~神聖ザカルデウィス帝国後編~ 波濤
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ミカエラの周囲に中型戦艦が出張ってきた。もう少しで交戦が始まる事が予想された。オメガの指示によって副砲を回頭して、中型戦艦の両翼を射撃していった。ミカエラに向って中型戦艦も砲撃してきたが、その魔導エネルギーの主砲はミカエラに届かなかった。原理の力によるシールドを張っていたので傷一つ付かない。しかし、衝撃は吸収してくれないので、揺れがひどかった。オメガは、この状況をあまりいい状況だとは思っていなかった。中型戦艦の戦闘能力を奪っていったのは確かであったが、数が多い。中型戦艦の数が両陣営合わせて十隻は出張って来ている。それも、両陣営の中型戦艦は互いを撃ち合うではなく、ミカエラを集中的に狙ってきたので、オメガはその対応に追われた。ミカエラのエネルギーは永久機関とも言える構造をしていたので、尽きる事はなかったが、このままでは危険であった。射撃は正確であったが、中型戦艦のサイズは約五百メートルはあったので、両翼を落とすには時間がかかった。中型戦艦に搭載された攻撃能力は決して油断できるものではない。オメガの隣に立っていたルシファーは、自分が出張っていいのかを考えた。自分が正体を明かす事で、この戦いに混乱が起きないか。ゼイフォゾンに迷惑をかけないか。そう考えたルシファーは行動を起こせずにいた。確かに、この戦況は下手に特記するべき戦力がいたずらに介入すれば、事態を混乱させてしまう可能性があった。ルシファーが戦場に出れば、この程度の戦力など、簡単に鎮静化させる事ができた。しかし、密航してきた身である。どうすればいいのか、それはルシファーが決めるべき問題であったが、その悩みはこの戦場では命取りになってしまうのも事実としてあった。ミカエラに対しての砲撃が強まっていく。両陣営の戦艦は執拗にミカエラに波状攻撃を仕掛けてきた。間違いない、墜とす気でいた。攻撃力はミカエラのほうが強かったので、ただ撃滅するだけであれば簡単だったが、それでは自分たちの抱えてきた平和への祈りが無駄になってしまう。オメガは考えた、このままこの戦艦たちをブリッジごと機関部を狙って轟沈させなければ、このミカエラは持たないのではないか。だが、その隣で考えていたルシファーもそのオメガの難しい表情を見て、決断しなければならなかった。そして、そのように、自分の意志で動き始めた。
持ち場を離れようとするルシファーをオメガは止めた。
「どこに行く……」
「私の為すべきと思った事を為しに。オメガ殿、私はこの楔を確固たるものにしましょう」
「待て、お前は何者だ?」
「ゼイフォゾン様の副官、ルシファーと申します。では、おさらばです」
ルシファーは真の姿に戻り、ミカエラを飛び出した。そして、その翼で空中に浮遊し、その神々しさを神聖ザカルデウィス帝国の人間たちにまざまざと見せつけた。敵、味方にその姿は認められ、まるで戦場に神が降臨したのではないかと思わせるほどであった。この黄金の翼を持った存在は、神聖ザカルデウィス帝国の敵なのか、味方なのか、分からなくなっていた者が多かった。それほどの存在感を放つルシファーだったが、考えている事はゼイフォゾンの無事であった。そのギャップに、ルシファーは少々おかしくなっていた。含み笑いを浮かべた表情は、まるで神が微笑んでいるようにしか見えず、周囲から警戒された。正気を取り戻した魔界の皇帝ルシファーは、周囲の中型戦艦を確認した。その手を強く握りしめると、中型戦艦は砲撃ができなくなった。そして、動きを止めた。自由に動けるのはミカエラだけであった。ルシファーはその拳をもっと強く握ると、中型戦艦の砲塔が瞬く間に潰れ、破壊された。その不可解な力に、中型戦艦を指揮する両陣営の指揮官は為す術もなかった。それを好機と見たオメガは、ミカエラの副砲を回頭し、十隻の中型戦艦の両翼に向けて発射した。何もできない中型戦艦は対空砲火もできず、ただの的となっていた。そして命中した中型戦艦の両翼は落とされ、次々と不時着していった。このルシファーの力は、まさに七英雄と同格と言われるだけあって、圧倒的なものがあった。
