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貫き通せ我が騎士道  作者: 神木ユウ
第2章 流水国アクア
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第73話 密林の入り口スウェル

 エイミーの決意を聞いた3日後、スウェルという街に着いた。

 この街は流水国アクアと清風国ウィンドの国境に広がるモンスターの領域、巨大な密林の手前にある街だ。

 この密林はかなり湿度が高く、そこら中が沼のようになっている危険地帯だ。

 沼の中からの奇襲、木の上からの奇襲、雨が多く、足元も悪い。気配を読める人間がいなければ、なかなか入り難い場所だな。

 この街も既に大分湿度が高い。雨は降っていないが今にも降りそうな天気だし、じめじめしていてあまり長居したい街ではないな。


 この街の建物は基本的に床が地面についていないようだ。木造の家が、木でできた柱に支えられて持ち上げられている。

 街を囲う壁や柵はなし。やぐらが建っていて見張りがいるようだが、すぐ傍にモンスターの領域があるのにそれだけで大丈夫なんだろうか。


「さて、スウェルに着いたな。どうする? 何かやりたいことはあるか?」


「はい! 服を見に行きたいッス!」


「観光したいですわね。首都以外のちゃんとした街に来るのは初めてですわ」


 エイミーは相変わらず服を見るのが好きなようだ。クラリスは街を回りたいと。まあそうだろうな。


「じゃあ俺は宿を取ってくるから、先に街を見ていて良いぞ」


「行ってくるッス! ……あ、やっぱりあたしも宿に行くッス」


「どうした? 俺のことは気にしなくて良いぞ?」


「いや、それもあるッスけど……。もうすぐ降ってくるッス。宿で一休みするッスよ」


 そうなのか。確かに今にも降りそうではあるが、エイミーが言うなら本当にもうすぐなんだろうな。


「雨ですの? なら私も宿に行きましょうか。流石に雨の中観光するほど観光したい訳でもありませんし」


 全員で宿を探す。街を歩いていると、元気な客引きの声が聞こえてくる。


「新鮮な果物だよ! 買っていっておくれ!」


「果物ですか……。確かこういう地域には、他では採れない美味しい果物があると聞いたことが……」


「果物が好きなのか?」


「い、いえ? 別に? 特別好きというほどでも? ありませんわよ??」


「好きなんだな」


「好きなんスね」


「……はい」


 別に恥ずかしがることでもないと思うが。過去に何かあったんだろうか。


「何で果物が好きって隠そうとするッスか? あたしも好きッスよ」


「いえ……。昔学院でうかつにも果物が好きだと言ってしまったのですが……。そうしたらいろんな方から果物をいただいてしまって食べ切れなかった思い出が……」


「ああー」


 納得した。クラリスが、○○が好きなんですのーなんて言えばあの学院の人たちなら良いことを聞いたと言わんばかりに贈ってくるだろう。


「まあ今はそんなこと気にする必要はないし、買ってきな。金はやるから」


「い、いえ! お金なら自分で……。あ……。すみません、いただきますわ……」


「お金持ってないッスか?」


「学院ではお金なんて使わないので忘れていましたわ……。全く持っていません……」


 金はガイアにいた頃に稼いだ分がまだまだ残っている。父さんが遺してくれたのも、自分で稼いだのも、陛下からいただいたのもあるから、クラリスの分が増えたところで問題はない。

 魔王軍と戦う旅になってしまっているが、本来は楽しみたくて旅をしているのだから、良い思い出になりそうなことはどんどんやれば良いと思う。





「いただきますわ! うーん、とても甘いですわー!」


 ニコニコと果物にかぶりつくクラリス。豪快だな。切り分けて少しずつ食べるんじゃないのか。


「あたしも欲しいッス!」


「ええー、仕方ありませんわねぇ。1つですわよ」


「兄さんのお金で買ったくせに偉そうッスね。おおー、甘いッスー!」


 宿を探しながら歩く。こんなところにあまり人は来ないんだろう。宿がなかなか見つからない。


「ユーリさんも1つどうです? 甘くて美味しいですわよ」


「ん? 全部食って良いぞ」


「そう言わず、ほら。あーん」


「いや……果物丸ごと口元に持ってこられても食べづらいんだが……」


 かじりつけってことか? 人が持っている物にかじりつくのはなかなか難しいぞ……。


「クラリス……。やりたかったのはわかるッスけど、それはあまりにも……」


「うるさいですわね……。やってから気づいたんだから仕方ないでしょう……」


「まあ……もらうよ」


 1個受け取って食べる。


「おお、確かに美味い」


「……そうでしょう!? あー、美味しい! 良いですわねー、この街も!」


 恥ずかしいのをごまかしているのが露骨だ。交渉事はクラリスに任せようと思っていたが、考え直した方が良いだろうか。


『ねぇ、剣も物を食べることができるようになる方法はないかな?』


『ヴィラ、気持ちはわかりますけど、無理ですよ。わたしも何度思ったことか』


『……欲しい』


 剣も食べられる方法……? 剣で切ってみたら味を感じたりするかな。でもモンスターを斬ったりしている剣で切ったものを食べるのはちょっと……。


『主様、そのように悩む必要はございませんよ。私たちはあくまで剣。その本分を全うするだけでございますゆえ』


『えー、アンはつまらないなぁ。もっと楽しくなる方法を考えた方がきっと楽しいのに』


『私たちが楽しくても主様を困らせては意味がないでしょう』


『ご主人もあたしたちが楽しい方が嬉しいって、きっと!』


(まあヴィラの言うことはその通りなんだがな。でも物を食べたいとか無理難題を押し付けられても難しいぞ)


