第45話 スライム洞窟
翌朝、料理の良い匂いに起こされる。昨日より気温が高い感じがする。風が吹いている様子もないし、吹雪は止んだとみて良いだろう。
泊めてもらっているんだから、手伝いくらいはしないとな。
「おはようございます。手伝いますよ」
「おはようございますー。大丈夫ですよ、もう準備できます。エイミーさんを起こしてきてもらえますか?」
「おはよッスー。良い匂いッスね」
起こしに行く前に起きてきた。俺と同じく朝食の匂いに起こされたんだろう。
「朝食はパンとサラダとスープですよー」
「おおー、美味しそうッス! パンも焼いたんスか?」
「ええ。流石に材料は買ってきた物だけど、焼きたてですよ」
「代金は払わせてください」
「ふふ、そんなに気にしなくても大丈夫ですよ。この辺りで採れる石を売ればお金には困りませんから」
「石ッスか?」
「この辺りでは魔法を込めることができる石が採れるんです。それを麓の村まで持っていってお金にして、食材などを買ってくるんですよ」
姫様にもらったネックレスについている石を見る。この石もこの辺りで採れた物なんだろうか。
「あら、とても良い石のついたネックレスをしていますね。その質だと1年生活できそうなくらいの値がしたんじゃないですか?」
「え? これってそんなに高い物なんですか? もらい物なので値段は知らないんですよね」
「その質の石ですと、魔法が複数回込められるはずです。大体は1回分しか込められないので、複数回込められる石は一気に値が上がるんですよ」
そんな物をさらっと渡してきたのか……。姫様の回復魔法抜きでも相当なもらい物をしてしまったようだ。
「とは言っても、今は少し石が採りにくいのは事実なんですけどね……」
何やら憂鬱そうな表情でそんなことを言われた。ふむ、お世話になったんだしできることなら助けたいが……。
「何があったのか、聞いても?」
「あ……いえ、大丈夫ですよ。そんな迷惑はかけられませんから」
「迷惑かけたのはあたしたちッス! 大丈夫、きっと助けるッスよ! 兄さんが!」
「いや、お前も助けろ」
「あたしは助けないって意味じゃないッス!? 兄さんなら絶対助けてくれるって言いたかったッス!」
「ふふふ、じゃあお願いしても良いでしょうか?」
「もちろんです。できる限りを尽くしますよ」
「ありがとうございます。実は……」
ノールさんの話によると、この近くに洞窟があり、そこから石を採っているらしい。
この洞窟はかなり広くて、一番奥まで行こうと思ったら往復で1日かかるそうだ。
で問題というのが、この洞窟に住み着いたモンスター。スライムだ。
スライムというのは、ぶよぶよした液体に近い素材でできた球体のようなモンスターで、基本的に悪性魔力から直接生まれる魔法生物だ。
コアを破壊するか、苦手属性の魔法でないと仕留められない厄介なモンスターなんだが、問題はこいつが生まれた場所、つまりこの雪山に適応した属性になるため、氷属性であるということだ。
ノールさんは魔法使いで、氷属性魔法しか使えないらしい。物理攻撃はからっきしで、最弱の種ならともかく、少しでも成長しているスライムのコアを破壊するのは難しい。つまりこのスライムを討伐する方法がない。
「スライム以外のモンスターなら魔法でどうにかできるんですが……」
そう言って困った顔をしている。スライムか。戦ったことはないが、やる前から諦めるほどの相手ではないだろう。一度その洞窟とやらに向かってみよう。
「わかりました。洞窟に案内してもらえますか?」
「そんなに慌てなくても大丈夫ですよ。まずは朝食にしましょう」
「あ、そうでした。いただきます」
朝食をいただく。とても美味しい。比較的暖かいといっても結局は寒いからな。暖かい料理はさらに美味しく感じる。
食べ終わって、食器洗いを手伝ってから出発した。
「兄さん、また熊が来てるッス」
「熊ですか? ではわたしが。お2人はスライムに備えて休んでいてください」
そう言ってノールさんが前に出る。いつでも助けに入れる用意はするが、ノールさんの実力を見せてもらおう。
熊が駆けてくる。以前のように坂で勢いがつきすぎていたりはしない。
「ニードル!」
地面から氷の針がたくさん生えてきた。熊はそれを踏んで、痛みに立ち止まる。
「アイシクル!」
そして氷柱を頭に落として終わり。流石、鮮やかだ。
「おー、あっさりッスね」
「ずっとここで暮らしていますからね。行きましょう。洞窟はもうすぐです」