「ルシファー……あれは人間ではないな。ゼイフォゾン殿の副官があの強さなら、本人はどれだけ強大な存在なのだ。それにだ、このミカエラにいつ潜伏していたのだ。確か、旅禍であるなら、副官は本国に置いておくのが通例だが。まさか、主人であるゼイフォゾンを追いかけたのか?いや、そんな事はどうでもいい。あれが噂に聞く魔神なら、頼もしい味方だ。このままこの楔を強固なものにしたい」
「オメガ殿!峡谷に旗艦型の戦艦が二隻!それも両陣営から魔導巨神が降下してきます!」
「旗艦型二隻、主砲をこちらに回頭!こちらも副砲ではなく……」
「ああ、主砲回頭!ルシファーと共にこの状況を乗り切るぞ!照準を魔導巨神に固定!旗艦型の砲撃はシールドで乗り越えろ!総員、耐衝撃防御!対空警戒を厳となせ!」
「主砲回頭!一番、二番、三番、四番!仰角誤差修正!照準を魔導巨神に固定!シールド展開します!」
「撃ち方始め!」
「了解!撃ち方始め!」
ミカエラの主砲は副砲よりも砲門の数が多い。主砲の砲塔一個の威力は、従来の旗艦型の主砲の二乗したかのような威力で、その一発で従来の旗艦型の艦首にある重粒子砲撃と遜色ないという凄まじいものであった。主砲は魔導巨神に発射され、多数の魔導巨神がことごとく破壊された。魔導巨神には人間は乗っていないので、思い切り胴体を貫いた。そして爆散していく。それを見ていたルシファーは旗艦型の戦艦を認めた。そしてこれまでのように砲塔だけを潰していくのではなく、直接旗艦型の戦艦の両翼を破壊する必要があると判断した。そして、手を天に掲げて呪文を唱えた。
「孤高の神が首を傾げる……それはあまねく神のため息と共に零れた苦難か?否、恐らくは疑念、それは全ての神を冒涜する者。あまねく世界に疑念を呈する者。我に求めよ、さすれば救われん。我に投げかけろ、それは恍惚なる悩み。神に求めよ、孤高なる神に求めよ。我が手に宿るのは裁き、全き者の裁き。諸々の苦しみを抱えた命の輝き」
「受けよ……神術“混沌たる調律と安らぎの調べ”」
天候が変わった、そして辺りは暗闇に包まれた。そして旗艦型の戦艦の真上から巨大な魔法陣が出現した。その魔法陣は幾重にも重なり、その中央から光が集約され、その光が束になって旗艦型の戦艦を包み込むように照らし出し、瞬く間に旗艦型の戦艦の両翼が溶解していった。暗闇が晴れ、魔法陣が消え、二隻が墜落していくのが見えた。それを確認したオメガは、少しだけ安心したように見えた。もうこの後にやってくる部隊はいないであろう。この峡谷に攻め込むという作戦は立てないはずである。ルシファーは、ミカエラに戻った。このミカエラのロックは解除されていた。アルティスがそうしたのである。だから出入りは自由になっていた。ルシファーは神術を放った。そう、七英雄最強を自負する者と同格と呼ばれる魔界の皇帝は神術のみならず、それ以上の規模の所業ですら自由に放てるのだ。この神術は加減に加減を重ねて放っただけなので、旗艦型の戦艦は両翼だけで済んだ。その気になればこの辺りを更地にする事など容易いのだ。オメガはルシファーを出迎えた。そのオメガの表情は、畏怖していた。いや、恐怖という言葉が正しいかも知れない。それだけの力を見せつけたのだ。無理もないだろう。ルシファーは翼を閉じて、魔界の皇帝が着る羽衣を纏っていた。それだけでも、魔神とは言え、ただの魔神ではない事が分かる。オメガは、ルシファーをブリッジまで案内した。案内などなくても行けたのだが、何故か畏まっていた。それも仕方のない事だったのかも知れなかった。
