第44話 雪山登山
翌日、天気は快晴だ。この地域は年中雪が降っているらしいが、運が良いな。雪山挑戦を応援してくれているようだ。
とは言っても、雪山の麓までここから1日くらい歩くんだが。
「暖かいッスけど、雪が少し融けたせいで歩きにくいッス」
全然応援されてなかった……。
「この辺りはウサギがいるみたいだな。あれも一応モンスターだが、そうそう襲ってくることはないし、見た目可愛らしいし、動物みたいなもんだな」
「でもモンスターは悪性魔力の影響を受けてるッスからねぇ。見た目可愛くても何となく嫌な感じがするんスよね」
「それは仕方ないな。別にペットにする訳でもあるまいし、問題はないだろ」
「嫌な感じがしないならペットにしたいッス!」
「普通のウサギを探せよ……」
旅が終わって定住するようになったら、ペットとか考えてみても良いかもな。いつになるかは知らないが。
1日歩いて翌日、山の麓まで来た。現在、ゴーグルとマスク以外の装備を一通り身につけている。ゴーグルは視界を狭めるので、吹雪が来たら使おう。マスクはどれくらいまで登ったら着けるのが良いだろうか。
目の前に坂道が続いている。木がまばらに生えている一面雪の坂道だ。
「意外と緩やかな坂道だな」
「これならそんなに苦労しなくて済みそうッスね」
雪山に足を踏み入れた。
なだらかな坂を進んでいくと、ウサギや鹿、リスなんかがいるのが見える。どれもモンスターだが、積極的に襲ってこないタイプのようだ。モンスターの領域とは思えない長閑な光景だな。
そんなに寒くもないし、雪景色を楽しみながら山登りをするとしよう。
登山開始から3日、少しずつ木が減ってきて岩肌が見えるようになってきた。
モンスターもキツネや狼が襲ってくるようになり、いよいよ本番といった様相だ。
とはいえ接近される前に気づいている上、そんなに強くもないので苦戦はしない。
白い狼、白いキツネがキレイだ。キツネは氷の礫を飛ばしてくるので気をつけないといけないが。
「あ、兄さんそこ」
「ん? ああこれ川か」
雪の下に川が流れているようだ。このまま足を踏み出したら落ちていただろう。危ないな。
雪と水はリィンで強化された感覚でも差がわかりにくい。しっかり流れを感知するようにしないとな。
そのとき、
「うおっ!?」
川から魚が飛び出してきた。噛み付かれそうなところを下がって回避する。
「魚がいることはわかっていたが、まさか飛び出してくるとは……」
雪の上でピチピチ跳ねている。跳ねる勢いで川に戻っていった。
「活きが良い魚だな」
「いや、活きが良いってレベルじゃないッス……。何気ない物が襲ってくるかもと思うと気が抜けないッス……」
今のも魚がいること自体はわかっていたのに警戒できなかったからな。気を引き締めて進もう。
登山開始から7日、相変わらずややゴツゴツした地面に積もった雪。わずかな木。少し坂が急になってきただろうか。
今日はだいぶ多く雪が降っている。吹雪いてきたら危ないし、ゴーグルの準備をしておこう。
結構寒さも感じるようになってきた。
「寒さは大丈夫か?」
「問題ないッス」
『……来てるよ』
「ああ」
「兄さん、熊ッス!」
雪で足場も視界も悪い。感知はできているが、まだ見えていない。
熊がどんどん近づいてくる。フィーを抜き、構える。
見えた。すごい勢いで坂を駆け下りてくる。その勢いのまま腕を振りかぶり、
「ふっ!」
振り下ろす前に息絶えた。勢いに乗りすぎだ。回避が選択できないような動きはするべきじゃない。
「熊か。今回は勢いに任せて突っ込んできたから楽だったが、何体も来ると多少苦戦するかもな」
「何体も来たら逃げるッス。普通は1体でも逃げるッスよ?」
「多分これくらいやれないとこの山は越えられないぞ」
「そうッスね。この先もっと強いのが出てくるかもッスし」
