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貫き通せ我が騎士道  作者: 神木ユウ
第3章 清風国ウィンド
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第89話 都市ファムリア

 カフィの遺跡を出発してから32日、ようやく着いた。

 剣の伝説についての本に記されていた場所。


 家具の都市、ファムリア


 この都市の魔法道具開発は家具が主。

 洗濯機、冷蔵庫、魔力レンジ、全てこの都市で生み出された物だ。

 他にも、設定した内部環境にすることで服を保管するタンスやクローゼット、設定した時間にスッキリした目覚めを促すベッドなど、日々新たな家具の開発に取り組んでいる。


 そんな都市が、伝説の舞台だ。






 ある戦士がいた。

 モンスターの群れに向かって、単身突撃するような、無謀とも言える戦士。



 だが、その戦士が傷ついたところを誰も見たことがない



 敵の攻撃を避けようともしないのに、全く傷つかない。

 その手の剣をただ振るうのみ。敵の攻撃は無視して、ただ剣を振るい続け、



 そして無傷で勝利する



 誰もが恐れた。何を考えているのかわからない。どれほど強いのかわからない。

 だから、英雄とも言えるその戦士に、討伐隊が差し向けられた。

 愚かとしか言いようがない行い。しかし、その領主が出した命令に批判は出なかった。



 誰もが恐れていた。無表情で、敵の返り血で真っ赤に染まって帰ってくるその戦士を。



 討伐隊の銃が戦士に向けられる。20人からなる隊が一斉射撃で戦士を攻撃する。



 全ての魔力弾を弾き、戦士はやはり無傷だった。だというのに、討伐隊には一度も攻撃しなかった。



 たった一度の攻撃すらせず戦いに勝利した戦士は、しかしその都市を去った。

 たった一言、この都市のためにこの剣を置いていく、そう言い残して。



 初めて戦士の考えが理解された。戦士はただ、この都市を守りたかっただけだったのだ。



 しかし、それが理解できたところでもう遅い。戦士はいなくなってしまった。

 領主も、住民たちも、皆後悔した。もう戦士に謝ることすらできない。

 だからせめて、この剣を大切に保管しよう。


 今も、その剣は、都市の守り神として祀られている。






「それって、とても大切にされているんじゃありませんの? そんな剣をもらうことができるでしょうか?」


「あくまで伝説だ。この出来事が本当にあったのかもわからないし、この都市の人がどう考えているのかもわからない。一度行ってみても良いだろうと思ってな」


 もしこの伝説の通りに祀られているなら、奪うことは出来ないし、奪いたいとも思わない。その時は見せてもらえないかだけでも交渉したいな。

 この都市のどこかに剣があるのは間違いない。まだ都市の入り口だが、気配を感じる。


『力強いのに物静かな感じがしますねー』


『……仲良く出来そう』


『ヴィラさんのような方でなければ問題ないでしょう』


『え!? それどういう意味!?』


『あなたのような方が2振りもあっては主様が大変だという意味でございます』


『それ説明になってないわよ……』


『でも確かにヴィラみたいなのが2本もあったらうるさくて仕方ないですねー』


『フィーだってうるさい方でしょ!』


『なんですって!』


『……うるさい』


 だんだん頭の中が騒がしくなっていく。ヴィラだって俺が寝てるときとかは静かにしてるし、ちゃんとわきまえてるから大丈夫なんだけどな。

 もしその配慮も出来ない性格の剣があったらそのまま置いていくかもしれない……。


「兄さん、先ずはどこに行くッスか?」


「先ずは宿を取って……どうするかな。手当たり次第に歩き回れば剣がどこにあるかわかるかもしれんが」


「領主の館に行けば何かわかるかもしれませんわ」


「領主の館には入れないと思うが」


「領主の館の中に剣があるかもしれませんわよ?」


「ああ、まああり得なくはないか。それなら館まで行けばわかるし、一度行ってみるか」


 もし領主の館にあるなら見せてもらうのは難しいかもしれないがな。伝説の本で読んだんです、って言って入れてもらえる訳ないし。






「何と言うか、あまり愉快な視線じゃないですわね……」


「スゴイ見られてるッス。何かおかしいところがあるッスかね?」


「……チッ」


「兄さん?」


 こんな視線を向けられると思い出す。あの日々を。

 魔王の色だと言われ、いないものとして扱われたあの日々。いないものと言いつつこちらを窺っていたあの目。



 これは、差別の目だ。



「この街はさっさと出た方が良いかもな」


「ええ、ずっとこんな視線を向けられては煩わしくて仕方がないですわ」


「それもあるが、都市全体で外国人を差別するようなところだと何をされるかわかったもんじゃない。危害を加えられる前に出て行った方が良い」


 この都市に剣があるのは確かだが、手に入らない可能性も高い。危険に飛び込んでまで取りに行く必要はないだろう。

 引き返そうとした、その時、



「旅のお方、遠いところお疲れ様です。この都市にどのようなご用かお聞きしてもよろしいですか?」



