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貫き通せ我が騎士道  作者: 神木ユウ
第2章 流水国アクア
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第72話 強くなる秘訣

 翌朝、兄さんが朝食の準備をしているので、その間にクラリスに魔法を教わる。


「早速教えて欲しいッス!」


「教えると言っても……。まずは基本の風弾が使えないことにはなんともできませんわよ」


「どうやるッスか?」


「どうって……。魔力の放出はできますでしょう? その放出した魔力に自分のイメージを乗せて変換するだけですわ。慣れない内は魔力を変換する工程を1つ1つ詠唱すると良いですわよ。と言っても基本の魔法はわざわざ詠唱するほど複雑な工程はないですが」


「うーん……? 魔力を放出して……変換……変換……? 風ってどうやってできてるッスか……?」


「いや、風が吹く原理なんてどうでも良いですわ。ただ風よ吹けとイメージすればできます」


 イメージ……イメージ……風が頬を撫でていく……。爽やかな風が……。


「良い風ですわね……。とても気持ち良いですわ。全く攻撃にはなりませんが……」


「むぅ……。ちょっと風魔法使ってみて欲しいッス」


 見れば何かわかるかもしれない。少なくともイメージの助けにはなるはず。


「行きますわよ。風弾!」


 クラリスが前に出した手のひらから小さな風の塊が飛び出す。それは地面を少しえぐって消えた。


「全く参考にならないッスね。よく見えないッス」


「風魔法は見えにくいことも利点ですわ。仕方ないことですわよ」


「風弾!」


「何でこちらに向かって放つんですの……。そよ風が来ていますわよ」


「風弾! 風弾! ……あれ?」


 急に力が抜けて座り込みそうになる。地面につく前にクラリスに支えられた。


「慣れない魔法をそんなに連発したら魔力もなくなりますわよ。慣れない魔法は魔力効率が悪くてどんどん魔力を持っていかれるものですわ。ただでさえエイミーさんはあまり魔力が多くないようですし……」


「うう……何か気持ち悪いッス……」


「典型的な魔力切れですわ。魔力量が少ない人は少し休めば治まりますわよ」


「おーい、朝食できたぞー。っておい! エイミーどうした! 大丈夫か!?」


「魔力切れですわー」


 魔力は朝食の間にはもう回復していた。なくなるのも回復するのも早いってことなんだろう。

 しばらく練習してみよう。敵に何らかのダメージがなければ使えない。





 村を出てから25日、魔法の練習を始めてから2週間。


「風弾!」


「ふんっ! だから何でこっちに向かって撃つんですの! 殴ったら消えるくらいの風の弾ですわよ!!」


 クラリスに向かって撃った風弾は殴ってかき消された。流石にあたしだって危険な攻撃を仲間に向かって撃ったりはしない。まだ人を傷つけられるほど強くないとわかっているから、どれくらいの威力なのかを見て欲しくてクラリスに向かって撃っているだけだ。


「でも大分強くなりましたわね。無防備に受けたらバランスを崩すくらいはするかもしれませんわよ」


「それじゃあ意味ないッスよ。無防備にこっちの魔法を受けてくれるような敵は魔法がなくても余裕ッス」


「それはそうですわね。それでも魔力効率も良くなってきてるようですし、そのうち使えるようになりそうですわ」


「風弾が使えるようになったとしても、その後強力な魔法を学ばないと意味ないッスけどね……」


 そう、風弾が使えるようになったら目標達成ではない。強大な敵にも通用する魔法を創らないといけない。

 あたしの魔力量で、強大な敵に通用する……魔法を……。そんなの……


(本当に可能なんスかね……)





 更に2週間、もう少しで次の目的地に着くらしい。

 だというのに、あれからあたしの魔法はほとんど強くなっていない。


「風弾!」


「うーん……。一応殴っても消えないくらいには強度が増しましたし、魔力効率も良くなってそれなりの回数撃てるようにはなったようですが……」


「ダメッスね……。当たってもバランスを崩すだけの魔法なんて何の意味もないッス」


 多少改善されても結局は使い道のない魔法のまま。基本の風弾すらこの有様では強力な魔法なんてできる訳もない。

 一応これからも練習は続けるけれど、別の方法で強くなることを考えるべきかもしれない。

 でも、別の方法ってなんだろう。今から劇的に力が強くなったりはしない。どうやれば強くなれるんだろう。


 何も、わからない……。


「はぁ……。エイミーさん、慌てすぎですわ」


「え……?」


「戦闘で役に立てるようになりたいのでしょう? だからずっと頑張って練習してるのですわよね?」


「……何でわかるッスか」


「以前も同じことを話したことがありましたわね。あのときはわかったって言ってましたけど、やっぱり気にしてたんですのね」


「だって、クラリスは凄い兄さんの役に立つッス。あたしは何もできない……」


「1つ、言っておきます」


「なんスか……?」




「あまり調子に乗らないでくださいまし」




「……え?」


「あなたの境遇は聞いています。ユーリさんの境遇も。だからわかります。失礼ですが、私たち3人の中であなたが一番弱いのは当たり前ですわ」


「そ、そんな」


「ユーリさんは10年、剣以外何もせずに高密度の訓練をし、その後の旅でも強敵と戦い続けています。強いのは当たり前ですわ」


 それはわかる。兄さんはあの異常な体力で毎日1日中剣の訓練をする生活を10年続けていた。しかも剣に理想の扱い方を聞きながら。強くなるに決まっている。


「そして私は、戦いこそしてきませんでしたが、考えうる限り最高の環境で魔法の訓練をしてきました。国の最高教育機関ですわよ。そこで7年間特別メニューで訓練してきたのです。これも強いのは当たり前ですわ」


