第42話 閑話:姫様への旅の報告
閑話3話連続投稿3話目です。
襲撃から10日、エイミーを連れて城に来た。
別に何らかの事件があった訳ではなく、迷宮都市でのことを姫様に話すためだ。
「お、ユーリ君。リリエル王女に用事かい?」
「あ、はい。姫様に話すと約束していたので」
「今案内を呼んでくるから少し待っててね」
あの襲撃以降、あっさり城に入れてもらえるようになった。
もともとクレイドさんのお陰で入ることはできていたが、今では1人で何気なく立ち寄っても入れてもらえる。
「ユーリ様! ようこそいらっしゃいました。どうぞこちらへ」
姫様が直々に出迎えてくれた。
「姫様、妹が一緒でも大丈夫でしょうか」
「以前もいらしてましたが、妹さんだったのですか? 確か家族はご両親だけだと伺っていたような……」
「今日はそれも含めて、迷宮都市に行っていた間のお話をさせていただこうかと」
「まぁ! 妹ができるような事件が? ぜひ聞かせていただきたいですわ。こちらへどうぞ。妹さんもご一緒に」
「失礼するッス」
「どうぞ、私の私室です」
「失礼します」
私室に通されてしまった。全体的に落ち着いた雰囲気だが、所どころの家具の色合いなどに女の子らしさが垣間見える部屋だ。
「好きにお座りください」
「では失礼して」
白いソファに座らせてもらう。隣にエイミーが来た。
姫様は正面に座るのかと思ったが……
「あの……なぜ隣に……?」
「いけませんか?」
「いえ、いけないことはありませんが……話しづらくないですか?」
「大丈夫ですわ」
「……そうですか」
「いや、どう考えても話しづらいッス」
「大丈夫ですわ」
「いや……」
「大丈夫ですわ」
「……そうッスか」
ごり押された。なんだろう、異様な圧が……。
「では早速、迷宮都市での事を聞かせてくださいまし」
「あ、はい。迷宮都市に着いたわたしは……」
「という訳で、エイミーと兄妹となり、共に旅をすることになったのです」
「なるほど……。大変だったのですね……。でも領主が黒幕だったなんて。お父様に報告しないと」
「あ、それは大丈夫です。騎士が報告に来ているはずですし、わたしからも大まかには伝えてあります」
「そうですか。お父様にはスラムの環境改善を急いでもらわないといけませんわね」
「環境改善なんてしてるんスか?」
「ええ。その領主の件も含めて、先王の怠慢が大きいのです」
「先王ですか?」
「以前の騎士団は今よりずっと怠惰な集団だったのですけど、それも先王の性格によるところが大きいのですわ。簡単に言えば、仕事は全て専門家に任せる、というものです」
「騎士団の訓練内容は騎士団で全て決めれば良い、領地経営は全て領主が考えれば良い、そういうことですか」
「ええ。もちろんそれが全て悪いとは言いません。専門家に任せた方が上手くいくことが多いのもまた事実。しかし先王は、それを言い訳にほとんどの仕事を誰かに丸投げしていたのです」
「それは……。仕事を任された全員が真面目な人物なら理想ですが……」
「もちろんそのようなことはありえません。現にラピスの領主は悪人だった訳ですし。お父様が王になってからは、大急ぎで各体制を正しているのですが……」
「まだ整いきっていない訳ッスね」
「そうです。お父様が王になってまだ5年しか経っていませんからね。騎士団については先王の時代から内部で環境改善がなされたようで、良くなったと聞いているのですが……」
そういえば以前、孤児院の管理人さんが言っていたな。陛下はスラムや孤児院の改善に力を入れてらっしゃる、と。そのときはそれにしてはスラムの住人が多いものだと感じたが、実際に陛下は頑張っていた訳だ。
「兄さん、あたしはこの前の襲撃の話が詳しく聞きたいッス。兄さんは城に向かった後、どうしてたッスか?」
「ん? ああ別に良いが。姫様」
「はい、私も聞きたいですわ。私を助けに来てくれる前にも戦っていたのでしょう?」
「いえ、フォルボルという怪物以外はほとんど戦ってはいませんが……。お話しましょう」
