第81話 清風国の技術
第3章の開始です。
巨木を倒してから25日後、ついに密林を抜けた。雪山よりは通りやすいな。異常がなければ、だが。
先ずは近くにあると思われる街を目指すとしよう。
「何かボロボロとはいえ整備された跡がある道があるな」
ほとんど人が通らないのだろう。草が生えたり、ヒビが入ったりしているが、それでもただの土の地面じゃない、石が敷かれた道がある。
こんな道、大きい都市の中でしか見たことがない。それが街の中ですらない、こんな辺境まで延びているなんて。
「清風国ウィンドは魔法道具大国らしいですわ。各地に魔法道具の開発拠点があり、その成果は国中に反映されていると聞きますわね」
「つまりこの国独自の道具の中に道路を敷くためのものがあるのか?」
「いえ、そこまで詳しくは知りませんけど……。でもこんなところにまで整備された道路を敷くことが出来るというのはそういうことだと思いますわよ」
「面白そうッスね。何か見たことない物がたくさんありそうッス」
確かに。国に入った瞬間今までの常識ではあり得ない物があるのだから、この先いくらでも見たことがない物はありそうだ。
「行ってみよう。この道の先にきっと街があるはずだ」
道の手入れがされていないのは、こんなモンスターの領域には人が来ないからであって、この道の先には人が住む街があるはず。
まずはそこまで行ってこの国の地図を見たいな。
その日の日没頃、道の先に街が見えた。あれは……鉄か……? 鉄で壁を作っているように見える。
つなぎ目すら見当たらない完全に一枚の壁。あんなものどうやって作ったのか。
「そこの3人! そこで止まりなさい!」
「え?」
門番に止められた。門から少し離れた場所で止まるように指示される。
そして5人の槍を持った黄緑髪の、恐らく騎士のような職業の人たちがこっちに向かってくる。
「君たちは国外から、アクアから来た。間違いないな?」
「え、ええ。そうですが……」
「目的は?」
「現在魔王軍の脅威が迫っています。それを伝える任務を受け、ガイアからアクアを通りここまで来ました」
「それを証明できるか?」
「こちら、大地国ガイアのバルドロス・グランソイル王からの手紙です。そしてこちらが流水国アクアの聖女アリシアからの手紙になります」
「確認しても?」
「どうぞ」
本当はこの国の中央に直接渡したいが、ここで怪しまれて捕まるようなことは避けねばならない。ここは見せるしかないだろう。
手紙を開き中を検めた門番の表情が柔らかくなる。
「失礼しました。間違いなく各国の代表からであると確認できました。長旅お疲れ様です」
「いえ、わかっていただけて良かった」
「ずいぶん物々しい感じだったッスね。何かあったッスか?」
「大地国ガイアの騎士たちから既に魔王軍の報告は受けています。そのため、外からの入国者には厳しい目を向ける体制が敷かれているのですよ。入国者なんてほとんどいないのですがね。だからこそ珍しい入国者に警戒が表に出てしまいました。申し訳ない」
火炎国バーンから向かった騎士たちは無事にここまで来られたようだ。ということはバーンにも手紙は届いているだろう。これで4国全てに魔王軍の脅威を伝えられたことになる。
「密林はタカが大量発生していたはずですが、よく通ってこられましたね」
「そのことなら……」
密林での件を伝える。あの巨木は切り倒したから、後は放っておいても通常の状態に戻るはずだ。
「ここ最近タカが減ってきているとの情報はありましたがそういうことでしたか。後で調査に向かいます。ありがとうございます」
あれだけ大量にタカがいると、きっと密林の外まで出てきていたんだろうな。通りすがりだが、この街やアクア側のスウェルの街も助けることになったのなら良かった。
「手紙はお返ししますね。手紙の内容と皆さんのことは通信で報告しておきますのでご安心を」
「通信ですか?」
「そうか、ウィンドの外の人には馴染みがないですかね。離れた場所にいても話をすることが出来る魔法道具をこの国の一部の人間は持っているんですよ。一般に出回るほどの流通量はないんですがね」
「便利ですわね。そんな物があれば故郷にすぐ連絡することが出来ますわ」
「俺も定期的に姫様に旅の報告が出来るな。まあ一般に出回ってないなら無理か」
「そもそも一度ガイアに帰らないと渡せないッス。どの道無理ッスよ」
そうだな。旅の報告は帰った後の楽しみとして取っておくか。
「街にどうぞ。ようこそ清風国ウィンドへ。ここはラフィールの街です。何か困ったことがあれば、アクア方面国境警備隊隊長のわたし、ヴァンに言ってくだされば対応します」
