第17話 閑話:母の育った家
閑話3話連続投稿、2話目です。
ユーリのお母さん、リサが生まれ育った家の話です。
大金も入ったし、のんびりするのも良いだろう。そう思って王都を散策することにした。
目的もなく歩くだけでも楽しそうだが、今日は武器屋を回ろうと思っている。
王都は広大だ。武器屋だけでもいくつもあるらしい。バルドさんたちに王都中の武器屋の場所を聞いたので、一通り行ってみよう。
大通りの一番大きな武器屋は以前見たので入らない。
この武器屋がある通りから一本ずれたそこそこ大きい道沿いの武器屋にまずは入る。
ここは鈍器をメインに扱っているようだ。バルドさんのオススメの武器屋だからな、そんな気はしていた。次に行こう。
この通りの端、王都の外周に近いところにもう一軒。ここは奇妙な形の武器がいっぱいだな。
波打った剣、両端に刃が付いている槍、弦が2本張られた弓、見たことがないものばかりだ。
面白いな。どう使うのかよくわからない。こんな武器を使って戦っている人もいるのか。
……よし、大体見たかな。次へ行こう。
細い路地へ入る。少し入りづらいところにその武器屋はあった。
住居と一体化している店だ。きっと家族で経営しているんだろう。
「すごいな……」
入ってみると、どうやら剣をメインに置いているようだ。
その中でも使用者が多い、ごく一般的な直剣が多いな。
置かれている剣の多くがかなりの業物。名剣こそないが、能力さえあれば名剣と呼ばれそうな剣がいくつもある。
知る人ぞ知る名店ってやつか。
「ん? この両手剣……」
じっくりと見てみる。見覚えがある。俺が持っている物より良いものに見えるが、型は同じだ。
拡張袋から父さんの騎士剣を取り出し見比べる。紋章があるかないかの違いはあるが、造りは同じだろう。なぜこんなところに……。
「あら? その騎士剣……。ダン君の剣じゃないかしら?」
店番の女性がそう声をかけてくる。今ダンって。父さんを知っているのか?
「知っているんですか?」
「ええ、もちろんよ。ダン君はウチの娘の旦那さんだもの」
「え……?」
娘の旦那? ってことは、
「この店が、母さんの実家……?」
「え? あらあら! もしかしてあなた、リサの息子なの?」
「はい……。俺はリサとダンの息子です……」
この人は母さんが亡くなったことを知らないはずだ。辛いが……俺が伝えなければ……。
「あたしはリンよ。よろしくね。リサは元気にしてる? あの子ったら全然帰ってこないんだから……」
「実は……」
故郷でのことを全て話した。ウジウジと悩むことはしないと決めたが、それでも俺のせいだと思うと涙が出てくる。
「そう……」
リンさんはしばらく目を伏せていたが、顔を上げて笑った。
「孫がとっても良い子でおばあちゃん嬉しいわ。顔を良く見せてちょうだい?」
「え……?」
「うん! ダン君に良く似ているわね。でも顔の輪郭はリサ寄りね。ふふ、会えて嬉しいわ」
「俺のせいで……だから……良い子だなんて……!」
「ううん、あなたのせいじゃないわ。あの子たちはあなたを責めなかったでしょう? それはあなたに気を使ってるとか、そんなことじゃないの」
「気を使ってる訳じゃない……?」
「そう。心の底からあなたがいてくれて幸せだと、そう思っていたのよ。そもそもあの村に引っ越すことを決めたのだって、これから生まれてくる子供が幸せに暮らせるようにって考えた結果なんだから」
「幸せに……暮らせるように……?」
「王都ってね、犯罪が絶えないのよ。人が多ければ多いほど、悪人も増えるの。だから騎士が巡回しているんだけど、王都全体をずっと見ていられる訳じゃないでしょう? 怪我をして剣を振れなくなったダン君は、もしかしたら悪人から子供を守れないかもしれないと考えた。少しでも安全にと考えるなら人が少なくて、村人全員で助け合っているようなところ、それでいてモンスターの脅威にさらされないところ。ある程度豊かで、暖かい村が良い。そう考えた」
「あの村が、暖かい村……?」
「本来はね。あの村は村人同士守りあう意識がとても高かった。そして周囲にモンスターが出ない。それを知っていたダン君は、安全に、元気に、幸せに生活するのに最適だと思った」
村人同士が守りあう意識が高い。だから、危険かもしれない黒髪の子供を避けた? 直接排除しなかったのはなぜだろうか。
父さん母さんは、俺が生まれる前から3年くらいあの村で生活していたはず。当然俺が生まれるまでは暖かい村で助け合って生活していたはずだ。だから直接排除することをためらった?
だとしても、そのせいで両親が亡くなったことに変わりはない。実は良い人たちだったんだ、なんてとても思えないし思いたくもない。
「実際は村に引っ越したことで大変な目にあったのかもしれない。それでも、あの子たちはあなたがいてくれて幸せだった。そう確信できるわ」
「なぜ……?」
「あたしだって親だもの。あなたみたいな良い子、絶対可愛くてしかたがないわ!」
涙が止まらなかった。両親の愛情を信じられていなかった。俺にかけてくれた言葉は全て、慰めようとしてくれているのだと、そう思っていた。
違うんだ。本心から、俺が生まれてきて良かったと、俺が宝物なんだと、そう思ってくれていたんだ。
「ありがとう……ございます…………!」
「ふふ、そんな丁寧な言葉使わなくて良いわよ。あたしはあなたのおばあちゃんなのよ? この家も、あなたの家だと思っていつでもいらっしゃい」
母さんが育った家は、母さんを思い出す、暖かい家だった。
大地国ガイアの騎士剣は、騎士が気に入った剣に、魔力印で紋章をつけることで完成します。
今は見栄えの問題もあって、極力同じ型の剣を使うようにと言われるようになりましたが、ダンの入団当時はその辺りも緩かったので、騎士たちは思い思いの剣を使っていました。