第5話 砂漠の遺跡
砂漠に入って3日が過ぎた。歩き続けているが、未だに砂と小さめの岩場しか見ていない。
あのワシとの戦いから上も気にしなければならなくなったため、やや歩くのが遅くなった。仕方ないことだ、あの時は運よく気がつけたが、最初の不意打ちで終わっていても不思議じゃなかった。
「花吹雪・三分裂き!」
新たに突撃してきたワシを一瞬で斬り捨てる。対処方法さえわかれば問題ない相手だ。
「フィー、水くれー」
『はいはい』
今日も日が沈んできた。そろそろ寝る準備をするか。
フィーにテントや薪、食料や食器、調理器具を出してもらって、テントを張り、簡単に調理、食事。そして就寝。
「じゃあ今日も頼む。何か来たら起こしてくれ」
『はいな!』
フィーをテントの外に立てかけてテントに入る。寝袋にもぐりこんで眠る。モンスターが来たらフィーが声をかけてくれるから、安心して眠ることができる。起きたら体内に収納して労ってやらないとな。
砂漠に入って10日。ここまで何もないと諦めたくなってくるな。
「フィーの時はそれなりに距離があっても呼ばれる感じがしたけど」
『それはわたしが全力で主張したからです!』
「そうか。つまり仮に剣があったとしても、かなり近づかないとわからないってことか」
『ん? 今遠まわしにうるさいって言われました?』
まあ、もう少し進んでみよう。一ヶ月くらい探索して何もなければ諦めるかな。
地面がすり鉢状になっているところを避けて歩きながら、ひとまずの期限を決めた。
砂漠に入って20日。そもそも今どれくらい進んでいるのだろうか。方角は確認しながら進んでいるから帰りの心配はないはずなのだが、なんとなく迷子になっているような不安を感じる。
と、ついに変化があった。
「ん?」
『お?』
「この感じ……。近くにあるんじゃないか?」
『はい、かすかに聞こえます! このもの静かな感じ、それでいて聞こえてくるってことは相当近いですよ!』
そこまでわかるのか。剣同士だからよく聞こえたりするのかな。にしても……
「最初フィーに会ったときも思ったけど、普段聞いてるフィーの声とは違うよな」
『存在を主張してるだけですからね。一部の人だけが感じることができる気配みたいな、とにかく声とは別ですよ』
便宜上俺たちは「聞こえる」と表現しているが、別に何か声が耳に入ってくる訳じゃないんだよな。
まあそれはいいだろう。とにかく新たな剣との出会いだ。わくわくしてしょうがないな!
フィーの言うとおり、30分もしないうちに見えてきた。明らかに人為的に建造された石造りの建物。間隔を空けて建っている2本の石柱が入り口の存在を主張していた。
「扉が閉じているな。開くかなっと」
押してみる。開かない。引くことができる形状じゃないし……。
「え、おいおい。ここまできて遺跡に入れず終わりなんて勘弁だぞ……」
『マスター……横……』
「ん?」
スイッチがあった。押してみる。難なく開いた。
「あー、えー、うん。よし! 行こう!」
『マスター……』
フィーの呆れたような声を聞きながら、遺跡に足を踏み入れた。
遺跡の中は何の変哲もない通路になっていた。フィーが収められていた遺跡の複雑怪奇な構造を思い出していたので、やや拍子抜けといったところ。
まあ楽であることに文句はない。先に進もう。
「フィーの遺跡とは全く違うんだな」
『そりゃあ遺跡を造った人が違えば構造も違うと思いますよ』
「そうか。名剣全てを一人が生み出した訳じゃないもんな」
分かれ道もない通路だ。所どころ扉はあるが、どれもスイッチを押すだけで開く。何度か扉を開けたり階段を降りたりしながら進む。
30分くらいたっただろうか。扉を開けた先が広くなった。どうやら部屋に入ったようだ。
「あれは番人か何かか?」
『恐らくは。ここに収められた剣を守る者でしょうね』
部屋の奥に岩でできた人型のゴーレムが佇んでいる。身長は3メートルくらいか。そのゴツゴツした体はとても硬そうだ。
「フィー、斬れるか?」
『絶対に無理とは言いませんが……。まあ間接部を狙うのが無難じゃないですかね。そこなら問題なく斬れると思います!』
間接部か。たしかに人型をしているあのゴーレムは、人と同様腕や足、首といった間接部がある。狙ってみるか。
部屋の奥に向かって歩を進める。
ちょうど部屋の中央に来た辺りでゴーレムに動きがあった。
ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ
最初はゆっくりと歩き出したと思ったら、次の瞬間
ド ド ド ド ド ド ド
猛然と走り出した!
「うおっとぉ!」
あんなデカブツにぶつかられたらそれだけで終わりかねない。ひとまず避けることに集中する。
しっかりと動きを観察すれば、そこまで速い訳でもない。少なくともあのワシに比べればずっと遅い。
動きを見極めた後、更に突進を重ねてきたところを、回避しながらカウンターで間接を落としに行く。が、
「おい、斬れないんだが……」
普通に弾かれた。わずかに表面を削ったが、それを繰り返して切断しようと思ったら1日かけても終わらない。
『えーっと……。剣筋に問題はありませんでした。なのに斬れないということは……』
「ということは?」
『斬れませんね!』
「待て待て待ってくれ! じゃあどうするんだよ!」
『えー、んー』
こんな話をしている間もゴーレムは突進を繰り返している。ワンパターンでありがたいことだが避け続けるしかないんじゃ……。
「え……?」
次の瞬間、目の前にゴーレムがいた。
慢心としか言いようがない。ゴーレムは単調な突進しかしないと決めつけた。
下がってももはや回避は不可能。だったら、
前へ!
「おおおああぁぁぁ!!」
ゴーレムに向かって突っ込みながらフィーを振る。
当然弾かれるが斬ることが狙いじゃない。
ゴーレムに当てたフィーを軸に回転、吹っ飛びながら回避する!
「よぉしっ! 避けたぁ!!」
『安心してる場合じゃないです! さっきの異常な加速、何らかの魔法です! あんなの連発されちゃ斬るどころじゃないですよ!』
「そ、そうか。ゴーレムは、ん?」
止まっている? さっきの加速魔法の代償か?
「今のうちに、っとダメか」
動き出してしまった。どうやらそこまで長い時間止まっていてはくれないらしい。
『いえ、マスター! 止まっている時間があるなら行けます!』
止まるならいける? 何を……。
「! そうか! 次、あの加速が来たらやるぞ!」
ゴーレムから距離をとる。あの加速に対応しなければならない。突進して詰めてくるのをひたすら離れ続ける。
通常時の速度が遅くて助かった。もし距離を離すだけでも苦労するような奴なら、別の対策を考えなければならなかっただろう。
ゴーレムが急加速して突進してきた。かかとから何か噴出しているのが見えたが今は良い。充分に離れていたためなんとか避けることができた。
さあ、ここだ。
止まっているゴーレムの背中を見ながら、剣を上段に構える。
力を溜める。奴を斬ることができるまで。
力を溜める。守りは全く考えない。
力を溜める。奴が動き出した。振り返り目の前の俺をつぶそうとしてくる。
5秒ってところか。充分だ。
「開花・大輪牡丹!!」
溜めた力を解放する。
単純な振り下ろし。何万と繰り返してきた基本。
振るのにかかる時間は一瞬にも満たない。これ以上の行動は許さない。
花開くように、両断された岩塊が崩れた。
ユーリの技名は花に関連した言葉でつけています。




