第3話 砂漠の玄関リセル
修行中に家にあるものは全てフィーに収納してある。食料も修行中に確保して食べきれない分は全てフィーに収納した。川にフィーを突っ込んで山ほど水も確保した。準備万端だ。
『もう完全に便利な倉庫扱いですね……。まあわたしの使い方としては正しいんですけど……』
鞘に入れて手に持っているフィーが何かブツクサ言っているが無視して出発する。家にあった地図を見るとここから最も近い都市はリセルというらしい。リセルから東は火炎国バーン内まで続く砂漠が広がっている。砂漠の先、バーンの中がどうなっているのかは描かれていないためわからない。
(さて、どうするか)
迷っているのはどこへ行くかではない。砂漠なんていかにも名剣が収められた遺跡か何かがありそうだ。行く以外の道はない。では何に迷っているのかといえば、
(リセルに入るべきか、否か……)
故郷の村で俺はいないものとして扱われていた。村の外が同じでないとは限らない。どうしようか……。
『前にも言いましたけどそんなに心配しなくて大丈夫ですって! 珍しがられるくらいですよ、きっと!』
修行中、フィーには俺が黒髪のせいで村からどんな扱いを受けてきたかを話していた。その時も、
『まあ珍しいですから田舎だとそんなこともあるかもしれないですけど、それなりに人がいるとこに行けば大丈夫ですよ!』
なんて、何を根拠に言っているのか、ずいぶん自信満々に告げられた。
「ま、相棒がそう言うんだ。一度試しに行ってみるくらいはかまわないか」
『そうですそうです! そうすればわたしが正しいってわかるんですから!』
リセルに行こう。そもそも俺は旅が終わったら騎士になるつもりで出発したんだ。都市に入れないなんて話にならないじゃないか。何を迷っていたんだか。
それから3日後、リセルが見えるところまで来た。遠くに見える砂漠の砂と同色の土でできた四角形の建物が並ぶ街だ。人々は頭からすっぽり布で覆った服装をしているようだ。俺の服は小さくてもう着られないので父さんの服を着ているが、全く違う服装だな。
「ふぅ、やっぱり緊張するな……」
見張り台と思しき建物がある街の外周へ近づいていく。街の人から攻撃されないだろうか。フィーには大丈夫と言われたが…。
「おーい、そこの兄ちゃん!」
見張り台から顔を出した、焦げ茶の髪のおじさんに呼びかけられた。
「な、何ですか?」
「そんな格好じゃ日差しがきつくてしかたないだろう! 服貸してやるから建物の中に入りな!」
「あ、ああ、わかりました。ありがとうございます」
どうやら心配してくれているようだ。火傷するという程ではないが確かにこの辺りは日差しがキツイ。もし砂漠がここより更に日差しが強いのだとしたら、この服装は確かに危険かもしれない。素直にお世話になるべきだろう。
『ね、大丈夫でしょう?』
相棒のドヤ顔が目に浮かぶようだった。
「兄ちゃん珍しい髪色してるねぇ。外国の人かい?」
「いや、ガイア国民ですよ。生まれつきこうなんです。」
「へぇ。ああ、いや。すまねぇ。あんまり人の見た目にどうこう言うもんじゃねぇよな」
「いや、大丈夫です。それよりこちらこそ申し訳ない、服を貸してもらって」
「良いって良いって! 兄ちゃん砂漠のこと知らねぇんだろ、ほっとけねぇよ!」
見張りのおじさんはとても良い人だった。心配だと言ってここの気候に適した服を貸してくれた。どこかで服を買ったら返しに来よう。
「宿はここの通り沿いの3階建てのでかいとこだ。服屋はその向かい。もう一本向こうの通りが市場になってる。わからなかったらいつでも来いよ!」
「はい、ありがとうございます」
今日1日はこの街の探索にあてよう。とりあえず今晩の宿をとって服を買うところからだな。
俺は気分良く街へ繰り出した。
おじさんに教えてもらった宿で問題なく部屋をとることができたので街を探索してみる。
まずは服屋だな。
『へぇ、見たことない形の建物がいっぱいですねぇ』
(フィーが知ってる街はどんな感じなんだ?)
剣と会話する不審者にはなりたくないので心の中で尋ねる。
『わたしがよく知ってる街はもっとこう、鉄! 剣! 修行! みたいな』
(剣が名産の街だったのか?)
