第43話 雪の街ヒューリ
会議の2日後、出発の前日。王城へ呼び出された。
「ユーリ、魔王軍の襲撃より王族を守った功績に報いるため、褒美を与える」
「はっ。ありがたき幸せ」
跪き、陛下から直接褒美を受け取る。拡張袋で渡されたため、具体的にどの程度の金額が入っているのかはわからない。
「ユーリ様。私からはこちらをお渡しいたします」
姫様から、首にネックレスをかけられた。キラリと蒼く光る石が1つ付いているシンプルな物だ。
「その石には私が魔法を込めました。3回だけ、私の回復魔法を使用することができます。きっとあなたの助けになります」
「ありがとうございます。大切に使わせていただきます」
姫様の回復魔法が3回とは。3回完全回復する権利を与えられたも同然だ。これは心強い。
「これが例の手紙だ。ウィンド、バーンのことは考えなくても良いから、アクアは頼むぞ」
そう言って3通の手紙を渡される。魔王軍が動き出したことを伝える手紙だ。
「はっ。明日、アクアへ向けて発つ予定です。必ずや、この手紙を届けます」
「うむ。改めて感謝を伝える。下がって良いぞ」
「はっ」
部屋から退出する。これで出発の準備は整った。
「ユーリ様!」
慌てた様子で追いかけてきた姫様に呼び止められる。
「どうかなさいましたか?」
「明日出発なんて聞いていません! もう少し……」
「いえ、陛下からは旅のついででも良いとは言われていますが、重要任務ですので、極力早く向かおうかと思いまして」
「まっすぐ首都レイルウォーテに向かうのですか?」
「ヒューリで防寒装備を整え山越えの準備をしますが、今のところ他に予定はありませんね」
「あなたの旅です。自由に行き先を決めて良いと思いますよ」
「アクア内にどのような場所があるのか、全く知りませんからね。予定の立てようがないのですよ。それならまっすぐレイルウォーテを目指しても良いかと思いまして。途中に何か面白そうな物があれば、立ち寄るかもしれませんね」
「そうですか。では、私はあなたが帰ってきて旅の話を聞かせてくれるのを、楽しみに待っています」
「はい。次に戻ってくるのは世界を一周してからになるでしょうから、きっとたくさんお話できるかと思います」
「……お気をつけて」
「はい、いってきます」
姫様に見送られ、城を出た。
「世界を一周するまで、もう会うことはないのですか……」
「よし、準備は良いな?」
「はいッス!」
『準備良くないのでお手入れを要求します!』
『……同じく』
「出発だ!」
『マスター!』
やかましい声を無視して、王都の門を出た。まずは北北東へ40~50日くらい歩いて、雪の街ヒューリを目指そう。
のんびりと2人(と2本)旅だ。徒歩でゆったり行くとしよう。
「兄さん。褒美はお金なんスよね? どれだけもらったッスか?」
「お、気になるか?」
「そりゃあ気になるッスよ。聞いたこともない金額が飛び出しそうッス」
実際聞いたこともない金額だろうな。俺もそうだった。
「とりあえず予想を聞こう」
「えー、じゃあ2人で1ヶ月生活できるくらいッスかね?」
「お前それは陛下に失礼だろ……。どんだけケチなんだよ……」
「じゃあ1年!」
「残念。正解は、5年だ」
「ご、5年!? 5年って、5年ッスか!? 1年が5回?」
「混乱しすぎだ。その5年だよ」
「はえー……。ぜんっぜん想像つかないッス……」
「だから今回は便利な道具を結構買ってきたぞ」
簡単に着火できる道具、着ていると暖かいマント、涼しいマント、何度でも使える明かり、虫を寄せ付けない道具、勝手に張られるテント等々。
エイミーに渡した金は、ほぼ服に消えているのは見ていればわかるので、それぞれ2人分買ってある。
「快適な旅になりそうッスね!」
「寒いッス……」
旅立ちから早40日、かなり気温が下がってきた。ヒューリまではあと2、3日といったところか。
「これでもこのマントのお陰でまだマシなんだよな……。何の対策もせずここまで来ていたらと思うと、恐ろしくて震えが止まらん」
「それは恐ろしさではなく寒さッス……」
『人間は大変ですねー』
『……寒い』
『人間じゃなくても大変みたいですね……。え、どういうことですか?』
『……見てるだけで』
『紛らわしいこと言ってんじゃないですよ!』
この場所で既にこの寒さか……。こりゃ雪山は覚悟した方が良さそうだ。
それから2日、ヒューリが見えてきた。
雪に包まれたこの地域は、雪が積もり過ぎないように屋根に傾斜があるようだ。木の柵で囲われたこの街は、街と言うより村って感じだ。
