第53話 去り行く者に安寧を
「…」が2つで1つだということを今更知りました。これから少しずつ修正していきます。
エイミーに案内され、研究資料がまとめられている部屋に入る。
片っ端からファイルをフィーに収納し、部屋を出る。急いで脱出しないと。
「結構走り回ったッスけど階段は見つからなかったッス。多分隠し階段になってると思うッスけど……」
「そんなものを探してる余裕はない。俺が下りてきた穴から出るぞ」
アンで斬り裂いた穴のところへ戻る。
「あたしが先に上るッス!」
エイミーが壁を駆け上がり、天井の穴から1階へ上る。
そしてロープを下ろしてくれる。
「すまん、エイミー。流石にロープを上るのはキツイ。引き上げられるか?」
「任せてッス!」
ロープに掴まり引き上げてもらう。右腕一本しか使えない上に、右肩にも結構深い傷があるからな。引き上げられないようならこの場で治すしかなかった。
「ふぬぬぬぬ……! ……ぷはぁっ!」
「ありがとう。急いで脱出しよう」
城の正面扉から外へ出る。この都市全体から光があふれている。今にも崩れそうだ。
都市を駆け抜ける。旧都の外まで脱出して振り返ると、そこには、
ただ風化しきった街並みがあるのみだった。
「モンスターも、人々の亡骸も、なくなったのか……」
「仕方ないッスよ。これで開放されたはずッス。やれることはやったッスよ……」
できればきちんと供養したかった。だが、そうだな。開放されただけでも良しとしよう。
都市に向かって黙祷。開放された人たちの安寧を祈る。
研究者たちも、やり方は間違ったのかもしれないが、この世界を救うために全力を尽くしていたことは間違いない。
何もわからないままに湧き出る悪性魔力に触れてしまった人たちも、その嘆きから解放された。
捕らわれていたルーアも、最期は笑って消えていった。
ルーア、この街の住民たち、研究者たちも、どうか安らかに眠ってくれ。
「ルーア……」
エイミーのつぶやく声にはあえて反応せず、目を開ける。
「じゃあどこか落ち着けるところで休みながら、ファイルの確認をするか」
「はいッス」
俺たちは旧都を後にした。
「なるほど。つまり彼女は元々はレッジたちと同じような存在だった訳か」
「そうッスね。あの装置で暴走してただけだと思うッス」
ファイルを読みながらエイミーの話を聞く。
「なぜルーアはあんなにも膨大な悪性魔力を放出できたのか、なぜエイミーが連れ去られたのか、なぜ城にはお化け以外のモンスターがいなかったのか。わからないことは多いな」
「あたしが連れて行かれたことについてはわかる気がするッス」
「お? 何だ、教えてくれ」
「ルーアとあたしって結構似てる気がするんスよね」
言われてルーアの姿を思い出してみる。髪色、耳の形、八重歯はもちろん違うが、他は確かに背格好含めて似ている気がする。
「それってお化けがエイミーをルーアと間違えたってことか?」
「いえ、ルーアは別に逃げ出してはいなかったんでそういうことじゃないと思うッス。ルーアを利用した実験は失敗した訳ッスから、代わりを探していたんじゃないかなって」
「ああ……。お化けになって冷静な判断ができなくなったから、似ているというだけで連れ去ったと。なるほどな」
あり得る気がする。もしくは、
「エイミーがルーアに近づくのは妨害しなかったということは、ルーアとの対話を期待していた可能性もあるな」
「歳が近そうな女の子を連れて行ったってことッスか? あたしは子供じゃないんスけどねぇ」
「それを言ったらルーアだって何歳なのかはわからんがな」
話しながらファイルを読み進めていると、気になる項目を見つけた。
「悪性魔力の性質、悪感情に触れると増大する傾向がある、か」
「ルーアがスゴイ量の悪性魔力を放出していた理由ッスかね?」