『あー、どうですかねー』
なんともはっきりしないことだ。まあフィーがあの遺跡に何年収められていたのかわからない以上、フィーがどんな街で作られたかなんて気にしても仕方がないことだろう。
そんな話をしている内に服屋に着いた。
「いらっしゃいませー!」
やや明るい茶髪の店員の声に出迎えられる。宿でもそうだったが実はお金を使うのは今回が初めてなんだよな。知識でしか知らなかったことを実際にやるのはなかなか緊張するもんだ。
「えーと、砂漠に入るのに適した服が欲しいんですけど」
「砂漠に入るのですか? だとすると魔力がこめられた服が良いですね。砂漠に入るなら防具が欲しいですけど金属鎧は着られないですから」
「魔力がこめられた服なんてあるのか」
「はい。ここは砂漠の玄関ですから。服屋が防具屋のようなものです」
そういって店員は魔力がこめられた服を並べてくれる。物によって値段が全く違うようだ。
『マスター、マスター! あれ! あの一番高いやつ良いじゃないですか!』
「こちらが最も安いものです。一般的な鉄鎧程度のお値段でサソリの針をギリギリ通さないくらいの防御力です」
一番安い服でもこれほどか。鉄鎧は確か人一人が3ヶ月生活できる程度の値段だったか。
「サソリより危険なモンスターは?」
「より危険なモンスターはいますが服を貫くという意味でしたらサソリが一番ですね。もし強力なモンスターの衝撃にも耐性が欲しいということでしたらこちらはいかがでしょう」
『ねぇマスター! あれカッコイイですよマスター!』
「それは?」
「衝撃耐性が付与され、服自体の防御力も先ほどの服と同等でお客様の身を守ってくれます。お値段が少々高くなってしまいますが……」
先ほどの服と比べると3倍以上違う。人一人が1年生活できるくらいの値段だ。魔力だけじゃなくて魔法が付与されると高くなるんだろうな。
父さんが遺してくれたお金はたくさんあるがこれを買うのは少しためらうな…。
『ねぇねぇ、マスター!』
(あああもう、やかましい! あんなの買えるわけないだろうが!)
フィーが欲しがっている服を見る。形状自体は他と同様に頭から覆うものだが、色が違う。全体的に紺色だが白く線が入っている。その線が淡く光っていた。おそらく魔法の訓練を積んでいない俺でも目に見えるほどに強力な魔法がこめられた魔法服だ。
(諦めろ。手持ちの金を全部使い切ってしまう)
『えー』
「最初に見せてもらったやつにします」
これでもそこそこの防御力があるんだ。これでダメなら俺の実力で砂漠探索は無理ってことで諦めよう。
換え含めて2着購入してから店を出た。
「ありがとうございましたー」
「活気がある街だな」
『はい! 市場を見て周っているだけで楽しくなっちゃいます!』
市場で売っていたここら辺の特産らしい果物をかじりながら街を歩く。客引きの声や子供がはしゃぐ声が聞こえてきてこちらも自然と笑顔になる。故郷の村とはずいぶんな差だ。
周囲を見渡してみると、やはり焦げ茶の髪の人が多い。たまに茶髪の人がいる感じだ。
「お、武器屋だ。のぞいていこう」
途中武器屋を見つけたので入る。流石に名剣は置かれていないだろうが少し期待してしまうな。
「らっしゃい」
中を見回してみるとどうやらハンマーなどの鈍器がメインのようだ。剣も置かれているが少ない。
「砂漠はサソリが出るからな。硬い甲殻を持った奴を剣で斬れるやつはなかなかいない」
俺の視線から思っていることを読まれたのか、焦げ茶の髪の店員のおじさんが声をかけてきた。
「なるほど」
「兄ちゃんも剣を使うようだが、自信がないなら鈍器、買ってきな」
「ありがとうございます。でも大丈夫です。ダメだったら戻ります」
「ふっ、そうか。まあ頑張りな」
「この剣帯をもらえますか」
「あいよ」
フィーを左腰に吊るした。やっと両手が空いたな。
「気をつけな。サソリだけじゃねぇ、地中から襲い掛かってくる虫や針を飛ばしてくるサボテン、砂に色を合わせて見えづらくなるトカゲ、いろいろいる。危険を感じたら戻るんだな」
おじさんに見送られて店を出た。ぶっきらぼうだが心配してくれているようだ。良い人が多いものだ。
宿に戻ってきた。見張りのおじさんに貸してもらった服を洗っておく。明日砂漠に行く前に返そう。
『マスター、わたしもお手入れしてくださいよー』
「手入れって言ったって体内に入れるだけだろ?」
『それがいいんです! さあ、早く!』
言われる通りに格納してやる。相変わらず気持ちが良いらしい。
『あああぁぁぁ……』
「俺も寝るんだからあんまり騒ぐなよー」
そう言って布団に入った。明日はいよいよ砂漠に入る。名剣はあるだろうか。強敵がいるのだろうか。環境に耐えられるだろうか。
楽しみと不安を抱えながら眠りに就いた。
この作品の登場人物は、髪色で魔力の多寡がわかります。
大地国ガイアなら、焦げ茶髪の人は魔力が少なく、茶髪や黄色髪の人は魔力が多くなります。
ではユーリの黒髪はどうなのか、というと、魔力はありません。もちろんそれだけではありませんが……。
その辺りの設定が明かされるのはかなり後になってからの予定です。




