第37話 百花繚乱、花吹雪
やると決めると、策が思い浮かぶものだ。その策でやりきれなければ負けが決まりかねない博打的作戦。だが、賭けに出ずして、勝利などあり得ない!
射程の確認は済んでいる。まずはギリギリの距離を走り回る。
そうすると、
「うっとおしいって、言ってるど!!」
踏み込んでくる。それを、
「鏡花水月!!」
距離を取って回避。そして、
「鏡花水月!!!」
「ぬおっ!?」
正面から突っ込む。そして斬る。もちろん片手での斬撃はほとんど効かない。それでも良い。まずはこの動きを繰り返す。
「チクチクうざいど!」
腕で叩き潰そうとしてくるのを避け、もう一撃。
「あああああぁぁぁぁ!!!」
イラついた奴が炎を噴き出す。その寸前、
「鏡花水月」
距離を取る。そしてまた回りだす。
奴が踏み込み、それを回避。その後正面から突撃し、一撃。
今度は腕による攻撃ではなく、最初から炎を噴き出そうとしたので、すぐに退避。
そしてまた回りだす。
「ああああぁぁぁ!!? うっざいんだど!! そんな攻撃効かねぇど!! いい加減諦めるど!!」
「何言ってやがる。炎を噴き出すしか能がないお前ごときに俺が負けるか」
「ああ!!?」
煽る。ひたすら相手を煽り続ける。
奴が踏み込んでくるので、また下がる。そして突っ込む。
「そんなの読めてるど!!」
「お互いにな」
突っ込むのに合わせて腕を叩きつけてくるので、体勢を低くして回避。下から突き上げてやる。
これも浅い。それでも血が出る程度には傷がつく。それがまた、奴をイラつかせる。
「こっのおおおぉぉぉ!!!」
炎が噴き出すので下がる。そしてまた回る。
「フンヌっ!!」
「くっ!?」
奴の腹の穴から、炎の玉が砲弾のように飛び出してきた。リィンのお陰で何とか目で追うことができるそれを、跳び退き回避する。
この局面で新しい技を使ってきやがって。だが、そろそろ良いだろう。仕留めに行くぞ。
奴が踏み込んで距離を詰めてくる、今まで同様下がって回避。そして正面から突撃。
と、奴はそう思い込んでいるだろう。
「鏡花水月!」
「なんっ!?」
幻を残すほどの速度で、奴の背後に回りこむ。奴には俺が消えたように見えているはず。
一瞬でも早く攻撃に移るため、手に持ったリィンをそのまま体内に格納、フィーを両手に持ち直す。
時が止まる。そう錯覚するほどの集中。
奴の背の一点。目に映る世界がそれだけになる。
圧縮した時間の中で、剣だけが鋭くきらめく。
「生花・一輪刺し!!!」
閃く一瞬、全てを貫く神速の一。
それは狙い違わず、奴の背を貫いた。
生花・一輪刺し
極限まで集中し放つ、最速の突き。間違いなく俺の技の中で最も貫通力がある。
その集中のせいで、技を使っている最中は、貫こうとしている一点しか見えなくなってしまう。横から攻撃されたりすると、無反応で受けてしまう欠点がある技だ。
「がはっ!!?」
ついに奴に致命的な一撃を与えた。これで、
「ぐううう、がああああぁぁぁぁ!!!!」
「ぐっ!? が……あ……」
奴から炎が噴き出す。直撃。体中が焼け、熱さよりも痛みが来る。
だが、
「たお、れろぉぉぉ!!!」
踏み込む。ここで仕留めきらなければ、もう奴の油断は誘えない。
剣を振るう。焼ける体が重く、剣に勢いが乗らない。
「ユーリ様!!」
回復魔法が飛んでくる。奴は炎を噴き出し続けている。体が燃える。燃えた端から回復していく。地獄のような痛み。
だが、
構え、踏み込む。
「花吹雪・満開!!!」
体は動く。剣を振るうことができる。
「繚乱落花あああぁぁぁっ!!!」
一瞬に10度斬る、その速度で斬り続ける。
何秒でも、何十秒でも、斬り続ける。奴が倒れるその時まで。
熱い、痛い、今にも意識が飛びそうだ。
だが、そんなことはどうでも良い。ここで仕留めなければ確実に負け。その時、姫様は殺される。
この後どうなっても構わない。今、ただ剣を振り続けろ!
