第47話 旅は続く
言われたとおりマスクを着ける。吹雪いてはいないのでゴーグルはいいだろう。
山頂へ向けて歩き始めた。
2日ほど歩き続けると、ゴツゴツした坂がかなり急になってきた。ほとんど這うようにして進んでいく。
こんな場所でモンスターが出てきたら面倒だ、という思考を読んだかのように、鋭く長いくちばしの大型の鳥が飛んできた。
「兄さんヤバイッスよ! こんな場所じゃ鳥を捉えるのは大変ッス!」
「とは言っても放置する訳にも……」
片手を地面から離してフィーを振るってみるが、そんな無理のある振り方では鳥を捉えることはできない。どうするか……。
「あたしがやってみるッス!」
エイミーはそう言うと、両手を離してかなり急な岩場を駆け出した。そのまま短剣を抜き、鳥に斬りかかる。
「やぁっ!」
飛びかかってきた鳥をカウンター気味に仕留め、短剣を鞘に収めたあと立ち止まる。
「おおっとと……」
バランスを崩しそうになって慌てて手を地面についた。流石、身軽だな。
「ナイスだ。さっさと登ろう」
「はいッス。何度もあんなことしてたら疲れちゃうッスよ」
見回してもモンスターは見当たらない。この辺りは空気が薄いはずだし、モンスターだってそんなにいないんだろう。連続で襲われる心配はないとみて良い。
とはいえあまり襲われたくないのも事実。さっさと登りきりたいところだ。
たまにある平らな地面で休憩しながら、登り続ける。
翌日、いよいよモンスターも全くいなくなった。坂は更に急になり、もはやただの崖と変わらない。
2人の体をロープで繋ぐ。ゴツゴツした岩場を掴み登っていく。
「エイミー、大丈夫か?」
「なんとか。でもこれかなり危ないッスよ……」
「頂上は大分近い。今日中には着くはずだ。あと少し頑張れ」
ひたすら前を見て登り続ける。後ろをついてくるエイミーが登りやすいように、なるべく掴みやすい岩場を探して登っていく。
しばらく経ち、いよいよ頂上が見えてきた、そのとき、
「あっ……!」
下からそんな声が聞こえてきた。その直後、ロープに一気に重さがかかる。
「ぐっ!」
「兄さん!!」
どうやら足を滑らせたらしい。まずい、あまり掴みやすい岩を掴んでいない。このままでは……!
「うおおああぁぁぁ!!」
手が滑る。2人まとめて落ちていく。フィーを抜く。
(すまん、フィー!)
『大丈夫です! やってください!』
崖にフィーを突き刺す。刺さったフィーをしっかり握り、落下を止める。
「大丈夫か、エイミー!」
「ごめんなさい! 大丈夫ッス!」
「気にしなくて良い。頂上はもう少しだ、気をつけていこう」
「はいッス!」
崖に掴まりなおし、再び登り始める。
その日の夕方頃、ついに頂上に手が届いた。山頂に立つ。登りきったんだ。
ロープを持って、エイミーを引き上げてやる。
「山頂だ!」
「ついに登りきったんスね……」
『おおー! スゴイです! 良い眺めですねー!』
『……キレイ』
剣たちに言われ、やっと周囲を見渡す。達成感をかみ締めていたせいで周りを見る余裕がなかった。
日が沈んでいく。
山脈が赤く染まり、一面の白がコントラストを生み出す。
どこまでも遠くが見える。あの地平線の向こうに今まで出会ってきた人たちがいるんだ。
「……きれいッスね」
「ああ……」
今まで通ってきた道のりを思い出す。
決して楽な旅ではなかった。死の危険を何度も経験した。
何度も痛い思いをした。炎に焼かれた時なんてもう死んでしまったんじゃないかと錯覚したほどだ。
この山を登るのも簡単じゃなかった。足を滑らせたら死が見える。その恐怖と戦いながら登ってきた。
だが、それでも、
旅をしてきて良かったと思える。
それは優しい人たちに出会えたからで、
それは大切な家族ができたからで、
それは自分の生き方を学んだからで、
それは、こうして、
美しい光景を見ることができたから。
まだまだ旅を続ける。
きっと更に痛い思いをすることも、困難にぶつかることもあるだろう。
諦めたくなることも、逃げ出したくなることもあるかもしれない。
それでもきっと立ち向かって、立ち上がって、戦うことができる。
今まで旅をしてきて手に入れた、大切なものがたくさんあるから。
だから、辛いときだって、いつだって、
それでも、俺の、俺たちの旅は、続いていく。
「魔王様、黒髪の青年ユーリの行き先がわかりました」
「そうか。どこだ?」
「どうやら流水国アクアへ向かったようです」
「そうか。ご苦労、下がって良い」
「はっ」
「次はアクアだ」
次なる戦いが待っている。
これにて第1章完結となります。明日から第2章を投稿していきます。




