第32話 閑話:防犯活動とエイミーの楽しみ
閑話3話連続投稿の3話目です。
エイミーの奉仕活動最終日。明日王都へ帰るため、今日はまたこの都市を回ってみようと思う。
領主が逮捕された件は、既に住人の知るところとなっている。これを陛下に報告し、新しい領主が決められることになるのだが、今はまだ領主がいない状態だ。
そうすると、今はやれると勘違いしちゃった輩が度々事件を起こし、騎士たちはその対応に追われているようだ。引き続きゴーグやギャングの取調べもあり、陛下への報告もあり、騎士隊の仕事が増えすぎて大変らしい。
「引ったくりよ! 誰かその男を捕まえて!」
そしてまた一件、事件が発生。通りを歩いていたら、近くで引ったくりが出たようだ。
見ると地面に倒れ込んだ女性が、走り去る男を指差している。恐らく引ったくられた際に転んだのだろう。
男はなかなかの速度で走り去ろうとしている。
リィンを抜く。
「徒花・鏡花水月」
一瞬で男の背後に走り寄り、その勢いのまま蹴り飛ばす。
「ぐえっ!」
リィンを鞘に戻し、転がった男から引ったくられたと思しき手持ちかばんを奪う。
と、被害者の女性が駆け寄ってきた。
「このかばんで間違いないですか?」
「ありがとうございます!」
かばんを女性に返す。さて、この男は騎士隊の詰め所まで連れて行くか。面倒な……。
「これは何の騒ぎだ? おや、ユーリ君」
「ガドル隊長、良いところに来てくださいました。引ったくり犯を捕らえました」
巡回に出ていたらしいガドル隊長がちょうど良く来てくれた。この男は任せてしまおう。
「またか……。まったく、領主が捕まっただけで我々の活動が停止した訳ではないというのに……」
「そんなに犯罪が増えているのですか?」
「概算して、以前の6、7倍といったところか。隊員に休日を与える暇すらない。嘆かわしいことだ」
「何か人手がなくても犯罪を防いだり、犯人を捕らえたりできれば良いのですけどね」
「そんな便利なものは……。いや、待て。あるかもしれん」
「え?」
「ありがとう、ユーリ君! もしかしたら解決したかもしれん! わたしはこの男を連れ詰め所に戻る! また機会があれば会おう!」
「あ、はい。お疲れ様です」
とても良い笑顔で隊長は走っていった。どうしたのだろうか。問題が解決したなら良かったが……。
その日の午後、迷宮都市の住人たちが何やら噂している。
「これ、騎士隊が防犯のためって配ってたけど」
「ああ、俺ももらった。迷宮から出る道具らしいな」
「このスイッチを押すと騎士隊の詰め所に知らせることができるって?」
「ああ、そうらしい。今まで使い道がなくて眠ってた道具を引っ張り出したそうだ」
防犯のための道具? どうやら隊長が笑顔だったのはこれのことを思い出したからのようだが……。
「気になるな。俺も一度詰め所に行ってみるか」
詰め所に来た。建物の前で、騎士たちが何やら配布している。
「1人1つ受け取ってください!」
「緊急時にそのスイッチを押すことで詰め所に知らせることができます!」
住人たちがそのスイッチを受け取っては帰っていく。結構集まっているな。
「おお、ユーリ君。君のおかげで解決しそうだ。ありがとう」
「これは一体?」
「迷宮から入手できるスイッチだ。これを押すと真上に光が伸びる。それを見て騎士が出動するという訳だ」
「へぇ。便利なものですね」
「いや、今まで使い道がなかったんだ。戦場にでも行けば信号として使えるのかもしれんが、そんな戦場は存在しないからな。もし戦争でも起きたら、ということで念のため騎士隊で管理していたのだが」
「まあ戦争なんて起きる訳ないですよね」
