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貫き通せ我が騎士道  作者: 神木ユウ
第1章 大地国ガイア
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第23話 希望の重み

(次の部屋ッス)


 小声でエイミーが伝えてくる。いよいよだ。リィンはずっと抜いている。フィーは警戒されないために、鞘に収めておく。

 少し離れてついてきている輩がいるな。恐らくこれが例のギャング共だろう。

 進んだ先にも人の気配がある。感知範囲にいるのは全部で15人ってところだ。

 いや、連絡が行ったかな? 奥からぞろぞろと出てきた。よし、30人全員来てるな。ありがたい。下手に奥に残られると、エイミーの母親を救いづらくなるからな。


 部屋に入る。そのまま少し進み、部屋の中央まで来た。

 後ろからナイフが飛んで来ている。引きつけ、ギリギリで大げさに回避。


「おあぁ!?」


 意味もなく声を上げる。演技なんてやったことないからな。俺の演技のせいでばれたりしなければ良いが……。


「チッ。勘の良い野郎だ」


 部屋の先からぞろぞろと出てきた。後ろからもついてきていた奴らが入り口を塞ぐように入ってくる。

 そして俺とエイミーを囲むように部屋に散らばる。


「おい、そいつが今回の獲物か?」


「そうッス。良さそうな剣を持ってるッスよ」


「ああ、確かに。高く売れそうな剣だなぁ」


 囲んだ連中が全員ナイフを構えている。ん? 全員? まて、まさか……!


「やれ」


 号令がかかった瞬間、俺はエイミーを引き倒し、覆いかぶさっていた。


「ぐぅっ!!」


「お兄さん!!」


 こんな回避方法では当然避けきれない。咄嗟にリィンで叩き落したが流石に全部は無理だ。背中から激痛。一本刺さったようだ。


「な、なんで……」


「なんでだぁ? てめぇが裏切ったからだろうが」


「! ど、どうして知って……!」


「俺らがどれだけ迷宮にいると思ってんだぁ? 嘘を見抜く道具くらい持ってんだよなぁ!」


 ああ、そういうことか。なぜわざわざそいつが獲物かなんて聞いたのかと思ったら。

 囲んでいた一人が奥へ走っていくのが見える。恐らくエイミーの母親のところへ向かうのだろう。

 ああくそ。しくじった。だがまだだ。


(エイミー。俺が包囲を一箇所ぶち抜く。そこから抜けて、母親のところへ向かえ)


(お、お兄さん、その傷で戦う気ッスか? 無茶ッス! あたしたちのことはもう良いから逃げるッス!)


(良いわけあるか! 絶対助ける!)


 立ち上がる。動く度、背中に激痛が走る。ナイフが刺さったままだからな。揺らすと傷をえぐられるようだ。だが問題ない。死にはしない。






 修行中、1回も成功しなかった技がある。

 使った後、どうしても制御できなくて、実戦では使えないってことで封印した技だ。

 だが、今なら。リィンの力に慣れてきた今ならきっとできる。


『マスター! ぶっつけ本番でやる気ですか!? それこそ無茶です!!』


(やるしかないんだ! 今やらなきゃ救えない!!)


『マスター……』


『……やって。できるよ』


(ああ。ありがとう)



 足に力をこめる。



 速すぎて自分でもどう動いているかわからなかった技。



 フィーを抜く。無茶に巻き込んで悪い、力を貸してくれ。



 目標は正面。




「徒花・鏡花水月!!!」




 残るのは幻、移動は一瞬。

 既に敵リーダーの目の前。フィーを振りぬく。


「なっぐあっ!!」


 敵リーダーとその周囲の下っ端3人をまとめて吹き飛ばす。


「行けっ!! エイミー!!」


「っ! はいッス!!」


 俺がこじ開けた奥への道にエイミーが駆け抜けていく。良い走りだ。あれなら奥に行ったやつにすぐ追いつける。

 頑張れよ、エイミー。お前が母親を助けるんだ。

 ここは俺が片づけておいてやる。

 エイミーが通っていった道を背に立ちふさがる。


「いってぇなぁおい」


 こいつ、生きてやがる。胴を上下に分断するつもりで振ったんだがな。実際、他の3人は起き上がらない。


「お前、良い腕してんな。どうだ、あんなガキ放っておいて俺らの仲間にならねぇか? その腕がありゃ儲かるぜ?」


 そして勧誘なんかしてきやがる。


「あのガキはただの雑用だが、お前はきっと幹部になれる」




「黙れ」




「……ああ?」


「これ以上怒らせないでくれよ……。怒りでどうにかなっちまいそうだ」



(そして姫様と結ばれた騎士は、末永く幸せに暮らしましたとさ)



