第75話 刹那の閃き
巨木を発見した翌日、歩みを進めていると、まずクラリスに異常が起きた。
「何だか……気持ち悪くなってきましたわ……」
「どうした、大丈夫か? 何か病気か?」
「いえ……よくわかりませんが……少なくとも私が罹ったことがある病気とは違いそうですわ……」
どうするか。もちろんこんなところに病院はない。ここで休むか引き返すか。
「兄さん……これ、悪性魔力ッス……」
「何?」
戻ってきたエイミーもやや体調が悪そうだ。クラリスよりはマシに見えるが。
耐性が強い俺は気持ち悪さを感じないので気づくのが遅れたが、確かになかなか濃度の高い悪性魔力が漂っているのがわかる。
恐らくこの密林をモンスターの領域にしている、悪性魔力が湧き出すポイントに近づきすぎているんだろう。このまま進むと正気を失いかねないな。
『ご主人、あたしの出番だよ!』
(ん?)
『悪性魔力に適応しよう! そうすれば悪性魔力の濃度が高い場所も平気になるよ!』
ヴィラの環境適応能力は悪性魔力にも適応できるのか。巨木の確認は諦めるしかないかと思ったが、それなら行けそうだな。
「クラリス、ヴィラの能力を使え。悪性魔力にも適応できるらしい」
「まあ、そこまで対応してるんですの……? 助かりますわ……」
ヴィラを抜いてクラリスに渡す。
「ふぅ……。楽になりましたわ。エイミーさん、どうぞ」
「ありがとッス」
俺も一応適応しておくか。この先更に濃度が高くなる可能性もあるしな。
「初めてヴィラの能力を使ったが、何が変わったのかよくわからんな」
「どう変化したかと聞かれると確かにわかりませんが、はっきり楽になりましたわ。これが例えば水中の息苦しさなども同様なら、その効果が良くわかりますわね」
「迷宮都市の迷宮の奥も目指せるッスね」
「いや、あの迷宮は18階にドラゴンがわらわらしてたからな。悪性魔力に適応してもかなりキツイぞ」
「あーそういえばドラゴンがいたから引き返してきたって言ってたッスね」
「ドラゴンがわらわらいる迷宮ってどんな地獄ですの……」
あの迷宮の最奥がどうなっているのか、結局わかっていないからな。気になるのは確かだ。
まあそれは今は良いだろう。悪性魔力も平気になったし、先に進もう。
それからしばらく歩くと、急に視界が開けた。木がなくなり、ちょっとした広場のようになっている。
その広場の中心、例の巨木があった。広場の端からなら何とかその頂上が見えるというほどの巨大な木だ。何だか毒々しい実をたくさんつけているのが見える。
その巨木の周りを、大量のタカが飛びまわっている。毒々しい実を食べているようだ。
「タカが木の実を……?」
タカは肉食だと思ったが……。モンスターだから通常とは違うのだろうか。
「あ! 兄さん、あれ!」
エイミーが指した先、今まさに実を食べていたタカが大きくなったのを見た。
よく見れば、この木の周りを飛びまわっているタカの中に、体が大きい奴が結構な数いる。
「タカの大量発生の原因はこの木か!?」
あの実がどんなものかはわからないが、どうやらモンスターの成長を助ける効果があるらしい。
この密林の有力なモンスターは、ワニ、ゴリラ、タカの三種だが、あれだけ高いところにある木の実を取ることが出来るのはタカだけだと考えられる。だから、タカが大量発生しているのか。
「ヤバッ! 気づかれたッス! タカがこっち来るッスよ!」
飛びかかってくる奴、火を飛ばしてくる奴、静観する奴と対応は様々だが、数え切れないほどのタカがこちらを見ている。
このタカはそこまで速くない。リィンなしでも対応できる。ヴィラとフィーを抜き、飛びかかってくるタカに対応する。
それと同時に火に適応する。俺はここの悪性魔力なら問題なく耐えられる。奴らが放ってくる火にある程度耐えられるようにしておいた方が有効だろう。
「封! 縮!」
クラリスが自分を結界で守りながら、結界でタカを押しつぶしている。クラリスは心配要らないな。
エイミーは……
「木のところまで行ってくるッス!」
「待て、一人で突出するな!」
飛びかかってくるタカや火の間をぬって、どんどん離れていってしまう。速すぎる、タカを処理しながらじゃ追いつけない。だが、俺にはあんな風に全て回避して駆け抜けるなんて無理だ。
