第10話 金を稼ぐ
今回出てくる組織についてですが、実態はよくある冒険者ギルドとほぼ変わりません。
ではなぜ冒険者ギルドという名前にしなかったかというと、作者は細かい事が気になってしまう人間だからですね。冒険者って何で冒険者なの? 冒険してなくない? とか考えてしまうタイプなんです。
別に冒険者ギルドが登場する作品を否定する訳ではなく、作者もそういう作品はよく読みますが、この作品では冒険者ギルドという組織は存在しませんよ、というだけのことです。
金を稼がなければ。
自分なりの騎士道を生きると決めたは良いものの、人間社会で生きていくならば金を稼ぐ必要がある。いつまでも野生の動物のような生き方ばかりしていられない。父さんの遺してくれた金はまだ残っているが、今のうちからなくならないように稼ぐ術を見つけておかないとな。
そこで頼りになるのが日雇い労働者協会。協会とか日労会とか呼ばれている。
会員になると日雇い仕事を斡旋してくれる。長期間働く事ができない旅人の味方って訳だ。
「だから君が働くのにも良いという訳だ。わかったかい?」
「はい、ありがとうございます、クレイドさん」
城から出ようとしたところで合流したクレイドさんに、旅人が働くのに良い場所はないか聞いたところ、協会について教えてくれた。
「モンスターの調査隊は問題なく編成してもらえるはずだ。君は気にしなくて大丈夫だからね。何かあればサードニクス家を訪ねれば、ワシに話が通るようにしておこう」
「そこまで迷惑はかけられませんよ。自分で何とかします」
「自分で何とかできなかった時の話だよ。遠慮しなくて良いからね。その代わりと言っては何だが、これからの旅で剣を手に入れたらワシにも見せてくれ」
「それが目的ですか。わかりましたよ、流石に剣を見せるためだけに王都まで来ることはできませんけど、王都に寄ったらクレイドさんにも見せるようにします」
「おお、頼むよ!」
そう言ってクレイドさんは護衛と共に馬車で帰っていった。まったく、ぶれない爺さんだな。
「さて、明日は協会とやらに行ってみるか」
翌日の昼前、予定通り協会に来た。協会はそこそこ大きい建物だった。石造りの三階建て、大きい扉が出迎えてくれた。
中に入ると、広いスペースになっている。奥に受付カウンターが5つ、左手にテーブルが並べられている。右手には掲示板があり、何人かが貼り紙を確認していた。
とりあえずは受付かな。
「いらっしゃいませ、どのようなご用件でしょうか」
「会員になりたいんですけど」
「はい、ではこちらの入会届けにお名前と年齢、得意な事、苦手な事をご記入ください」
えーと。ユーリ、17歳。得意な事は剣。あとは体力に自信があるかな。苦手な事は自分の感情を隠す事とかか?
「ではこれで」
「はい、確かに受け取りました。登録を行いますので、あちらの席で少々お待ちください」
示されたテーブルの方へ行き、椅子に座る。スゴイ簡単に進んだな。というか全く説明とかされてないけど、大丈夫なんだろうか。
しばらく待っていると、名前を呼ばれたので受付カウンターに行く。
「こちらが会員カードになります。基本的にはあちらの掲示板でご自分で仕事を探していただくことになります。やりたい仕事がございましたら、貼り紙をあちらの受付までお持ちください。仕事が見つからない場合、受付にお声かけくだされば、会員様の得意な事から判断したお勧めのお仕事を紹介する事もできます。説明は以上です。何かご質問等ございましたらお気軽にお尋ねください」
「あ、はい。ありがとうございます」
すごい勢いで説明されて、さっさと切り上げられてしまった。まあ良いか。とりあえず掲示板を確認してみよう。
掲示板は主に力仕事、接客仕事、清掃仕事、捜索仕事、戦闘仕事に分けられているようだ。俺の場合は戦闘が一番やりやすいかな。
「えーと、うわ、すごい少ない。ドブにネズミがいないかの確認と山頂の鳥の巣から卵を取ってきて欲しいってのの2件だけだ」
『嫌な仕事ばかりですねぇ』
『……これ、両方常設依頼って書いてる』
本当だ。常設依頼しかないのか。別の種類の仕事を探すべきだろうか。