引き続き出てくる狼やキツネ、たまに熊を狩りながら先を目指す。
かなり吹雪いてきた。ゴーグルをかけ目を守る。
とはいえ、
「目を開けていてもあまり見えんな……。進むのはキツイ。どこか休めるところはないか?」
「んー、わかんないッスね……」
『真っ白ですね。これはこれでキレイです!』
(のんきだな……)
周辺で吹雪をしのげる場所を探す。これだけ風が吹き付けると流石に寒い。どうにか良い場所を見つけないと……。
「兄さん! 熊ッス! 5体来るッスよ!」
「ああわかってる。こんな吹雪の中相手してられん! 逃げながら吹雪から逃れられる場所を探すぞ!」
雪に足を取られ走りにくい中、熊が来ない方向へ駆け出す。幸いあちらは俺らに気づいていないようだ。離れれば襲われることはないだろう。
「兄さん、小屋ッス!」
「こんな場所に小屋……? とりあえず入らせてもらおう」
吹雪の中、ポツンと小屋が建っていた。木造のこじんまりした小屋だ。人の気配を感じる。
扉を叩いてみる。
「すいません、誰かいますか?吹雪が止むまで休ませてもらえませんか?」
「はいはい、どうぞ。開いていますよ」
中から女性の声が聞こえてきた。ありがたく入らせてもらおう。
「お邪魔します」
「お邪魔するッス」
「いらっしゃい。外は寒いでしょう、ゆっくりしていってくださいな」
出迎えてくれたのは白い肌、白い髪、黒い目の20歳くらいの女性だ。いや、よく見ると髪は白ではなく透明のようだ。たくさんの髪が集まり白く見えているらしい。まるで雪のようだな。
小屋には暖炉があり暖かい。ありがたいな、しばらく休ませてもらおう。
「1人でこんなところに住んでるッスか?」
「ええ、ずっとここで1人暮らしていますよ。お客さんなんていつぶりかしら」
ウキウキしたような声で何か料理している。良い匂いだ。
「どうぞ、熊肉と山菜のスープですよ」
「ありがとうございます」
暖かいスープをもらった。美味い。
「お姉さんの名前はなんていうッスか? あたしはエイミーッス」
「あ、ユーリといいます」
「わたしはノールです」
「ノールさんは何でこんなとこに住んでるッスか?」
「んー、何と言えば良いかしら……。一言で言えばここが故郷だから、ですかね」
ここが故郷……? こんな雪山で生まれたって言うのか?
「両親が駆け落ちして、ここに逃げてきたらしいんですよ。詳しくは聞いていないし、もう亡くなってしまったのでわからないんですけど……」
両親が亡くなったのがいつのことかはわからないが、それから1人でここで生きてきたのか。凄い人だな。
「わたしのことも良いですけど、あなたたちのことも聞きたいわ。2人はどういう関係?」
「兄妹ですよ」
「へぇ。どうして雪山へ?」
「アクアを目指しているんです。世界を回る旅をしていまして」
「とても強そうですものね。旅をできるのもうなづけるわ」
「わかるッスか?」
「わたしだってこんな場所で生活できるくらいには戦えるんですよ?」
言われてみればそうだ。このスープの熊だって自分で狩ったんだろう。しっかり血抜き、魔力抜きがしてあるのか、とても美味しい。熟練の技を感じる。
「今日は泊まっていって。きっとこの吹雪はすぐには止まないから」
「ありがたいです。お世話になります」
明日は吹雪が止んでいると助かるんだが。そう思いながら眠りについた。
前話の後書きに書こうと思って忘れていました。この大陸の人々の世界の認識について。
この大陸に住む人々はこの大陸以外の陸を知らないので、世界を一周すると言ったら、4国を回るという意味になります。実際にこの大陸以外に陸があるのかは(決めていないので)ここでは語りませんが、少なくともこの大陸の人にとっては、4国と封印の地が世界の全てとなります。