「ルシファー殿、貴方は魔神だな。それも相当強い……」
「これでも魔界の皇帝なのだ。百年戦争にも参加していた」
「百年戦争にも……魔界の皇帝という事は、まさか、あの伝承にしか登場しないあのルシファーなのか」
「そういう事になる。よろしくな、オメガ艦長代理……いい指揮だった。さて、ゼイフォゾン様だが、今はどうされているのか」
「ゼイフォゾン殿はクウォルザワートに移りました。あのままゲンドラシル様のもとへ行かれるおつもりです。大丈夫です、黒竜騎士団がお守りしていますから」
「そうか……」
その頃、ゼイフォゾンたちはエアラルテの陣営に猛攻撃を受けていた。多数の魔導巨神と戦艦に囲まれながらも、黒竜騎士団がそれを駆逐していったが、何せ数が多い。ゲンドラシルの陣容が見えてきていたが、守りも堅い。このままではこちらの消耗が著しい事は確かであった。クウォルザワートは深刻なダメージは受けていなかったが、それも時間の問題だったようにも思える。ゼイフォゾンは神術で数々の戦艦を墜落させたが、それでも軍勢は減っていくようには見えなかった。カオウスは、自分の竜であるグラムを出撃させようかと迷ったが、それはエアラルテと相まみえた時に取っておくように、ゼイフォゾンから言われていたので、そうはしなかった。問題なのは、この状況をどう打開するかであった。魔導巨神が上空に魔導砲を撃ってきていた。この一発でもまともに受ければ、クウォルザワートは無事では済まない。エアラルテの陣営は細長く、そして兵站線を確保するために要所要所に拠点を立てていたので、このまま真っ直ぐ進むのは確かに自滅行為であった。それは重々承知していた。だから、ゆっくりと、こちらも魔導巨神を動かしつつ、一つ一つ制圧していく必要があった。流石は五大竜騎士団最強の黒竜騎士団である。その制圧能力は頭抜けていた。しかし、ゲンドラシルの陣営が近付くにつれて、その守りは強固になっていく。その守りを崩すのは容易ではなく、その奥に座っている山のような巨躯、灼竜王ダーインスレイヴが見えてもそれは変わりなかった。この状況をどう打開するか……それも旗艦型の戦艦が三隻も浮かんでいる。ゼイフォゾンは神術で沈めていったが、ダーインスレイヴを止める事はどうやら叶わないであろう。あの巨躯が暴れ始めたら、殺すか致命傷を与えるしか状況は変わらないであろう。そう考えているうちにゲンドラシルの陣営が迫ってきた。このゲンドラシルの私兵は、赤竜騎士団だと思われたが、実際はそうではなかった。エアラルテは、ゲンドラシルの赤竜騎士団の出撃を許さなかった。ゲンドラシルの座乗艦スレードゲルミルで赤竜騎士団は待機していた。そもそもゲンドラシルの洗脳が解ければ、反旗を翻すのは必然である。その危険性を指摘して、エアラルテは予防策として赤竜騎士団の出撃を禁止したのである。
ゼイフォゾンはクウォルザワートの甲板に出た。そして、ゲンドラシルの座乗艦スレードゲルミルに神術で移動した。その船内は間違いなくエアラルテの息のかかった私兵が蔓延していた。ゲンドラシルは半ば幽閉されている形で戦争に参加していた。ゼイフォゾンは向ってくる兵士たちを気絶させながら、白兵戦を繰り広げた。ゲンドラシルはどこか…スレードゲルミルの艦内は広く、くまなく調べるのはかなりの時間を要するであろう。クウォルザワートが沈む可能性があるので、早く見付けたい。神術でこのスレードゲルミルの艦内全体を把握し、ゲンドラシルの幽閉されている場所に走った。その間、兵士たちが向ってきたが、それらを全て気絶させた。カオウスはクウォルザワートを空ではなく、地上に降ろした。そして、空で多数の戦艦と戦うのではなく、魔導巨神を破壊するべきと判断して、邪竜王グラムを出した。そして、その圧倒的な力をもって挑んだ。魔導巨神たちは瞬く間に駆逐されていく。クウォルザワートを見失った多数の戦艦は、空を旋回していた。
