第8話 不穏な気配
襲ってきたのは10体の虎型のモンスターだ。その見た目から、長い牙、鋭い爪を武器にして戦うのだろうと予想できる。
「数が多い! ユーリ君、すまないがクレイド様を頼む!」
そう言ってケインさん達6人は散開する。各々がカバーし合い、後ろへ通さないようにする位置取りだな。
だが、モンスターの動きがかなり素早い。数も多いし、こっちまで来るつもりで構えていた方が良さそうだな。
フィーを右手に、リィンを左手に持ち構える。リィンの能力で敵味方の動きが手に取るようにわかる。
護衛の人たちは優勢に戦っている。恐らく守る者がなければ既に勝っているだろう。馬車へ抜けないように気をつけているせいで戦いにくそうだ。
「こちらに来ても必ず仕留めます! 目の前の敵に集中してください!」
このままでも問題はないはずだが、いらぬ怪我を招きかねない。偉そうに聞こえてしまうかもしれないが、1体1体に集中してもらおう。
状況は理解しているのだろう。俺が声をかけてすぐに敵が倒され始めた。だが、目の前に集中すれば見逃す敵が出てくる。
2体、抜けてきた。さて、リィンの力を借りよう。
2体がわずかな時間差で飛び掛ってくる。強化された俺の目は、敵の動きを完全に捉えている。敵の跳びかかりを紙一重で回避しながら、フィーで首を落としていく。瞬く間に2体片付けた。
と、俺が敵を倒したのとほぼ同時に、護衛の人たちも片付けたようだ。
「クレイド様、ご無事ですか?」
「ああ、大丈夫だよ。ユーリ君が守ってくれたからね」
「ユーリ君、ありがとう。おかげで無傷で殲滅できたよ」
「いえ、余計なお節介だったかもしれませんね。わたしが手出ししなくとも、問題なく倒せていたでしょう?」
「倒すことはできていただろうね。もう少し時間はかかっただろうけど。そして時間がかかるということは、ミスをして怪我を負う可能性が高まるということだ。余計だなんてことはないよ」
「そうそう、お礼は素直に受け取っておきなさい。ワシからも礼を言わせてくれ。良い剣技が見られたよ、ありがとう」
敵を倒したことじゃなく、良い剣技が見られたことに礼を言うのか。剣のことしか頭にないのかこの人は……。
「いえ、ご無事でなによりです」
敵を倒して一息ついたし、先送りにしていた問題を考えないとな。
「さて、話し合いを始めようか。わかっていると思うが、この道に、これほどの数のモンスターが出てくるのは、なかなか考えにくい。そうだな、ケイン」
「はい。ここは王都からは離れているとはいえ、王都とつながる主要路です。当然、人の往来が多い。モンスターとて馬鹿ではありません。人が多いところへ出て行けば、自身が討伐される可能性が高いことなど理解しているはず」
「ワシが考えている可能性は3つ。1つは偶然。ほとんどないとはいえ、絶対モンスターが道に出てこないということはない。偶然ワシたちがそれに出くわした。2つ目は人為的なもの。悪意ある何者かがモンスターが道へ出てくるよう仕向けた」
2つ目は考えたくないな。そんな奴がいたらこの先どれほどの被害が出るか。
「クレイド様、人為的だとは考えにくいのでは?もし何者かが仕組んだことならば、たかだか10体などという小規模ではないと思いますが」
「そうだな。だからワシは3つ目の可能性が最も高いと思っている。それは、この近くに強大なモンスターが生まれた、もしくはどこからか移り住んできた、ということだ。それに追われて道まで出てきたということだな」
「近辺の調査を行いますか?」
「いや、ワシら7人、ユーリ君を入れても8人でここら一帯を調査するのは流石に難しい。ユーリ君の持つ感覚剣は探索にも有用だけど、それを考えても時間がかかりすぎる。ここは予定通り王都へ行こう。城に報告すれば調査隊を編成してくれるはずだ」
確かに、どれだけの範囲を調査すれば良いのかすらわからない状態で、この人数での調査は無謀か。
