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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第2章 英雄の成長
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プロデュース



翌日、俺はエルドラドでカジノの景品やショップでアイテムを揃えて、ギルバートたちの到着を待った。一緒についてきたアランは金使いが荒く、高級品をガバガバ買っては高笑いしながら、モヒカンに荷物運びをさせている。いつか破産する未来しか見えない。



そして、ついにギルバート達が到着した。魔法陣が広がり、町の中心に彼らが現れる。



俺はちょうど広場で買い物をしていたので、すぐに気づくことができた。そして、現れた面子を見てギルバートが上手くやってくれたのだと確信した。このタイミングで到着出来たということは、マーカスも約束通り地竜を派遣してくれたのだろう。



「よう、レンの旦那、約束通りに到着したぜ」



「レン、言われたことは全てこなしたわ」



ギルバートとユキが俺を見つけて声をかける。今はメアリーではなくユキのようだ。美しい白い髪が陽光の下で煌めいている。



「ありがとう、2人とも」



俺は感謝した。これで勝率が大幅に上がる。



「お、ギルじゃねぇか!?」



いきなりアランが大きな声を出した。ギルバートもアランに気づき、右手を上げた。



「アラン、久しぶりだな」



2人は旧友のようだった。話によると、ある街でアラン一味が居酒屋を占拠して酒盛りしているときに偶然居合わせて、意気投合したらしい。ギルバートは本当に誰とでも打ち解けるのが早い。



ふと、手に冷たい感触がした。ユキがなぜかさりげなく、俺の手を握っていた。



「ん? どうかしたのか? ユキ」



ユキは白い肌を少し赤らめて、ぱっと手を離した。



「何でもないわ、何となく握ってみただけよ」



俺は納得した。さすがに今のユキの様子を見れば、いくら鈍い俺でも気づく。俺はそうゆうところは鋭い自覚がある。



間違いなく、ユキは冷え性だ。



ただでさえ、膨大な冷気の魔力を身体に秘めている。さっきの手もとても冷たかった。きっと手先が寒くて、温めたかったのだろう。だから、俺の手を握った。



あとで手袋を買うことに決めた。きっと喜んでくれるに違いない。



そして、俺はギルバートが連れてきた仲間に声をかけた。



俺の戦力を上げるのに必要不可欠な人物。彼を連れてこれるかどうかが今回の作戦の成否を分ける。



グランダル王国を代表する一流の鍛治師。鉄火のダインだ。



「おう、同志よ、お前が俺の剣を必要としていると聞いてな、出張サービスだ、それにあまりお目にかかれない材料を提供してくれるんだろ」



「ありがとう、ダイン、お前にしかこの材料は使いこなせない」



俺はカバンからある鉱石を取り出す。アルデバラン迷宮、ブラッドアーマーのレアドロップ。ドロップ率が極めて低いため、これを手に入れるためにかなりの長い時間、ブラッドアーマー狩りを行うのは、英雄ならみんなが通った道だ。



ファンタジーで最も知られた金属、オリハルコン。



ダインはオリハルコンを手にして、しげしげと観察した。表情には驚愕が張り付いていた。



「信じられん……まさか……伝説の金属、オリハルコン、生きている内に目にすることになるとは」



ちなみに俺はモンスターハウスレベリングを周回していたので、オリハルコンを大量に手に入れているが、黙っておく。



これで俺は剣を打ってもらう。斬鉄剣だけでは火力不足だ。俺が最も得意とするスタイル、片手剣二刀流がここでついに完成する。



『剣の極み』による底上げで、俺の二刀流は段違いの威力になる。ゲーム時代、最終でも使い続けた俺のスタイルだ。



「……その……同志よ、言いづらいのだが、こいつは俺でも扱えん」



ダインが申し訳なさそうに言う。もちろん、それも折り込み済みだ。今のダインではオリハルコンを扱えない。



「大丈夫、ダイン、これを打てるようになる」



俺はその鍵となるもう1人に視線を向けた。その小柄な少女は俺の視線におどおどとしていた。



「こんにちは、クリコちゃん」



グランダル城下町の定食屋イガグリ亭の娘、クリコだ。クリコを連れてこれるかどうかが鍵だった。



そもそも、このエルドラドにクリコを連れて来るイベントがある。その既定路線に沿ったので、上手く行くとは思っていたが、それをプレイヤーではないギルバートに頼んだので少し不安だった。