 やや薄い緑髪の執事服を着た20代半ばほどの男に声をかけられた。俺たちがこの都市に入った報告を受けて来たといったところか。

 こんなに早く接触してくるとは、まさか排除されるんじゃないだろうな。


「……あなたは?」


「失礼しました。私、このファムリアを治める領主ウィリット・ファムリア様の執事をしております、アルトと申します」


 服装でわかってはいたが、執事か。かなり戦えるように見えるが、本当に執事か? 私兵とかじゃないだろうな。


「ユーリです。こちらはエイミーとクラリス。この都市へはちょっとした観光で立ち寄っただけですよ」


「そうですか、観光に。国外からこの都市まで?」


「いえ、この国に来たのは別の用ですよ。せっかく来たので様々な場所を見て回ろうと思いまして」


「別の用というのをお聞きしても?」


 ふむ、どうするか。確かこの国中に既に魔王については知らされているはず。

 だとするなら正直に話したら案外わかってもらえるか?


「……現在魔王軍の脅威が迫っていることはご存知ですか?」


「ええ、何でも清風剣ウィンディルを狙って攻めてくる可能性があるとか」


「そのことを伝えるために大地国から流水国を経由してこの国まで来たのです」


「……なるほど」


 さて、どんな反応になる?


「魔王軍の手の者ではない、ということでよろしいですか?」


「ええ、もちろん。自分で言うことではないかもしれませんが、わたしはこれでも主力として魔王軍と戦った身。大地国や流水国がわたしが魔王軍の者ではないと証言してくれます」


「では、こちらに指を入れていただけますか? そして宣言してください。自分は魔王軍の関係者ではない、と」


 そう言って何か穴が開いた球体のようなものを差し出してくる。

 嘘がわかる道具か何かかな。問題ない。逆にこういう道具を持っていてくれて助かった。

 指を入れる。


「わたしは魔王軍の関係者ではありません」


「……確かに。失礼しました。これは嘘がわかる道具です。あなたの髪色を見て見張りから領主館に報告が来たのですよ。それで私がこうして確認に来たという訳です。念のためお連れ様もお願いします」


 エイミーとクラリスも同様に指を入れて宣言する。当然嘘じゃない。


「はい、確認が出来ました。住民たちにも知らせておきますので、どうぞご自由に観光していってくださいませ」


「ありがとうございます」


 これで安心できる、のか? 住民のあの視線は魔王軍の関係者じゃないかと疑っていたということなんだろうか。

 ずいぶん過剰に反応されていた気がするが……。

 とりあえず宿を探すか。


「これで安心ッスね」


「本当に安心できますの? あの執事さんは大丈夫そうに見えましたけど……。他の住民も同じなのでしょうか?」


「わからんな。あまり気を抜きすぎない方が良いかもしれない」


 野宿するときのように剣に見張りをしてもらうか。宿で襲われたら大変だ。

 エイミーなら寝ていても気づくはずだから、クラリスのことはエイミーに任せよう。







「ウィリット様、確認が出来ましたよ。例の旅人は魔王軍の関係者ではありません」


 ビクビクしている主、この都市の領主であるウィリット・ファムリア伯爵に報告する。

 この方はとても気が弱い。魔王軍の話を聞いてからは常に襲撃があるんじゃないかと怯えている。

 仕方ないのかもしれないが。この気弱さは代々受け継がれた特性のようなものだから。

 この街の住民も含めて、皆臆病なんだ。何か不安があると、その不安の種を除かずにはいられない。


「ほ、本当か? 嘘じゃないだろうな……」


「嘘発見器も使いました。間違いなく魔王軍の関係者ではありませんよ」


「そ、そうか、良かった。ついに攻めてきたのかと……」


「この都市に攻めてくる理由がないでしょう。魔王軍というのは清風剣を狙っているのでしょう?」


「わ、わからないじゃないか。ほら、この館には例の剣があるだろう? もしかしたらそれを狙ってくるかも……」


 人を惹きつける魅力があるあの剣か。代々大切に保管されているものらしいが、詳しくは知らない。


「そんなに不安ならその剣を手放せば良いのでは?」


「代々伝わっているものなんだ。僕の代で手放したりしたら怒られるかもしれないじゃないか。それにどうやって手放せって言うんだ」


「例の旅人に渡すなどいかがです?」


 あの青年は似た美しい剣をたくさん持っていた。きっと渡せば喜んで受け取ってくれるだろう。


「何の理由もなく貴族が旅人に物を贈るなんて出来る訳ないだろ。そんなことしたらどんな噂になるか……。恐ろしい……」


 なるほど。確かにそんなことをすればそれを聞きつけた何者かが、あることないこと噂して貴族の名に傷がつくかもしれない。


「では何か手柄を立ててもらいましょう。何か困っていることはないのですか?」


「そ、そうか。手柄を立ててもらえば、その褒美として渡すことが出来る。それに、褒美で渡したなら仕方ない。きっとご先祖様も許してくれる。な、何かないか……」


 考え始めるウィリット様。これで魔王軍に対する怯えも少しはマシになるだろう。

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