第40話 閑話:王子の悩み
閑話3話連続投稿1話目です。
王都襲撃から3日経った。わたし、カイン・グランソイルは現在、城内の訓練場にて素振りをしている。
普段は騎士団の訓練に混ざったりしているのだが、騎士たちは現在復興のための作業にあたっているため、訓練を行っていない。
「ふっ! ふっ! ふっ!」
ひたすら振り続ける。だが、300回ほど振ったところで疲労を感じ、一度休憩を取る。
「精が出ますね、お兄様」
「リリエルか」
「やはり事件の際、戦えなかったことを気にしておられるのですか?」
「流石にわかるか。そうだ。わたしはこれでもそれなりに鍛えているつもりだった。確かに騎士に勝てるほどではないが、騎士は国を代表する戦士たちだ。勝てないのも仕方がないと思っていたし、自分はそれなりに戦えると思っていた」
「お兄様はいつも頑張っておられますわ」
「頑張っているなど当然のことなのだ。結果がついてくるか否か。それが全て……」
「全てということはないと思いますが……。それならユーリ様に聞いてみてはいかがでしょう?」
「ユーリ、か……。確かに彼は強い。どのようにしてあの強さを得るに至ったのかを聞くことができれば、あるいは……」
「あ、勧めておいてこう言うのは心苦しいのですが、ユーリ様と同じ訓練方法はお兄様には難しいと思いますので……」
「何? 彼はそれほどの訓練を行っているのか?」
「想像を絶するとはまさに……。10年間修行、食事、睡眠という生活をずっと続けていたそうなので……。ですから訓練方法を聞くのではなく、お兄様の振り方を見てもらって助言をいただくのが良いかと」
「そ、そうか……。確かに彼に助言をもらえれば強くなれるかもしれないな。クレイドに言えば連絡を取れるだろうか」
「という訳で、君に助言をもらいたく呼んだのだ」
クレイドに言わずともリリエルが宿を知っていたので、ユーリを訓練場に呼んだ。なぜ泊まっている宿まで知っているのか……。実は恋人として交際でもしているのではなかろうな……?
「はぁ……。構いませんが、わたしの剣技はあまり実戦的ではありませんよ? ずっと1人で修行していましたから」
「それではその強さに説明がつかない。実戦的でないなどと」
「わたしが強敵と渡り合えているのは、意気込みとごり押し……ですかね……」
「どういうことだ?」
「わたしは守るべき人がいるとき、決して退かないと決意しています。殿下の場合、自身が守られるべき立場ですから、死を覚悟して戦うなどあってはなりません。まずその差があるでしょうね」
「ふむ……。確かに決死の覚悟で踏み込めば、強敵と戦える場合もあるのかもしれぬ……。そしてそれはわたしにはできない戦い方だ……。ごり押しというのは?」
「わたしは剣の理想的振り方を10年間、体に叩き込んできました。敵に合わせた動きは修行していませんから、実戦的ではないと申しましたが、剣技自体は自信があります」
「ふむ、なるほど」
「そして、こちら。この短剣は持ち主の感覚を強化します。目で、耳で、肌で敵の動きをしっかり感知、あとは自分が知っている理想の振り方で剣を当てるだけなのです。つまり自分の得意技でごり押しているのですよ」
「感覚を強化する……?」
「そういう剣があるのですわ、お兄様」
「リリエル、いたのか」
「最初からいましたわ。ユーリ様を城に呼んだと聞いたときから門で待っていましたもの」
ユーリの泊まっている宿屋に遣いを出してからユーリが来るまで、2時間くらいあったはずだが……。大丈夫なのか、この妹は……。
「ユーリ様が持つ剣は確かに凄い能力がありますが、結局は使い手の腕がなければ振り回されるだけですわ」
「まあそうなのだろうが、なぜお前が言うのだ」
「ユーリ様ではお兄様に強く言えないでしょうから、代わりに言って差し上げているのです」
「……そうか」
この妹は……。もう良い、放っておこう。
「とりあえず見てもらえるか? 君の思ったとおりに言ってくれて構わない」
「そうですか? では一度素振りをして見せていただけますか」
「ああ、やってみよう」
構える。と、まだ振っていないのにユーリから待ったがかかった。
「殿下、今どのような敵を想定して構えましたか?」
「え? いや、素振りなのだから特には……」
「ただ振るだけなど、誰にでもできます。実戦的な剣を覚えたいのでしょう? どのような敵をどう斬るのか、想定して行うのが効果的かと」
「なるほど……」
確かにそうかもしれない。では、あのフォルボルという怪物を思い浮かべ……
「…………」
「お兄様……?」
「駄目だ……。奴を斬れる想像ができない……」
「お兄様、もしや例のフォルボルを思い浮かべたのですか?」
「ああ……。あまりにも実力が離れすぎていてどうにも……」
「……ふむ。殿下、モンスターを斬った経験はおありですか?」