「魔王軍の幹部級を倒したって聞いてたッスけど、そんなヤバイ奴が来てたんスねぇ」
「あれは恐ろしい敵でした。お兄様も騎士たちもすぐに負けてしまって……。そこに颯爽とユーリ様が……」
「兄さん!! 話を聞いていて思ったんスけど、そのフォルボルの炎を剣に収納はできないんスか? そうすればもっと楽に勝てたと思うんスけど」
「ああ、それか。フィーは何でも収納できるんだが、例外があってな。生きているものは入らないんだ」
「生きているものって例えば植物もッスか?」
「そうだ。ただ切り倒した木とか、収穫した野菜とか、そういうのは収納できる」
「話の流れ的に魔法は収納できない感じッスか?」
「どうも生きているもの扱いになるみたいなんだよな。魔法って撃った後は独立しているもんだと思ってたんだけどさ。どうも違うらしくて」
「そうですね。魔法は術者の意志で切り離さない限り、魔力的に繋がっています。魔法発動後も魔力を追加で注いで操作したりできるのですよ」
「その魔力的繋がりがあるから、まだ生きていると判断されるみたいで、魔法は基本的に収納できないんだ」
「あ、そういえば迷宮でザグルドと戦ったとき、剣を使ってきたって言ってたッスけど、その剣も」
「そうだな。奴は剣に悪性魔力を纏わせていたが、それを除いても人が持っている剣を直接収納はできないみたいだ。剣に限らず人が使っている武器は無理みたいだな」
「それはなぜでしょうか? たとえ人が持っていようとも、武器が生きていたりはしないと思うのですけど」
「人の体内を廻る魔力というのは、人が持っているもの、身に着けているものにも流れ込むようなのです。それでフィーの収納能力的には体の一部と判定されるようで」
「兄さんが持っている物が収納できるのは、つまり」
「俺には魔力がないからってことだな」
「なるほど……。じゃあ例えばあたしが今持っているこのティーカップを収納しようとしても?」
フィーを抜き、軽くティーカップに触れてみるが、収納できない。
「やはり無理だな」
「ほぇー。そんな仕組みになってたんスねぇ」
「私にもやってみてください。ほら、この私が身に着けているネックレスで……」
そう言いながらこちらにもたれかかってくる姫様。ちょ、近い近い。
「あーもう! さっきからくっつきすぎなんスよ! 兄さんの恩人だからって調子に乗ってるんじゃないッスか!!」
「いえいえ、そのようなことは。あなたも妹にしては近すぎるのでは? 妹は兄にそんなにベタベタしないものですよ」
「ウチはそういう兄妹なんですぅー! そちらの兄妹関係とは違うんですぅー!」
「そうですか。あくまで"兄妹"として仲良くしていれば良いのではないですか?」
『おおー! スゴイです! 修羅場です! マスターマスター、どうしますか?』
『……大変そう』
どうするなんて言われたって、こんな状況でどうしたら良いのかなんて知る訳ないんだが……。
「ちょちょちょ、落ち着いて……」
「兄さん! 今日のところはお話も終わったし、帰るッスよ!」
「そんな話し終わったからってすぐお帰りにならずとも。もっとゆっくりしていってください」
「ここはお城ッスからね! 本来あたしたちがいるようなところじゃないッス!」
「そのようなことは気にせず、ずっといてくださっても良いのですよ」
「えー、あー。今日のところはこれで帰りますね。また来ますので」
「そうですか? わかりました。またお話を聞かせてくださいね」
「さぁ帰りましょう!」
エイミーに引っ張られながら城を後にした。
エイミーを城に連れてくるのは止めた方が良いだろうか。
「次来るときも絶対呼ぶッスよ!」
……どうやら置いていけないようだ。
これにて第1章第3部完結となります。この後、流水国アクアへ入るまで5話ほどかかりますので、そこまで第1章となります。
その後、第2章 流水国アクア へ入っていきます。新しい剣や新ヒロインも登場しますよ。お楽しみに。




