第6話 新たな出会い
開花・大輪牡丹
力を溜め、一気に解放することで普段とはかけ離れたパワーを発揮できる技だ。
力を溜めれば溜めただけ強くなる。もちろん限界はあるし、溜めるほど時間はかかるが。今の限界は15秒といったところだ。それ以上は時間をかけても強くならない。
「花吹雪」が使用後に疲労という形で代償が来るのと対照的に、使用前に溜め時間という形で代償を支払う感じだな。デメリットがない技なんてないってことだ。
「危なかったな……」
『最初の加速を避けた時の動き、良かったですよ! マスターも成長していますね! 喜ばしいです!』
「ありがとな。フィーは大丈夫か? 思いっきり弾かれただろ」
『んー、欠けてもないみたいです! でもお手入れを希望します!』
「ああ、とりあえず入ってろ。お疲れさん」
さて、進もう。門番を倒したことで、閉じていた扉が開いたようだ。
先を覗いてみると、また別の部屋に続いていた。
目の前に階段がある。それを上った先に台座が見えた。
「あれは!」
駆け上がる。罠である可能性なんて頭から吹っ飛んでいた。台座までたどり着いたが、幸い罠ではないようだ。
「おおおぉぉぉ!」
そこにあったのは短剣だった。剣置きに横にして飾られている。剣身は艶のある黒。柄も黒。隣に飾られている鞘も黒。
「きれいな黒だな……」
決して闇のような不気味なものではなく、輝く星空を思わせる美しい黒。装飾されていないその飾り気のなさが、その身の黒を引き立たせていた。
手にとってみる。当たり前だがフィーより大分軽いな。
『……はじめまして』
やや幼い感じがする女の子の声が聞こえた。
「おお、初めまして。俺はユーリ。名前を聞いても良いか?」
『……わたしは、感覚剣リィンセスフォーン』
「感覚剣……」
『……使用者の感覚を強化する』
なるほど。この短剣を手にした瞬間から、周囲の微細な振動や音まではっきりわかるのは、そういうことらしい。
『……よろしく』
「ああ、これからよろしくな!」
やや物静かなところがあるようだが、俺が持ち主で不満はないようだ。良かった。
『わたしを忘れないでください! わたしは収納剣フィニスレージ! よろしくですよ!』
『……どこ?』
「ああ、俺の体内だよ。入ってみるか?」
『……面白いね。……入ってみる』
格納してみる。フィー以外を格納するのは初めてだが、問題はないようだな。
『どうです? 良いでしょう!』
「なんでお前が自慢げなんだよ……」
『……良い』
「それは良かった。一度取り出すぞ」
2本まとめて外に取り出す。帰りが安全とは限らないからな。
『ああ、もっと入ってたいのにぃ!』
『……同意』
「帰りの武器がなくなるだろうが……」
リィンセスフォーンの呼び方も決めるか。
「そうだな……リィンセスフォーン。リィンって呼んでも良いか?」
『……ん、大丈夫』
「よし、じゃあリィン。早速力を借りるぞ」
リィンの能力で帰り道の様子を調べる。どうやらあのゴーレムが復活していたりはしないようだ。
「よし、帰ろう」
『はーい!』
『……うん』
俺は意気揚々と遺跡の出口へと歩き出した。
遺跡の外に出た。相変わらず砂漠の日差しがキツイ。
「おおー、リィンすごいな! どこにモンスターがいるかはっきりわかるぞ!」
『……うん』
少し声が弾んでいる気がする。褒められて嬉しいのだろうか。
『むむむ。わたしも! わたしもスゴイですよね?』
「え? ああ、うん。助かってるよ」
『フフン♪』
何を対抗心を燃やしているのか。今までフィーだけだったところにリィンが来たから立場を奪われるとでも思っているのだろうか。
能力を抜きに考えたって、短剣と直剣では役割が違うだろうに。
