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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第2章 英雄の成長
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依頼



俺には分かる。ネロは最果ての村に最近訪れた。



理由は簡単だ。上に積み上がっていた石板の順番が違う。



実はこの石板、アルファベットに似た文字が書いてあり、上に積まれているのから順番に並べると、ARINAという単語になる。



これはこのゲームのメインプログラマーの妻の名前らしい。本当かどうかは知らないが、随分愛妻家だったらしく、ゲーム内に妻の名前を盛り込んだ。このような隠し要素がLOLにはよくある。



だから、俺はARNIAと順番が入れ替わっている瞬間にネロの工作に気づいた。



石板は遺跡を開けた後、実は取り外しができる。取り外すと再び遺跡には入れなくなる。



だから、ネロは遺跡を開けて中をクリアした後、石板を再び外し、重なっている6枚目に戻したのだ。



しかし、詰めが甘い。上の石板まで俺が覚えているとはさすがに思っていなかったのだろう。戻す順番を変えてしまった。



問題はネロがわざわざ石板を戻したことだ。なぜ、そんなことをしたのか。それは間違いなく俺を意識している。



既に俺がネロを怪しんでいることに気づいているのだろう。それに俺がなぜかこの世界のことを熟知していることも気づいているはずだ。



俺がウォルフガングを倒したあの戦い。相手のスキルやパラメータを完全に把握していなければ、成立しない闘いだった。



ネロならそれぐらい勘づく。だから、俺が普通なら知り得ない情報を得ている可能性も考慮している。この石板のカモフラージュが何よりの証拠だ。



ネロに全て打ち明けようかとも思った。これ以上、邪魔をされるならば、いっそのこと全ての真実を曝け出すのも1つの手だ。



しかし、それは選んではならない選択肢だと本能が告げている。



この世界の住人に、この世界がゲームだと伝えることは良くない結果を招くと、俺の中の何かが警鐘を鳴らしている。



ネロは俺が本当の理由を話さなければ、知識欲が満たされず、ずっと俺に付き纏うだろう。



ここまでくれば、それは別に良いのかもしれない。俺のレベルは300を超えた。今の段階でネロは全く敵ではないし、従えている怪物狩りのメリーも相手にならない。



今回の件でプロメテウスさえ倒すことが出来れば、他に俺の脅威になる存在は数えるほどしか……いや、結構いるが、その中でネロが協力を取り付けることが出来る者は皆無と言ってよいだろう。



