第60話 旅立ちの日
襲撃から3日後、俺は神殿に来ていた。
「よく来てくれました、ユーリ。まずはお礼を。この都市を、学院の生徒たちを守ってくださり、ありがとうございました」
「いえ、わたしは何も、本当に何もできなかった。奴に負け、流水剣を奪われてしまった。申し訳ありません。聖女様は大丈夫でしたか?」
「はい、戦いに協力できず申し訳ありませんでしたね」
「奴はレイルウォーテを守る結界を破壊して侵入してきました。何度も殴って。その衝撃は全てあなたに降り注いでいたはず。戦いに協力していないなどと、誰が言うことができましょう」
「ありがとうございます」
話しているのは、輝きこそクラリスに劣るものの、青い髪をした20歳ほどの女性、聖女アリシアだ。この場には俺とエイミー、アリシア様と傍仕えのアーニャさんがいる。
「ユーリさん、こちらを」
受け取ったのは、3通の手紙だ。
「これは?」
「聖女様に書いていただいた手紙です。ウィンドとバーンに宛てて2通、今回の襲撃について書いてあります。各国に向かわれた際にガイア国王の手紙と合わせてお渡しください。もう一通はガイア国王へ。今回の件についてのお礼が書いてあります」
「わかりました、必ず届けます」
「あとは、こちらをどうぞ」
「この本は?」
「この国に伝わるとある剣の伝説です。これがきっと一番のお礼になるかと思いまして」
初めてここに来たときに旅の目的を話していたのを覚えていてくれたようだ。これは本当にありがたい。後で読もう。
「ありがとうございます!」
「ふふ、とても嬉しそうですね。それほど喜んでいただけると、私としても選んだかいがあります」
「聖女様自らお選びに?」
「ええ、何か喜んでいただけるお礼がしたくて。改めて、この度はありがとうございました。旅の無事をお祈りしております」
「ありがとうございます。聖女様方もこれから大変になるかと思いますが、どうかお元気で」
神殿を後にした。これから新たな防衛策を構築する必要があるし、本当に大変だと思うが頑張って欲しい。
次に学院に寄る。旅立つ前に寄って欲しいと言われていた。
案内のルル先生について練習場に顔を出すと、全生徒、教師が集まっている。大げさな。
「こんなに集まって何をするんです?」
「ふふ、別に何もしませんよ。皆あなたを見送りたいだけです」
「そんなにですか? 結界を破壊されるのがそんなに楽しかったのですかね?」
冗談でそんなことを言ってみると、面白いように釣られる奴が1人。
「そんなの全ッ然楽しくないに決まっていますわ!!」
「そうか? お前は結構毎日楽しそうにしてたと思ったがな」
「誰が楽しそうですの!? 全く、言いがかりも甚だしいですわ!!」
「いえ、クラリスさんは毎日楽しそうでしたよ」
「先生!?」
うふふふふ、とそこらから笑い声。どうやら皆同様に思っているらしい。
「クラリスさん」
「はい? そんなに改まって、何かありましたでしょうか?」
「あなた、ユーリさんと一緒に行きたいのではないですか?」
「…………え?」
一瞬何を言われているのかわからなかった。
一緒に行きたい? 私が? なぜ……?
「あなたが毎日退屈そうに外を眺めているのは気づいていました」
「っ」
「きっと外に行きたいのだろう、と思いました。それはなぜなのか。きっと聖女になると定められた重圧がそうさせているのではないか、とそんなことを考えていたのですよ」
周囲を見渡してみる。皆それに同意するようにうなずいていた。そんな、ばれていたなんて……。
でもそれは聖女になるという重圧に押しつぶされていたからではない。ただ褒め称えてくる周囲が嫌だったから……。
「だから、少しでもあなたの慰めになれば良いと思って、どんなことでも褒めるようにしようって、皆で決めていたんです」
「っ!?」
「もちろん悪いことをしたら注意しなくてはいけないと思っていましたけれど、幸いあなたはとても良い子ですから。注意することなんて全くありませんでしたね」
そんな……ことが……。私を慰めるため……? 私はそれが嫌で……!
(いや、そうではありませんでしたわね……)
最初、まだ学院に入ったばかりの頃。そういえば何度か注意を受けたことがある。結界の構成、字の書き方、姿勢。何度か注意された覚えがある。
思えば初めて外に出たいと思ったのは、特に周囲が嫌だからではなくて、純粋に出てみたいと思ったからだった。
この国はほとんどが首都で完結していて、外に出る機会も、外から来た人を見る機会もほとんどない。だから、一度で良いから外に出て、この都市以外の場所を見てみたいって、そう思った。
いつの間にか、周囲からただ褒められるようになって。だから外への憧れは逃げたいという思いに変わっていた。
(皆、私を想ってくれていた……。そんなの……)
勝手に不貞腐れて、私がただの子供みたいではありませんか。
(みたい、ではなく子供だったんでしょうね……)
「しかし私には聖女になる責任が……」
「ええ、今まではそうでしたね。あなたは聖女になると決められていた。それがわかっていたから、皆慰めることしかできなかった。でも、今は違いますでしょう?」
「え……?」
「流水剣アクリアッドがなくなってしまった今、聖女に必要なのは結界魔法ではありません。あなたはそんなものに縛られなくても良いのですよ。むしろ流水剣を取り戻すために旅に出る方があなたに求められているかもしれませんね?」
そう言って私が気兼ねなく旅に出られるように後押しされる。
確かに、今なら。旅に出ても、両親が誇れる娘になれるのかもしれない。
だったら、ずっと行きたかった、外へ!
「ユーリさん」
「ああ、どうした?」
わかっているでしょうに、すごく優しい顔で尋ねてくる。
全く、ところどころ意地が悪い方ですわ。
「私も、一緒に、旅に連れて行ってくださいませんか?」
「ああ、一緒に行こうか」
「はいっ!」
学院の皆は決して自分のことを見てくれない人たちではなかった。
むしろ良く見て、自分のことをいつも考えてくれる優しい人たちだった。
皆自分を後押ししてくれる。だから、そのお返しとして、
流水剣をこの手で、取り返して見せよう。
そう誓って、私は旅立った。
これにて、いきなり始まった第2章クライマックス完結です。第2章自体はまだまだ続きますよ。
明日は閑話を4話投稿します。その閑話の内、4話目に投稿される第64話は、本編にしようか閑話にしようか迷った話なので、普段閑話を読まない方も、64話だけは読んでいただきたいと思います。
出来れば全部読んで欲しいですけどね。なぜ閑話なのに第○話って連番にしているかといえば、全部読んで欲しいからなのです。