「ありがとうございます。何かあればよろしくお願いします」
無事、街の中に入ることができた。
鉄壁で囲われたこの街は、どうやら砦のようなもののようだ。街の中には立て籠もるための避難施設が随所に配置されている。
そんな街だが、別に本当に砦という訳ではなく、住民もいるため、普通に店もある。
きっちり舗装された道、区画整理されどこに何があるのかわかりやすい。だから宿屋もすぐに見つかった。
「いらっしゃい! あら、警備隊じゃない人が来るなんて珍しいわね」
「そうなんですか?」
「ええ、ここには旅人なんてほとんど来ないもの。大体は警備隊の人が交代するときに泊まっていくのよ。あの人たちもずっとここの警備をしている訳じゃないからね」
「なるほど。2部屋空いてますか?」
「ええ、空いてるわ。どれくらい泊まっていくの?」
「そうですね……。一先ず3日、その後は状況を見て考えます」
「はいはい、お風呂は各部屋にあるから自由に使ってね。ご飯は用意した方が良い?」
「では朝食だけお願いします。お風呂が各部屋にあるんですか?」
「あら、そうよね。外国の人にはわからないわよね。お風呂を沸かす魔法道具があるのよ。だから簡単に入浴準備ができるって訳。使い方も教えた方が良いわね。後でお部屋まで行くわね」
「へぇ、凄いですね。お願いします」
部屋の鍵を受け取る。その鍵も初めて見る形状。まるでカードのようだ。
「そのカードを部屋の扉の読み取り機にかざすと開くからね。部屋の中も魔法道具がいっぱいだから、もしわからなければ遠慮なく言ってちょうだい」
「ええ、わからないものがたくさんありそうです。お世話になります」
階段を上って部屋に向かう。部屋は3階だ。
部屋まで来た。言われた通りカードをかざすと部屋の鍵が開く。全く仕組みがわからないな。
「ユーリさん、後でそちらの部屋に行きますわ」
「部屋の仕組みが多分全くわからんからな。一緒に説明を聞いた方が良いだろうな」
「あたしも行くッスー」
部屋に入る。意外と見たことない物は少ないか。迷宮都市の迷宮15階で発見した冷やす箱みたいなものとかあるが。
あとはこれがよくわからないな。黒い板……かな……? スタンドに立てられた黒い板になにやらスイッチが付いていて、後ろから紐が伸びているが、何物なのか全くわからない。勝手に触らない方が良いだろう。
『よくわからないものがあったら触ってみようよ! 面白そうだし!』
『そんなこと言って、壊れたらどうするんですか。どれほど高いものなのかもわからないのに』
『えー、こんな風に置いてある物がそんなに簡単に壊れる訳ないじゃん』
『……気になる』
『ねー! ほらリィンもそう言ってるし!』
『くっ……。アン! あなたは反対ですよね?』
『主様が止めておこうと仰っているのですから、興味のあるなしに関わらず止めておくべきでございますよ』
『そうです! 良いこと言いました! マスターが触らない方が良いと言っているんですから!』
「まあ興味があるのは確かだが」
『マスター!?』
『主様が興味があると仰るなら、ご自由になさるべきかと』
『裏切り者ぉ!』
「いや、勝手に触ったりしないって。何に使う物なのかも全くわからんのに」
後で教えてもらえるだろう。その後どうするか決めれば良いだけだ。今すぐ触りたい欲求がある訳でもないしな。
「兄さん、来たッスー」
「お邪魔しますわ」
2人が来たようだ。この部屋の道具の使い方を教えてもらうとするか。
「面白い道具がいっぱいッスね」
「魔力通信とは、興味深いですわ。魔力線を通して映像を届ける技術など聞いたこともありませんでしたわね」
部屋にあった黒い板は、どうやら魔力で送られてきた映像を映し出すことが出来る装置らしい。
これによって、この国は情報を発信することが容易になっているのだとか。後は娯楽にも使われているようだ。
「他の国よりも進んでいる感じがするな。こんなものを開発するこの国の技術力はどうなっているのか」
「国を挙げて魔法道具開発に力を入れているのを考えても発達が異常ですわね。何か転換点があったのだと思いますわ。過去に飛びぬけて優れた技術者がいたとか、そういう」
「良いじゃないッスか、別にどれだけ発達してたって。敵対しなければあたしたちもその恩恵を受けることが出来るッス。観光に行けばもっと面白いものがあるかもしれないッスよ!」
確かにな。俺たちも今はこの国にいるんだから、楽しんでも良いだろう。
「とりあえず今日はもう遅い。明日、観光に行ってみるか」
「行くッス!」
「観光ですわね」
それぞれの部屋で眠りについた。