「ここです。入り口からでもスライムがいるのが見えますね。あの小さいのくらいならわたしでも倒せるんですが、奥には大きいスライムがいっぱいで。最近は洞窟の入り口付近でなんとか石を集めている状態なんです」
「試しにあたしがやってみるッス」
エイミーが短剣を抜いて手のひらサイズの小さいスライムに向かっていく。
「よっ」
さくっとコアを突き刺して終了。動きはそんなに速くないようだ。
「これくらいなら簡単ッスけど……」
「大きいスライムは剣を押し返す力も強くなります。あまり近くでゆっくりしていると飲み込まれてしまうので、スライムの体を貫く実力が必要になるんです」
「なるほど」
『マスターなら余裕ですよ!』
(どうかな。大きいってのがどれほどのサイズかわからないことには)
洞窟を奥に進む。小さいスライムが結構いるので、さくさく倒しながらだ。
進み始めて1時間くらい。やや大きいスライムが出てきた。肘より先くらいなら飲み込めそうなサイズだ。
「またあたしが試してみるッス」
エイミーが向かっていく。
「せいっ! おっとと……」
短剣を突き刺すが少し押し返されるようだ。それでもなんとかコアを破壊し倒すことに成功する。
「んー、ちょっと危ないかもしれないッス」
「このサイズはわたしでは倒せないですね……」
「ここからは俺がやろう」
このくらいのサイズならエイミーでも倒せるが、もたもたしている間に飲み込まれたりしたら最悪だ。そんなリスクを負う必要はないだろう。
「小さい奴はあたしがやるッス」
小さいスライムにやや大きいスライムが混じるのを全て倒しながら進む。
「ふっ!」
肩まで飲み込めそうなくらいのサイズのスライムを仕留める。少し抵抗があるが、問題なく貫くことができる。
やや大きいスライムが混じり始めてから3時間、更に大きいスライムが出てきた。どこまで大きくなるのか……。
「ノールさん。スライムってどれだけ大きいのがいるんですか?」
「すいません、わたしでは少し大きいのも倒せないので……。ここまで来たのもスライムが住み着いてからは初めてなんです」
「ああ、そりゃそうですよね。気にしないでください」
しかしまいった。もし物理的にコアまで届かないような奴が出てきたら流石にやれないぞ。
不安を抱きながらも更に進む。
更に進むこと5時間。ついに人間1人くらいなら飲み込めそうなサイズになってしまった。
道を塞ぐようにドンッと鎮座するその姿はなかなか迫力がある。
「……でかいッスね」
「大きいです……」
『ぷよぷよですねー』
『……大きい』
「コアは中心にあるから、剣は届くか。あとは押し返す力がどれほどのものか。一度やってみるぞ」
フィーを構え、全力で突きを放つ!
「はあぁっ!!」
かなりの抵抗。コアに届く前にスライムがこちらに覆いかぶさろうと動き出した。マズイか……!?
「らぁっ!」
ギリギリ間に合った。コアを破壊されたスライムは魔力を放出して消え去っていく。
「危なかったな……。次出てきたら、一瞬で仕留めにいく。進もう」
「大丈夫ですか? ここまででも充分です。危険なようならもう戻っても……」
「いえ、今のサイズなら問題ないです」
危険なことは理解したので、次は技を使う。今のと同じサイズなら問題なく仕留められるだろう。
2時間後。また道を塞ぐスライムだ。よし、やるぞ。
集中する。コアのみを視界に、他は排除。時間が遅くなっていく。
「生花・一輪刺し!!」
何の抵抗もないかのように、一瞬でコアを貫く。
「よし」
「え、一瞬で貫いたんですか!? すごい……」
「ふふーん、どうッスか? 兄さんの必殺技ッス!」
「何でお前が偉そうなんだ……」
「その技は実際にみるのは初めてッスね。話には聞いてたッスけど」
「スライム相手なら視界が狭まるデメリットもないようなものだし、まだ行けるな」
「そろそろ最奥ですから、もう大丈夫だと思います。ありがとうございます」
「一応奥まで行くッス。もしかしたらもっと大きいのがいるかもしれないッスよ?」
「そんな奴いたら剣が届かないな。流石にいないと思うが」
「ま、そうッスね。流石に冗談ッス!」
そんなことを言い合って笑って歩き出した。
「いないって言ったじゃないッスか……」
「どうすんだこれ……」
「部屋いっぱいに詰まってますね……」
『ぽよんぽよんですね』
『……とっても大きい』
洞窟の最奥は部屋になっていた。直径5メートルくらいのドーム状の部屋だ。
その部屋を埋め尽くすように、巨大なスライムが詰まっていた。これ……どうやって倒せば良いんだ……?




