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貫き通せ我が騎士道  作者: 神木ユウ
第2章 流水国アクア
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第56話 努力の理由

 翌日から早速訓練が始まった。とはいえ一日中という訳じゃない。そんなに魔力はもたないし、通常通りの授業もある。

 毎日魔法の授業が入るようになったという感じになる。


「では皆さん、結界を張ってください。今日は持続性を鍛えると共に、魔力の効率の良い扱い方を覚えましょう」


 7回生の担当であるルル先生がそう言って、手本として結界を張ってみせる。これくらいは今までずっとやってきたことだし、特に難しいことはない。

 と、思っていたのだけど……


「あ、あら……? 消えてしまいましたわ……」


「私も……」


「きゃあっ!? 軽く突いただけで壊れてしまいました……」


 皆予想外に苦戦しているらしい。私はいつまででも結界を持続できるけれど、思えば結界を張り続けるという授業はなかったかもしれない。

 聖女として張る結界は流水剣の力が大きい。別に自分で張り続ける練習をしなくても、流水剣の力を借りれば結界の維持は可能になる。


「皆さん、結界を持続させるには相応の魔力の使い方があるのですよ。見ていてください」


 そう言って先生が結界を張りなおす。


「魔力をできる限り均一に込めるのです。一時的な結界ならムラがあっても気にならないかもしれませんが、長時間張り続ける場合、ムラがあると魔力を無駄に消費するだけでなく、薄い部分から壊れやすくなっていくのです」


(私も昔は均一でなくて壊れやすかった覚えがありますわ。意識するようになればそこまで難しいものでもないのですけど)


 他の皆はアドバイスをもらって結界の持続時間が延びているようだ。


「良いですね。では、エイミーさん。お願いします」


「はいッス」


 先生が呼びかけるとガイアから来たという少女エイミーが前に出てくる。


「今からエイミーさんに結界を攻撃してもらいます。結界は攻撃された箇所の魔力を消費するので、その部分が薄くなります。適宜魔力を込めなおして、結界を維持してください」


「行くッスよ」


 そう言った瞬間、エイミーさんが消えた。

 いや、消えたかと思うほどの速度で移動している。そして手当たり次第に結界に短剣で攻撃を加えていく。


「そりゃりゃりゃりゃりゃっ!!」


「きゃあ!?」


「ああっ!?」


「ひゃっ!」


 そこかしこで結界が壊れる音が聞こえる。どうやら結界が削られた部分を修正できず壊れてしまっているようだ。

 無理もない。そもそも今まで、結界を張る練習はしてきても、実際に攻撃を受けたことなどほとんどないのだから。


「おお、固いッスね。全く削れないッス」


 いつの間にか目の前にエイミーさんがいた。そして短剣で私の結界に攻撃したようだ。だが、ユーリさんの攻撃でも壊れなかった私の結界が、それより軽いエイミーさんの攻撃で壊れる訳はない。


「せややややややっ!!」


 どうやら試されているらしい。私の結界を両手に持った短剣で何度も斬りつけてくる。その全てを弾きながら、魔力を流して結界を維持、最初と全く変わらない強度を保ち続ける。


「ふぅ。全く削れないッス。スゴイッスね!」


「ありがとうございます」


 満足したのか他の子のところへ向かっていった。またそこかしこで結界を破壊する音と悲鳴が聞こえる。


(フフン、当然ですわ! 私の結界は世界最高、決して破られたりしないのですわ!)







 さらに翌日、


「では本日は強力な結界を張る練習をしましょう」


 本日はユーリさんが来ている。強力な結界を張るということは、試験のときのようなことをするのだろうか。


「強力な結界とは、つまり破られない結界です。これは一枚の強固な結界を張っても良いのですが……」


 そう言って先生は結界を張る。それは何重にも張られた多重結界。


「このように多くの結界を重ねることで、何枚か破られたとしても攻撃は通さない、ということもできます。ではやってみましょう」


(多重結界ですか。何度かやったことがありますわね。確か20層くらいまで重ねられたかしら)


 思い出しながら多重結界を張る。多少多めに魔力は持っていかれるけれど、昔より成長したのか25層重ねることができた。


「ユーリさん、お願いします」


「わかりました」


 ユーリさんが前に出てくる。そして1人の生徒の前で剣を振り上げた。


「ふっ!」


 その子の結界は3層だったみたいだけれど、全て一振りで壊されてしまった。


「ああ……」


「多重にすることに意識を割きすぎて一枚が弱くなってしまっていますね。練習を重ねましょう」


「はい」


 多重結界の練習をしたのは授業ではなかったっけ。何となく遊びで作ったような気がする。

 皆さんは今日始めてやることなのか、一枚一枚が弱くなってしまうらしい。

 ユーリさんが次々と結界を破壊して回る。

 そして最後に私の前に来た。


「さて、君の結界はそう簡単には壊せない。試しに本気でやってみても良いでしょうか?」


「え? ええ、構いませんわ」


 まるで今まで本気ではなかったかのような……。


「危ないので皆さんは下がっていてください」


 そう周囲に声をかけている。え、え? そんなに危険なんですの?