「あの子の気持ちが痛いほどわかる」



(ユーリはわたしたちの宝物よ)



「お前にはわからないだろうな。母親を人質にされたあの子の痛みが」



(ユーリ、お母さんが食べ物をとってきてあげるから、良い子で待っているのよ)



「自分では母親を助けられないと理解したときのあの子の絶望が」


「ああ、わからねぇなぁ?」


 絶望が大きかったからこそ、今俺が背負うあの子の希望はとても重い。




 背中が痛む。だが、体は動く




 目の前に、打倒すべき悪がいる




(助けてください…)




 この背には、守りたい人たちがいる




 今こそ、この騎士道を以て守り通すとき










 走る、走る、走る。決して振り返らない。お兄さんが任せてくれたんだ。あたし自身の手でお母さんを助けられる。お兄さんならきっと大丈夫。あの人は強い。


「! 見えたっ!」


 前を走る男を発見。さっき包囲から出て走っていった男だ。


 走る速度を更に上げる。足の回転を最高速に。


 壁に足をつけそのまま前へ。


 壁を走る。そのまま上へ。


 天井を蹴って、男の頭上から、


「せいやぁっ!!」


 短剣を振り下ろす。脳天を貫き確実に絶命した。


「よし、これで……」


 お母さんは大丈夫だ、と思った瞬間、



   もおおぉぉぉぉぉぉ!!!



 何かの咆哮のようなものが聞こえてきた。

 と同時に感知範囲に巨大な気配を捉える。


「な、何……この気配……」


 異常な気配。だがそれより気がかりなのは母の安否だ。


「お母さんはどこに捕らわれているッスか……!?」


 アジトを自由に動き回る権利なんて当然与えられていない。母がどこに捕まっているのかを知らなかった。

 こんな異常な奴がいる場所に捕らわれているなんて……!

 もっと奥へ。母を探さなくては。




「! 見つけた!」


 巨大な気配の位置を把握しながら、母を探していると、ついに感知範囲に入った。

 だが……


「この巨大な気配のすぐそば……!」


 母の気配はかなり弱弱しい。今にも消えてしまいそうだ。だが母を助けるには、この巨大な気配の主と対峙する覚悟がいる。


「ここまで来て、引き下がれる訳ないッス!」


 覚悟なんて最初から決まっている。母を助けるか、ここで死ぬかの二択なのだ。逃げるなんて択は最初からない。


(それに……)



    任せろ



(はい。信じてるッス。お兄さん)


 たとえ巨大な気配に歯が立たなかったとしても、時間さえ稼げば良い。きっとあの人が助けに来てくれる。

 母の元へ! ひたすらに前へ!


 しかし、母の元へたどり着く前に、



 ヴヴモオオオオオォォォォ!!!!!



 現れた、気配の主。

 それは高さにして3メートルはありそうな巨大な牛だった。

 その巨体に見合った角を頭に生やし、鼻息荒くこちらを見ている。

 通路の半分を埋めてしまうその巨体。こんな場所で戦える相手ではない。

 逃げてどこかの部屋へ誘き寄せなければ。


「こっちッス!!」


 あえて一度牛の目の前を横切る。あたしを視界に捉えさせ、そして逃げる。


 ヴモオオオォォォ!!


 追ってきた、が、


(思ったより速いッス!!)


 鈍重そうな見た目とは裏腹にかなりの速度だ。

 それなりに足を回して走らないと追いつかれてしまう。


(体力がいつまで持つかッスね……)


 命を懸けた鬼ごっこが始まった。

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