第12話 狼の群れ
目的の森の前まで来たところで、今日は野宿だ。突入は明日になる。
普段はフィーに収納している新鮮な肉、野菜を調理するところだが、今回はそんなもの取り出したら怪しいことこの上ないので、拡張袋から干し肉や乾燥野菜を取り出す。野菜はスープにでもしよう。味付けはシンプルに塩で良いかな。
「おい、ユーリ。鳥が取れたぜ。焼いて分けてやるから、スープを少しくれ」
食事の準備をしていると、バルドさんに声をかけられた。この暗い中で鳥を取ったのか。良い腕してるな。
「お、良いですね。交換しましょう」
思ったより豪華な食事だ。たまにはこういうのも悪くない。
食事が終わったらテントを張って就寝、明日に備えよう。
翌日、森へ突入する。ジーンさんが少し先行して偵察。他はバンドスさん、バルドさんを先頭に、俺とマリーさんを後ろに、真ん中にサリアさんだ。
森へ入って10分もしないうちにジーンさんから合図が来る。どうやらブラックウルフを発見したらしい。
「数は5、こっちには気づいてない。奇襲で仕留める」
合図を受け取ったバルドさんから指示が来る。そのまま少し進むと、木の間からわずかに狼が見えるところまできた。
バルドさんが指を3本立てる。それを一本ずつ折っていき、3本とも折れた瞬間、俺達は駆け出した。
一気に距離を詰める。風下だったとはいえ、流石に切りかかる前には気づかれている。だが問題はない。
足が速い俺とマリーさんが手近な1匹ずつを狩る。そこへ跳びかかって来た2匹を追いついていたバルドさん、バンドスさんが受け持ってくれる。
残りの1匹は既にサリアさんの風の矢の魔法で仕留められている。クリアだ。
「よし、全員無事だな。先へ進むぞ」
群れと言うからには5匹程度ではないだろう。依頼には30匹程度見たと書いてあった。最低20匹、多く狩れば狩るほどボーナスが付くという依頼だ。奥にはもっと多くのウルフがいるはず、警戒して行こう。
5匹倒して先へ進んでいるが、あれから全く現れない。どうなってる? まさか5匹で終わりなのか?
「ジーン、本当にいないのか?」
「うん、間違いないよ。全く気配を感じない」
「でも、他のモンスターもいないなんてあるのかしら?」
「ブラックウルフの群れのせいでモンスターがいないと考えた方が自然なはずだ。どこかにいると思うんだがな」
不審に思っているのは俺だけじゃない。皆おかしいと思っている。
それでも進み続けていると、
「しまった! 囲まれてる! 俺が気配を感じないくらい遠くから囲んで詰めてきてたんだ!」
ジーンさんから最悪の報告が告げられた。リィンを抜いていた俺もほぼ同時に感知している。数は……
「ジーン! 数は!?」
「150近い!」
「なんだと!」
どんどん詰めてきている。この数はマズイな……。
「サリア! 大規模魔法の準備だ! ジーン戻って来い! サリアの護衛! 他は4方向に散れ! 目の前から来るやつを仕留め続けろ!」
「了解!」
フィーを抜き右手に構える。既に抜いているリィンは左手に。この数の敵を相手にするのは初めてだ。どこまでやれるか。
(いや、どこまでじゃない。終わるまでやり続ける。それしかないんだから)
接敵、まず1つフィーを振り下ろし両断、既に来ている2匹をリィンで1つ、フィーを振り上げ1つ片づける。3匹跳びかかってきている上に、1匹後ろへ抜けようとしている。フィーを横に伸ばし回転、全て叩き斬る。その隙を突いたつもりの1匹も見えている。リィンで頭を貫き処理。
(多すぎる! 見えていても手が足りない!)
『マスター! 技で一度周囲を殲滅しましょう!』
(わかった!)