「クソッ! 邪魔だっ!」
少しでもエイミーに追いつくため、前に進もうとするが、タカが行く手を阻む。斬り捨ててやろうとしても、こいつらはある程度俺の斬撃を弾いてくるからなかなか処理できない。
仕方ない、全力でやろう。疲労が心配だが、エイミーを1人にするよりはマシだ。
俺は片手で花吹雪・五分裂きまで使える。全力とは言ったが、3連で充分だな。
右手のヴィラで3、左手のフィーでも3、片手でそれぞれタカを処理し駆け抜ける。
全てを回避して走る。兄さんの攻撃すら弾くこの敵には、あたしの攻撃なんてほとんど通らないだろう。
やるなら1羽に全力で斬りかかる必要がある。大量に敵がいる現状、そんなことをしている余裕はない。だから、全て回避。
目指すはこの群れの中心。あの巨大な木。きっとあそこに群れのボスがいる。空を飛ぶ敵、これこそあたしが果たすべき役割。
木に近づいてくると、それを遮るように一回り大きい固体が来る。それも結構な数。
(こんなに成長した個体がいると、兄さんに聞いた狼の話を思い出すッスね)
5羽どころではない数がいるが、状況は良く似ている。こいつらを殲滅したらボスが出てくるだろうか。
一瞬で成長個体の背後を取る。そのまま頭を突き刺した。どうやらそこまで硬くはないらしい。問題なく貫ける。
そこに飛んでくる炎の玉。魔法の腕も成長しているのか、通常のタカの魔法より大きいようだ。
だが、問題ない。
「流転・電光石火」
力を抜く。一瞬の移動。
背後を取る。力を込め、貫く。
力を抜き、込める、そして抜く。その工程を限りなく早く。
反応すら許さない。眼前に立ち塞がる全てを薙ぎ払う。
流転・電光石火
そもそも新しい技が必要だと考えていたのは、鏡花水月で接近しそのまま攻撃に移ることができないからだった。
なら、その欠点を克服したら? その結果がこの技だ。力を抜く、力を込める、それを限りなく早くできるように、ずっと訓練していた。
兄さんの真似をしているだけじゃない。あたしはあたしの戦い方ができる。それを証明する第一歩。
力を抜いて高速移動、敵に接近したら力を込めて攻撃、その後また力を抜いて高速移動、と繰り返し、相手に反応する暇さえ与えず撃滅する。
一先ず周囲の個体は殲滅した。まだまだいるが、道は開けた。突き進む。あの巨木まで。
「エイミー、ずいぶん強くなったな」
あれが訓練の成果だろうか。結局魔法は使わないことにしたんだな。それも良いだろう。
負けていられない。俺もずっと練習していた成果を見せるとしよう。
フィーを鞘に収め、リィンを抜く。
「連花・影吹雪!」
鏡花水月による高速移動から三分裂き。一瞬で近づいたタカを斬り捨てる。
そして再び高速移動。リィンのお陰で鏡花水月が使えるようになってからずっと練習していた連続移動。
しかし、三回連続で移動したところで、
「くっ……! 駄目か……」
目が回ってきたので止めざるを得なくなる。
エイミーと違って、俺はリィンの能力で無理矢理感覚を強化しているので、酷使しすぎると体がついていかなくなる。
まだまだ練習が必要だ。リィンを収めてフィーを抜き、群がってくるタカを弾きながら、少し休む。
「もう、無茶しすぎですわよ」
クラリスが結界を張ってくれた。結構離れているが、ピンポイントで俺を守る結界を張ることが出来るあたり、流石だ。
「ありがとう、もう大丈夫だ」
軽く目が回っただけなので、すぐ回復する。エイミーを追いかけないと。
「なら結界を解きますけど、そんなに慌てなくても何の勝算もなく突撃するほどエイミーさんは馬鹿ではないと思いますわよ」
「ああ……。まあそうなんだけどな。敵に囲まれているところに1人にしておくのは心配で……」
それだけ答えて、再び駆け出す。エイミーには大分離されてしまった。急ごう。
「まったく、仲の良い兄妹ですわね」
エイミーがとても強くなったように見えますが、攻撃力がないのは相変わらずです。例えば、ドラゴと戦ったら全く傷をつけることが出来ずに負けるでしょう。
雑魚敵を素早く殲滅することに関しては圧倒的強さを誇ります。




