第55話 結界強度試験
翌日、他の生徒が授業を受けている中、門まで傍仕えの方の出迎えに出る。
やって来たのは20歳ほどのやや薄い青髪の女性、アーニャ様だ。
優しい雰囲気をまとったきれいな女性だ。神殿職員の制服である巫女服を着ている。
そして昨日見た黒髪の青年と焦げ茶髪の少女。
(この方たちも一緒に来たんですのね。何か学院に関係する用事なのかしら)
「本日は当学院までお越しいただき、ありがとうございます」
「クラリスさん、お出迎えありがとう。最近ますます成績が上がっていると聞いています。素晴らしいですね」
「恐縮ですわ」
「本日は神殿での業務についての授業を行う予定だったのだけど、少々事情が変わりまして。学院長には話を通してありますので、練習場までお願いできますか?」
「はぁ、かしこまりました」
ちらっと同行している二人に目を向けてみるが、特に何も話してはくれないようだ。
「このお2人については皆さん集まってからお話します。全生徒を集めていただけるように話していますので」
「全生徒ですか? それは練習場に?」
「ええ、既に移動していると思いますよ」
全生徒集めて紹介なんて一体どんな大者なのか。ますます気になるけれど、今は練習場までご案内しなきゃ。
「ではご案内いたしますわ。こちらです」
練習場についた。ここは魔法や護身術、護衛術の訓練を行う広い部屋だ。魔力が強い生徒が魔法を放っても傷一つつかない強度がある。怪我をしないように、床には柔らかいマットが敷かれている。
そこには既に全生徒が集まっているようだ。一体何が始まるのか。
「クラリスさん、ありがとう。学年のところに戻って大丈夫ですよ」
「わかりました」
7回生が並んでいるところに入る。それを見て、アーニャ様が全生徒の前で話し始めた。
「皆さん、急に集まってもらって申し訳ありません。本日は急遽、皆さんの結界強度の試験をすることになりました」
結界強度の試験? そんなこと普段からやっているはずですが……。
「こちらの男性はユーリさん。大地国ガイアから来てくださりました。皆さんには、ユーリさんの剣を何度か結界で受けていただき、強度を試験します」
剣を受ける? そんなの全て弾き返して終わりなのでは? 何がわかるんだろうか。
「ユーリさん、お願いします」
「わかりました。アーニャさんは記録をお願いします。わたしが、片手、両手、3秒溜め、10秒溜めでそれぞれ斬りますので、どこまで耐えられたかを記録してください」
「はい、準備はできています。では、1回生から順番に、強度を重視して結界を張ってください」
そう言われて1回生の子が1人前に出る。
「やります! 封!」
基本的な封印結界だ。1回生にしてはそこそこの強度があるように見える。
「では。ふっ」
ユーリさんが右手に持った剣で斬りつける。それは結界に弾かれた。
「うん、良い強度ですね。では。ふっ!」
「え、きゃあ!?」
両手で持った剣を振りぬくと、パリンッと簡単に結界が破れてしまった。
1回生の子は驚いてしりもちをついてしまっている。無理もない。結界があんなに簡単に壊れるなんて予想できない。
「え……。嘘でしょう……?」
「そんなにできの悪い結界には見えませんでしたが……」
ざわざわと動揺が広がる。あの強度の結界を剣の一振りで破壊するとは、相当な使い手だ。
だが、やはり意味はわからない。彼の両手の振り下ろしに耐えられなかったら何かあるのだろうか。
「片手までですね。では、次の方、前へお願いします」
それからどんどん進んでいく。2、3回生も誰も両手の振り下ろしに耐えられなかった。
そして4回生。
「ふっ! お、耐えましたね。では……」
ついに両手の振り下ろしに耐える子が現れた。
それを見た彼は、剣を上段に構え、力を溜める。
そして3秒後、
「はぁっ!!」
「ひゃあっ!?」
力を溜めた振り下ろしで結界は壊れてしまった。確かこれを耐えると10秒溜めるのだったか。自分で言うのもなんだが、私以外に耐えられる子がいるのだろうか。
試験は続く。4回生、5回生は稀に両手に耐えられる子がいても、3秒溜めは誰も耐えられない。
6回生は1人3秒に耐える子がいたが、
「はあぁっ!!」
10秒には全く耐えられない。抵抗すら許さず破壊されてしまう。
7回生も1人3秒に耐えたがやはり10秒は無理だった。
そして私の番、
「よろしくお願いいたしますわ」
そういって結界を張る。
「絶界!」
外と内を完全に遮断する結界。物理的、魔法的問わず全てを弾き返すものだ。さっと張れる結界としては上々の出来だろう。
「ふっ。お、これは……。10秒行きます」
「え? いきなりですか?」
アーニャ様が困惑の声を上げる。この方、今の一撃で結界の強度がわかっているようだ。
「ええ、恐らく問題なく耐えるでしょう」
そう言って上段に構え力を溜める。そして、