住人は皆モコモコした暖かそうな服装をしている。俺らは王都で着ていた服の上にマントを羽織っただけだ。余計に寒く感じてきた。
「ヒューリへようこそ。そんな格好じゃ寒くてしかたがないだろう。服屋はあそこだ。そのすぐ隣が宿屋。宿屋は温泉があるからオススメだ」
「ありがとうございます。早速行ってみます」
村の入り口に立っている焦げ茶髪のおじさんが教えてくれた。さっさと服屋へ行こう。住人が着ているような服を着れば、寒さもマシになるはずだ。
「よし、良い感じだ」
「モコモコで可愛いッス。暖かくて可愛いなんて良い服ッス」
袖口もモコモコ、襟もモコモコ、ズボンの裾もモコモコでブーツまでモコモコ。
全体的な生地も厚手でとても暖かい。この村程度の寒さなら、これで平気だ。
「問題は雪山もこれで行けるのか? ってことだ」
「あー、確かに。きっともっと寒いッス……。今から嫌になるッスね……」
「お客様、雪山へ挑戦ですか? それならこちらもオススメですよ」
そう言って店員が見せてきたのは、帽子や耳当て、ゴーグル、手袋といった小物だ。
なるほど、耳とか確かに冷たいもんな。こういう小物で肌の露出を最小限にして寒さ対策をするのだろう。
「あとは、ウチでは扱っていないんですけど、宿屋の向かいの裏に魔法道具の店があります。そこに体を温めてくれる道具が売っていますよ」
「へぇ。ありがとうございます。行ってみます」
オススメされた小物も買って店を出た。隣が宿屋らしいし先に部屋を取ってから、魔法道具店に行ってみよう。
「いらっしゃい」
「体を温める道具が欲しいんですが」
「はいはい、この辺りだよ」
一時的に寒さも防げる結界を張る道具、貼り付けたところが暖かい道具、単に熱を発する道具、いろいろあるな。
「あ、兄さん。こんなのどうッスか?」
エイミーが持ってきたのは、服の内側に貼り付けるとその服の中を温めてくれる道具だ。
「かなり使い勝手が良さそうだな。その分値も張るが、そこまで高い訳でもないし2つ買っていくか」
「お兄さんたち、雪山に行くのかい?」
「はい、そうですが」
「だったらこれが必須だよ」
「それは?」
「空気を生み出すマスクさ。山の高いとこはまともに息もできないくらいだからねぇ。これがないと生きていられないよ」
「なるほど、ありがとうございます。ではそれも買わせてもらいます」
結構高い。このマスク2つの値段だけで半年くらい生活できそうだ。買わない訳にはいかないけどな。
服も合わせて、合計で1年分の生活費ってところだ。そんなに痛手じゃないし、これで雪山を越えられると思えばとても安いと言える。
「さて、準備も整ったし、今日は休もう」
「はいッス」
「兄さん、折角だから温泉に入るッス!」
「温泉か。入ったことないな」
入ったことどころか見たこともない。迷宮都市になかったんだから、エイミーも初めてだろう。入ってみようか。
「すいません。温泉って入れますか?」
「この時間は女湯だよ。家族用の個室もあるけど」
家族用ってことはエイミーと一緒に入ることになるのでは……? 流石に
「良いじゃないッスか、兄さん。たまには一緒に入るッス!」
まるで普段から一緒に入れるけど入ってない、みたいな言い方をするな。
(お前はそれで良いのか……?)
(さ、流石に恥ずかしいッスけど……。あたしだけ入るよりはマシッス!)
(いや、この後の時間になら俺も入れるんじゃ……)
(ま、待たせるのも忍びないッスからね! 仕方ないッス! そう、仕方ない)
あまり躊躇していると怪しまれそうだ、ここは覚悟を決めよう。
「ふぅ……。スゴイな、これは。なんというか、スゴイ……」
「なんスかそのいい加減な感想は……。でもわかるッスー」
温泉はとても気持ちが良い。エイミーが一緒に入っているのとか気にならないくらい。
こんなに良いものがこの世にあったのか。ここが天国か……。
『わたしも温泉の良さを感じたいです!』
『……気持ち良い』
『何が!?』
『……見てるだけで』
『またですか!』
「ああー、一生ここに居たい……」
「……兄さんはやっぱり大きい方が好きッスか?」
「何の話だー?」
「完全にとろけてるッスね……。何でもないッス。ああー、気持ち良いッスー」
その日はとても良く眠れた。
今更ですが、この作品内では「わたし」は"わたし"、「私」は"わたくし"と読みます。姫様やレッジの一人称はわたくしですね。もしかしたらどこかで誤字のせいで間違っているかもしれませんが……。