「ルーア自身の人間への憎悪、都市の人々の嘆き、その全てを例の装置が強化した読み取る性質で取り込んだ悪性魔力が異常に増大、その結果があれだと。なくはないか」
とすると後はモンスターがいなかったことについてだが、それについて考えていると、迷宮都市の迷宮を思い出した。
「そういえば迷宮都市で迷宮の深くまで潜ったときのことなんだが」
「あたしに黙って怪我してるのに勝手に潜ったときのことッスね」
「う……。悪かったって……」
「で、なんスか?」
「あの迷宮、17階には全くモンスターがいなかったんだよな。だから悪性魔力が湧き出る場所から一定の距離で一度モンスターが湧かなくなって、その外にはモンスターが湧くんじゃないかなって」
「え、じゃああの城の地下って迷宮の18階並の濃度の悪性魔力があったってことッスか? あたしよく耐えられたッスね……」
「いや、そうとは限らない。あくまで悪性魔力が湧き出る場所からの距離であって濃度は関係ないかもしれないからな。そもそも18階並だとしたらドラゴンが湧きかねないんだぞ? お化けしかいなかったし、そこまでじゃないはずだ」
「なるほど……」
この件の考察はこれくらいで良いだろう。このファイルにしても、たまに新たな発見があるが、基本的には一般に知られている内容が多い。この時代では新たな発見だったんだろうな。
流石に怪我が多い。少し休んでから首都を目指そう。
「兄さんの方はどうだったんスか?」
アンを体内から取り出す。
『お呼びでございますか? 主様』
「新しく手に入れた剣だ。居合刀・暗夜月光。俺はアンって呼んでるが」
ゆっくり鞘から抜く。勢いをつけると勝手に居合斬りしかねない。恐ろしくて仕方がないな……。
「おおー、スゴイ細身で薄いッスね。すごく良く斬れそうッス」
「実際良く斬れる。俺たちが脱出した穴はこいつで斬ったものだしな」
「え……。あの穴って部屋全体を真っ二つにする勢いだった気がするんスけど……」
「その代わりに、腕がこうなる」
折れた腕を指す。今は固定しているが、これが折れたときはなかなか辛かった……。
「その腕って剣を振ったら折れたんスか!? 無茶苦茶ッスね……」
「全く鍛えてない奴が振ると腕が千切れ飛ぶらしい。お前はこいつに触れるなよ」
「うわぁ……」
『ホントに無茶苦茶ですよ! もう二度とその妖刀を振らないでくださいね!!』
「つってもなぁ。一番強いのは間違いないんだよな」
『その通りでございます。私が最も主様のお力になれる、そう確信しております』
『毎回腕を折りながら戦う気ですか!?』
「いや、流石に毎回使ったりはしないけど」
「兄さん……。使うんスか……?」
エイミーがめっちゃ泣きそうな目で見てくる。
「う……。わかった、できる限り使わない。できる限りだぞ?」
「仕方ないッスねぇ。それで良いッス」
アンを鞘に収め、体内に格納する。基本は今まで通り、フィーとリィンで良いだろう。俺だって腕を折りたい訳じゃないんだ。
『いつでもお呼びいただけるのを待っておりますよ。うふふふ……』
(お、おう……。必要になったら呼ぶよ……)
怖い怖い……。おっとりしているように聞こえるのに、どこか暗さを感じるこの声は、いつ聞いても冷や汗が出てくるな……。
『……一番役に立つのはわたし』
ぼそっとリィンが言う。アンの最も力になる発言に異を唱えたいようだ。
フィーが一番使い勝手が良いのは確かだ。ただ戦闘という面で見るなら、確かにリィンに一番助けられているかもな。
もちろんそんなことを言ったりはしないが。
さて、今日はもう休もう。3日くらい休んだら首都へ出発するかな。
これにて旧都での話は終わりです。今回は閑話を挟まずに次の話に進みます。