剣のことしか頭にないとか考えててすみません。
「一人、先に向かわせましょう。デイル、頼む」
「任せてください!」
一人、馬で先に王都へ向かうようだ。どんな危険なモンスターがいるかわからない以上、報告は早いに越したことはないからな。
「では、我々も急ごうか」
クレイドさんと俺が馬車に乗り、他の5人は馬に乗り進み始めた。
それから5日後、再びモンスターが出たがたった3体だったため瞬殺。
「これは関係あるのでしょうか?」
「どうだろうね、3体だと偶然というのも充分考えられるけど」
「仮に強大なモンスターが現れたのだとして、どれほどの範囲に影響が出るのかもわからないですからね……」
そんなこんなで、クレイドさん達と出会ってから15日、王都が見えてきた。外壁に囲まれているが、リセルとは比べ物にならない面積があることが見て取れる。石造りの美しい街並みが見えるが、それより気になることがあった。
『スゴイ存在感ですね……。格の違いを思い知らされている気分です……』
『……すごい』
(ああ、恐らく大地国ガイアの中心に収められているという剣だろうな)
どっしりとした存在感。だが嫌なものじゃない。優しく支えてくれているような、安心感を覚える。どうやら王都の中心、王城から感じるようだ。
「すごいですね……」
「そうだね。他の都市と比べると大きいだろう。国の中心、人口も最多だ。初めて来たのなら、見るものはいくらでもあると思うよ」
そうじゃないが、まあそういうことにしておこう。
「まずは王城へ向かおう。デイルが報告してくれているはずだが、ワシからも直接お伝えせねば」
外門前に並んでいる馬車や人をスルーして、門までたどり着く。
「お名前をお願いいたします」
「クレイド・サードニクスだ」
「サードニクス家の紋章、確認いたしました。どうぞお通りください」
貴族特権ってやつか。馬車の外に付けられた紋章の確認だけで、中を検めもしない、楽なもんだな。
「昔は名前も言わなくて良かったのだけどね。一時期、紋章を偽造する輩が出たことがあったのだよ」
「この紋章をですか?」
「そう、この魔力で押してある紋章を、だ。これは各家に陛下より賜る専用の魔力印を使わなければ付けられない紋章なのだけどね。精巧に描いた紋章で門番をごまかした者がいたのさ。それからは門に紋章の魔力を読み取る装置が配備されるようになったと共に、貴族の名前が必要になった」
器用な悪党もいたもんだな。あの手この手で悪を成そうとするその気力はどこから湧いてくるのだろうか。
王城へ向かう。成り行きで一緒に王城へ行くことになったが、楽しみだ。騎士が訓練しているところとか見られないだろうか。
王城への道中、王都の街並みを観察する。清潔感がある石造りの街並みだ。人通りも、故郷の村はもちろんリセルとも比べ物にならない。これが王都グランソイルか。
故郷やリセルは焦げ茶色の髪の人が多かったけど、王都は茶髪が多いようだ。かなり明るい色の人もたまに見かけるな。
「髪色が明るい人が結構いますね」
「王都以外で明るい髪色が生まれないという訳ではないのだけどね。魔力が多いというのはそれだけで強みだ。強みを持つ人は王都へ出てきて、良い仕事に就こうとする。逆に自分に自信がない者は、仕事でも失敗しやすい。そうすると更に自信がなくなり、いつしか王都に自分の居場所がないと錯覚する。出て行ってしまうんだ。そのせいで偏りがあるという訳だね」
「なるほど」
「髪色が暗い、つまり魔力が少ない者は確かに魔法に適正を持たないかもしれないが、それだけなんだ。君は心配要らないだろうけど、髪色による差別なんて本当にくだらないことだよ」
この人は俺の事情は知らない。だからこそこれは本心だろう。故郷にもこんな人がいてくれれば……。いや、故郷のことはもう良いだろう。今はこんな人がいてくれることを素直に喜ぼう。
