第28話 家族
エイミーと一緒に歩く。家がないエイミーの分も部屋を取ってやらないとな。
今後、エイミーは罪を償うために何らかの罰が与えられるはずだが、それはそう長い期間にはならないはず。償いが終わった後のことは考えているのだろうか。
「エイミーは今後、どうするつもりなんだ?」
「とりあえず宿に部屋を借りないとッスね」
「ああ、いや、そういうことじゃなくて。罪が償い終わったらってことだ」
「償い終わったら……?」
「ああ。そうしたらお前はやっと自由になれる。何がしたいか考えてるのかなって思ってな」
「何がしたいか……」
考え込んでしまう。今まで生きるのに必死だった訳だからな。急に言われても困るだろう。
「えっと……」
ん? こちらをチラチラと見て何だ? まあ確かに俺が考えていることもあるが、それはエイミーが何をしたいのか聞いてから言おうと思っていたんだがな。
「エイミー、俺の考えを聞いてもらっても良いか?」
「は、はいッス」
「俺と、家族にならないか?」
「え……?」
ん? やけに呆けているな。そんなにおかしいことを言っただろうか。
「俺も家族がいなくてな。お前の母親にも頼まれたし、どうかと思ってな。どうだ、俺が兄貴じゃ嫌か?」
「あ、兄貴……? あ、あー! そういうことッスか!! あービックリした!」
「ん?」
「いやいやいや! なんでもないッスよ! はい! なんでもないッス!!」
顔を赤くして何を大慌てしているのか。
「で、どうだ?」
「そうッスね……。確かに魅力的ッス。でも、家族って言ったって、お兄さんに一方的に迷惑かけるだけなんじゃ……」
「そんなことはない。お前は器用だし、いろいろ助けてもらうこともあるはずだ。俺は世界を回る。きっと多くの障害がある。協力してもらうことはいくらでもあるはずだぞ」
そうでなくても迷惑なんてことはないんだがな。この自罰的な女の子はきっと、役に立つとはっきり言ってあげないと勝手に思いつめてしまう。せっかく母親の願い通り幸せになれる権利を得たのに、自分から放棄してしまうのは勿体ない。
「えっと……。あたしが一緒でも……良いんスかね……?」
「ああ。もちろんだ」
即答してやる。悩む理由はない。きっと楽しくなるはずだ。
エイミーは少し俯いた後、顔を上げた。その顔は、
「よろしくお願いするッス! 兄さん!!」
とびきりの笑顔だった。
俺が泊まっている宿まで来た。エイミーの分の部屋をとろう。
「すいません、この子もここに泊めたいんですが、部屋は空いていますか?」
「今朝ちょうど空きがなくなってしまったんですよ。すいませんねぇ」
「あー、そうですか。どうするかな」
「一緒の部屋で良いんじゃないッスか、兄さん」
「ん? いや、それは……」
いやいや、マズイだろ……。
(いくら家族になったと言っても結局は血のつながりのない男女なんだぞ? 流石にマズイだろ……)
(あ、ちゃんとそういう意識はあるんスね。少し安心したッス)
(どういう意味だ?)
(いえいえ、こっちの話ッスよ。部屋についてッスけど、あたしは全然一緒で大丈夫ッスよ。これから2人で旅するんスから、同室くらいで言うことは無いッス。兄妹なんスし、ね?)