無事にここに来てくれて良かった。クリコの目は完全に栗色の前髪に隠されていて、表情が読めない。



「あ……あの、あなたは」



「俺のことはレンPと呼んでくれ!」



クリコは目を白黒させている。そんなクリコを見て、ダインが言う。



「お嬢さん、ちょっとは社交的になった方がいいぞ、そんなんじゃ恋人もできねぇぞ」



彼女に恋人が出来たら、きっとダインは生きていられない。一緒にここまで来たのに、全く気づいていないらしい。



定食屋の看板娘、地味なクリコの本当の姿は、グランダル王国トップアイドル、マロンちゃんだ。俺はプロデューサーとして、今回の出張ライブを成功させる。



「よし、クリコ、もう話は通してある行くぞ」



俺はクリコの手を掴み、引っ張っていく。手を掴んだ瞬間、なぜかユキが変な声を上げたが理由が分からない。冷え性だから羨ましかったのだろうか。



クリコはあわあわしながら、ただ引っ張られて付いてくる。まずはカジノに到着し、ガルシアに会いに行く。



ガルシアは胡乱げな眼差しで、クリコを見つめる。クリコはその視線に余計に萎縮していた。



「おい、こいつが本当にアイドルなのか?」



「もちろん、グランダル王国で凄まじい人気を誇るアイドルだ」



「あ、あの……なんで私の正体を知ってるんですか?」



「ふむ、 まあお前が言うのなら信じよう、一応、会場は用意した、かなり大きなハコだ、だな、事前告知がないから当日券のみだ」



「急に言い出したのは、こちらだからな、それは仕方ない」



「あ、あのー、なぜ私の正体が……」



「それで……本当にハコを埋められるのか、収益が上げられないでは済まないぞ」



「問題ないよ、一応、このあと大々的に宣伝する、魔法協会の協力も取り付けている」



「ああ、なるほど、レイモンドか、それなら納得だ」



「あの……私の話を聞いてくだ」



「この後すぐに音響、演出、衣装担当と打ち合わせをしたい、早い段階でリハをしないといけないからな」



「それなら全員待機させている、演出なんだが、せっかく魔法協会が協力してくれるんだ、魔法で花火でも打ち上げてもらえるようレイモンドに頼んでくれないか?」



「わかった、そこは俺に任せてくれ、グッズの準備はガルシアに任せる」



「引き受けよう、私は君がとても嫌いだが……ビジネスパートナーとしては良い関係になれそうだ」



「ああ、このライブ、必ず成功させよう」



「……ぐすん、もう何でもいいです……がんばります」



俺はガルシアと握手を交わした。



その後、俺は打ち合わせをしたり、魔法協会に行ったり、奔走した。レイモンドが大々的に宣伝に協力をしてくれた。



ちゃっかりスポンサーは魔法協会であることを全面的に推している。魔法協会はトップがソラリスからレスターシアに変わってから、落ち目となっている。



会員数も年々減っているので、レイモンドとしてはここから挽回を図りたいのだろう。



レスターシアは完全に貧乏くじを引いている。ソラリスのカリスマが凄まじく、能力が高すぎたせいで、嫌でも比較されてしまう。



今回レスターシアも魔法協会総帥として挨拶することになっていた。



そして、準備は進み、エルドラドの街はお祭りムード一色に染まる。露店など多数並び、人々は楽しげに盛り上がる。元々カジノの町だ。こうゆうイベントは皆大好きなんだろう。



「おおおおおおお!!ま、まさか!偶然訪れたエルドラドでマロンちゃんライブがあるなんて!!こ、これは運命だ、もうマロンちゃんと結婚するしかないんだ!」



何かむさ苦しい鍛冶屋の親父が、街中で叫んでいる。俺は知り合いと思われないように距離を置いた。



リンが捕らわれているのに、こんなお祭りを開いて申し訳ない気持ちはある。しかし、これは彼女のために必要だった。



ダインにオリハルコンを打たせるためには、彼に『鍛治の極み』を覚えさせないとならない。それにはこの固有イベントが必要だ。



日が沈み、時間が近づいていく。



人の流れが生まれ始める。向かう先はライブが行われるエルドラドステージ。



俺たちもその流れにそって、列に並んだ。



グランダル王国トップアイドル、マロンちゃんのエルドラド出張ライブがまもなく開演する。







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― 新着の感想 ―
[良い点] 楽しく拝見させて頂いております。良い作品に出会えて幸せです、ありがとうございます [気になる点] 度々見かける「こうゆうこと」は正しくは「こういうこと」です。意図的なアクセントかなとも思い…
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