「ああ。各国の間には巨大なモンスターの領域が存在していて、ただ行き来するだけでも苦労する。それなのに戦争など起こる訳もない。ということで全く使い道がなかった物だったのだ」
「有効活用できて良かったですね」
「今だけかもしれんがな。新しい領主が来て都市が安定すれば、以前のように戻るはずだ」
「そうですね。早く新しい領主が来てくれることを祈るのみです」
「隊長! 迷宮ドーム西通りにて光が上がりました!」
「早速か! 2人向かえ! 人手が足りないようなら1人がその場で待機、1人が詰め所に知らせにくるように!」
「はっ!」
犯罪が増えているのは疑いようもないな……。いつまでもここにいても邪魔になる。離れるとするか。
「では隊長。わたしがここにいても邪魔になりそうなので、これにて」
「ああ、そうか。改めてありがとうユーリ君。困ったことがあれば、いつでも来てくれ」
「はい」
この後はどうするか。エイミーの様子でも見に行くか。
エイミーが清掃しているはずの通りまできた。さて、エイミーは…、
「エイミーちゃん。いつもありがとうね」
「これ、ウチの屋台の串焼きよ。食べてちょうだい」
「エイミーちゃん! ウチの焼き菓子も持ってきな!」
「わ、わ、ありがとうッス。でもあたしは償いでやっているだけで……」
「まだ小さいのにえらいねぇ。あたしもアメちゃんあげようね」
「あたしは子供じゃないッスーー!!」
何か周辺住民から可愛がられているようだ。
『楽しそうですね、エイミーちゃん』
(ああ、もしかしてエイミーは、この都市にいた方が幸せに……)
「あ、兄さん!」
こちらに気づいたようだ。囲んでいる人たちの間を抜けて、こちらに駆けてくる。
「兄さん、どうしたッスか?」
「エイミーの様子を見ようかと思ってな。何だか楽しそうだったな」
「聞いてくださいよ! 皆さんあたしを子供扱いするんス!!」
「まあお前は小さいからなぁ」
「小さくないッス! あたしはもう15ッス!」
「はいはい、小さくない小さくない」
「むぅーー!!」
まあエイミーが小さいのは仕方ないことなんだがな。スラムで腹いっぱい食べられる訳もないんだから。父さんが充分に食料を取ってきてくれていた俺とは違うんだ。
「もしかしてエイミーちゃんのお兄さんかい?」
「あ、はい。そうです。この子の兄のユーリです」
「エイミーちゃんはいっつもこの辺りをキレイにしてくれてねぇ。皆感謝してるんだ」
「そうそう。笑顔で挨拶してくれるし。こっちまで笑顔になっちゃうよ」
「お兄さんのこともよく話してくれたよ? 清掃活動が終わったら一緒に旅に出るんだってねぇ」
「楽しそうに話してくれるもんだから、お兄さんのことが大好きなんだねって言ったら真っ赤になっちゃって。可愛いわよねぇ」
「ははは、ありがとうございます。この子も喜んでいますよ」
「うう……」
実際は恥ずかしそうに俯いているが。
でもそうか。俺との旅をそんなに楽しみにしてくれているのか。もしこの都市の方が幸せに暮らせるなら、それでも良いかと考えていた。しかし、
「兄さん! 明日から旅に出るんスから! ちゃんと準備しといてくださいッス!!」
恥ずかしさを紛らわせるために叫ぶ、どこか楽しそうなエイミーの姿を見て、そんなことを考える方が失礼だと気づいた。
『気づけて良かったですねー。まあわたしは当たり前のようにわかってましたけど?』
『……当然』
(そうかい……)
この都市を出たことがないエイミーはきっと、旅をとても楽しみにしてくれている。それこそ、あの村にいた俺が旅を楽しんでいるのと同じように。
明日、旅を再開する。きっと大変なことも多いけど、それも思い出になるのだろう。
楽しみだ。純粋に、そう思う。
これにて閑話も終了。王都へ戻ります。これから大地国ガイア編のクライマックスになります。