「ぐ、ぐう、ぐうううぅぅぅ!!」
苦し紛れに腕も振るってくるが、その腕ごと斬りつけ弾く。
「く……そぉ…………」
奴が倒れた。それを確認してから、剣を止める。
「勝った……のか……」
『はい、お疲れ様でした、マスター』
『……勝ち』
「ユーリ様あぁぁ!!」
姫様の涙声が聞こえてくる。
駆け寄ってきて、抱きしめられた。
ああ、良かった。この人を守ることができた。
回復魔法の光に包まれながら、ただ立ち尽くしていた。
「大丈夫ですか? ユーリ様」
「はい、姫様のお陰でもう怪我もありません。万全の状態ですよ」
「嘘はいけませんよ。怪我がなくなっても疲労は取れていないはずです」
「……バレましたか」
その通りだ。全く腕が上がらない。繚乱落花は一度使えばしばらくは全く剣を振れなくなってしまう。この後は何時間か休憩しないと戦えないだろうな。
「ユーリ、で良いか?」
「え? あ、はい。わたしはユーリと申します、陛下」
「良くやってくれた。あの強大な敵を打ち破り、我らを守ってくれたこと、礼を言おう」
「はっ! ありがたき幸せ」
「何か褒美を取らせる。が、今はしばし待て。王都に安寧を取り戻した後、必ずそなたの奉公に報いよう」
「勿体なきお言葉です。わたしもただちに王都へ舞い戻り、この力を役立て……」
「ダメです! 疲労は取れていないと言っているでしょう!?」
「ユーリよ、そなたは充分働いてくれた。今は休みなさい」
イカン。実際に今王都に戻っても何もできないのに、様式として戦おうとしてしまった。
もしそれで、行け、と陛下に命令されていたらどうするつもりなんだ、俺……。
「……わたしからも礼を言おう。ありがとう、ユーリ」
複雑そうな顔のカイン王子に礼を言われた。どうしたのだろうか。
「何か気に障ることをしてしまったでしょうか?」
「いや、個人的なことだ。君は気にしなくて良い」
ふむ、考えてもわからないし仕方ない。ここはお言葉に甘えるとしよう。
「陛下、安全も確保できたことですし、予定通り森へ身を隠しましょうぞ」
宰相がそう提案してくる。まだ王都にはモンスターがあふれているはずだし、確かにしばらくは身を隠してもらった方が良いかもしれない。
「うむ、そうだな。では……」
その時、王城の方から膨大な魔力が放たれるのを感知した。
そして更に大きく感じるようになったその存在感。これはまさか……
「大地剣ガイグランデ……?」
「っ! この魔力! 間違いない! 大地剣ガイグランデ! そしてこの襲撃は魔王軍によるもの……! まずい、すぐに戻らねば!!」
「陛下!? 何を仰るのです!? 確かにガイグランデが魔王軍に奪われるのは大変なことですが、陛下が向かわれる必要は……」
「馬鹿者が!! ガイグランデが魔王軍に奪われるということは、王都に留まらず国の、世界の危機なのだ! 危険だなどと言っていられる状況ではない!!」
そう言って陛下は王都の方向へ走り出す。腕が動かないとはいえ、流石に放ってはおけない。追いかけよう。
「姫様、わたしは陛下を追いかけます。あなた方は森へ……」
「私も行きます!」
「しかし……」
「お父様が言っていたではないですか。世界の危機なのでしょう? どこにいても危険であるなら、私は少しでも良くなる可能性がある方向へ進みます!」
「……わかりました。共に行きましょう」
「はい!」
姫様も行くと言うと、王子や宰相、騎士たちもついてきた。結局全員城へ向かうことになったな。
この重い腕でどうやって守れば良いのか、それを考えながら、走り出す。
目指すは膨大な魔力を放出し続けている、大地剣ガイグランデ。




