第23話 希望の重み
(次の部屋ッス)
小声でエイミーが伝えてくる。いよいよだ。リィンはずっと抜いている。フィーは警戒されないために、鞘に収めておく。
少し離れてついてきている輩がいるな。恐らくこれが例のギャング共だろう。
進んだ先にも人の気配がある。感知範囲にいるのは全部で15人ってところだ。
いや、連絡が行ったかな? 奥からぞろぞろと出てきた。よし、30人全員来てるな。ありがたい。下手に奥に残られると、エイミーの母親を救いづらくなるからな。
部屋に入る。そのまま少し進み、部屋の中央まで来た。
後ろからナイフが飛んで来ている。引きつけ、ギリギリで大げさに回避。
「おあぁ!?」
意味もなく声を上げる。演技なんてやったことないからな。俺の演技のせいでばれたりしなければ良いが……。
「チッ。勘の良い野郎だ」
部屋の先からぞろぞろと出てきた。後ろからもついてきていた奴らが入り口を塞ぐように入ってくる。
そして俺とエイミーを囲むように部屋に散らばる。
「おい、そいつが今回の獲物か?」
「そうッス。良さそうな剣を持ってるッスよ」
「ああ、確かに。高く売れそうな剣だなぁ」
囲んだ連中が全員ナイフを構えている。ん? 全員? まて、まさか……!
「やれ」
号令がかかった瞬間、俺はエイミーを引き倒し、覆いかぶさっていた。
「ぐぅっ!!」
「お兄さん!!」
こんな回避方法では当然避けきれない。咄嗟にリィンで叩き落したが流石に全部は無理だ。背中から激痛。一本刺さったようだ。
「な、なんで……」
「なんでだぁ? てめぇが裏切ったからだろうが」
「! ど、どうして知って……!」
「俺らがどれだけ迷宮にいると思ってんだぁ? 嘘を見抜く道具くらい持ってんだよなぁ!」
ああ、そういうことか。なぜわざわざそいつが獲物かなんて聞いたのかと思ったら。
囲んでいた一人が奥へ走っていくのが見える。恐らくエイミーの母親のところへ向かうのだろう。
ああくそ。しくじった。だがまだだ。
(エイミー。俺が包囲を一箇所ぶち抜く。そこから抜けて、母親のところへ向かえ)
(お、お兄さん、その傷で戦う気ッスか? 無茶ッス! あたしたちのことはもう良いから逃げるッス!)
(良いわけあるか! 絶対助ける!)
立ち上がる。動く度、背中に激痛が走る。ナイフが刺さったままだからな。揺らすと傷をえぐられるようだ。だが問題ない。死にはしない。
修行中、1回も成功しなかった技がある。
使った後、どうしても制御できなくて、実戦では使えないってことで封印した技だ。
だが、今なら。リィンの力に慣れてきた今ならきっとできる。
『マスター! ぶっつけ本番でやる気ですか!? それこそ無茶です!!』
(やるしかないんだ! 今やらなきゃ救えない!!)
