第11話 初仕事
翌日。今日こそは仕事をしなければ。再び協会にやってきた。もちろん朝早くだ。
「いやいや、この依頼は俺達が先に取ってただろうが!」
「推奨人数6人以上って書いてあるだろ! お前達は5人しかいないじゃないか!」
「推奨人数は必須人数じゃねぇ! 妙な難癖つけてきやがって!」
建物に入ると言い争う声が聞こえてくる。どうやら2組のグループが依頼を取り合って争っているようだ。というか5人組の方は昨日掲示板について教えてくれた人だな。
言い争う2組を横目に、他の人たちはさっさと自分の受ける仕事を見つけて受付へ持っていく。いけない、俺もめぼしい仕事を探さなくては。
掲示板に近づいていくとどうやら昨日の人に気づかれたようだ。
「お! おい坊主! こっち来てくれ!」
「え?」
なぜか呼ばれてしまった。あまり巻き込まれたくないが、昨日の恩もある。俺が必要なら少しくらい手助けしても良いか。
「なんです?」
「おう、お前ら! 要するに6人いりゃ良いんだろうが! こいつを入れて6人だ! 文句はねぇな!」
「ああ!? そんな急に」
「良いよな、坊主」
マジか。どんな依頼なのかも教えてもらってないんだが。まあ取り合うくらいだし割が良い依頼なんだろう。ここは仕事の仕方を教えてもらうつもりで参加しても問題ないかな。
「わかりました。お手伝いしますよ」
「よぉし、よく言った! そういうことだ。この依頼は俺らがもらうぜ」
「くそっ! わかったよ……」
この言い合いの間にかなり貼り紙が減っている。この人たちは今日の仕事が見つけられるんだろうか。絡んできたのはあっちのようだし自業自得かな。
「悪かったな坊主。巻き込んじまって。どうする、嫌なら今から断ってくれても良いぜ」
「いえ、取り合うほど良い依頼なんでしょう? せっかくですし、分け前をもらいに行きますよ」
「くははは、良い度胸だ。協会でやってくならそれくらいふてぶてしくなきゃあな。仕事は勝ち取るもんだぜ」
「ちょっとちょっと、バルド大丈夫なの? その依頼、ブラックウルフの群れでしょ? 結構危険な依頼よ?」
仲間らしい女性が話しかけてきた。ブラックウルフは確か小柄で素早い狼だったか。その群れなら確かに危険な依頼だな。
「心配いらねぇだろ、サリア。よく見ろよ、かなり鍛えてるぜこの坊主。剣もかなりの業物に見える。ブラックウルフ程度にそうそう遅れはとらねぇだろ」
「え? あら、ホントね。侮っている訳じゃないのよ、ごめんなさいね? 若そうだから心配でね」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」
「とりあえず移動しながら自己紹介といこうぜ。依頼の場所は歩きで1日かかる。野宿の準備をしねぇとならねぇ」
野宿か。人前だしあまりフィーの能力は使わない方が良いだろう。俺も久しぶりに父さんの形見の拡張袋を使うかな。
「俺はバルド。ハンマー使いだ。このパーティ内では一応リーダーってことになってる。俺らは戦闘仕事のモンスター討伐系依頼を中心に受けてるパーティだ」
「わたしはサリア。魔法使いよ。専門は風だけど、それなりに手広く習得してるわ」
「俺はジーン。短剣使いで斥候って感じ。よろしくー」
「あたしはマリー。槍を使うよ。よろしくな!」
「俺はバンドス。盾とメイスだ」
「俺はユーリです。剣を使います。よろしくお願いします」
野宿するのに必要なものを買い揃え、外門へ向かう。道中で軽く自己紹介は済ませた。
バルドさんは焦げ茶髪の2メートル近い大男。サリアさんは逆に小柄な明るめの茶髪の女性だ。ジーンさんは茶髪の優男。マリーさんは女性としては背が高めの焦げ茶髪。バンドスさんはバルドさんと同じくらいありそうなこれまた焦げ茶髪の大男だ。年齢としては全員20代後半くらいか? 身長が極端なせいで読みづらいな……。
