第58話 魔王軍四天王ドラゴ
結界が壊れたのを見て急いで戻ってきたが、既に戦いは始まってしまっていた。
周囲を見渡す。生徒も教師も神殿職員も、全員が倒れている。エイミーが駆け寄り助け起こしている。
外傷はないように見える。恐らく結界を破壊された衝撃を受けたのだろう。
それはつまり、全員が結界に魔力を注ぎ続けたということ。お嬢様ばかりで戦うなんて初めての子がほとんどだろうに、この強大な敵に対して恐れず全力を尽くしたんだ。
「良く頑張ったな。後は、俺がやる」
俺の3倍近くある体格の奴をにらみつける。デカイ、だけじゃない。物凄く鍛えられている。
後は俺がやるとは言ったが……これはキツそうだ。この威圧感、恐らく、
「お前、四天王だな?」
話しながら一輪刺しのために鞘に収めていたリィンを抜く。
「答える義理はねぇな。とりあえず、死んどけやぁ!!」
何の工夫もないただのパンチ。だが、何とか見切ることが出来るというほどの速度。
当然受けることなんてできない。避けるしかない。
「おらぁ! どるぁ!」
ひたすら大きく振りかぶったパンチを繰り出してくる。
一発一発が必殺の威力があるのはわかるが、これだけ連打してくれれば見切ることは容易い。
隙を突いて懐へ潜り込む。この体格差だ。接近するだけで奴は攻撃しづらくなる。
「ふっ!」
フィーを振るう。直撃、しかし全く傷が付かない。
(硬すぎるっ!)
「どりゃあ!」
「くっ!」
危ない、振り切った隙を突かれるところだった。一度下がって回避。
一発もらえば恐らくそれだけで戦闘続行は不可能だ。全て回避しつつ、こちらの攻撃を当てないといけない。
だというのに、攻撃を当てても無傷。基本スペックが違いすぎる。
「そんな虫みてぇな攻撃、効きゃあしねぇよ。さっさと潰れるんだな」
「断る」
「ふん。その威勢がいつまでもつかなっ!」
相も変わらず単純なパンチ。避けるのは容易い。と思っていた。
「おらぁっ!」
「ぐっ!?」
振り切った腕をそのままなぎ払ってきやがった! 跳んで衝撃を逃がしたが、それでも体中に響く。
パンチですらない、ただ腕を振り回しただけ。それでも直撃すれば致命になりかねない必殺の一撃。
「おらおらぁ! まだまだ行くぞぉ!」
「ちっ!」
パンチ、避ける、続けてパンチ、避ける、なぎ払ってくるのをしゃがんで回避、そこから喉を突き上げてやる、が針が刺さった程度。
踏み潰しに来るのでバックステップ、から勢いをつけ突進、勢い全てを乗せて突く。これも少し刺さるだけ。
「ったく、ちくちくと。うぜぇなっ!」
「っ!」
蹴りが混ざり始めた。この巨体で足を出されると、それだけで回避が困難になる。大きく避けざるを得ないため、更に攻撃チャンスが減る。
駄目だ、ただの斬撃ではほとんどダメージにならない。どうにかしてこいつの動きを止めないと話にならない。
どうするか……。
「考え込んでる暇ぁねぇぞっ!」
「くっ!」
蹴りへの回避が甘くなったところへパンチが降ってくる。下がって回避を……
「ユーリさん!!」
「!!」
奴のパンチが止まった。目の前に結界による障壁ができている。クラリスか!
リィンを鞘に収める。フィーを上段に構えた。
奴が殴ってくる。障壁が砕け散る。
奴が殴ろうと振り上げた腕の前に障壁。加速する前に止められ、殴ることが出来ない。
奴が一歩下がって腕を振りかぶる。
奴の目にナイフが飛んでくる。奴はこれを腕で庇って弾いた。
殴って障壁を破壊。こちらへ攻撃しようと再び腕を振りかぶる。
奴の攻撃を防いだ結界が砕け散る。目の前には腕を振った体勢の無防備な奴の体。
15秒っ!!