だから、今回プロメテウスを倒すことが出来れば放置で構わない。



ネロがプロメテウスと組んでいる以上、最悪の想定をしなければならないが、俺に出来ることはない。



こればかりは祈るしかない。見抜かれている前提で逆の行動を取れば、それが仇になる可能性もある。



ネロがどんな行動をしてくるかは完全に未知数だ。もはや、警戒しておくことしか手段がない。考えるだけ時間の無駄だろう。



「探し物は見つかりましたか?」



後ろから声をかけられ、俺ははっとして振り向いた。



腰の曲がった長い白髪の老人が俺を見据えている。最果ての村の村長だ。



「驚かせてすみません、私はアルバ、この村の村長をしています」



勝手にネロの家を漁っていた俺は気まずく視線を逸らす。アルバは穏やかな口調で言った。



「構いませんよ、ネロなら君がこの家に来ることを予期していましたから」



アルバは自分の家のように、戸棚から茶葉を取り出し、魔法で一瞬でお湯を沸かして紅茶を淹れた。独特の匂いが部屋に広がる。



「おかけ下さい、客人をもてなすのも、この村の風習です」



俺は勧められるままに、腰を下ろす。もらった紅茶を口に含む。今まで飲んだどの紅茶よりも美味しかった。



「もうお分かりなのでしょう、ネロはつい最近、この村に帰ってきました」



予想外のカミングアウトに俺は驚いた。てっきりネロは村人全員に口止めをしていたと思っていた。



「ネロは言っていました、あなたがこの村を訪れたら、僕のことを話していいと」



最初からネロは俺が気づくと悟っていた。隠しても無駄だと分かっていた。石板の順番をわざと間違えたのかもしれない。



「ネロは他に何か言っていましたか?」



俺の問いかけにアルバはゆっくりと頷く。



「ありがとう、そして、ごめんなさいと」



ネロらしい言葉だ。好奇心を満たす対象になってくれてありがとう、その知識欲で迷惑をかけてごめんなさい。



「ネロを悪く思わないでやってください、あの子は無邪気に自分の好奇心を満たすことだけを考えますが、それを後悔もしているのです」



アルバは頭を下げた。目には親が子に見せるような優しさが込められていた。



「ネロは自分の気持ちをコントロール出来ません、だから、子供の頃から上手く人と関わることが出来ず、よく1人で泣いている子供でした」



自分の好奇心を抑えることができない。それはLOLスタッフが作った設定だ。現実になった今では、ある意味呪いなのかもしれない。



「ただ彼は頭が良すぎた、すぐに私たちの里では彼の知的好奇心を満たすことが出来なくなった、彼の頭脳は呆気なく私たちが長年積み重ねてきた歴史を越えた」



天才ゆえの苦悩。ネロにとってこの生まれ育った村から、学ぶものは何もなくなった。それはネロにとって退屈という地獄だったのだろう。



「レンさん、ですね……あなたのことをネロはすごく楽しそうに話してくれました、この里でネロのあんな笑顔を見たことはありませんでした」



ネロにとって、俺は唯一好奇心を持ち続けられる相手だった。それは友人という存在に似ているのかもしれない。



「俺はネロが悪いとは思いません」



ネロも被害者なのだろう。LOLスタッフが考えた設定に従っているだけだ。



「でも、俺にはやるべきことがある」



俺は冷たい人間なのかもしれない。アルバの話を聞いても、俺の意志は変わらなかった。冷たい、利己的な人間。そう思われるかもしれない。



俺はただ、手の届く大切なものを守りたいだけだ。そのためなら、あらゆる手を駆使し、栄光への道(デイロード)を突き進む。



「ふふふ、ネロが予想した通りの返答です、構いませんよ、あの子には誰かが叱ってあげないといけない、止めてあげないといけない、私はあなたがその存在でいてくれて嬉しい、ネロは賢い、だから、自分を止めてくれる役割をあなたに求めているのかもしれません」


アルバは初めから、ネロを止めて欲しかったのだろう。自分では暴走を止められない彼を、俺に止めて欲しかった。



「私は人を見る目があります、あなたは特別な人間だ、きっと、誰も成し遂げられないようなことを成し遂げる、だから、ネロを止めることぐらい、してもらわなければ」



俺はアルバと目を合わせて一緒に笑った。



「その依頼、引き受けました、俺には不可能はないので、必ず達成します」



そう、英雄に不可能なんて存在しない。















俺はネロの家を出て、店を回ることにした。最果ての村はラストダンジョンの魔王城に一番近い村だ。田舎であるにも関わらず、店売りの品質は異常に高い。



値段も相応に高いが、俺はエルドラドのカジノで大儲けしているので、資金は十分にある。



アイテムショップに向かった。その時、俺の視界の端にある姿が映った。



それは明らかな異物だった。ここにいるはずがないものだった。























俺は咄嗟に全力で地面を蹴った。同時に爆発が起こり、爆風で吹き飛ばされる。



俺は空中で体勢を立て直しながら、その現れた人物をはっきりと視界に捕らえた。



ありえない。奴がここにいるはずがない。



青い肌に無機質な銀髪。目は何の感情もなく、ただこちらを見据えている。



腕が上がり、俺に向けられる。俺は咄嗟に【イリュージョン】を使用し、その場を逃れる。激しい爆発が発生し、移動先にも範囲が及び、俺は吹き飛ばされる。



爆発が最果ての村の村人達を巻き込む。ネロの家から出てきたアルバが悲痛な叫びを上げた。



いるはずがない。でもここにいる。俺にはその理由が分かった。グランダル王立図書館の文献、そこに記された研究施設の存在。



更なる爆風が続き、周囲を巻き込む。



それをしてはいけない。大切な家族を傷つけてはいけない。



俺は心が冷めていくのを感じた。そんな自分が死ぬほど嫌だった。



村人達が傷つき、苦しみ、俺は怒りたかった。アルバのように声を上げたかった。



でも、俺の怒りは出てきてくれなかった。この状況をいかに打破するか、生き残るか、それを冷静に考えてしまった。



自己嫌悪に浸りながらも、俺は突然現れた敵の攻略に集中していた。



使える仲間ランキングでは上位に入る高レベルキャラ。広範囲高火力攻撃を連発するしかできず、戦闘がつまらなくなる仲間。













殺戮兵器アドマイア。

















研究所に眠っている人造人間。本来、主人公が起動させなければ、眠ったままのはず。



ネロが、アドマイアを起動した。



そして、アドマイアは英雄である俺にとって、天敵となる相手だった。







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