 いや、私の結界は壊れません! 大丈夫ですわ!


 目の前でユーリさんが剣を上段に構える。

 そのまま力を溜めること15秒。15秒!?




「堅牢壊花・大輪牡丹!!!」




 瞬間、世界が揺れた。否、そう思えるほどの衝撃を受けた。

 衝撃は振り下ろしたその場に留まらず、周囲まで伝播、念のため先生が張っていた結界が衝撃を弾いている。

 私の結界は25層中25層全てが破壊されてしまった。完全な敗北……。


「え……。そんな……」


 私の結界が壊されるなんて……。


「恐らく君の最高の結界ではなかったですよね。そんなに暗い顔をしなくても大丈夫ですよ。ただ、君の結界は頑丈ですが、破壊される可能性もあるのだということを知って……」


「……すわ」


「え?」





「もう一回ですわ!!!」





「……あー、うん。もう一回は構わないんだけど……。申し訳ない、さっきの技は一度使うとしばらくは使えないんです。また後日ということで……」


「しばらくとはどれくらいですの!?」


「んー、大体2時間といったところですかね」


「では放課後、この練習場に来てくださいまし!! 今度はもっと強い結界を張りますわ!!」


「ええ……。わかりました、放課後に」


「約束ですわよ!!」


 絶対に彼の全力を弾き返して見せますわ!








 放課後、彼は約束通り練習場に来てくれた。

 私以外は基本的に授業で疲れてしまうので、放課後の練習場には誰もいない。

 私と彼と、もう1人、


「兄さん、生徒に手を出しちゃダメッスよ。ここの生徒は聖女を目指してるんスから。手を出したら将来の道が閉ざされちゃうッス」


「いや、そんなつもりじゃないんだが……」


 エイミーさんもついてきたようだ。というかこの2人は兄妹だったのか。そんなことも知らなかった。

 エイミーさんが言っていることは、間違いじゃない。別に男性と付き合ったからと言って魔法が使えなくなったりはしないけれど、まだ若い少女が恋人のために国を動かすことがないように、聖女は男性との交際を禁止されている。

 後は、流水剣との相性が少し悪くなるらしい。17~23歳の女性と相性が良いあたり、流水剣の趣味なのかもしれない。


「さぁユーリさん! いきますわよ!!」


「いつでもどうぞ」


「絶界・重!!」


 外と内を断絶する最高の結界を更に多重にした最高傑作。絶界を20層もの多重に展開できるのは私しかいませんわ!


「さぁいらっしゃいまし!!」


 ユーリさんが剣を振り上げ、力を溜める。15秒、そして振り下ろす。


「堅牢壊花・大輪牡丹!!!」


 相変わらず世界が揺れたと錯覚するデタラメな衝撃。そして、


「ああああぁぁぁ……」


 20層全てが破壊された。そんな……これでもダメだなんて……。


「昼に他の子にも言ったけど、多重にすることに気を割きすぎですね。一枚が脆くなっていますよ」


 ダメだしまでされた。……新鮮な気分ですわ。今まで何か失敗があってもこんな風に指摘してくれる人はいなかった。誰もがたまたまだの調子が悪かっただのと慰めてきた。

 そんなの……





「やっかましいですわああぁぁぁ!!!」





「うおっ!?」


「結界が脆いですって!? 誰に向かって言っているんですの!? 私はクラリス、世界最高の結界魔法使いでしてよ!!」


「いや、君が一枚で張ったときと比較して……」


「言い訳は結構ですわ!! また明日! 付き合っていただきますわよ!!」


 彼は少しの間呆然としていたかと思うと、


「思ったよりおてんばなんだな」


 そんなことを言って笑った。


「笑いましたわね!? この私を笑いましたわね!!?」


「いや、バカにしたわけじゃないって」


「もう許しませんわ! 絶対にあなたの攻撃を完璧に防いで見せます! 明日! 明日も絶対来なさいですわ!!」


 そう言い残して寮に帰った。明日こそ弾き返してしりもちつかせてやりますわ!