「僕の読みが当たったね……それもこんなに正確に。ゲンドラシルはスレードゲルミルの艦内だ。それもブリッジにいない。度重なる洗脳で使い物にならなくなったからそうしたんだろうけど、本当に非道な事をするものだよ。エアラルテ・ミッテ・フェノッサ、僕は君を許さない。でもゼイフォゾンは殺さないのだろうけどね、僕だったら躊躇いもなく殺すけど」
「ゲンドラシルはどこだ。部屋の数は数多ある、そしてブリッジにいないのは分かっている。どこだ……この兵の数は尋常ではない。間違いなくゲンドラシルを渡す気はないのだろう。しかし、この戦艦はどこかおかしい。兵はやってくるのに、ゲンドラシルは確実にいるのに、兵の練度が低すぎる。この戦艦に執着していない。この状況は……この警報は、まさか!」
警報がスレードゲルミルの艦内に響き渡る。その警報はまさに悪魔の警報であった。そう、このスレードゲルミルは自爆するのだ。魔導炉が暴走を始める。この自爆だけは神術ではどうにもならないものだった。なので、ゼイフォゾンはスレードゲルミルの艦内を凄まじいスピードで駆け抜けた。くまなく捜索するのではなく、それらしき部屋を探した。自爆するというのに、このスレードゲルミルの艦内にいる兵士たちはゼイフォゾンを襲ってくる。その狂気とも言える状況で、ゼイフォゾンは気をおかしくせずに、冷静に、それでいて素早く行動した。この戦艦は、スレードゲルミルはもう終わりだ。この倒れている兵士たちを神術で地上に転送する事はできる。その前にゲンドラシルを救わねばならない。エアラルテは、自分の意にそぐわない者は殺すのだ。例えゲンドラシルでも。ただ、ゲンドラシルが味方になったという事実さえあれば、自分の軍の士気は上がる。そう考えているのだ。スレードゲルミルで待機していた赤竜騎士団が一斉に地上へ降下していく。警報を聞いたからである。ゼイフォゾンは急いでいた。そして、やっとゲンドラシルがいる部屋に辿り着いた。その部屋の中にはゲンドラシルの副官がいた。ゲンドラシルは洗脳状態ながらも必死に抵抗した様子で、痛めつけられていたのだった。副官の名はザーギンという、そのザーギンがゲンドラシルの拘束を取ろうと必死だった。ゲンドラシルが苦しみ、悶えていたので、その拘束を取るのには時間が掛かりそうだった。ゼイフォゾンは神剣エデンズフューリーを召喚した。そして、ゲンドラシルに向って光を当てた。その光によってゲンドラシルが大人しくなった。
ゲンドラシルに当てた光は、まさしく救いの光だった。その輝きによって、ゲンドラシルが正気を取り戻した。もう時間がない、警報が激しく響くようになった。魔導炉の暴走がより加速し、全長二千メートルあるスレードゲルミルが爆発する。ゼイフォゾンは、神術でゲンドラシルとザーギンをクウォルザワートに転移させた。そして、ゼイフォゾンはスレードゲルミルの爆発に巻き込まれた。その爆発はダイレーデンの山脈に響き渡るほどの轟音で、誰もが驚いた。
「ゼイフォゾンは……まさかあの爆発に……」
「ゲンドラシル様……」
「何故俺を助けた!ゼイフォゾンは生きていなければいけなかったのに!ザーギン、何故俺を助けた!」
「自分はゲンドラシル様の副官です!助けなければ、ゲンドラシル様もろとも、あの兵士たちも死んでおりました!あの者がいなければ、我々の命は無かったのです!」
「その通りだよ。ゲンドラシル」