外門まで来た。出るときはそこまで時間がかからないが、入るときにあの行列に並ぶのかと思うと少し憂鬱だな。
「さて、依頼の森へ向かおうぜ。普通は道中のモンスターは絡まれない限り無視するんだが、今回は1回狩るか。ユーリの実力を見てぇ」
外門を出てすぐは人の往来が多い道だ。しばらくモンスターが出たりはしないだろう。依頼の森の辺りまで行ってからかな。
半日ほど歩き続け、そこそこの距離を進んだ。
「なあユーリ。そろそろ休憩しねぇか?」
「え? あ、はい、わかりました」
「はぁ、やっと休憩なの? バルド、ちょっと急ぎすぎじゃない?」
「いやぁ、ユーリが疲れてきたら休憩にしようと思ってたんだがなぁ」
「やるね、ユーリ。あたしも流石に結構疲れたよ。あんたはまだまだ余裕そうだ」
ああ、そうか。一番若いだろう俺に合わせようとしてくれてたのか。申し訳ないことをした。俺は体力だけは異常らしいからな。
「すいません、先に言っておくべきでしたね。俺は一日中走り回れるくらいには体力に自信があります。休憩は皆さんの判断でとってもらえれば」
「おおぅ、そりゃヤバイね、ユーリ。君、よく鍛えられてるとは思ってたけどさ」
「くははは、体力があるのは良いことだぜ! 戦闘なんざ動けなくなった奴から死んでくんだ」
「! みんな、戦闘準備!」
休憩しているとジーンさんが叫ぶ。慌ててリィンを抜くと、確かに道の右手からモンスターが迫っている。数は2。虎型の奴っぽいかな。
「ではやってきます。見ていてください」
「あ、ユーリ! 二匹いる! 大丈夫かい?」
「はい、問題ありません」
「よぉし、よく言った! お前の実力を見せてくれ!」
フィーも抜いて右手に構える。3、2、1、来た。
前に戦った虎と同様跳びかかってくるだけだ。すれ違いざまに斬って終わり。2匹程度なら危なげなく対応できる。リィンの能力で見えていても対応できないほどの数にならなければ、問題ないだろう。
「問題ないとは言っていたけど……」
「問題ないどころじゃないわね。余裕じゃない」
「おお、良い剣技だユーリ! あたしも負けてられないね!」
「くははは、お疲れだユーリ! 頼りになるぜ!」
「ああ」
「ありがとうございます。狩った虎はどうしますか?」
「ああ、このまま道端に捨てとくのは流石に良くねぇ。あっちの森の中に放り込んどけ。獣が勝手に食って片づけてくれる。奥に捨てられれば奥の方が良いな。あんま浅いとこだと、食いに来た獣が道に出てくるかもしれねぇからな」
「わかりました」
「手伝おう」
バンドスさんが手伝ってくれた。口数は少ないけど良い人なんだろう。
「よし、もう少し休憩だ。ユーリの実力も問題ねぇことがわかったし、こりゃブラックウルフも余裕だぜ」
「何であんたが調子乗ってんのよ。油断して怪我しないでよ?」
「わかってらぁ」
良い雰囲気だ。仲間と一緒に行動するってのも悪くない。
『仲間ならずっと一緒にいますよ! 忘れないでください!』
『……仲間』
(ああ、そうだな。悪い。ずっと頼りになる仲間と一緒だった)
『もちろんです!』
さあ、初仕事をしっかりこなして、これからの弾みにしないとな。
ユーリの口調について、何でほとんど人と会話してこなかったのにこんなに丁寧な口調なんだと思われるかもしれません。というか作者が悩んだ点なんですけど。
ほとんど人と会話したことがないから荒い口調にするか、両親や本に教えてもらって丁寧な口調にするかという点で悩みまして、実は最初は誰に対してもぶっきらぼうな感じでした。
ただそれだと何か調子に乗っているクソガキ感が酷くて、作者がユーリを嫌いになりそうだったので、今の口調に落ち着きました。違和感がある人には申し訳ないですが、悩んだ結果なので口調はずっと変わりません。