『まあそれはねー。ゴメンって。ちょっと言ってみただけだよ!』


『何か思いついたら言ってみますから、そのときは試してくださいね! マスター!』


(ああ、何か良いアイデアがあったらな)


 やっと宿を見つけた。雨が少し降り出している。早く部屋を取って休もう。





「2つ部屋を取りたいんですけど、空いてますか?」


「はい、空いていますよ。1人部屋と2人部屋でよろしかったですか?」


「ええ、それでお願いします」


 宿に部屋を取る。外で凄い雨が降っている音がする。危なかったな。もう少し遅かったらびしょ濡れになっていた。


「じゃあ俺はこっちの1人部屋だから」


「え、クラリスが1人ッスよね?」


「はぁ!? 何言ってるんですの!?」


「お前は何を言ってるんだ……。俺が1人でお前らが2人部屋に決まってるだろ……」


「ええー、今まで兄妹同室だったじゃないッスかー」


「ちょっとエイミーさん、こちらへ」


 クラリスがエイミーを引っ張っていく。


(ここでごねるのはズルイですわ。私が同室になるのは絶対に無理なのに……)


(兄妹特権……)


(兄妹特権強すぎですわ! 卑怯! ズル! 横暴反対ですわ!)


(ええー、だってあたしの方が長く一緒にいるッス。だから)


(だからこそここは大人しく引きべきですわ。ほら、2人部屋に行きますわよ)


(仕方ないッスねぇ……)


「ではユーリさん、私たちは2人部屋に行きますわ。後でそちらの部屋に伺いますわねー」


「兄さん後でッスー」


「あ、ああ、わかった。後でな……」


 話はついたようだ。俺も部屋に入ろう。






「お邪魔するッスー」


「失礼しますわ」


 部屋に入ってすぐに2人が来た。早いな。もう少し休んでからでも良いだろうに。


「集まったか。じゃあ」


「ぴょーん!」


 エイミーがベッドに跳びこんだ。自由だな……。


「私も失礼しますわ」


 クラリスもベッドに座るのか。まあ椅子は1つしかないしな。俺は椅子に座ろう。


「じゃあ話を」


「兄さんもベッドに来ると良いッス!」


「私の隣が空いてますわよ?」


「話を! 始めよう!」


 いつまでも話が始められない。魅惑のベッドから意識を遠ざけ、何とか話を進める。


「今日はこの街で休んで、明日から密林に入ることになる。この密林は湿度が高く、地面がぬかるんでいるところも多いようだ」


「ワニ、タカ、ゴリラなど危険なモンスターも多いですわ。環境もキツイですし、あまり入りたくはない場所ですわね」


「木が多いならあたしは動きやすいかもしれないッスね」


「確かに木の上はぬかるんだりしてないから動きやすいかもしれんが、鳥型のモンスターもいる。油断するなよ」


「はいッス!」


「気配を感知できる人がいれば奇襲は怖くありませんし、何とかなるのではないでしょうか」


「まあな。俺もリィンを抜いておくつもりだし、エイミーが周囲を見てくれるし、何とかなるだろうとは思ってる」


「任せるッスよ! あたしの本領発揮ッス!」


 奇襲が怖いエリアでこそ輝くのがエイミーだからな。頑張ってもらおう。


「後は実際に入ってみないとなんとも言えんか。じゃあ話はここまでで良いだろう」


 わざわざ集まって話すことでもなかったかもな。ただ部屋に引きこもって退屈にしているよりは良いか。


「じゃあ後は雨が止むまでのんびりするッス。ほらほら、兄さんもこっち来て良いんスよ?」


 止めろ、誘ってくるな。せっかく意識しないようにしていたのに。


「エイミーさん、流石にはしたないですわ。今は2人きりという訳ではありませんわよ?」


「じゃあクラリスは部屋に戻っていると良いッス」


「魔法を教えてあげましたでしょう? ここは私に譲っておくのが大人というものですわよ」


「ありがとうッス。これから密林に入ったらたっぷり恩返ししてあげるッスよ」


『来ましたね! 修羅場です! さあさあマスター! どうしますか!?』


(何でお前はこういうときいつも楽しそうなんだよ)


『剣にも娯楽が欲しいんです! さあマスター、どっちにしますか!?』


『趣味悪いなぁ。で? ご主人はどっちを選ぶの?』


(お前もな……)


『ここは間を取ってどちらも、というのはいかがでしょう?』


(いかがでしょうじゃないんだよ)


『どちらかを選べば今後の旅に影響が出ます。それならいっそ、ということでございます』


『……それ、採用』


(採用じゃないんだよ!)


 そのとき、雨が建物に当たる音がしなくなっていることに気がついた。


「お! 雨が止んだみたいだな! ほらほら、服を見たり観光したりしに行こう!」


「え? あ、ホントッスね。じゃあ外に行くッスか」


「観光ですわー!」


『逃げ、ですか』


『逃げ、だね』


『逃げでございますね』


『……逃げた』


(やかましい!)


 俺たちは外へ繰り出した。

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