「カオウス……お前がこの戦艦を指揮しているのか。ならば、黒竜騎士団も動いているのだな。何故通信なのだ?」
「今、魔導巨神たちの相手をしていてね。グラムに乗っている。この戦いで命を失う者がいないように、僕たちは戦っている。今、赤竜騎士団とも合流できたよ。君の指揮を待っているようだから、それと、クウォルザワートのブリッジに向ってくれ。君の得物がある」
「ザカルディアクレイドル……分かった!ならばそれを持ってダーインスレイヴを起こす。エアラルテの野望はここで終わらせよう」
ゲンドラシルが遂にこちら側へと傾いた。これで戦力差は、エアラルテ側の戦力と五分五分といったところである。だが、特筆すべきは、ゲンドラシルとダーインスレイヴを得た事が大きい。この組み合わせだけでも万の軍勢に匹敵するであろう。そして、この爆発に巻き込まれたゼイフォゾンは、無傷で生きていた。神術で空中に浮遊し、何ともなかった。なので、クウォルザワートに向かった。そのクウォルザワートのブリッジの艦長代理として、ゲンドラシルの副官、ザーギンが座っていた。ゼイフォゾンは思った。ゲンドラシルを味方にする事はできた。しかし、今、自分ができる事は何なのであろうか。これで自分の役目は果たせたのだ。次は何ができるだろうかと考えた。ミカエラは大丈夫な気がする、何となくだが、そう感じている。そうなれば、アルティスはどうだろうか。ゼイフォゾンは神術を使って、アルティスのもとへ行く事に決めた。今の所、元帥ギルバートの軍勢をひとりで相手にするのがアルティスである。彼なら大丈夫かも知れないが、だからと言って放置するのも危険である。元帥ギルバートの竜、覇界の大帝エクスマギアクレアが存在している。それを甘く見ていたら、アルティスであっても無事では済まないであろう。それも七英雄と同格と目されている竜である。自分が何かしないと、その圧倒的な力に絶望するかも知れない。自分の副官がルシファーだから分かるのだ。あの次元に達した者たちの力は、おおよそ人間の想像力を遥かに超越している。
アルティスはまさしく一騎当千であった。空に浮かぶ戦艦など無視して、ことごとく地上にいる魔導巨神を破壊し、兵士たちを吹き飛ばしていった。その様子を見ていたアイゼンが焦り出す。この人間が尋常ならざる者である事は明らかであった。なので、アイゼンは自分の青竜騎士団を動かし、本陣から離れた。その青竜騎士団は聖竜王ズフタフとアイゼンによって動き、強大な光の力によって統率される者たちである。つまり、黒竜騎士団と対になる騎士団なのだ。アイゼンが本陣を離れた事で、そこの部分だけ手薄になった。アルティスはそれを狙っていた。自分を狙うならそれでもいい、しかし無視してミカエラに向っていくのなら尚の事いい。この戦いはどう動いても自分の武に勝るものはない。アルティスの武は、まさしく鎧袖一触であった。陽動にはこれ以上の手はない。これだけ派手に動けば本陣も動くであろう。その正面突破は、アルティスの強さの証左であったし、軍略でもあった。手薄になった本陣に、ある影が迸った。それは女であった。ソーン・ロックハンスである。本陣に残存する兵士たちを片っ端から気絶させていった。暗殺者なのに、誰も殺さない。それは大きな矛盾であったが、それをしなければ、後に付いてくる者などいないだろう。
本陣の占領が完了したソーンは、アルティスを待った。このまま待っていれば、アルティスは直進して、やってくるだろう。第三軍のこちら側の軍略の歯車はぴったりと噛み合いだした。苦しかったが、このまま行けば、やがて光明が見えてくるであろう。その時まで、彼らは、彼らの戦いをしていた。この戦争の果てに、真の平穏があると信じて。
最後まで読んで下さり、ありがとうございます!引き続き、次話更新、お楽しみに!