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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第2章 英雄の成長
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冥王との出会い



アドマイアが天敵である理由。それは回避が不可能な点だ。回避術を極めた英雄であっても、アドマイアの広範囲攻撃は為す術がない。



更に俺にとっては最悪なのは、アドマイアの爆撃が全て物理ダメージという点だ。レベル差はあるから、一撃では死なないが、妖刀村正の『主人殺し』が発動してしまえば終わる。



一定確率で物理被ダメージが100倍になる。避けることが出来ない以上、戦闘が長引けばいずれは発動する。



ならば、一気に近づいて畳み掛けるべきだが、アドマイアは自分の周囲を円状に攻撃する手段も持っている。



更に飛行能力もあり、もし空に逃げられたらこちらの攻撃は届かず、一方的な絨毯爆撃が行われる。



魔法による攻撃はマジックキャンセラーという内蔵された装置で、ダメージ量がかなり軽減されてしまう。



とにかく早くポケットロザリオで妖刀村正を解除しなければならない。



俺がそう考えた瞬間、風のような速さでアドマイアに何かが向かっていった。



アランだ。俺よりもレベルが高いアランの速度はアドマイアの反応速度を遥かに凌駕している。



「だめだ! アラン」



俺は声を張り上げた。アランの突進は愚策だ。アドマイアは反応できなくても、自分の周りに敵が侵入した瞬間、自動的にスキルを発動する。



アランの刃がアドマイアに届きそうになる瞬間、スキルは発動される。円状に眩い電撃が放たれ、アランは吹き飛ばされる。



そして、身動きが取れなくなった。麻痺だ。アランは麻痺の完全耐性がない。アドマイアの自動発動スキル『スタントラップ』により、アランは封じられた。



『スタントラップ』はもう一度発動するまでクールタイムがある。今ならアドマイアに接近することができる。



俺はこの好機に、一気に走り出した。先に妖刀村正を解除することも考えたが、今はその数秒が惜しい。



あと少しでアドマイアに届くと思えた瞬間、アドマイアは空中に飛び上がった。足の裏や手の平からジェットを噴射し、空中に舞い上がる。



間に合わなかった。最悪の展開だ。



その時、飛び上がったアドマイアに何かが衝突し、体勢が揺れた。



ギルバートがフィンガーピストルを打ち込んでいた。



「ギルバート、あいつは状態異常が効かないから即死効果が発動しない、オリハルコンライフルで迎え撃ってくれ」



アドマイアは機械だからか、全状態異常無効だ。だからこそ、使える仲間ランキングでは常に上位にいる。



アドマイアに勝つ方法はいくらでも思いつく。しかし、問題は別にある。周囲の人々に被害を出さない方法がないことだ。



アドマイアの攻撃はほとんどが範囲攻撃、否応なしに巻き込まれてしまう。空中からの集中砲火となれば尚更だ。



ギルバートが射撃で攻撃するが、アドマイアは更に高度を上げて、高速で動き回るため、中々当たらない。



移動しながら、背中から無数の光弾を放ち、雨のように降らせてきた。



「まずい!」



避難していた子供たちにも光弾が向かっている。自分の素早さは理解している。目測で距離を把握して計算したが、俺の速さでは間に合わない。



それでも俺は動いた。何か子供たちを救う手がないかを模索する。一か八か『イリュージョン』を使って、子供たちの側に行ける可能性に賭けるしかない。そう考えた時、俺はその存在を認識した。



















