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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第2章 英雄の成長
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信頼



俺たちは主催者側ということもあり、最前列の特等席に通される。ダインのテンションが高すぎて少し鬱陶しい。



ダインは俺たちの商業戦略にどっぷりハマり、大量のグッズで身を固めていた。



最前列には黄色いハッピを着た集団が集まっている。もちろん、ダインも装備済みだ。



彼らはマロラーと呼ばれるマロンちゃんの熱狂的なファン達だ。マロラー達には厳しいマナールールがあり、マナー違反をした人間への当たりはとてつもなく厳しい。



そして、いよいよ始まりの時を迎える。



ステージの上にスポットライトがあたり、そこに魔法協会総帥レスターシアが立っていた。レスターシアは白く長い髪を持つ理知的な女性だ。真面目で一生懸命、気が弱く、魔法教会総帥として精一杯職務は全うしている。



「えー、本日はお日柄もよく……」



まるで校長先生のような堅苦しい挨拶が始まる。マロンちゃんはまだかと、早くしろと観客からプレッシャーがかかっているが、レスターシアは全く気づいていない。



俺はレスターシアを少し不憫に思った。急にいなくなったソラリスの代わりに、魔法協会をまとめあげようと精一杯努力しているが、常にソラリスと比較され、辛い役回りをしている。



空気が読めるインテリ代表、レイモンドがさっとレスターシアに近づき、耳打ちする。



「えー、とにかく楽しんじゃって下さい! 以上!」



脈絡もなく、演説を終わらせる。魔法協会の先が少し思いやられる。



ライトが消灯し、大量のスモークがステージの上に発生する。その演出に観客のテンションは高まって行く。



「みんな! 今日は思いっ〜きり、楽しもうね!」



マイクで拡張された可愛らしい声が会場に響き渡る。耳をつんざくほどの歓声が上がる。



スポットライトがステージの一箇所に集中する。そこには黄色いフリフリの衣装を着たマロンちゃんの姿があった。



クリコの時とは違い、バッチリメイクを決め、髪型もツインテールにし、正真正銘の美少女だった。



ダインは涙を流しながら、マロンちゃんに声援を送っている。大の男がボロボロ泣いているのを見て、俺は若干顔を引きつらせた。



「みんな、今日は急な出張ライブなのに、私のために集まってくれて、ありがと〜!」



可愛い仕草でかつダイナミックに手を振る。全身から可愛らしさが滲み出ている。



「じゃあ、1曲目、テンションアゲアゲのあの曲、行っちゃうよ〜!」



イントロが始まる。アップテンポで陽気な音楽が流れ始める。



「行くよ、みんな! モンブランパレードだぁ!」



へい!へい!へい!へい!とマロラーを中心に決められた掛け声が始まる。みんな黄色いペンライトを装備している。



俺は肩を軽く回した。仕方がない。ここまで来たら、俺も本気を出さざるを得ない。



両手に2本のペンライトを握りしめる。上着を脱ぎ、下に着ていた黄色いハッピを風にたなびかせる。



俺は決してマロラーではない。ファンでもない。しかし、当然ながら、全10曲しかないマロンちゃんの楽曲の全ての歌詞を覚えているし、振り付けも完全に頭に入っている。



まあこのくらいは少しでもゲームを嗜む一般人なら、みんな出来ていることだと思うので何の自慢にもならないが。



男には行かなければならない時がある。今がその時だ。俺はダインもいる黄色い集団に突っ込んだ。



「モンパレ、モンパレ、huuu!」



_________________________









ライブは大成功で終わった。ガルシアも予想以上の売り上げに大満足だった。その後、皆で打ち上げも兼ねて食事をした。



ユキはなぜか髪型をマロンちゃんのようにツインテールにして、俺のことをチラチラ見てくる。



さすがにこうゆう所に敏感な俺は、ユキの真意に気づける。



ユキもマロンちゃんのファンになったのだろう。現代でも女性でアイドル好きな人は結構いた。きっと真似してみたくなったのだろう。



ユキは長いこと封印されていたから、こうゆう娯楽は初めてだろうし、刺激的だったのかもしれない。



ユキというか、容姿はメアリーなんだが、ちょっとまだ年齢的に幼いが、マロンちゃんと一緒にアイドルデビューも出来るくらい可愛い。



偶然かもしれないが、俺が近くにいるときはユキで、ギルバートといる時はメアリーの時が多い気がする。どのタイミングで変わるかは、あの2人の中で何か取り決めがあるのかもしれない。