それもそうか……。どこかの街に寄る度に宿を二部屋とるのも確かに無駄だ。これから兄妹らしく過ごすんだから、同室で良いのかもしれない。
「あ、やっぱり同室で良いです。俺の泊まってる部屋に泊めることにします」
そういうことになった。
「聞きたいことがあるんスけど……」
部屋に入るなり、エイミーはそう切り出してきた。
「さっきその剣に物を出し入れしてませんでした?」
「ああ、その話か」
これから共に旅する仲間であり、家族であるエイミーに隠しておくことでもないだろう。全て話そう。
俺だけ一方的にエイミーの事情を知っているのも、不公平だしな。
それから寝るまでの時間で、俺のここまでの人生についてを語った。
エイミーは、怒ったり、悲しんだり、ハラハラしたりと忙しそうだったが、一通り話し終えると、
「なるほど。あたしの境遇を聞いてあんなに怒ってた理由がわかったッス」
そう言って納得顔をしていた。
そうだな。単純に義憤に駆られたというのもあるが、どっちかというと母親を人質にとるという行為に対して、自分の母親を思い出しキレていた部分が大きい。
そう考えると今回の件、あまり騎士らしくはなかったかもな。単に私情でキレてムカついた相手を叩きのめしただけだし。
だが、それでも良いだろう。自分の正義に照らし合わせて、間違ったことをしていなければ。俺は俺なりの騎士道を貫くだけだ。
「でもそうッスか。兄さんにとっては第二王女の存在が大きいんスねー」
「ああ、そうだな。姫様にお声かけいただいていなければ、もしかしたら俺はあの日、折れていたかもしれん」
クレイドさんは、なんだかんだ立ち直っていたはずだ、と言っていたけどな。
「ま、兄さんを激励してくれたことには感謝ッスかね」
「間接的にお前の恩人ってことにもなるのか。そうだな、感謝しておいた方が良い」
「そういうことじゃないんスけど……。まあ今は良いッス」
「あ、そうだ。姫様に俺の旅の話をする約束してるんだけどさ。今回の件、話しても大丈夫か? エイミーが嫌だって言うなら止めとくけど……」
「別に良いッスよ。でも話すときはあたしも一緒に行くッス」
「ああ、それは良いな。お前のことも紹介したい」
今から楽しみだ。そのためにも、
「今日はもう休もう。しっかり休んで、今日の疲れをとらないとな」
「……そうッスね。騎士隊の調査はいつ終わるッスかね。調査結果次第であたしへの刑罰も変わるみたいッスし。今は早く刑を終えて兄さんと旅に行きたい気持ちが大きいッス。正当な刑罰を受けることがあたしの望みだったはずなのに、我ながら単純ッスね」
「良い傾向だと思うぞ。お前は母親の遺志を継いで、幸せにならないといけない。もっと自分を赦して良いんだ。確かに被害者はいるが、その被害者の怒りだって黒幕のゴーグ・ラピスに向かうべきなんだから」
「はい。お母さんの口癖ッスからね。いつか幸せになれる。前までは単なるおまじないでしかなかったッスけど、今は本当のことだったってわかるッス」
「ああ。今まで耐えた分、大きな幸せが待っているはずだ。安心して眠ると良い」
「はいッス……」
寝たか。俺もさっさと寝よう。
「……ありがとうッス。兄さん」
迷宮での疲れと怪我を癒すため、眠りについた。
何だか暖かい。心地良いこの感じはなんだろうか。
目を開ける。目の前に赤くなっているエイミーの顔があった。
「え……?」
「あ、兄さん。起こしちゃったッスか?」
「いや……何やってんだ……?」
「回復魔法は使えないッスけど、あたしだって魔力活性くらいできるッス。兄さんの怪我が早く治るようにと思って」
「魔力活性?」
「え、知らないッスか? 魔力を流し込んで活性化させることで怪我の治りが早くなるッス」
「へぇ、そんなことができるのか」
「いや、こんなの誰にでも……。あ、そうか。兄さんは魔力がないんだったッスね」
どうやら常識だったらしい。魔力がない俺にはできない芸当だ。
「本当は自分の魔力で自分を治すものなんスけど、こうやってくっつけば人にもできるッス。あたしが勝手にやるんで、兄さんは寝てて良いッスよ」
「いや、お前が寝るまでは起きてるよ。悪いしな。無理はするなよ」
「あたしの魔力なんて高が知れてるッスから、無理したかったとしてもできないッスよ。ほら、もうほとんど魔力使いきっちゃったッス」
「お疲れ。ありがとうな」
「いえいえッス。また明日もやってあげるッスよ。さ、今日は寝ましょう」
「ああ、おやすみ」
「おやすみなさいッス」
今度こそ眠りについた。