「堅牢壊花・大輪牡丹!!!」
「ぐうおおぉぉぉぉ!!?」
振りぬく。その衝撃は周囲の石畳を砕き、奴を吹き飛ばした。
奴は倒れている。確実に捉えた。間違いなく斬った。俺の最高クラスの一撃。
「や、やった! やったッス! 兄さん!」
「来るなっ!!」
「え……?」
確実に捉えた。俺の最高クラスの一撃。
その衝撃は周囲の砕けた石畳が証明している。直撃していなくてもこれだけの威力がある技なんだ。それが直撃した。
だというのに……
認めよう
奴が起き上がってくる。胸元から腹にかけて縦に大きな傷。そこから血が流れている。間違いなくダメージにはなった。だが、ダメージ止まり。致命には至らない。
クラリスが荒く呼吸しているのが聞こえる。さっきの攻防で何回結界を砕かれた? もう限界と考えた方が良い。
そして、奴が纏う雰囲気が一変した。重苦しい重圧を感じる。まるで大きな壁を見上げているような感覚。
「お前は、お前たちは、強い」
起き上がり、さっきまでの虫けらでも見るような目とは違う、真剣な表情でこちらを見てくる。
「名乗ろう。俺は魔王軍四天王、破壊のドラゴ」
やはり四天王。そして破壊とは。レッジのやつは知略を名乗っていた。こいつの方が強いということか。
奴が笑う。楽しそうに、この瞬間が何よりも楽しいのだと伝えるように。
「さあ、構えろ強敵よ。ここからが、」
戦いだ
そこで、今までただ腕を振り回していただけだったドラゴが、
明確に、構えた
「戦闘狂が……。楽しそうにしやがって」
「ああ、楽しい。こうして戦うことが何よりの楽しみなんだ」
「仲間と戦ってれば良いだろうが」
「レッジの奴とはまともな戦いにならん。奴の策に嵌り何も出来ないか、俺が策を食い破り何もさせないかしかない。デスディも良くわからん道具で良くわからん戦い方をするからまともな戦闘にはならん。チーリィはそもそも戦おうとしない。心躍る戦闘なんて出来ん」
図らずも四天王の戦闘スタイルを知ることが出来た。ある意味デスディというやつが一番危なそうだ、覚えておこう。
「それで? 楽しい戦いがしたくてこんなところまで来たのか?」
「おうとも。流水剣を奪ってくるように言われているが、俺としては戦いの方が目的だ」
「上等だ。のこのこ出てきたことを後悔させてやる」
「ああ、お前こそ。簡単に落ちてくれるなよ。楽しい戦いがすぐに終わってしまう」
リィンも抜いて構える。奴が戦う気になった。今までとは全く違うと考えるべきだ。まずは見極める。
奴が踏み込む。石畳を踏み砕き、
そして目の前で腕を突き出している。
「っ!!」
感覚と反射を総動員して回避。通り過ぎた腕から空気を裂く音が聞こえてくる。
「良い反応だ。まだまだ行くぞっ!!」
そこから連打、連打、連打。ひたすらコンパクトな突きを繰り出してくる。
だが、その一打一打は決して軽くない。空気が裂ける音が鳴り響き、その威力を物語る。
それを半ば勘を頼りに全て回避。ドラゴの隙を探し続ける。
「本当に良い反応をしている。さあ、まだ上げていくぞ!!」
「っっ!!!」
連打し続けるその攻撃が、少しずつ、少しずつ、速度を上げていく。
体格差も相まって、まるで隕石が雨のごとく降り注いでいるかのようだ。
俺はその全てを紙一重で避け続ける。狙っている訳じゃない。それが限界なんだ。
奴の攻撃が顔のすぐ横を通り過ぎる。紙一重とはいえ完全に避けた。だというのに、俺の頬から血がたれる。
奴の腕から発せられる衝撃は、回避してもなお、俺に傷を作る。
「ちぃっ!」
回避以外の選択をさせてもらえない。下がることさえ許されない。隙が、ない。
ひたすらパンチが連打され、そのたびに避けたはずの俺の体に傷がついていく。
だから、無理矢理にでも一度距離を取りたくて、無理な回避をした。
「終わりだ」
それを見逃してくれる敵ではない。腕に意識を集中させられていた俺の不意を突くその一撃。
胴を思い切り蹴り抜かれた。
骨が砕け散る音が聞こえる。吹き飛ばされ、広場の端の建物に叩きつけられた。
「兄さん!!」「ユーリさん!!」
痛みも感じない。感覚がない。俺はどうなった? 生きているのかすらはっきりしない。
「かふっ」
血を吐いた。ああ、どうやら生きているらしい。手の感覚が戻ってくる。フィーもリィンも手放していない。優秀な手だ。
『マスター! マスター!! しっかりしてください!!』
『……マスター! リリエルの魔法使って!』
『マスター! 聞こえていますか!? 姫の回復魔法を使ってください! マスター!!!』
体から力が抜けていく。血が流れ、同時に俺の命が流れ出していく。
「療!」
傷が少しずつ癒えていく。意識が戻ってきた。
完治とは行かないが、動ける程度には回復してくれたようだ。
初めての戦いで怖いだろうに、結界を破壊されて辛いだろうに、学院の生徒や教師、神殿職員たちが俺を回復してくれる。
本当は姫様の回復魔法を使うべきなんだろう。だが、思いついた逆転の一手。そのためには回復は後の方が良い。
大丈夫だ、動ける。まだやれる。ほとんど意地だけで立っているような状態だが、それでも立ち上がった。
「まだ向かってくるのか。そのまま倒れていれば止めを刺したりはしないが?」
「へえ、良いのかよ……。俺が諦めたら楽しい戦いが終わっちまうぞ……?」
「……面白い。その状態で楽しい戦いになると言うのなら、見せてみろ!!」
体は傷だらけだ。だが、まだ動くことが出来る。
敵はどこまでも強大だ。だが、勝ち筋は見えている。
ふらふらな体に鞭打って、俺を手助けしてくれる少女たちがいる。
守るべき人たちが、都市が、誇りがある。だから、
今こそ、俺なりの騎士道を張り通すとき