ダインは右手を見て、ずっとニヤニヤしている。最後に俺がマロンちゃんに頼んでいた通り、ダインに特別に握手してもらった。



マロンちゃんはダインのことを知っていたが、そこは完璧なプロの仕事だった。アイドルのファンサービスの姿勢を崩さなかった。



きっとダインは2度と手を洗わないだろう。



これでダインは『鍛治の極み』を取得した。なぜマロンちゃんの握手で取得するのか意味不明だが、ゲームのイベント通りだ。



明日、早速オリハルコンを打ってもらおう。



準備は全て順調に行っている。いよいよ、決行は近い。だが、最後に話をしておく必要がある。



俺は打ち上げ会場から1人抜けて、人気のない公園まで移動した。小高い丘にあり、エルドラド特有の夜景が煌めいていた。



俺は懐から黒い水晶を取り出し、魔力を込めた。ここでプロメテウスと話をしなければならない。



しばらくして、水晶から声が聞こえた。



「やあ、準備は順調ですか?」



「ああ、予定通りにいっている、リンは無事だろうな? プロメテウス」



「もちろん、大切な人質ですから、それより私に通信をしてきたということは何か頼みがあるのではないですか?」



そう、プロメテウスの言う通りだ。彼に協力を取り付ける必要がある。



「アリアテーゼを殺せる準備は整った、明日、魔王城に向かう、そこで俺に手伝ってほしい」



「表立った援助は出来ません、アリアに気づかれて、私が手引きしたとバレるわけにはいきませんからね」



「そんな大きなことじゃない、まずはアリアテーゼの居場所を教えてほしい」



俺は既にアリアテーゼがいつもどこにいるのかを知っている。だが、ここはあえて聞いておくべきだ。プロメテウスに何故俺がその情報を持っているのか疑われたくない。



「魔王城の北西の角部屋です」



魔王城の四隅には4人の幹部の部屋がある。アリアテーゼは北西に部屋を持つ。



「分かった、それと魔王城の入り口を開いておいてくれないか? もし門番もいるなら、通すようにしてほしい」



「……入り口の鍵は開けておきましょう、ただ門番はそのままです、その雑魚すら倒せないようでは、アリアは殺せないでしょう?」



出来れば楽をしたかったが、仕方がない。鍵だけでも開けてくれるなら、十分だ。もしそれも断られたら、本格的にアルデバラン迷宮を攻略して鍵を手に入れる必要があった。



「俺はアリアテーゼを殺せる準備はした、だから本当に殺した後、リンを無事に返してくれる保証が欲しい」



「ふふふ、優位に立っているのはこちらですよ、譲歩はしません、君が本当にアリアを殺したことが確認できたら、人質は解放することは約束しましょう」



「アリアテーゼを倒すためにリンの協力が必要だ、魔王城にいるのなら、共に戦いたい」



「笑わせないでください、人質を返したら、君がアリアを殺す理由がなくなります、それにあの程度のお嬢さんの力でアリアをどうこうできるとは思えません、もし彼女がいないと倒せないなら、他の方法を探しなさい」



「……じゃあ、最後に、リンと話をさせてほしい」



「ええ、構いませんよ、どうぞ話してください」



プロメテウスに要求が通らないことは承知の上だ。ダメ元で言ってみたが、やはり奴はその点に緩みはない。



しばらくして、リンの声が聞こえた。



「レン?」



「ああ、そっちは大丈夫か?」



「こっちは結構快適、ドラちゃんと仲良くなって、毎日組手してトレーニングしてるから、最近はドラちゃんの攻撃、全て回避出来るようになったよ」



俺はつい日本の国民的キャラクターを思い浮かべたが、すぐにドラちゃんが誰か分かった。あの沸点の低い不良だろう。リンは本当に脳筋と仲良くなる才能がある。



それにしてもドラクロワは魔王軍幹部には大きく劣るが、かなり高レベルだ。経験値を稼げないリンは素早さを上げることが出来ないことを考えると、あのドラクロワの攻撃を全て回避できるというのはかなりの成長だ。



「それにね、温室のおじさんが優しくしてくれる」



俺は思わず口元を緩めた。あの男ならプロメテウスへの抑止力となる。奴も簡単にリンを殺さない。この後の賭けが成功する確率が上がった。



「リン、もうすぐ助けにいくから、待っててくれ」



「私は何の心配もしてない、レンに不可能はないって知ってるから」



そう、俺に不可能はない。不可能なんてねじ曲げて、俺の望む結果へ持っていく。



リンの信頼がありがたかった。あとはいつも通り、栄光への道(デイロード)を突き進むだけだ。





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