第64話 閑話:それぞれの役割とクラリスの想い
閑話4話の4話目です。
本編にしようか閑話にしようか迷った話です。
俺に突進してくる毛玉のようなモンスター。
俺を囲うように結界が張られ、そのモンスターを弾く。
そこでモンスターの背後からエイミーが攻撃、モンスターの気を引く。
モンスターの意識が俺から外れたのを確認して結界が解かれる。俺がモンスターを両断、戦闘終了だ。
「やはり魔法使いがいると安定感が違うな。今までは物理攻撃しかできなかったからなー」
「当然ですわね!」
『マスター、その言い方は良くないですよ』
(ん? 何がだ?)
『……エイミー』
言われてエイミーの方を見てみると、不満ッス! と顔に書いてある。具体的には頬を膨らませて拗ねていた。
「何を拗ねてんだ。誰もお前が役に立ってないなんて言ってないだろ? 色々助けてもらってるんだから、そんなこと思わないって」
「お世辞は良いッス……。首都襲撃のときも全然戦えてなかったのはわかってるッス……」
どうやらドラゴに全く歯が立たなかったのを気にしているようだ。
相性の問題だと思うんだがな。奴は俺の攻撃でもほとんど傷がつかないほど頑強だった。エイミーの攻撃なんてまず通らない。
その上、奴の攻撃が掠りでもすれば、エイミーは死んでしまっていただろう。エイミーの華奢というか幼い体は耐久力に難がありすぎる。
「目にナイフを投げたりして助けてくれただろ? あれは奴だって防御せざるを得ない有効な攻撃だったぞ?」
「皆が体張って戦っている中、あたしだけ全くダメージなしだったんスよ? 申し訳なくなるッス……」
「ダメージがあれば戦っているという訳ではありませんでしょう? 気にすることはないと思いますわ」
クラリスも励ましてくれるが、納得できないようだ。うーむ……。
「じゃあ俺らの中で一番素早いのは誰だ?」
「……あたしッス」
「そうだろ? じゃあ俺らの中で斥候役ができるのは?」
「あたし……いや、それは兄さんだってリィンを使えば出来るッスよ」
「俺が斥候? そりゃあ無理だろ」
「あらそうなんですの? 私もユーリさんならリィンを使えば可能なのかと思ってましたが」
「足音も消せない、気配も消せない、素早く高い所に上ることも出来ない、下手したら風上に立ちかねない俺が斥候なんて無理に決まってるだろ」
「エイミーさんはそれら全てが出来るんですの?」
「そうだぞ。こいつは気配も足音も消せるし、壁を駆け上がるし、鍵開けできるし、気配を読めるし、何なら裁縫やら天気読みやら逆に何が出来ないんだってくらい色々できる」
「も、もう! 褒めすぎッスよ! わかったッス! あたしも役に立てるってわかったッスからもう良いッス!」
顔を真っ赤にしてニヤニヤ照れている。とても可愛い。からかい甲斐があるのも良いよな。言わないけど。
「わ、私は!? 私も役に立ちますでしょう!?」
「いや、最初はお前の魔法が役に立つってところからこの話が始まったんだろうが……」
「他には!?」
やけに必死に自分の役に立つところを教えてくれとせがんでくる。
「他? 魔法以外ってことか? 例えば……交渉事とかはきっとお前にしかできないよな」
「交渉ですか?」
「そう。今までは幸い俺らが対価を受け取る側だった訳だが、もしこちらが何か依頼をしようってなったとき、俺やエイミーじゃ相手の言いなりにしかなれん。対価を受け取る側でも相手が難癖つけてきて報酬を出し渋ったりとかな。そういうときはクラリスだけが頼りだな」
「そ、そうですか? 私だけが頼り……。ふ、ふふん、そうでしょうとも! 私を存分に頼ってくださいまし!」
「そういう意味じゃ、俺が一番いなくても良いんじゃないのか……?」
「そんな訳ないッス!」「そんな訳ないですわ!」
物凄い勢いで否定された。そんなにか?
『そもそもこの子たちはマスターについてきているのに、マスターがいらない訳ないじゃないですか……』
『……当然』
『主様? 少しは自覚することも必要でございますよ?』
めっちゃダメ出しされた……。
夜。何となく寝つきが悪くてテントの外に出ると、クラリスも出ていた。
「眠れないのか?」
「眠れないということもないのですが……。少し故郷を思い出していましたの」
「帰りたいのか?」
「そうではありませんわ。ただ……私が知らなかっただけで皆さん私のことを想っていてくださった。それを知るのが遅すぎて、何もお返しできていません。それが……少しだけ気になっています」
「あの日、お前は自分の危険も顧みず戦った。それだけでも充分お返しになると思うけどな」
「私はずっと、周囲は何もわかってくれないと思っていましたの。勝手に理想を押し付けて、勝手に期待して、褒めるばかりで何も見てくれない。そう思っていましたの」
「ああ」
「でも、実際は私がわかっていなかった。勝手に拗ねて、勝手に孤独になって、周囲を見下していた。それが申し訳ないのです。だから……せめて何か皆さんの気持ちにお返ししてから旅立つべきだったのでは、と」
なるほどな。勘違いで見限っていた申し訳なさから、何か償いをしてくるべきだったんじゃないかと考えている訳だ。
「俺も、覚えがある」
「え?」
「俺は故郷で酷い扱いを受けていた話はしただろ? あの頃両親は、お前は宝物だと言ってくれていた。それは、ただ慰めるための言葉だろうと思っていた」
母さんの実家、ガイアの王都グランソイルの片隅にある家族経営の武器屋。そこで出会った祖母に言われて初めて両親の気持ちを知ったんだ。
「本当に宝物だと思ってくれていた。それを知った。俺の存在は両親にとって重荷ではなかった。それを知ったのは、両親が亡くなってからずいぶん経ってからだった」
「それは……」
「人の想いなんてさ、言ってくれなきゃわからないんだ。そんなの言ってくれれば良かったじゃないか、なんて後からならいくらでも思えるけど、実際の時にはなかなか、な……」
もう両親には俺の気持ちを伝えることすらできない。だから、
「勝手に約束した。両親の想いを裏切らないように、俺は立派に生きる。決して自分で立てた誓いに背かない」
「……ふふふ、その想いはきっとご両親にも届いていますわ」
「そうだと良いな。だからクラリスもさ、今からでも何かお返ししてやれば良い。お前の生き様が皆の期待を裏切らなければ、それも1つのお返しだと思う。故郷に帰ってから話してやろう。あなたたちが期待して送り出したクラリスはこんなに立派に旅してきましたよって」
「そうですわね。ふふん、流水剣を取り返して帰ればきっと皆喜んでくれますわ! それで充分ですわね!」
「ああ、それで良い。ま、その場合帰ったらすぐ聖女にされるかもしれないがな」
「それでも良いですわ。今まで聖女になるべく頑張ってきたのですし」
さて、もう大分遅くなってしまった。早く寝よう。
「俺はテントに戻る。お前も早く寝ろよ」
「……ねえ、ユーリさん」
「ん?」
「そちらのテントに行っても、よろしいでしょうか……?」
「……え?」
その時見たクラリスの顔はとても真剣で、真っ赤で恥ずかしそうにしながらも、何かを決意したかのような顔をしていて。
思わず見惚れてしまった、その時、
「はいはいはい、もう寝るッスよー! クラリスはこっちッスー!」
「あ、ちょ、待って、待ってください! 折角スゴイ勇気出して言ったのにーーー!!」
エイミーに引きずられて自分たちのテントに戻っていく。
……俺も寝るか。……寝られるかな。