「菜園で取れた茶葉を卸しにきたら、まさかこんなことになっているとは」

















いつからだろうか。いつの間にかその男はその場所にいた。



彼の周りだけ、時間がゆっくり流れているかのように錯覚する。耳によく通る落ち着いた声が聞こえた。



長い灰色の髪を後ろで縛り、丸メガネをかけ、ゆったりとしたカーディガンを羽織った初老の男。



アドマイアから放たれた無数の光弾は、空中に全て霧散していた。嘘のような静けさが場に戻る。



何が起こったのか知覚できない。



俺はその男を知っている。



「この村は契約により、魔王様に守られています」



まさかここで会うとは思わなかった。



LOLにおいて、強さが唯一未知数の男。一部の英雄からはLOL最強説が唱えられている。



しかし、ゲームでは戦うことが出来ない。彼と戦闘しようとしても、争いは嫌いだと絶対に戦闘にならない。



周りの反応からかなりの強さだと噂されるが、実際に戦ったところを誰も見たことがない。



それが現実になった今、その力の片鱗が見えた。



アドマイアは、男を脅威と認定し、再び集中砲火を浴びせようとする。



「今、この場を去るならば、逃してあげましよう」



男の声は上空にいるアドマイアの更に上から聞こえた。太陽を逆光に、男は空中で静止している。先ほどまで地面にいたのに、全く移動を認識できない。



アドマイアは振り向いて、上空に向けて腕を突き出す。



しかし、既に腕を向けた先には、既に男の姿はなかった。



伸ばされた腕をアドマイアの()()から男が掴み、軽く引く。ゆっくりした動作に思えたが、次の瞬間、アドマイアの身体は地面に打ち付けられていた。



「私はあなたに警告しています、意味が分かりますか?」



アドマイアに背中を向け、誰もいない森に向かって話しかけている。



俺は全てを理解した。アドマイアに警告しているのではない。隠れて状況を観察しているネロに警告していたのだ。



アドマイアは背中を向けた男を攻撃しようと動き出すが、すぐに静止した。そして、踵を返して離脱する。



そのまま、飛び続け、姿が見えなくなった。



ネロが撤退を判断したのだ。危機が去り、村は安堵に包まれる。



「大変な目に遭いましたね、怪我をした人はいませんか?」



男はそう言いながら魔法を展開する。中心に大きな魔法陣が広がり、優しい光が辺りに満ちる。全体完全回復魔法【フルケアオール】だ。ダメージを負った者たちが全員回復する。



更に緑色の魔法陣が現れ、また魔法が発動する。全体状態異常完全回復魔法【ハイキュアオール】。アランの麻痺もこれで回復された。



俺は今の戦いを見て、ついシミュレーションをしてしまった。無意識に、どうすれば勝つことが出来るかを考えていた。



しかし、全く手が思いつかない。もはや何が行われていたのかも分からない。ステータスが高いのかスキルの効果なのかも判断出来ない。



あのアドマイアがまるで赤子の手を捻るように倒された。そして、隠れていたネロの存在にさえ気づいていた。LOL最強説はあながち間違いではないのかもしれない。




覇王ウォルフガング、艶王アリアテーゼ、賢王プロメテウスと並ぶ、魔王軍の4人目の幹部。




















冥王ダンテ。



緑を愛する平和主義者。



そして、先代の魔王。


















「先程は子供たちを助けようとしてくれて、ありがとう」



ダンテは俺に声をかけてきた。あの時、俺が子供たちを助ける為に動こうとしたことに気づいていたようだ。隠れていたネロにも気づいたように、ダンテの周囲の情報収集能力はずば抜けている。おっとりしているように見えて、あらゆることを高速で思考しているのだろう。



「いえ、助けていただき、ありがとうございました」



俺は素直に頭を下げる。



「ああゆうところで、自然と動けるのは素晴らしいことだと、私は思う」



ゲームと同じなら、彼とは戦闘にならない。それにリンを保護してくれていると聞いた。ここは協力を得ておくべきだと判断した。



「魔王城で仲間が、リンがお世話になっています」



ダンテは少し驚いたように眉を上げた。



「なるほど……君が噂のレン君だね、リンさんからよく話は聞いているよ」



「あなたがリンを守ってくれていると聞いています」



「ええ、大切なお茶飲み友達になったからね」



俺はここで更に一歩踏み込もうとした。魔王城内部で手引きをしてもらえないか考えた。情報を得るだけでも違う。



俺が口を開けた瞬間、ダンテは困ったような顔をして言った。



「あまり欲張りすぎるのは感心しない」



優しく諭すように言う。彼の目は俺の心を全て見透かしている。俺が何を言おうとしたのか、全て見抜いていた。



「私にとって、魔王軍のみんなは家族同然だ、当然プロメテウス君もその1人に入っている、あの子はあまり人のことを思いやれないところもあるけれど、自分の目標のために多くの努力をしている」



ダンテはネロやプロメテウスとは違う。ネロもプロメテウスも頭が回る頭脳派ではあるが、彼らとは明らかに異質。



ダンテは論理ではなく、俺の心を、心理を読み取っている。だから、俺が提案する前に先手を打ってきた。



「リンさんの命は守ろう、だけどね、それ以外、私は関与出来ないよ、私はこれでも魔王軍の幹部だからね」



そう言って申し訳なさそうに会釈した。俺も慌てて返答する。



「いえ、こちらこそすみませんでした、リンのことだけ、よろしくお願いします」



「ええ、引き受けました、ところで、1つ質問していいかな?」



「はい、何ですか?」



数秒の迷いの後、ダンテは質問した。



「レン君は、争いの無い世界を作ることが可能だと思うかい?」



予想外な質問だった。もっと具体的な何かを聞いてくるとばかり思っていた。



そんな答えが分かりきっている質問をなぜするのだろうか。














「はい、出来ますよ」











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