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貫き通せ我が騎士道  作者: 神木ユウ
第2章 流水国アクア
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第51話 迫り来る亡霊

 落ちていく。1階の床にも穴が開き、更に落ちていく。地下1階の床には開かないようだ。衝撃を逃がし無傷で着地する。


「なんなんスか、一体……」


 光がほとんどない。暗闇に目を慣らさないと。




 イラッシャイ


       ヨクキタ


  コッチヘオイデ




「っっ!!」


 また聞こえてくる。気味の悪い声。そして、目の前に現れたのは、




 宙に浮かぶ、ぼんやりと光る白い人影




「え……?」



   コッチヘオイデ



 コッチヘオイデ


      コッチヘ



   オイデ





「きゃああああああぁぁぁぁぁ!!!!」


 駆け出した。どこに何があるのかも、どっちへ向かえば良いのかもわからないが、とにかく駆け出した。


「なんスか! なんスか!! なんなんスかあああぁぁぁぁ!!!」


 とにかくあの恐ろしいものから逃げたかった。全力で駆け、目についた部屋に飛び込む。


「はぁ……はぁ……。撒いたッスか……?」


 追ってきてはいないようだ。一息つく。


「何だったんスか、あれは……」


 見たことはなかったが、お化けというのはああいうのではないだろうか。思えばここは悪性魔力が噴き出し、モンスターに襲われ壊滅した曰くつきの都市だ。まさにお化けが出るのにうってつけ……。

 そんなことを考えていると、


「コッチヘオイデ」


「っっっっっ!!!」


 目の前に、いた。真っ白で顔は良くわからないが、ぼんやりと光る人影。


「ひゃあああぁぁぁぁぁ!!!」


 取り憑こうとしているかのように迫ってくるそのお化けから、全速力で逃げ出す。

 何をされそうになっているのか全く理解できないが、何となく危なそうな気がする。

 どこに向かえば良いのかわからないまま、再び走り出した。




「はぁ……はぁ……。うう、気持ち悪くなってきたッス……」


 走りすぎと悪性魔力の影響とが混ざり合ってとても気持ち悪い。再び入ったこの部屋でなんとか息を整えたい。


「ここは……何かの研究室ッスかね……?」


 実験器具と思われるものがテーブルに置かれ、何やら分厚いファイルがいっぱいある。

 ファイルを手にとって、パラパラと流し読みしてみる。


「! これは……」


 ここで行われていた実験。それは悪性魔力を抑える実験だった。






 世界中に魔王という名が轟いた日。その日から、各国は押し寄せるモンスターに対抗しながら、なんとかこの脅威を除くことができないかと研究を行っていた。

 モンスターを殲滅する兵器、人間を強化する薬、魔王を封印する術式。そして、


 悪性魔力そのものを封じ込める方法。


 研究は全く進まなかった。そもそも悪性魔力に触れることが大変なのだ。王家主導のこの研究は、しかしいくら金を積まれても遅々として進まない。


 そんなある日、魔王が放出する超高濃度の悪性魔力から生まれた、体内に悪性魔力が流れる生命体を捕獲することに成功した。

 採取することすら大変だった悪性魔力がいくらでも手に入る最高の実験体だ。この実験体から採取可能なあらゆる物質を解析する。


 魔力だけでなく、髪、皮膚、爪、歯、血、あらゆるものを採取した。悲鳴を上げて抵抗しようとしていたが、王家主導のこの研究には騎士たちも協力してくれる。逃げ出される心配はない。

 今まで全く成果がなかったのに、どんどん悪性魔力の性質が判明していく。これならきっと、近いうちに悪性魔力を封じることができるようになるはずだ。



 しばらくして、試作品ができた。悪性魔力の人の思念を読み取る性質を強化し、封じるという思念を以て自ら封印されるように仕向ける装置だ。

 きっと上手くいく。これで世界は救われるんだ。






「つまり……これが失敗した結果が現状ってことッスか……?」


 資料はここまでしかない。この試作品の実験がどうなったのかがわからない。

 しかし現状を見るに、失敗したのだろう。人の思念を読み取りすぎて異常動作を起こしたとしか思えない。


「じゃああのお化けはここの研究者ッスかね……?」


 研究を続けようと化けて出ているのだろうか。そうだとして、あたしを狙うのはなぜだろう。


「コッチヘオイデ」


「っ!」


 しまった、資料を見るのに夢中になりすぎた。いつの間にか部屋に入ってきていたようだ。

 再び逃げようと走り出す。しかし、


「フフフフ、イラッシャイ」


「っっ!!?」


 目の前から別のお化け。考えてみれば、こんな大きい研究を1人でやっていた訳もない。何体かいてしかるべきだった。

 挟まれた。出口は二箇所の扉だけ。その両方を塞ぐように、お化けが迫ってくる。


「ううう、怖いッス……」


 涙が出てくるが、こんなところで諦められない。捕まったらきっと実験体として酷い目に会わされる。

 ここは、本気の本気で、逃げる!!