 確かにそうだ。レイル女学院は聖女を育てる教育機関。中でもクラリスは聖女になるべく1人だけ別の授業を受けていたという。魔法では誰も勝てないのかもしれない。それくらい強い。

 それに比べて……


「エイミーさん。あなたはずっと訓練なんて考えることすらできない生活をしていました。その中で磨かれた技能もあるかもしれませんが、それは生きるための技能。戦うものではありませんわ。あなたは極論、訓練というものをしたことがないとすら言えるのです」


 ……そうかもしれない。この旅で色々学んできたけれど、まだ旅をして1年も経っていない。それだけの期間で2人と肩を並べようというのがそもそもの間違い……。


「そんなに暗い顔をしないでくださいな。だからあなたは慌てなくても、これから強くなれると言いたかったのですわ。もっとのんびりしても良いのではなくて? ユーリさんはいつまでも待っていてくれますわよ」


 そうだろう。兄さんがあたしを見限ることなんて想像できない。きっとあたしが戦いなんて嫌だと言えば、全く戦わなくて良いようにどうにかしようとしてくれるはずだ。

 でも、そんなの、そんなことは、




「そんなの納得できない!!」




 確かに訓練なんてしてこなかった。生きるのに必死で強くなろうなんて考えていられなかった。

 それでも、これから強くなっていけるのだとしても、今、この旅で兄さんの役に立てなくちゃ、ダメなんだ。


「兄さんは気にしないとか、これから強くなっていけば良いとか、そんなことは関係ない! あたしは、今! 強くなりたい! ただ守られているなんて嫌だ!」


 そう、ただ守られているのが嫌なだけ。お母さんに守られていたあの頃、重荷でしかない自分が嫌いだった。

 今は違う。自分で、己の手で戦うことができるだけの強さがある。

 ただ兄さんに守られているだけなんて絶対に嫌で、必死になってついてきた。だからもっと、もっと!

 そのうち強くなれるなんていうのは逃げだ。自分に負けたも同然。お母さんに守られ甘えていたあの頃から何も変わっていない。




「強くなる! あたしは、自分に負けたりしない!!」




「だったら、強くなれば良い」


「兄さん?」


「まったく、そんなに大声で叫んでいたらそりゃあ聞こえるぞ。まあここ最近何か訓練してるのは気づいてたけどな」


「流石に気づかれてましたか」


「一緒に旅してて気づかないのはヤバイだろ……」


「兄さん! 強くなれば良いってどういうことッスか!?」


 そんなあっさり強くなれるなら苦労しない。こうして訓練してもなかなか強くなれないのに……。


「自分が持つ手札は変わらない。それはどう足掻いてもそのままだ。俺が急に魔法を使えるようになったりはしないし、エイミーが急に力が強くなったりもしない」


「それはわかってるッス! だから手札を増やそうとして……」


「躓いてるんだろ? そりゃあそうだ。エイミー、自分の髪色を見てみろ。お前は魔法使いとしては絶対に大成できない。それが手札だ」


「だって、もう魔法くらいしか……」


「魔法を使えるようになるのは良い。それはきっと何かに使える。でもそれで戦おうとしても駄目だ」


 魔法を使えるようになるのは良いのに、それで戦うのは駄目……? 一体どういう……。


「自分の持つ手札が変わらないならどうする? 諦めるか?」


「それだけは嫌ッス!」


「そうだな。諦めるくらいなら何でもやってみれば良い。お前は器用だ。俺と違って色々できるんだから、きっとどうにでも出来るはずだぞ」


 兄さんはそれだけ言って先に行ってしまう。どういうことなんだろう。色々出来ると何が……。


「ユーリさんも剣しか使えないことを気にしてるんですの? 意外ですわね。そんなこと関係ない、やれることをやるだけだって言いそうですのに」


 兄さんは剣しか使えない。確かにそうだ。魔法なら大体使いこなすクラリス、色々小さい技能を持っているあたし。それに比べて兄さんの能力の範囲の狭さといったら。


「剣しか使えないのに、あたしたちの中で一番強いんスよね。それは何でッスかね?」


「え? やれることを最大限やっているからでしょう? だから意外だと言っているんですわ。というか私とユーリさんが戦ったら相性の問題で多分私が勝ちますわよ?」


 やれることを最大限やる。色々できるんだからどうにでも出来る。魔法を覚えるのは良いけどそれで戦うのは駄目。


「なるほど……。何となくわかってきたかもしれないッスね。うん。クラリス、魔法の練習は一先ずここまでで良いッス。今までありがとうッス」


「あら、そうですの? 1ヶ月でそれなりに使えるようになったなら、もっと練習すればそのうち強力な魔法も使えるかもしれませんわよ?」


「いや、きっとそれは無理ッス。あたしの魔力量ではどうやっても強力な魔法は使えない。だから今使える出来損ないの風弾で何か出来ないか考えてみるッス」


 今出来ることをやる。出来ることで出来ることを考える。それが強くなれる秘訣のはず。もっと考えてみよう。きっとまだまだ上を目指せる。

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