「いや、ないな。わたしが戦うようなとき、それは騎士たちが倒れて自分しかいなくなってしまったときだ。そしてそのような状況があったら、わたしは死んでいるだろう」
今まで、自分の身は騎士たちが守ってくれた。普段から剣を振るい鍛えているのは、王族として護身程度はできた方が良いという、それだけの考えに基づくものだ。
「それで咄嗟に剣を抜き跳び出すことができるのは、それはそれで一種の才能ですが……。経験がないことを想像しようとしても難しいものです。わたしは修行中、動物としか戦っていなかったので、あまり豊富な想像はできませんでした。そのせいで修行期間が延びた可能性もあるかもしれませんね……」
「それは、モンスターを狩ってみろ、ということか?」
「できるならばそれが最も早いでしょうね」
「お兄様……? まさか本当に行く気ですか?」
「リリエル、お父様には黙っておいてくれ。わたしは行く」
「ずるいです! 私も行きたいです!」
「ええ……。そっちなのか……。ついてきても良いが、口を滑らせるなよ?」
「ありがとうございます、お兄様!」
遊びに行くと勘違いしているのではないか? いや、ユーリと一緒に出かけたいだけだな、これは。
「流石に勝手に抜け出すのはまずいのでは……?」
「ばれなければ問題ないだろう。ついてきてくれ。避難路とは別に抜け道がある」
幼少期に見つけたものだ。昔は真面目で勝手に抜け出すなんてあり得ないと思っていたものだが、17歳でやっと親に反抗するようになるというのは、それはそれでどうなのだろうな。
2つ上の姉はどうだったのだろうか。妹と違っておてんばなところがある姉だ、もしかしたら抜け出したりもしていたかもな。
妹と違って……? 違った、ハズなんだがなぁ……。
「よし、王都の外まで来られたな。モンスターを探すとしよう」
外に出るのはずいぶん久しぶりだ。最近はモンスターの群れが出たり危険だと、城の外に出ることすらほとんどなかったからな。
以前は旅行に行ったりしていたものだが、恐らくこれからはそれも難しいだろうな。魔王軍などというものが現れては。
だからこうして抜け出しているのも、絶対にばれる訳にはいかない。ばれたら二度と外に出られないかもしれない。
「殿下、モンスターです。ネズミですね」
「出たか。よし、やってみよう」
「お兄様、頑張ってください!」
「小さくとも油断してはいけませんよ」
剣を抜き、モンスターに近づく。こちらに気づいたようだ。向かってきた。
「はっ!」
剣を振るう。が、当たらない。そしてモンスターが牙をむいて跳びかかってくる!
「うおっ!?」
「しっ!」
当たる! と思った瞬間、横からユーリが仕留めてくれた。
「あ、危ない……。礼を言う。助かった」
「お兄様、ご無事ですか?」
「ああ、問題ない」
「踏み込みが甘いです。剣の振りにも勢いが足りません。必ず斬るという気でかからなければ、斬れるものも斬れませんよ」
「そ、そうか。すまない」
「初めてで躊躇があるのはわかりますが、その躊躇が命取りになります。上手くやろうと考えなくて良いので、まずは普段通り振ることができるようにしましょう」
「ああ、わかった」
「殿下、モンスターです。今度はウサギですね」
「今度こそ、やるぞ」
剣を抜き近づく。また向かってきた。よし、今度こそ……
「せいっ!」
振り下ろす。今回は狙い通り、斬ることができた。
「よ、よし! 斬った!」
が、ウサギが起き上がり向かってくる!
「いっ!?」
「ふっ!」
またしてもユーリに助けられてしまった……。
「成長は感じましたが、仕留めた確認はした方が良いですね」
「すまない……」
「でも良い感じだと思いますよ。あとは斬ったり斬れなかったりに一喜一憂しないようにしましょう。振り終わった後も大切ですからね」
「わかった。今日のところはこれで帰るとしよう。あまり長時間城を離れているとばれるかもしれない」
「もう帰るのですか? 私はもう少し……」
「駄目だ。お前も一緒に帰るぞ」
「むぅ……。わかりました……」
妹はこんな子だっただろうか……? いつの間にこんなに活動的になったのだろう。
そんな疑問を持った外出だった。
その日の夜。
「カイン、リリエル。お前たち、今日は何をしていた。言ってみなさい」
「剣の訓練をしておりました!」
「お兄様の訓練を見学しておりました」
「そうか。訓練場にいなかったようだが?」
「そ、れは、今日は訓練場ではなく中庭の隅の広場で訓練する気分だったのです」
「そうか。ふっ、まあ良かろう」
何とかごまかせたか……。と思ったが、
「だが、何度も同じことをすれば……。わかっているな……?」
「な、何のことでしょうか。よくわかりませんが、承知しました!」
「承知しましたわ!」
ごまかせてなかった……。