「おい、坊主。こんな時間に掲示板を見たってダメだぜ」
掲示板を確認していると、後ろから声をかけられた。
振り返ったところに立っていたのは、2メートル近い大男。ボサボサの焦げ茶の髪でなかなか鍛えていそうな体つきだ。背中にこれまたでかいハンマーを背負っている。
「ダメというのは?」
「協会に来るような奴は大体どうやって儲けようか考えている。つまり割りの良い仕事は朝の貼り替えの時間にさっさと持ってかれちまうのさ。こんな昼に来ても誰もやりたがらねぇようなゴミ仕事か常設依頼しかねぇ」
「なるほど。言われてみれば当たり前か」
「その辺、登録の時に説明してくれても良いと思うんだがな。他の街は知らねぇが、王都みてぇな人が多いとこは必要最低限のことしか説明してくれねぇ。坊主もわかんねぇことは誰かに聞きな。受付よりゃしっかり説明してくれるはずだ」
「ありがとうございます。ところでそっちはこんな時間に何を?」
「俺ぁ日をまたぐ仕事を終えて帰ってきたとこだ。ちぃとばかし遠いとこのモンスターを狩ってきた」
「そんな依頼もあるのか。日雇いと言ってもその日の内に終わるとは限らないんですね」
「ま、坊主も頑張んな。何ならわかんねぇことは俺に聞いても構わねぇしな」
そう言って大男は出て行った。名前を聞きそびれたな。また会ったら聞こう。
今日は王都の探索に充てるとするか。そうと決まればまずは武器屋だ。
王都に武器屋はいくつかあるらしいから、とりあえず大通り沿いの大きい店に来た。
「いらっしゃいませ!」
でかい武器屋だな。よりどりみどり取り揃えていますといった感じだが、俺が興味あるのは剣だけだ。剣が並べられているスペースに向かう。
ふむ、長剣、短剣、両手剣、刺突剣。双剣まであるな。品揃え豊富だ。流石に名剣はないようだが、騎士剣に匹敵しそうな業物がいくつかあるな。
『マスター、名剣がないなら用はありません! 次行きましょう、次!』
『……マスター、何か短剣買お? ……わたしと両手に短剣持って』
『なーにが両手に短剣ですか! 許しませんよ! マスターはわたしを使うんです!』
『……わたしの能力で感覚強化すれば短剣が強い』
(喧嘩すんなやかましい。金を稼ごうとしているのに必要でもない剣なんか買わないぞ)
『……ぶーぶー』
『ふふーん♪』
(だが感覚強化すれば短剣が強いというのは興味があるな。どういうことだ?)
『……感覚が強化されていれば、相手の動きは全て見える。……だったら振りが速ければ絶対に当たる』
『だったらリーチが長ければ良いじゃないですか! 短剣を推すために納得しそうな理論組み立てるのやめてください!』
『……ばれた』
(敵の動きが全て見えるから、速い振りか長いリーチで攻めれば勝てると。なるほどな)
『別にそんなのこだわらなくても良いんです! 動きが見えているなら結局当てれば良いだけなんですから! とにかく避けづらい攻撃をするってことです!』
リィンの能力を使った戦い方も学んでいかないとな。
武器屋はもう良いだろう。他を見て回ろう。
「うまいなこれ」
パン屋で買った焼きたてパンを食べながら歩く。ふわふわでとてもおいしい。
食べ物一つとってもそうだが、王都は物の種類が多い。
いろんな武器、防具、いろんなパン、いろんな野菜、いろんな本。何でも買える。
だからこそ、人が集まる。行きかう人々を眺める。その流れは決して絶えることはない。
故郷ではありえなかった光景。そして、
「待て、貴様!」
「ぐあっ!」
「よし、捕らえた! 観念しろ!」
「くそっ!」
騎士が男を取り押さえている。恐らく何らかの犯罪者だろう。ああして騎士はこの街の人々を守っているのだ。
(やはり、誇り高い職業であることは間違いないな)
俺が目指すものとは違っただけで、尊敬すべきであることに疑いようもない。
(もし機会があれば、騎士団長の話も聞きたいな)
きっと騎士の誇りを、父さんの強さを教えてくれるだろう。
仕事の種類に事務系がないのは、事務仕事をする人間はエリートだからです。日雇いの人間にやらせる仕事ではないんですね。