第19話 迷宮都市ラピス
第1章第2部の開始です。
今日も協会に仕事を探しに来た。割の良い仕事、もしくは面白そうな仕事はあるだろうか。
「これは……」
迷宮都市ラピスへの護衛依頼。俺が興味を引かれたのは仕事内容じゃない。
「迷宮都市ラピスか」
迷宮とは悪性魔力のたまり場だ。溜まった悪性魔力が地下へと続く道を作り出す。地下へ地下へと降りて行く度にその濃度は濃くなっていくらしい。
そしてたまっている悪性魔力から様々なモンスターが生み出される。つまりモンスターの巣でもある訳だ。
ではそんな危険なところに都市など作って何が良いのか。
迷宮内で生み出されるのはモンスターだけではない、ということだ。
悪性魔力は、強力な武器、防具や特殊な道具を生み出す。この特性を利用して、悪性魔力から自由に有用な物を生み出せないかと研究がされているが、触れると気分が悪くなるので進んでいないらしい。
そんな悪性魔力が生み出す物が迷宮では入手できる。もちろん濃度の関係上、奥へ行くほど強力な物になるが、奥へ行くほど気分が悪くなるため限界がある。モンスターを狩れる強さ以外に、悪性魔力にどれだけ耐えられるか、というのも重要になってくる訳だ。
「聞いたことはあるが、悪性魔力から生み出された物なんて本当に安全なのか……?」
『魔剣だって人に害を及ぼしかねないほど強力な能力というだけで、実態は名剣と変わらないんですし、悪性魔力も気分が悪くなるというだけで魔力と変わらないのでは?』
(いや、だとしても。気分が悪くなりそうだろ、そんな道具使ったら)
『実際に都市ができるほど儲けが出ているなら大丈夫なんじゃないですかね?』
(まあそうなんだろうけどな)
『……名剣がある、かも』
(っ!!!!)
確かにっ! よし行こう!
『決定が早いですよ! まあ行くのは賛成ですけど』
『……行こう』
そういうことになった。
「あ……」
フィーたちと話している間に護衛依頼とられた……。
地図で確認してみる。ラピスは王都から北西に徒歩で15日くらいの距離だ。護衛依頼をとられてしまったため、のんびり歩いて行くことになる。
たまに馬車が通っていくのを眺めながら、ラピスとつながっている道を歩く。
15日後、何事もなくラピスが見えてきた。王都近くの狼の群れは討伐したし、そうそう主要路にモンスターが出てきてくれても困る。こんなもんだろう。
ラピスは中心に迷宮の入り口を覆ったドームがある。そこから放射状に広がった街だ。
迷宮からモンスターが出てくるのに備え、ドームは魔力がこめられた強度重視の物。更にすぐに逃げ出せるように、中心から外への動線が考えられている。
その関係で街の外周は壁がない。見張り台を多めに作り、モンスターが来たら近づく前に倒す。外からよりも中からに警戒を置いた街だな。
「さて、まずは宿を探すところからだな」
今までの街では誰かしら案内してくれたが、今回はそういう偶然には恵まれなかった。自分で探すしかないだろう。
とりあえず大通り沿いから一通り見て回ってみるか。
「この街は迷宮探索に役立つ店が多いな」
大通りに並んでいるのは、武器防具や保存食、応急手当用品、あとは、
「迷宮産アイテム販売所、か」
興味を引かれたので入ってみる。
「おお、見たことないものがいっぱいだな」
時間が経つと水が溜まる水筒、簡易的な魔法を放つ石、迷宮産拡張袋なんてのもあるな。
人の手で魔法を込めて作られた物にも、似たような効果のものはあるが、これらが拾えるというんだから、迷宮ってのも儲かるんだろう。
「お、缶詰作成キットか。面白いな。何でも缶詰にして長期間保存できるようになる。俺には本来必要ないけど、フィーが使えなくても保存食以外が食べられると思えば、ありだな」
しかも繰り返し使用可能とある。これは買いだな。5つくらい買っておくか。5つ買っても服1着より安い。同じ効果を魔法で再現しようと思えば、何倍ではすまない値段になるだろうな。あとで何か食べ物を買って缶詰にしておこう。
武器が置かれているコーナーも見てみる。
自動修復機能付きの剣、インパクトの瞬間爆発するハンマー、持ち主の魔力を自動で使って矢を生成する弓、面白いものがいっぱいある。
名剣との違いはこれらの機能のために、その武器本来の性能を発揮できない点か。
剣は自動で修復する代わりに切れ味があまり良くない、ハンマーは爆発のせいで壊れやすい、弓は本物の矢を使うと弦が切れる。欠点だらけだ。俺にはあまり魅力が感じられないな。
こんなものばかりだとするなら、名剣探しという面では、迷宮にはあまり期待できないか? 俺がどれだけ深く潜れるか、だな。誰も到達したことがないほど深くまで潜れるなら、可能性はあるだろう。
とりあえず、宿探しに戻るか。
「やっと見つけた……」