 体勢を低く、どこまでも低く。



 手も床につき、足でしっかり床を踏みしめる。



 力を抜く。極限まで。息を吐く。完全に。



 体は軽く、柔らかく。思い浮かべるのは最強の兄。




「徒花・鏡花水月!!」




 その場に幻を残し、お化けの横をすり抜け一瞬で扉まで移動。

 何とかその場を逃げることに成功した。





 あたし流、鏡花水月

 兄さんに教えてもらったやり方では絶対にできないと思った。あの人は信じられないほど体の各所の力が強い。

 足に力を込めて地面を蹴っても、あたしの力ではただの全力疾走。だから、逆に、


 極限まで力を抜き、体を軽くして速度を上げる。


 兄さんが言っていた欠点、自分でもどう動いているのかわからない。それはあたしには当てはまらない。

 兄さんがリィンで行っている周辺感知を、あたしは自力で行うことができる。

 だからあたしは、リィンがなくてもしっかり制御することが可能だ。





 また廊下を走る。さっきから相当走っているはずだが、一体この城はどれだけ広いのか。

 階段が見つからない。ここは秘密の研究フロアっぽいし、きっとどこかの部屋に隠し階段みたいなのがあるんだろう。

 あのお化けから逃げながら隠し階段を探さないといけない。それはかなり厳しいことに思える。



 また息を整えるために手近な部屋に入る。


「うっ……」


 一気に気持ち悪さが増した。この部屋は……


「これは……まさか……」



 目の前にあったのは、よくわからない装置。どんな仕組みかはわからないが、何の装置なのかはわかる。これはさっき読んだ、悪性魔力の思念を読み取る性質を強化する装置だ。



 そして、そこにいた。



 紫の髪、尖った耳、鋭い八重歯。



 鎖で全身をつながれた10歳くらいに見える少女。



 その体から膨大な悪性魔力を噴き出している。



 その少女は眠るかのように閉じていた目を開き、こちらを見た。そして、



「人間……。人間……! わたしの前から! この世から!! 消えてなくなれええぇぇぇぇ!!!」



 憎悪しか感じられない瞳で、そう叫んだ。



 そして、その体から、悪性魔力が指向性を持ってこちらへ来る……!








 城の最上階。そこにあった扉を開けると、屋上に出た。

 中庭を囲うように城壁があり、その上にいるようだ。


「ここから飛び降りれば1階まで行けるんじゃないか?」


『まあ、ここから? ここは5階でございますよ?』


『……行ける?』


『マスターなら行けます! 高いところから落ちるのはプロですからね!』


 不名誉な称号を与えられたが、確かに高いところから落ちるのは慣れている。

 修行時代、何回木から落ちたかわからんからな。5階は木よりはやや高いが、俺はかなり高い木からも無傷で跳び下りる術を学んでいる。多少足が痛いかもしれないが、恐らくここから跳んでも問題ないだろう。


「よっ」


 軽く跳び下りる。流石にこのまま落ちると痛そうなので、2階くらいで壁を蹴ってやや速度を落とすと共に、落ちる方向を変える。

 そのまま中庭の地面を転がり、無傷で下りることに成功した。いや、転がったときにかすり傷ができたか。無傷ではなかった。


「よし。問題なく下りれたな。エイミーの気配があるところへ……ん?」


 リィンを抜くと、エイミーの気配は感じる。だがそのすぐ近くに何か強大な気配がある。

 動いてはいないようだが……。


「何かはわからんが、ヤバそうな気配だ。急ごう」


 中庭から城内に戻り、エイミーの気配の上に向かう。流石に真上は危険なので、1つ隣の部屋に下りるか。


「さて、その力を見せてもらうぞ、アン」


『はい。もちろんでございます』


『むぅ……』


 リィンを鞘に収める。利き腕は残したい。左腰のアンを鞘ごと抜いて、右手に持つ。左手でそのグリップを軽く握った。



 そして、抜き放つ。



 ボギンッと嫌な音が響いた。



 それと同時、その一閃は何の抵抗もなく床を斬り裂く。



 それに留まらず、部屋全体を真っ二つに分断した。



 床には人が全く引っかからずに通ることができるほどの大きい斬り跡。



 その強大な力の代償が、


「ぐうううぅぅぅ……!」


 あらぬ方向にへし折れた、俺の左腕。


『マスター!!』


『……折れるだけで済んで良かった、と見るべき』


『ええ。ええ! 素晴らしいです、主様! 私を使えば最悪の場合腕ごと千切れ飛んでしまうというのに!』


 さっきまでのおっとりした声とは違う、何やら興奮したアンの声が聞こえる。

 最悪千切れ飛ぶとは、恐ろしい一閃を放ってしまったものだ。


『それは本当に全く鍛えていない者の場合ですので、主様がそのようなことにはならないと最初からわかってはおりましたが。その腕なら、治ればまた私を振ることができますね。素晴らしいです』


「そりゃ……どうも……」


 とはいえこの曲がり方はマズイな。このまま腕が治ったら元に戻らなくなりそうだ。ここは、無理矢理……!


「ぐっうううぅぅぅぅぅ!!!」


『マスター!? 何を!?』


 折れた腕を引っ張りまっすぐに戻す。これで骨が繋がればちゃんと治るはずだ。


「あらぬ方向に折れたまま骨が治るのはマズイと思ってな……」


『無茶しすぎですよ!!』


 アンを体内に格納する。そしてフィーを取り出して、左腰に吊るした。


『まあ……。こんな風になっているのですね……。ああ、とても気持ちが良い……』


 これで、エイミーを助けに向かうことができる。

 斬り裂いた穴から跳び下りて、地下1階に向かう。

 エイミーが技を習得するのが早いように感じるかもしれませんが、エイミーと兄妹になってから既に5ヶ月近く経っています。道中をかなり飛ばしているので、意外に感じるかもしれませんが、経過日数を合計すると150日に少し届かないくらい経っていますね。

 それが技習得に早いと見るか遅いと見るかは読者様の考えにお任せしますが、少なくともエイミーはユーリより才能があります。エイミーの回想で足が速いと言っていたのは、それを表現した描写ですね。

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