第76話 荒れ狂う嵐
木のすぐ傍まで来た。すると、木に危害を加えさせまいと、更に大きい固体が姿を現した。
「あれがボスッスね。ずいぶん高いところにいるッスね」
30メートルほど上空から、こちらを見下ろしている。
その位置で大きく羽ばたく。そして、
周囲一帯が炎に包まれる
「逃がさない、とでも言うつもりッスか?」
まるで闘技場のように、炎に包まれた円形のフィールドができている。
あたしはその中に閉じ込められ、その上空から多数のタカがこちらを見下ろしている。
そして魔法の爆撃が始まる。
一斉に炎で囲まれたあたし目がけて魔法を放ってくる多数の敵。
炎で包まれたフィールドは一瞬で炎の海と化し、人が生存できる環境ではなくなった。
「無尽刹那・羅荒天!!!」
降り注ぐ魔法をかいくぐり空に跳び出す。
力を抜き、宙を蹴り、瞬間的に接近、斬りつける。
そのまま通り過ぎ上空へ。足を上に宙を蹴り、突貫。
縦横無尽、疾風怒濤。目にも留まらぬ速さで何度も跳びまわり加速しながら斬り続ける。
その嵐に飲み込まれれば、哀れなる木の葉は踊るしかない。
裂かれた木の葉は、ただ地に落ちるのみ。
無尽刹那・羅荒天
敵にぶつけてもほとんど効果がないあたしの風魔法、その使い方を考えたとき、敵に当てても意味がないなら敵に当てなければ良いと思いついた。
殴っても消えないくらいには強度が増した魔法は、蹴っても消えない。だから、足場にできるんじゃないかと考えた。
力を抜き、自分の風魔法を足場に跳躍、宙を駆け加速する。敵の周囲を何度も跳びまわり何度も斬りつけ、目にも留まらぬ速さでズタズタに斬り裂く、完成したあたしの技だ。
「はぁっ……はぁっ……」
敵のボスは仕留めた。地に落ちていくのが見える。
でも、あたしの少ない魔力ではこれが限界。既に魔力切れで少し動くことすら億劫だ。
そのまま炎の中へ落下していく。このままでは落下と炎で二重に命の危険がある。どうにかしなければ。
「無茶しすぎだ! エイミー!!」
「……兄さん」
炎の中から兄さんが跳びだしてきた。そしてあたしを抱えて炎の外に着地。助かったようだ。
「立てるか?」
「何とか……」
「休んでろ。残りは片づける。強くなったな、よく頑張った」
そう言ってあたしを守るように戦い始める兄さん。結局助けられてしまった。カッコ良く決めたかったのに、締まらない。
でも、結構強くなれたんじゃないだろうか。ただ守られるだけじゃない、兄さんたちと肩を並べて戦えるように。
きっと兄さんもクラリスもまだ強くなる。ここで足を止めていたら、また置いて行かれてしまうだろう。これからももっと強くなっていかなければならない。
でも、今は。無茶のしすぎだって怒られたけど、役に立てたって思っても良いかな……。
「これで、終わりだっ!」
「やっと終わりましたの……? まったく、多すぎですわよ」
『いやー、大変でしたね。こういうとき、狼のときのサリアさんみたいな大規模殲滅魔法が欲しくなります』
(たしかにな。クラリスはそういう魔法は使えないらしいから、こういう群れの殲滅は大変だ)
『大規模殲滅魔法ってどんなの?』
『あれは大地国ガイアの王都に着いて間もない頃……』
その辺の説明はフィーに任せよう。ヴィラにも今までの旅について教えておいた方が良いな。そのうち時間があるときにでも話してやろう。
「ボスが倒されたから指揮が取れなくなっていたのは助かったな。連携が悪くなって各個撃破しやすかった」
「エイミーさんの特攻じみた突撃にも意味があったんですのね」
「特攻じゃないッス! ちゃんとボスを仕留めたッスよ!」
あれはほとんど特攻と変わらないぞ、エイミー……。
「その後死にかけてたじゃないですか。ユーリさんが間に合ってなかったらどうするつもりだったんですの?」
「えーっと……。きっとあと一回くらい跳べたッス! だから大丈夫だったッス!」
「魔法使いの意見を言わせてもらいますと、魔力切れで気持ち悪い状態で魔法を使ってもろくに効果を発揮しませんわ。きっと足場として機能しなかったと思いますわよ」
「まあまあ、良いじゃないか間に合ったんだから」
「あなたずっと妹のことを心配して追いかけてましたのに、そういうこと言うんですのね」
まあ心配して追いかけていたのは確かだが、エイミーにだって考えがあってのことだしな。ただ、
「あまり今回みたいなことはして欲しくないのは確かだな。お前が死んだら俺は泣くぞ、まったく」
「う……。ごめんなさいッス……」
「でも頑張ったのはわかる。凄い技を編み出したな」
「はいッス!」
エイミーに小言を言うのもこれくらいにして、残った問題を片づけないとな。
「結局この木はなんなんだ?」
あまりにも大きいその木を見上げる。下からでは頂上が見えないな。
「この辺りは悪性魔力がかなり濃いですし、恐らく悪性魔力が湧き出すちょうどその場所で成長してしまった木だと思いますわ。あの実は悪性魔力の塊だと思います」
「そんなことあるッスか? そんな場所で木が育つなら、逆に何で今までは木が無かったッスかね?」
「普通は悪性魔力が湧き出る地点の真上に植物なんて育ちませんわ。少し離れた場所ならともかく。だから何らかの原因で悪性魔力の中でも成長できるようになった突然変異種だと思いますけど……」
「そんな変異をする可能性があるのは怖いな……。原因の特定はできないか?」
「流石にわかりませんわね……。今はこの木を倒しておくべきだと思いますわ」
「ああ、そうだな。この木は恐らく偶然ここに生えてしまっただけで何も悪くないと思うと可哀想ではあるが……。仕方ない」
ヴィラを構え、力を溜める。15秒、完全に溜めきり、放つ!
「堅牢壊花・大輪牡丹!!」
斬り裂く。周囲の地面にまで衝撃が伝わりひび割れる。
その一撃は50メートルにもなる巨木を斬り裂き、倒した。
倒れても例の実は残っている。木ごとフィーに収納しておこう。
「よし、これで大丈夫だ」
「圧巻ですわねぇ。50メートルもの木が倒れてくるのは」
「ちょっと怖かったッス……」
タカの大量発生の問題は解決したと思って良いだろう。
もう清風国ウィンドは目の前だ。
明日、閑話を4話と第2章登場人物一覧を投稿して、第2章完結となります。
明後日から続けて第3章に入っていきます。