『こんな端の方に宿があるんですねぇ』
『……どこも混んでる』
そう、宿は混んでいた。迷宮近くはもちろん、こんな街の端まで来ないと部屋が空いていなかったのだ。もう日が暮れてしまった。今日は迷宮入りは諦めるしかないな。
この街の特性上、住む人より他の街から稼ぎに来る人が多いんだろう。宿屋はたくさんあったが、利用者もたくさんだった。
「じゃあ格納するぞー」
『待ってました!』『……待ってた』
フィーとリィンを体内に格納しベッドに入る。明日は中央の迷宮ドームへ行く。どんなところか、楽しみではあるな。
翌朝、早速迷宮ドームへ来た。中へ入ると、すごい人で賑わっている。この街の目玉だ。宿が全部埋まるほどの人がほとんどここに来ているんだと思えば、当然の賑わいか。
どうやら入場のためには受付が必要なようだ。受付カウンターは山ほどあるが、それでも並ぶほど人が多い。俺も早く並ぼう。
「ようこそ、迷宮へ。入場は初めてですか?」
「はい、初めてです」
「では簡単に説明させていただきますね」
迷宮に入る者には探索者カードが発行される。入場時にカードのナンバーを記録し、退場時に確認。あまりにも出てくるのが遅い場合、地上では死亡者として扱われる。一般的に死亡判定になるのは、2ヶ月間迷宮から出てこなかった場合。
迷宮内の出来事は自己責任だが、迷宮内での犯罪行為は街をあげて対処するため、遠慮なく報告して欲しい。
迷宮内の宝は箱に入って現れる。最初に箱に触れた者に所有権があり、先に発見したからといって文句を言うことはマナー違反。
迷宮内で入手した物は一度見せる必要がある。勝手に持ち出したことが発覚した場合、犯罪になる。
現在の最高到達階層は15階。ただしこれは自己申告のため本当か不明。平均して8階で気分が悪くなり始め、10階で限界になる。個人差はあるが、余裕があるうちに戻ることを推奨している。
この迷宮は最深部が何階なのかわかっていない。20階程度だという意見もあるし、無限に続いているなんて主張する者もいる。
「以上になります。ではこちらが探索者カードです」
カードを受け取る。どうやらここでは入場手続きはできないようだ。さっき入場が初めてか聞いたのは、念のためか。というかここに並んでいる人は全員が初入場なのか? 半端ないな迷宮都市。
入場受付はあっちかな。あっちも結構並んでいるが、説明が必要ない分、さっきの列よりは少ない。さっさと迷宮に入ろう。
「あ、そこのお兄さん! ちょっと待って欲しいッス!」
女の子に声をかけられた。12歳くらいか? 焦げ茶の髪のニコニコとした笑顔が可愛らしい子だ。探索用なのか動きやすい服装をしてはいるが、所どころほつれが見える。あまり服を換えられていないようだ。
「あたし、エイミーっていうッス! 迷宮内の荷物持ちやってるッス! どうッスか? あたしを雇わないッスか?」
「荷物持ち?」
「はい、これ! 拡張袋いっぱい持ってるッス! これを使って商売してるッスよ! これだけあれば迷宮内で取り逃しなし! 大きい宝が出てきても全部持ち帰れるッス!」
拡張袋を7つ見せてくる。なるほど。迷宮都市にはそういう商売があるのか。俺には全く必要ないが、便利ではあるだろう。この子にとっては金を稼げる数少ない手段なんだろうしな。
「ごめんな、俺には必要ないから、他をあたってくれ」
「ああ、待って欲しいッス! お兄さん初めてだからわからないかもッスけど、迷宮内の宝には結構大きい物も多いッス! 泣く泣く置いてくる人だっているんスから! あたしを連れて行った方が便利ッスよ!」
なぜこんなに俺にこだわる? 何か理由があるのか?
「それにあたしはこれでも結構迷宮には詳しいんで! 7階までなら庭のように案内できるし、8階も庭とは言えないけど案内できるッス! どうッスか? 役立ちますよ?」
案内か。それは確かに魅力的だ。今回は俺がどれだけ深く潜れるかを確かめる目的がある。8階まででもさっさと行けるなら、それに越したことはないだろう。
今回は8階までで引き返すことになるかもしれないが、平均が8階ならそこまでの道のりを教えてもらえれば、それ以降の方が儲けは良いはずだしな。誰も行ったことがない階層を目指すにしても、浅い階層の最短ルートは必須情報と言っても良い。
どうするかな……。
「どうッスか? お願いするッス……!」
……仕方がないな。こんなに年下の女の子に切実にお願いされては断るのも罪悪感がある。
「わかった。今回はお願いするよ」
「やったーー! ありがとうッス!」
「俺はユーリだ。よろしく」
「はいッス!」
きっと何か事情がある。それでも良いだろう。俺にできることなら助けてやるのもやぶさかじゃない。
俺はエイミーを連れて迷宮へ足を踏み入れた。