「開花・大輪牡丹!!!」
10秒後、振り下ろす。目で追うこともできない高速の振り下ろし。結界に当たった衝撃がその威力を物語っている。こんな剣が直撃すれば、私など簡単に真っ二つになってしまうだろう。
だが、
「10秒溜めにも耐えましたね。ヒビも全くなし。素晴らしい強度です」
「ありがとうございます」
彼からの褒め言葉を受け取り、列に戻る。
こういう事実に基づいた賞賛は素直に嬉しい。
「流石ですわ、クラリスさん」
「やはり別格ですわね」
そんな声がそこかしこから聞こえる。フフン、気分が良いですわ。普段から事実だけ褒めてくださればこんなにストレスを溜めずにすむのに。
8回生、9回生、10回生は流石、3秒に耐える方がそれなりにいる。数人10秒にも耐えたがヒビだらけの状態で、軽く指で突くだけで壊れてしまった。
5時間ほどかけて、全生徒の試験が完了した。流石に皆さんずっと集中して見ていたということはなく、近くの人とおしゃべりしたりしていた。
わざわざ全員集めておく必要があるのだろうか。全員に結果を見せる必要がある、ということなのか。
「全生徒が終了しましたね。ユーリさん、どうでしょうか?」
「わたしが戦った相手は魔王軍四天王の部下を名乗っていました。つまり魔王の部下の更に部下です。わたしは四天王とは戦ったことすらありませんので、あくまで予想になります」
「? もったいぶった言い方をなさいますね」
「まずわたしの片手での振り下ろし、あれが大体腕を無造作に振った程度の威力です」
「……え?」
「魔王の部下の部下が無造作に腕を振るうだけであの程度の威力になります。次に両手、あれが腕を全力で振りぬいた程度の威力です」
よくわからない。結界をいとも容易く破壊する振りぬきが腕を振った程度? どんな化け物の話をしているんだろう。
「そして3秒ですが、あれは敵が使ってきた炎の玉くらいの威力になります。これは例の敵が追い詰められたら使ってきたものなので、そこそこの切り札だと考えています。ですがわたしの予想では、四天王はこれくらいの威力、息をするように繰り出してくると思っています」
あのほとんどの生徒が耐えられなかった振り下ろし程の威力の攻撃を息をするように……?
「最後、10秒ですが、四天王が多少力を込めて攻撃してきたらあれくらいなのではないか、と予想しています」
「それは……。すいません、ユーリさん。私はこの試験のみあなたに協力していただき、襲撃の備えとするつもりでした。ですが……そうですね。もしあなたに余裕があるようでしたら、しばらくこの都市に滞在していただき、訓練に協力していただけないかと」
「はい、構いませんよ。それで少しでも助かる人が増えるなら、わたしにとっても望ましいことです」
「ありがとうございます。では少々お待ちいただけますか? 生徒たちに説明しなければなりませんので」
そう言われた彼が、少女が待つ壁際まで下がっていく。アーニャ様が私たちの方に向き直り話し始めた。
「皆さん、急なことで申し訳ありませんが、これからしばらく、魔法の授業を増やすことになります」
魔法の授業を増やす? 襲撃なんて物騒な単語も出てきていたし、もしかして何か緊急事態なんだろうか。
「大地国ガイアでの出来事を皆さんにお話します。そしてそれは、このレイルウォーテでも起こりうることだと理解してください」
「以上が大地国ガイアで起こった襲撃及びそれに付随する事件の詳細になります。つまり流水剣アクリアッドを狙い、魔王軍が襲ってくる可能性があるということです」
「魔王軍……」
伝えられたのは衝撃的事件。大地国ガイアの王都に大量のモンスターが攻め込み、その隙を突いて大地剣ガイグランデが奪われた。
それらを引き起こしたのが魔王軍。黒幕は魔王軍四天王レッジを名乗る者。
今回試験を行ったユーリさんは、ガイアの王族を守った国家的英雄のようだ。
(というか彼がいなかったらガイアが滅んでいた可能性すらある大英雄ですわ。あの強さにも納得できますわね……)
「先ほどのお話は覚えていますか? 敵の攻撃の威力のお話です。現状、完全に対抗しうるのはクラリスさんただ1人ということになります。神殿職員にも同様の試験を行ったとして、3秒には全員耐えられるかもしれませんが、10秒は破壊される人が大多数。辛うじて耐えても、ヒビだらけという状態になると思います」
「神殿の方々でも駄目なんですの……?」
「そんな……」
「ですので襲撃に備え、これから訓練をしましょうということです。皆さんは流水国アクアを代表する魔法使い。頑張って訓練すればきっと更に強くなれると信じています」
大丈夫なんだろうか。私はともかく、他の子たちの中には既に絶望してしまっている子もいるようだけれど。
これからの訓練次第かな。流石に全く対抗できない子を襲撃時に前に出したりはしないでしょう。