「妙な対抗心燃やしてないで、行くぞ?」
砂漠をリセルへ向けて歩き始める。帰りはワシが来たらすぐわかるし、地面に隠れたモンスターも感知できるから、行きより楽になるはずだ。
行きは20日かけた道のりを、15日で帰った。故郷という訳でもないのに、なんとなくホッとするな。
「おお、兄ちゃん! 無事だったか!」
「あ、ただいま帰りました。今日はこっち側の見張りなんですね」
初めてリセルに来た時に服を貸してくれた、見張りのおじさんだ。どうやら心配をかけてしまったようだ。
「出て行ったきり帰ってこねぇから、モンスターにやられちまったのかと思ったよ。その様子だとケガもないみてぇだな。いやぁ、良かった」
「心配をおかけしました。おかげさまで無事戻ってこられました」
「はっはっはっ、そうかしこまるなよ! この長期間砂漠をうろついて無事ってこたぁ、兄ちゃん相当つえぇんだろ? 勝手に心配してただけだ気にすんな!」
「いやいや、そんな」
「そうだ、自己紹介しとこう。俺ぁリックってんだ。一応この見張り番のリーダー的な仕事をしてる。よろしくな!」
このおじさんリーダーだったのか。そこそこのベテランだろうとは思っていたが。
「ユーリです。よろしくお願いします」
「おう! ユーリはこの後どうすんだ? しばらくこの街にいるのか?」
「いえ、一晩休んだら王都を目指そうかと」
「お、王都行くのか! 良いなぁ、若者め! 頑張れよ!」
王都で仕事を探すつもりだと思われてるか?まあ別にわざわざ正すこともないか。
「ええ、ありがとうございます」
さて、とりあえず服屋か。砂漠用じゃない服も買っておかないとな。
「いらっしゃいませー」
「ここって砂漠用じゃない服も置いてありますか?」
「ございますよ。どのような服がよろしいでしょうか」
「王都に行こうと思うので、王都でも目立たない一般的な男性用の服が欲しいんですけど」
「かしこまりました。こちらなどいかがでしょうか」
見てみるとなかなか高い。というか俺が今着ている服と同等の値段だ。
「これって魔力がこめられている服なのでは」
「あれ、違いましたか? 王都へ向かう途中にも、少し道を外れればモンスターの領域がありますし、防具にもなる服が良いのかと」
「ああ、そうか。道中もモンスターは出るんだよな。どうしようかな」
『マスター!』『……マスター』
(あれは買わんぞ。というかリィンまであれが良いのか……)
あのとてつもなく高い服を欲しがる剣たち。なんなんだ、あの服は剣を惹きつける何かがあるのか?
「そうですね。一応防具としても考えます。その服と似たような効果の服を5着ください」
これから長い旅になる。王都や他の街でも買えるだろうが、念のため多めに買っておこう。
本当は騎士を目指すなら鎧にも慣れておいた方が良いんだろうな。でも鎧を着て旅は流石にできないし、今は置いておこう。
「ありがとうございましたー!」
リィン用の剣帯を買うために武器屋にも寄ろう。
「らっしゃい。お、兄ちゃん帰ってきたか。剣士一人で砂漠探索から帰ってくるとは、良い腕だ」
「ありがとうございます。今日はこの短剣の剣帯を買いに来ました。腰の後ろに差しておきたいんですが」
「直剣もそうだったが、兄ちゃん、良い剣持ってるな」
お、わかってるじゃないかおじさん。そうそう、良い剣だよな。
「ええ、自慢の相棒たちですよ」
「良いことだ。だが、悪いがウチは短剣を取り扱ってなくてな。剣帯を作ることはできるが、多少多めに金をもらうことになる」
「時間はどれくらいかかりますか?」
「明日までには仕上げてやる」
「早いですね。良いんですか?大変なんじゃ」
「大丈夫だ。兄ちゃんは有望そうだ。ウチを覚えていてくれればそれで良い」
