第82話 ラフィールの図書館
翌日。観光とは言ったが、先ずはこの国の地図を見たいな。図書館とかあるだろうか。
「すいません、この街に図書館とかってありますかね?」
「あるわよ。ちょっと待ってね。簡単に地図を描いてあげる」
「良いんですか? ありがとうございます」
「図書館に行くッスか?」
「ああ、まずはこの国の地図を確認しないとな。首都に急ぐ理由もなくなったし、のんびり面白そうなところを回ろう」
「では私も図書館について行きますわ。この国の魔法技術を調べるのも面白そうです」
「えー、じゃああたしも行くッス」
クラリスは未だ見ぬこの国の魔法技術について調べたいと楽しそうにしているが、エイミーは露骨に不満そうだ。まあこの子は本とか読まないからな……。
俺は昔から物語を読み聞かされて育ったこともあり、本は好きだ。時間に余裕があるときに買った本をフィーに結構収納してあったりする。
だが、本を読まないエイミーに図書館は退屈だろうな。
「別に無理について来なくても大丈夫だぞ? 服とか見たいだろ?」
「むぅ……。大丈夫ッス。ついてくッス」
「ついて来たいなら駄目とは言わんが……」
「はい、描けたわよ。図書館以外にも簡単にこの街の構造を描いておいたから自由に使って」
「おお、ありがとうございます」
図書館、武具屋、食料品店といった店の他にも、この街の魔法道具開発拠点、領主館、魔力アンテナなんかも記されている。
魔力アンテナというのは、部屋で見た黒い板、テレビの映像を受信して街中に送ったり、魔力通信で送られる魔力を送受信する中継をしたり、遠距離通信系魔法道具の要になる物らしい。
さて、予定通り図書館に向かうか。
「じゃあ俺は地図を探してくる」
「私は魔法技術関連の書物を探しますわ」
「えーと、あたしは……何か探すッス」
地図地図っと……。お、これだな。
この国の中心は王都リーズトルスト。ここから40~50日くらい南に行ったところにある大都市だ。
簡単に調べたところによると、この国中にある魔法道具の開発拠点、それらを統括する魔法技術局があるようだ。
大アンテナから国中に各種情報を発信しているのもこの都市で、特に新たな発明が成されたときは大々的に発信するらしい。
どうやら各都市の拠点それぞれに得意分野があり、分担して魔法道具技術の発展に貢献しているのだとか。
ちなみにこのラフィールの街は武器の開発が主。トリガーを引くと持ち主の魔力を弾にして高速射出する銃は、現在国中の警備隊で採用していて、滅多なことでは使用しないが犯罪抑止として活躍しているようだ。
あと気になるのは……地図上ではわからないか。
俺が探しているのは、剣が収められていそうな遺跡などの場所だ。そういう場所はきっと都市の近くにはないだろうし、都市がない空白地帯に行ってみるのも良いかもな。
そうなると……ここから南東に30日くらいの辺りは広く何もない空白地帯だ。多くの発展した大都市があるこの国で、広く何もない地域は珍しい。少し気になるな。
一通りの都市の位置をメモし、地図を戻した。
「クラリス、どうだ?」
「興味深いですわ。でも……私が一朝一夕で真似出来るものではありませんわね」
「そうなのか? お前の魔法能力ならあっさり何か作れるのかと」
「私が学んできたのは魔法のみですわ。魔法を道具に込めたり、道具そのものを作ったりなどは全く触れてきませんでしたから、そう簡単にはいきませんわよ」
「そういうものか。俺は魔法について全くわからないからな。その辺りはさっぱりだ」
「それは仕方ないですわね。ユーリさんは魔力が全くありませんから。さて、こちらも一区切りですわ。エイミーさんはどこでしょう?」
辺りを見渡してみる。が、見当たらない。そんなに広い図書館でもないし、見つからないってことはないと思うんだが……。
飽きて帰っちゃったか?
「クラリス、いたか?」
「いえ……見当たりませんわね……。一体どこへ?」
「兄さん! こっち来て欲しいッス!」
「お? どこだ?」
声はすれども姿は見えず。というか図書館でデカイ声を出すな。幸い今は俺たち以外に客はいないようだが。
「こっちッス!」
「あまりデカイ声を出すな」
声の方に近づいていく。図書館の奥、本棚が並べられている所の中でも一番奥の方から声が聞こえる。
だが、本棚を回り込んで奥を見てもエイミーが見当たらない。おかしいな、この辺りから聞こえたと思ったんだが。
「そこの壁、押してみて欲しいッス」
「ん? 壁?」
壁の向こうからエイミーの声が聞こえる。
壁を押してみると、なんと扉のように開いた。隠し扉? 図書館に?
「ほらこれ!」
エイミーが見せてきたのは、一冊の本だ。
書見台に鎖で固定されているその本。どうやら重要な物のようだが……。
「これ勝手に見ても大丈夫なのか……?」
「大丈夫ですよ」
エイミーに気を取られて周囲が見えていなかった。どうやら他にも人がいたようだ。
そこにいたのは、緑に近い黄緑の髪の女性。20代半ばほどだろうか。眼鏡をかけた、細身の女性だ。
「あ、すいません、騒がしくて」
「今はあなた方以外にお客様はいらっしゃいませんから、問題ありませんよ。わたしはフィリ。この図書館の司書をしています」
「あ、俺はユーリです。こっちは妹のエイミー」
「クラリスですわ」
「それで、この本は勝手に見ても大丈夫とのことでしたが……」
「ええ。その本を自力で発見できたのなら、見せても構わないとこの図書館のマニュアルには書いてあります。ちなみにこの図書館の職員は全員教えられるまで発見できなかったので、この本を読むことを禁止されています」
「そのマニュアルは一体誰が作ったのですか?」
「わたしがこの図書館に勤め始めた時には既にありましたね。誰が作ったのかはわかりません。ただずっと、そのマニュアルに書いてある規則を絶対に破らないこと、と」
絶対に破るな、なんて言う割にはずいぶんあっさり読ませてもらえるんだな。一体どんな本なんだ?
「これ、剣の伝説ッスよ!」
「なに!?」
書見台にかじりつく様にその本を読む。確かに、アクアで聖女様からいただいたような剣の伝説の本だ。
一通り読み、その伝説の内容を写す。流石に本一冊を複写するのは面倒というレベルじゃないので、重要そうな所をさらっと拾ってメモした。
「よし、行き先は決まったな」
「やっぱりその伝説の場所に行くッスか?」
「ああ。地図の空白地帯を経由して、この本の場所に向かう」
「空白地帯? 何をしに行くんですの?」
「剣が収められた遺跡とかあるかなって」
「なるほど……。そちらはあまり期待できなさそうですが、まあ行くだけ行きましょうか」
それはわかってるけどな。もしかしたらあるかもしれないし。
ここから南東に30日ほど行って地図の空白地帯を確認、その後30日ほど南下して伝説の場所に行こう。




