど愚かなことはありませんわね」
「そうだなー」
「なんですの!? その優しい目は!?」
この子に交渉は無理だ。俺も交渉事に向いている訳じゃないが、クラリスよりマシな気がしてきた。
話している間に、もう昼だ。そろそろ山の麓かな。
山を登る。木がそこら中に生えているが、そこまで密度は高くない。広めに間隔があいていて、歩きやすい山だ。
この山の山頂にワイバーンが出たらしいが、ずっと山頂にいるとも限らない。リィンを抜いて警戒はしておくか。
山頂に出たって誰がどうやって確認したのかもわからないしな。もしかしたら山頂の方に飛んでいくのを見たってだけかもしれない。それくらいは聞いておくべきだったか。
「そろそろ索敵に出るッス」
「わかった。気をつけろよ。ワイバーンに1人で挑むようなことはしたら駄目だぞ」
「わかってるッスよ」
エイミーが駆けていく。あっという間に見えなくなった。
「索敵と言っても全然モンスターを見ないんだよな。感知範囲にも全くいない」
「ワイバーンから逃げているのかもしれませんわね。1匹でこの山を支配するとは、もしかしたら成長した強い個体かもしれませんわ」
「初ワイバーンで成長個体か。空への攻撃をあまり持ってない俺からしてみれば天敵かもしれんな」
「私も結界が届かない高いところから攻撃され続けると面倒かもしれませんわね。長距離魔法で撃ち抜ける相手だと良いのですけど」
ワイバーンの防御力もわからない。エイミーの短剣が通らないようだと、無理をする必要が出てくるかもな。
「兄さん! 気配があったッス!」
エイミーが戻ってきた。まだ山の中腹といったところだが、早く見つけられる分には良いだろう。
「さて、行くか」
エイミーの案内で、気配があった場所に向かう。
見つからないように木の陰に隠れながら様子を伺う。
そこにいたのは、手が翼になっている二本足のモンスター。体の色は薄い青色、頭には2本の角が生え、その足の爪はどこまでも鋭い。長い尾の先にも鋭い棘があるため、尾の攻撃にも気をつけた方が良さそうだ。
地面に降りている時は、手も地面につくようだ。実質四本足みたいなものだな。
せっかく地面に降りているんだから、先制で大きい一撃を加えたいところだ。
(クラリス、結界で閉じ込めてくれ)
(わかりましたわ)
ソルを体内から取り出し抜く。鞘は体内に戻しておく。一撃で決めるつもりで行くぞ。
木の陰から飛び出し、駆け出す。
「魔封壁・御式塔!」
クラリスの結界がワイバーンを閉じ込める。
グオオオオォォォォ!!!
ワイバーンが咆える。そしてその尾で結界を突き刺す。
だが結界は砕けない。ヒビも入っていないし、しばらくは耐えられそうだ。
結界の前で上段に構え、力を溜める。
もともとこの技は、両手剣を使って放つ技だ。
フィーに言われ、父さんの騎士剣を使って修行している時に編み出した。
だから、これこそが真の姿
「堅牢壊花・大輪牡丹!!!」
振り下ろす。その一撃は結界を容易に砕き、その中のワイバーンを斬り裂く。
地が爆ぜる。抉れ、飛び散り、その衝撃で以て周囲の木を薙ぎ倒す。
爆ぜた地面が俺にも当たるが、ソルの能力で全く傷が付かない。
真っ二つになったワイバーンが倒れ伏していた。




