第7話 王都への道中
ここからが物語の始まりという感じ。
翌朝、早速王都へ向けて出発だ。
距離は遠いが道があるため、迷う心配はない。道を通っていればモンスターもめったに出てこないし、のんびり歩いていこう。
ひたすら北へ4、50日。長い旅になりそうだ。
道を歩いていると、何度か馬車とすれ違ったり、馬車に追い抜かれたりする。ここはまだ王都からは遠いが、それでも王都とつながっている主要路だ。通行も多いのだろう。
特に何もなく2日ほど歩いた頃、
「君、歩きかい? 何かアクシデントがあったのかな?」
俺を追い抜いたところで止まった馬車から、おじいさんが顔を出して声をかけてきた。歳のせいか少しくすんではいるものの、黄色の髪をしているおじいさんだ。一人で歩いているものだから、アクシデントで馬車が動かなくなったり、馬が逃げたりしたのではないかと、心配してくれているのだろう。
「いえ、アクシデントではないので大丈夫ですよ。リセルから王都まで歩いて向かっているところです」
「王都まで歩きでかい? 見たところよく鍛えているようだし、無理ではないのだろうけれど……。ふーむ」
おじいさんはしばらく考えた後、
「良かったらワシと一緒に行くかい?」
そう提案してきた。
「ありがたい申し出ではありますけど……」
「なに、ワシもジジイ一人じゃ退屈だったところでね。どうだい、ここは一つ、話し相手になってはくれないか」
一人? 馬車の周りには馬に乗った護衛の人たちが6人ほどいるようだが。そんな俺の疑問を視線で悟ったのだろう。続けておじいさんが言う。
「この子たちは職務に忠実な優秀な護衛だが、その分話し相手にはなってくれないのだよ」
「クレイド様、素性の知れぬ者を馬車に乗せるのは、賛成しかねます」
護衛の一人が言う。まあ当たり前だな。この感じ、このおじいさんは貴族か有力な商人かといったところ、髪色からして貴族だろう。命を狙われる可能性は常にあるはず。それをポツンと歩いていた誰とも知れぬ怪しい奴と馬車に同乗なんて、看過できるはずもない。
「護衛の方の言うことはもっともですよ」
「まあ、良いじゃないか。こうして断ろうとしているんだからワシの命を狙う者ではなかろう。そもそもワシが馬車を止めるように言わなければ、ただ通り過ぎていたはずなのだよ?」
ただの親切心で声をかけてきた訳ではなさそうだな。何か俺と一緒に行きたい理由がありそうだ。貴族の権力を使って無理やり連れ去ろうとしないところを見るに、害意がある訳ではないようだが。
「クレイド様……。この者に声をかけた理由はわかっているつもりです。この者が恐らくクレイド様に害なす者ではない、というのも同意します。しかし……」
「護衛の立場では許可したくないのはわかるが、良いじゃないか。ワシの数少ない楽しみなんだ」
「はぁ……。君、申し訳ないがクレイド様の話し相手を務めてもらえないか。心配しないでくれ、何か無理を要求する訳ではないから」
「ええ、まあ護衛の方が良いと言うなら、馬車に乗せていただきますね」
おじいさんのわがままに振り回される苦労人のようだ。とは言え、諌める様子を見るに関係は良好なのだろう。良い主従関係なのだろうな。
俺が馬車に乗ると、再び進みだした。
「どのようなご用件でしょうか」
「まあそう慌てなくて良いじゃないか。まずは自己紹介といこう。ワシはクレイド・サードニクス。サードニクス伯爵家の隠居ジジイだよ」
伯爵。いや、隠居ということは当主は子供に譲ったのか。それでも影響力はあるはず。ここで良い印象を持たれれば、騎士への道も拓けるかもな。
「俺、いやわたしはユーリといいます。現在は世界を回る旅をしています」
「ほう、世界を。ではその剣は旅の道中で見つけたものかい?」
剣を道中で見つけたか、だと?このじいさん、まさかフィーとリィンが狙いか?
「いやいや、そんなに警戒しないで欲しい。ワシはね、剣が大好きなのさ。この長い人生、剣について考えてばかりだよ。君に声をかけたのはその美しい剣を見せて欲しいからなんだ。少しでいいから貸してはくれないかい?」
(フィー、リィン、どうだ?)