『マスター……』
『……やって。できるよ』
(ああ。ありがとう)
足に力をこめる。
速すぎて自分でもどう動いているかわからなかった技。
フィーを抜く。無茶に巻き込んで悪い、力を貸してくれ。
目標は正面。
「徒花・鏡花水月!!!」
残るのは幻、移動は一瞬。
既に敵リーダーの目の前。フィーを振りぬく。
「なっぐあっ!!」
敵リーダーとその周囲の下っ端3人をまとめて吹き飛ばす。
「行けっ!! エイミー!!」
「っ! はいッス!!」
俺がこじ開けた奥への道にエイミーが駆け抜けていく。良い走りだ。あれなら奥に行ったやつにすぐ追いつける。
頑張れよ、エイミー。お前が母親を助けるんだ。
ここは俺が片づけておいてやる。
エイミーが通っていった道を背に立ちふさがる。
「いってぇなぁおい」
こいつ、生きてやがる。胴を上下に分断するつもりで振ったんだがな。実際、他の3人は起き上がらない。
「お前、良い腕してんな。どうだ、あんなガキ放っておいて俺らの仲間にならねぇか? その腕がありゃ儲かるぜ?」
そして勧誘なんかしてきやがる。
「あのガキはただの雑用だが、お前はきっと幹部になれる」
「黙れ」
「……ああ?」
「これ以上怒らせないでくれよ……。怒りでどうにかなっちまいそうだ」
(そして姫様と結ばれた騎士は、末永く幸せに暮らしましたとさ)
「あの子の気持ちが痛いほどわかる」
(ユーリはわたしたちの宝物よ)
「お前にはわからないだろうな。母親を人質にされたあの子の痛みが」
(ユーリ、お母さんが食べ物をとってきてあげるから、良い子で待っているのよ)
「自分では母親を助けられないと理解したときのあの子の絶望が」
「ああ、わからねぇなぁ?」
絶望が大きかったからこそ、今俺が背負うあの子の希望はとても重い。
背中が痛む。だが、体は動く
目の前に、打倒すべき悪がいる
(助けてください…)
この背には、守りたい人たちがいる
今こそ、この騎士道を以て守り通すとき
走る、走る、走る。決して振り返らない。お兄さんが任せてくれたんだ。あたし自身の手でお母さんを助けられる。お兄さんならきっと大丈夫。あの人は強い。
「! 見えたっ!」
前を走る男を発見。さっき包囲から出て走っていった男だ。
走る速度を更に上げる。足の回転を最高速に。
壁に足をつけそのまま前へ。
壁を走る。そのまま上へ。
天井を蹴って、男の頭上から、
「せいやぁっ!!」
短剣を振り下ろす。脳天を貫き確実に絶命した。
「よし、これで……」
お母さんは大丈夫だ、と思った瞬間、
もおおぉぉぉぉぉぉ!!!
何かの咆哮のようなものが聞こえてきた。
と同時に感知範囲に巨大な気配を捉える。
「な、何……この気配……」
異常な気配。だがそれより気がかりなのは母の安否だ。
「お母さんはどこに捕らわれているッスか……!?」
アジトを自由に動き回る権利なんて当然与えられていない。母がどこに捕まっているのかを知らなかった。
こんな異常な奴がいる場所に捕らわれているなんて……!
もっと奥へ。母を探さなくては。
「! 見つけた!」
巨大な気配の位置を把握しながら、母を探していると、ついに感知範囲に入った。
だが……
「この巨大な気配のすぐそば……!」
母の気配はかなり弱弱しい。今にも消えてしまいそうだ。だが母を助けるには、この巨大な気配の主と対峙する覚悟がいる。
「ここまで来て、引き下がれる訳ないッス!」
覚悟なんて最初から決まっている。母を助けるか、ここで死ぬかの二択なのだ。逃げるなんて択は最初からない。
(それに……)
任せろ
(はい。信じてるッス。お兄さん)
たとえ巨大な気配に歯が立たなかったとしても、時間さえ稼げば良い。きっとあの人が助けに来てくれる。
母の元へ! ひたすらに前へ!
しかし、母の元へたどり着く前に、
ヴヴモオオオオオォォォォ!!!!!
現れた、気配の主。
それは高さにして3メートルはありそうな巨大な牛だった。
その巨体に見合った角を頭に生やし、鼻息荒くこちらを見ている。
通路の半分を埋めてしまうその巨体。こんな場所で戦える相手ではない。
逃げてどこかの部屋へ誘き寄せなければ。
「こっちッス!!」
あえて一度牛の目の前を横切る。あたしを視界に捉えさせ、そして逃げる。
ヴモオオオォォォ!!
追ってきた、が、
(思ったより速いッス!!)
鈍重そうな見た目とは裏腹にかなりの速度だ。
それなりに足を回して走らないと追いつかれてしまう。
(体力がいつまで持つかッスね……)
命を懸けた鬼ごっこが始まった。