「商売上手ですね。わかりました、ならお願いします。明日の朝、取りに来ます」
「あいよ。俺はゴンズ。リセルのゴンズ武器店店主ゴンズだ。覚えておいてくれ」
「俺はユーリです」
食料は狩った肉が残っているが、野菜も買っておくべきか。市場も見ていこう。
武器屋からそのまま市場に出た。相変わらず活気がある。
「いらっしゃい! どれも新鮮だよ!」
「へぇ。砂漠のすぐそばのこの街で野菜が採れるんですか?」
「ああ、そのために品種改良された野菜があるのさ! この街にも農家はいるんだよ」
王都まで50日かかると仮定して、多めに買っておかないとな。
「たくさん買ってくれてありがとね! リセルの野菜の味を楽しんでおくれ!」
あとは……主食としてパンでも買っていこうか。
パンも大量に買う。フィーに入れておけばいつでも食べられるし、食料はあればあるだけ良い。
宿の部屋に入る。ベッドに寝ころがると、思ったより疲れているのがわかる。慣れない環境にしばらくいたからな。気づかない内に疲れがたまっていたんだろう。
フィーとリィンを体内に格納する。
『あああぁぁぁ……』『……ふぅ』
王都に行くことは、旅に出る前から考えていた。父さん、母さんの住んでいた場所。叶うなら王城へ行って騎士の訓練を見せてもらったりしたい。それは難しいかもしれないけれど、父さんがいた騎士団を一目見るだけでも良い。本物の騎士という存在への興味は尽きない。
地図によれば、リセルから王都へは歩きで40~50日くらいかかりそうだ。その間にももちろん少し寄り道すれば村や街はあるが、俺は王都へ直行するつもりでいる。幸いフィーのおかげで荷物には困らない。直行でも問題ないだろう。
王都がどんなところか想像している内に、いつの間にか眠っていた。
封印の地の中心に建つ魔王城、その一室に5人の人影が集っている。
魔王と四天王4人だ。魔王は黒髪の女性、四天王は4人とも紫色の髪をしている。
四天王の4人は魔族の特徴として、尖った耳と長めの八重歯があった。
四天王の一人、よれよれの白衣を着て眼鏡をかけている、いかにもマッドサイエンティストといった雰囲気の痩せた男が口を開いた。
「魔王様、結界を越える研究についてですが、ご覧ください」
そう言って指輪を取り出す。何の変哲もない銀色の指輪だ。
「結界を自由に越えることは未だ叶いませんが、限定的に越えることが可能となりました。それがこの指輪です」
「その指輪を着けている者のみ結界を越えられる、という訳か。デスディ、いくつ完成した」
「3つです。材料もなかなか集めづらい物でして、現状これが精一杯かと」
「3つか。レッジ、お前が使え。まずは大地国ガイアからだ。結界を越えられないならば、結界を消す。鍵を奪って来い」
その声に答えたのは、燕尾服のようなものを着て、モノクルをかけた男。
「かしこまりました、魔王様。必ずや鍵を持ち帰ってご覧に入れましょう」
それに待ったをかける者が一人。5メートルはあろうかという大男だ。
「おいおいおい、魔王様! それなら俺に行かせてくれよ!」
「ドラゴ、お前はレッジの次に行かせる。待っていろ」
「なんだ行かせてくれるのか。なら待ってるぜ」
「チーリィ、お前は何かあるか」
声をかけられたのは四天王唯一の女性。修道女のような格好をしている、まるで聖職者のような女だ。
「……いえ、何も」
「そうか。ではレッジ、行ってこい」
「はっ」
魔王軍が静かに動き始めていた。
感覚剣リィンセスフォーンの名前は、リーンフォースメント(強化)+センス(感覚)です。
ちなみに収納剣フィニスレージはインフィニティ(無限)+ストレージ(収納)です。