『少し手に取るくらいなら構わないですよ!』
『……わたしも』
(いや、リィンは手に取って鞘から抜くだけで能力を発揮してしまう。ここはフィーだけにしよう)
「では、少しだけ。どうぞ」
腰から鞘ごとフィーを抜いて渡す。
「おお、ありがとう。鞘から抜いてみても良いかい?」
「どうぞ」
「では早速。おお! なんと美しい……! 素晴らしい剣だ……!」
ものすごく感動しているな。気持ちはわかる。俺もこんな旅を始めてしまうくらいには、その美しさに感動したからな。ちゃんと返してくれるんだろうな……?
「おお……! おおお! おおおおお!!」
「クレイド様。どうなさいましたか?」
「おお、ケイン! 見てみなさいこの剣を! 素晴らしいと思わないかね!」
明るい茶髪の護衛の人が馬車を覗き込んできた。まあこんな騒いでれば気になって様子を見にくるよな。
「ほう、これは……。良い剣ですね。これをこの青年が?」
「そうだよ。若いのに良く鍛えていると思っていたが、なるほど。この剣に見合うように頑張ったのだね。うむうむ」
なんだか勝手に納得されてしまった。剣に見合うように頑張った訳ではないんだが。まあ頑張ったのは事実だし良いか。
「そちらの短剣も見せてはくれないかい?」
まあそう来るよな。予想はしていたが、さて。どうやって断ろうか。
「いや、これは少々事情がありまして……。えーとですね……」
「む? ふむ……。もしやこれは名剣と呼ばれるものでは」
「っ! えー、名剣とは?」
「王都の図書館で剣について調べている時に読んだことがあってね。なんでも名工の中の名工が極稀に作る固有能力を持った剣だと。おとぎ話のような書き方がされていたが、あれを読んでから名剣というものを見てみたいとずっと思っていたんだ」
「なぜわたしの剣が名剣だとお思いに?」
「名剣というのは余計な装飾をすると能力を阻害するらしくてね。ほとんど装飾がされないらしい。それでいて人を惹きつける美しさがあると。まさにこの剣のようだ」
何と答えるべきだ、これは。名剣が一般に知られているなら話しても良いかと思ったが、この様子だとほとんど知られていなさそうだ。
「ふふ、君はよく顔にでるねぇ。貴族社会で人の顔をよく見る必要があったワシからすれば、もう答えを言っているようなものだよ」
「っ!!」
ほとんど人と接してこなかった俺と、貴族社会を生きてきたこの人では、経験に差がありすぎる。これはもう正直に話して、他の人には黙っていてもらう方向に進んだほうが良さそうだ。
「あの……」
「心配しないでくれ。先ほども言ったが、ワシは剣が好きなだけなんだ。君の秘密を必要以上に言って回ったりはしないよ」
「ありがとうございます。ご想像の通り、その剣は名剣と呼ばれるものです」
「おお! やはりか! ということは能力があるのだろう? 教えてはくれないか!」
「クレイド様。落ち着いてください。剣に能力などあるのだとしたら、それは彼の切り札なのでは? あまり根掘り葉掘り聞くのも彼にとって良くないでしょう」
「む……。ううむ、だがなぁ……」
「いえ、構いませんよ。それは収納剣フィニスレージといいます。いくらでも物を収納できる剣です」
「ほう! いくらでもとな! それはスゴイな! 拡張袋のように入りきらないということがない訳だ」
「便利なものですね。そして不思議だ。剣に物が収納できるというのか……」
「これは欲しがる輩がいくらでもいるねぇ。隠したがるのもわかるよ。ワシも欲しいくらいだ」
「ちょっ!?」
「はっはっはっ、冗談だよ冗談。君が隠したがっていたその短剣も、もしかして名剣なのかな?」
「……ええ、そうです。こちらは手に持ったらその能力が発動してしまいますので、渡すのをためらいました」
「ほほう、して、その能力とは」
「これは感覚剣リィンセスフォーン。持ち主の感覚を強化する剣です。どうぞ、鞘から抜いてみてください」
「うむ、ありがとう。どれどれ……。お? おお、これは! 周囲の気配がはっきりとわかる!」
「それはすごい。護衛としてはそちらの短剣の方が欲しいですね」
「あげませんよ」
「ふふ、ああ、わかっているよ」
護衛のケインさん?までからかってくるのか、まったく。お茶目な主従だよホント……。
「む、イカン! モンスターだ! あと15秒ほどでここへ来るぞ!」
「なんですって!?」
突然クレイドさんが叫んだ。こんな通りの多い道にモンスターだと? いや、今考えることじゃない。まずは迎撃しよう。
俺は剣を返してもらって戦闘準備を始めた。