リィンを一度鞘に戻す。フィーを両手に持ち直している間に抜けた1匹は申し訳ないがジーンさんに任せる。
自分から突っ込み狼に囲まれに行く。そして、
「花吹雪・七分裂き!」
一瞬で7度斬る。一撃毎に複数を処理し、周囲を空白にする。少し腕に疲労がくるがまだ大丈夫だ。
「ユーリ! もうもたない! 下がってくれ!」
リィンを抜きなおすと周囲の状況を理解する。俺以外は少しずつ押され、サリアさんのところまで下がってしまっているようだ。俺だけ突出していると逆に危ない。下がろう。
「皆さん大丈夫ですか!?」
「ああ! それなりに傷はあるがまだ動ける! サリアまだか!」
「あと10秒ちょうだい!」
「ああ、やってやる!」
あと10秒、目の前をひたすら処理し続ける。ジーンさんも入ったことでなんとか耐えきった。
「全魔力持ってけ! 大竜巻!」
俺たちを囲うように巨大な竜巻が発生する。だがこれでは、
「サリアさん、範囲が足りません! 周囲だけじゃ打ちもらしが多くなりすぎます!」
「大丈夫! 散らばれ!」
竜巻が周囲につむじ風となって散らばる。そして大量の狼を巻き上げながらつむじ風は消えていった。
「はあ……はあ……。あと……よろしく……」
「よくやったサリア! 残りは任せて休んでろ! ジーンはサリアの護衛だ!」
大量に狼を倒しただけでなく、まとまっていた狼が散りじりになっている。これなら各個撃破するだけだ。
それからそう時間をかけずに、殲滅は完了した。
「はあ、なんとかなったか……」
「お疲れ様です。傷は大丈夫ですか?」
「ああ、お疲れ。あまり大丈夫とは言えねぇな。失血死するほどじゃねぇが血が流れたせいで体が重い。疲労もあるしな」
「ユーリ、おかげで助かったわ。ユーリがいなかったらここで終わってたかもね……」
「ああ、確かに。負けてなかったのはお前だけだぜ」
「いや、皆さんも強いですよ。個人の力だけじゃなくて、チームワークも大切なのがよくわかりました」
これはお世辞じゃない。俺一人だったら殲滅する前に押し切られていただろう。俺も一緒に旅ができる頼りになる仲間が欲しくなったくらいだ。
「おい……。冗談だろ……」
と、ジーンさんの愕然としたような声が聞こえてきた。
「おい、どうしたジーン」
「6匹、気配を感じる。内5匹は普通のブラックウルフより一回り大きそう。もう一匹は……」
「おい、なんだ。もう1匹はどうした!」
「もう1匹は、更に二回りは大きい。明らかに群れのボスだよ」
「嘘だろ……?」
「そんな……今からそんなの相手にできないわよ……」
「ああ、あたしももう戦えそうにない。逃げるにしても……」
「ダメだ、サリアが魔力切れで動けねぇ。逃げることもできねぇぞ……」
パーティ内に絶望が広がっていく。俺も七分裂きを使ったことで少し腕に疲労が溜まってきている。とはいえ、まだ戦うことはできる。なら選択肢は一つ。
「俺がやります。皆さんはサリアさんをおぶって逃げてください」
「な! 待ってくれ! この依頼は明らかに割りに合わねぇ! こんな依頼に連れてきちまったのは俺の責任だ! お前だけでも逃げろ! お前はまだ逃げる力が残ってるはずだ!」
「そうよ! 昨日会ったばかりのわたし達のために命をかける必要はないわ! ユーリだけでも逃げて!」
そう言って逃げるように促してくれる。だからこそ、逆に逃げる訳にはいかないんだ。
俺の背には、守るべき人たちがいる
目の前には、倒すべき敵がいる
(あなたはあなたなりの騎士道を胸に生きていけば良いのだと、私は考えます)
この胸には、通すべき騎士道がある
今こそ、俺なりの騎士道を貫き通すとき