「ありがとうございます」
「君の髪色は珍しいよね。黒はとても暗い色だし魔力はないのかな?」
「そうですね、恐らく」
測ったことはないが、修行中に魔法が使えないか試したことはある。俺の魔力は皆無かそれに近いと予想している。
「君には素晴らしい剣技がある。当たり前のようにワシを守るために戦うことができる優しさもある。何も他人に劣ることなどないのだからね」
「ええ……ありがとうございます……!」
正直泣きそうだ。騎士になりたくて磨いた剣技だが、こうして長所として褒めてもらえるだけでも、頑張って良かったと思える。
王城に着いた。立派な門があり、両脇に門番が控えている。
「お名前とご用件をお伺いします」
「クレイド・サードニクスだ。先に従者が伝えに来ていると思うが、強大なモンスター出現の可能性がある。調査隊編成のためにも陛下にお伝えしたい」
「はい、従者の方が既に来ております。案内の者を呼びますので少々お待ちください」
そう言うと一人門の中へ入っていった。クレイドさんが来たことを知らせに行ったのだろう。
それよりも俺は門番の騎士が気になっていた。
(本物の騎士だ!)
『マスターのテンションがリィンを見つけた時並みに上がってますね』
『……憧れの職業、だね』
『はい、かれこれ10年以上騎士に憧れ続けてます。わたしも我が事のように嬉しいですよー!』
騎士を見ていたら、また視線から読まれたのか、クレイドさんに声をかけられた。
「おや、ユーリ君は騎士に憧れているのかい?」
「え? ああ、はい。父がこの王城に勤める騎士だったそうで」
「ほう、王城勤めの騎士とは優秀なお父上なんだね。名前を聞いても良いかい?」
「ダンといいます」
「ダン! そうか君、彼の息子か!」
「父をご存知なんですか?」
「ああ、よく知っているよ。ワシは剣技も好きだからね。騎士の訓練を見させてもらうこともあったんだ。彼は良い騎士だった。人一倍真剣に訓練に励んでいたものだから記憶に残っているよ。20年ほど前だったか、怪我で引退したと聞いているが、彼は元気かい?」
「亡くなりました。わたしが5歳の頃に」
「なんと……。悪い事を聞いたね……」
「いえ、父は最期まで誇り高く生きていました。わたしもそれを受け継ぎ、騎士になりたいと考えています。旅をしているのは、剣探しが目的ですが強くなるためでもあります」
そう、父さんは最期まで守るべき家族のために戦っていた。その強さを受け継ぎ生きなければ。
「そうかそうか。彼に似て強い子だ。よし、騎士団の訓練を見学できないかワシが掛け合ってあげよう」
「本当ですか!」
「ああ、報告はワシがいれば問題ないからね。その間、訓練を見せてもらうと良い。と言っても強さだけなら既に君の方が上かもしれないけれどね。騎士が普段どんなことをしているのかを見られるだけでも意味はあるはずだ」
そう言うとクレイドさんは門番に俺のことを伝えてくれた。門番は若そうだから父さんのことは知らないかもしれないな。
「見学するだけなら問題はないかと思いますが、わたしの一存では決められません。少々お待ちください」
と言って待機している。門の前を空ける訳にいかないから、相方が帰ってくるのを待っているんだろう。
しばらくして、さっき城の中へ入っていった門番が帰ってきた。メイドを一人連れているな。
「サードニクス様、こちらです」
「ではユーリ君、ワシは報告に行ってくる。君のことはお願いしておいたから、門番の彼の指示に従いなさい」
「はい! ありがとうございます!」
クレイドさんと護衛の人たちが城の中に入っていく。と同時に門番の人から声をかけられる。
「じゃあユーリ君、で良いかな? 少し待っていてくれ。見学しても良いか、団長に聞いてくるよ」
「はい! お願いします!」
クレイドさんには感謝してもしきれない! 本当に騎士の訓練が見学できるなんて!