 翌日、7回生の授業にはユーリさんは来なかったので、放課後に練習場に行く。


「お、来たか」


「あったりまえですわ! さあご覧なさい! 私があなたのために新たに完成させた最強の結界ですわ!!」


 そう宣言して準備を始める。今日の授業中もずっと考えてやっと完成した結界。




「五点を結びて遍く封じよ。一に土、二に火、三に風、四に水、天より与えよ浄化の光」




 地面に4点、4属性の基点を作成、それらから上に魔力線を引き、それらが交わる宙に光の基点を作る。

 全てを結んで結界とし、囲んだものを完全に封じる封印結界。

 魔王の封印を参考に作成した完全無欠の新魔法。




魔封壁(まふうへき)御式塔(ごしきのとう)!!」




「これは……!」


「え、1日でこの結界を新しく作ったッスか……!?」


 2人の驚いた顔が心地良い。必死に考え完成させた甲斐がある。


「さっきの詠唱は?」


「まだ完成したばかりの新魔法ですから、イメージの安定のために詠唱しただけですわ。しばらく使っていれば必要なくなります」


「なるほどな」


 魔法を使うにはイメージが大切になる。同じような魔法でも、人によって発動時の発声が全く異なるのはそのため。

 まだ慣れていない魔法を安定して扱うには、1つ1つの工程を詠唱してイメージを補強するのが効果的だというのは、魔法使いには常識である。

 逆に「炎よ」と詠唱しながら水魔法を使うことも不可能ではないし、極論「あ」や「1」などといった詠唱で発動することも可能になる。


「さあいらっしゃいまし! 今度こそあなたの攻撃を弾き返して差し上げますわ!!」


「ふふ、スゴイな……。ああ、やってみよう。結果はわかりきっているが、やらずに終わったりはしないさ」


 ユーリさんが結界の前で剣を構える。力を溜めて、振り下ろす。



「堅牢壊花・大輪牡丹!!!」



 相変わらずの衝撃、練習場に響き渡るその威力を以てして、




 私の結界には傷一つつかなかった。

 



「やりましたわーー!! ご覧なさいな! ほら、全く傷もついていませんわ! 私の勝利ですわーー!!」


「ああ、クラリス。君の勝ちだ。おめでとう。良く頑張ったな」


「え? ええ、そうでしょうとも。私頑張りましたわ……」



(良く頑張ったな、ですか…)



 そう言われてやっと理解した。なぜ毎日褒められるだけの生活がストレスになっていたのか。


「あなたは、私を正当に評価してくださいますのね」


「ん? ああ、そりゃあな。これだけのものを見せられて褒めないのはどうかしてると思うが」


「いえ、そうではなく。昨日私の結界が脆くなっていると指摘してくださったでしょう? あんなこと、今まで言われたことなかったんですの」


「ああ……。悪かったよ」


「悪くなんてありませんわ。確かに多重にすることに集中して一枚が脆くなっていました。正しい指摘でしたわ。でも今までは誰も、その正しい指摘すらしてくれなかった」


 そう、どんな失敗も、どんな欠点も、全てを褒められた。何でも私は素晴らしい。たとえできなくても流石ですわ。そう言われ続けた。


「私は確かに才能があるのでしょう。それはわかっているつもりですわ。きっと聖女になるのでしょう。それも理解しています。ですが……」


 そう、いくら優れた才能があろうとも、




「私だって努力していますのよ?」




 才能にあぐらをかいているつもりはない。いつだってより強く、より賢く、より優れた聖女を目指して努力を重ねてきた。

 他の生徒とは別の授業、練習をしているため、わかりにくいかもしれないけれど、常に手を抜かず上を目指し続けている。

 それなのに……




「特に頑張っていないことも、できていないことも、頑張ったことも、やっとできたことも、全てまとめて素晴らしいですわ、なんて……。私は何のために頑張っているんですの?」




 努力を無意味なものにされているから。だからいつも褒められているのにイライラしていた。それがやっとわかった。

 頑張っても頑張らなくても褒められるのなら、頑張る必要なんて……




「何のために頑張っているのか。それは君自身がわかっていることなんじゃないのか?」




「え……?」


「なぜ頑張る? 褒められるためか? 良い聖女になりたいからか?」


「なぜ……頑張るのか……?」


「別に頑張らなくてはいけないと定められている訳じゃないはずだ。君は誰よりも優れた成績を残している。多少手を抜いたところで誰も追いつけない。だというのに、なぜ頑張る?」


 なぜだっただろうか。努力を怠らず結界も勉学も護身術も磨き上げてきたのはなぜだっただろうか……。




(やったわね、クラリス! あなたは自慢の娘よ!)




(あ……)


 思い出したのは学院に入るよりずっと前。物心ついて間もない頃のこと。

 初めて結界を作った。大人が指で軽く突けばすぐに壊れてしまう程度の出来の悪い結界。

 それを見た母がくれた言葉。あなたは自慢の娘。

 嬉しかった。もっと褒めて欲しかった。もっと喜んで欲しかった。


 そうだ……。私はただ……


「両親が誇れる娘になりたかった……。それだけですわ」


「良い理由だ。目的ははっきりしてるじゃないか。だったら何を悩む必要がある?」


「いえ……。いえ……! そうですわ! 私は世界最高の結界魔法使いにして至高の聖女! になる者! 悩んでいる暇などありませんわ!」


「ああ、それで良いさ。明日も頑張ろう」


「はい!」


 寮に帰る。今日はとても良い気分で眠りにつけそうですわ!

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