第87話 閑話:とある騎士物語
閑話1話目。姫様が城の図書室である本を発見したようです。
「あ、これ……。ユーリ様に聞いた騎士物語ですね」
城の図書室で発見したその本。彼の話にあった、幼い頃に読んでもらっていたという騎士物語。
同じ本を見つけた。となれば読んでみるしかない。
「どんなお話でしょう?」
物語の詳細までは聞いていない。彼の人格形成に一役買ったというこの本がどれほどのものなのか、とても気になる。
とある国の騎士のお話。
1人の騎士が、城に勤めていた。その騎士は優秀で、とにかく強く、王族への忠誠心も篤く、
そして、自分では何も考えない男だった。
とにかく無表情で淡々と命令に従うだけ。その戦力は他の騎士を寄せ付けず、あらゆる危機を1人で乗り越えてしまう。
だから、王はその騎士を重用した。しかし、高い立場を与えることはなかった。自分で考えない男など、部下を持たせる訳にはいかない。
ある日、王族がそろって城を出て、旅行に出るという。暑い季節、避暑地に行くのだと言った。
騎士は、それに護衛として同行することになった。避暑地でのんびりしたい王族は、たくさんの護衛を連れて行きたくなかったのだ。
1人で騎士1部隊を蹴散らすことができるその騎士は、うってつけの人材だった。
湖のほとりに立つ館。涼しい風が吹き抜けるその場所でのんびりと過ごす王族。
王と王妃、姫が2人に王子が1人。皆思い思いにくつろいでいる。
その時、湖で遊んでいた第2王女から悲鳴が上がった。
なんと湖から巨大な竜が顔を出している。
騎士よ、すぐに姫を助けるのだ! 王の命令を受け、騎士は飛び出す。
流石に竜は容易な敵ではないらしく、騎士の体がどんどん傷ついていく。
だが、騎士は全く退かない。その手の剣で竜の尾を、手を、魔法を斬り裂き、竜にも傷を負わせていく。
ついに竜を打ち倒した。しかし、騎士の体は傷だらけで、今にも倒れてしまいそう。
そこへ駆け寄った第2王女が、騎士に口付けをする。
瞬く間に騎士の傷が癒えていく。呆然とする騎士に、姫は言った。
これはお礼です。ありがとうございます。これからも頼りにしていますね。
そう言って可憐に微笑む姫の顔を見て、初めて騎士が照れたように俯いた。
それからの騎士は人が変わったように懸命に騎士の仕事に打ち込むようになった。
もともと圧倒的な強さを誇っていた騎士だ。そうなればあっという間に騎士団長まで上り詰めた。
騎士団としてモンスターと戦う時、以前は1人で戦っていた騎士は、今は仲間を気にして助けながら戦うようになった。
街にモンスターが押し寄せたとき、誰に命令されるでもなくモンスターの群れの前に立ちふさがり、決して退かなかった。
そんな騎士の姿に、人々は憧れを抱き、歓声を上げる民に、騎士は手を振って笑顔で応える。
もう騎士は、いつも浮かべていた貼り付けたような無表情ではなかった。
ある日、騎士は第2王女に呼び出された。そして聞かれる。
なぜあなたはそんなに強いのですか?
騎士は言った。強くなるしかなかった。それが両親の命令だった。
なぜそんなに命令に逆らわないのか。それはその方が楽だったから。
それしか存在価値がないのだと言われ続けた。お前はただ命令に従うだけの装置でいろ、と。
でも、期待されているのだと知った。自分のような人間でも、誰かが頼りにしてくれる。
だから、頑張れる。もっと強くなりたいと思う。その期待に応えたいと思う。
姫様、あなたに全てを捧げましょう
それから時は経ち、王を説得した第2王女は騎士と結婚した。
そして姫様と結ばれた騎士は、末永く幸せに暮らしたのだ。
いつも無表情だった騎士の面影は既に無く、その顔は常に笑顔だった。
「……え? なんですか、これは……」
ユーリ様のお母様はこの本を3歳にも満たなかった頃のユーリ様に読み聞かせていたのですか……?
面白い面白くないは置いておいて、これを3歳の子供が理解するのは難しいと思う。
「でもユーリ様はこの物語を読んで騎士に憧れたのですよね……」
確かに凄い騎士だと思う。でも、この騎士に子供が憧れるのだろうか。
こんな重い人より、もっと単純にカッコイイ感じの方が子供が憧れそうだと思うけれど。
ああ、そういえば、その頃の彼は他に本を読んだことがなかったと言っていたっけ。
「でもこのセリフは良いですね。ユーリ様が私に向かって……」
姫様、あなたに全てを捧げましょう
「なんて! なんて! きゃーー!!」
素晴らしいです! ユーリ様が帰ってきたらお願いしてみたい。言ってくれないかな。
私も口付けで回復魔法を使う練習をしておくべきか。どうやって練習しよう。男性にするのは論外として、出来れば女性相手も止めておきたい。初めての相手は決まっているので。
「ブツブツブツブツ……」
「カイン様、リリエル様をどうにか出来ませんか?」
「あの状態のリリエルに話しかけるのは嫌だ」
「そこを何とか。図書室ではお静かにと言うだけでも良いので……」
「嫌だ、という言い方が悪かったな。無理だ。わたしの話など耳に入らない」




