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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第2章 英雄の成長
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モンスターハウス




部屋には霧が満ちていた。



大量のモンスターは現れた瞬間、一斉に青い粒子になって消えて行く。残されたのはナイトメアだけになった。



ナイトメアは一斉に動き出したが、すぐに青い粒子となり、部屋にモンスターはいなくなった。














「俺は……夢でも見てるのか」



アランは絶望的な状況から、数秒で全モンスターが消え去った現実を受け止められなかったようだ。



「夢じゃないよ、 全部、俺が今倒した」



俺が告げると、アランは機械のように首を回して俺を見た。そして、口をパクパクとさせるが、言葉が出てきていない。



俺も失敗しないかとヒヤヒヤしていたが、無事に成功して安堵した。そして、先ほどの攻撃をもう一度思い出した。





_____________________



落下し始めた瞬間、最大MPの100%を使用して、『霧雨』を発動する。これは霧の秘術書によって『濃霧』と共に会得したスキル。辺りに霧が広がっていく。攻撃が全体攻撃に変化する。



ポーションを頭上に投げる。落下しながらだが、力加減はどのくらいか良いのか身体が理解している。



次に『剛殺剣』の発動をした。落下しながら俺の身体は溜めのモーションに入る。



部屋の中央に着地をし、床の魔法陣が光り始める。



既に落ちる前からアランにかけてもらっていた『ブレイブ』がちょうど30秒経ち、効果が発揮される。



タイミングを合わせたので、『剛殺斬』が発動するまであと2秒ある。



俺は『ドッペル』を使用する。本来、『剛殺斬』発動中に他のスキルは使えないが、ブレイブの効果によりこの5秒間は併用が出来る。



最大HPの100%のダメージを受ける代わりに、ダメージ量が8倍になる『絶命斬り』を発動。絶命斬りのモーションに入る。攻撃が完了するまで1秒かかる。



その1秒で道化師のスキル『ジャグリング』を発動。絶命斬りのモーションがキャンセルされ、お手玉を始める。



同時に魔法陣から大量のモンスターが出現する。



0秒。モーションはキャンセルされても効果は発揮される。ずっと溜めていた『剛殺斬』と『絶命斬り』のタイミングが完璧に重なる。



『狂戦士の怒り』による攻撃力底上げに、『ブレイブ』の効果でそれが2倍。『ドッペル』による分身で更に2倍。残念ながらブラッドアーマー対策で神兵の腕輪を装備しているので、狂乱状態による2倍の恩恵はつけられない。



そして、その高められた攻撃力で、斬鉄剣の『貫通攻撃』により防御力無視。『剛殺斬』による特大ダメージが『絶命斬り』によりダメージ量8倍。



俺が斬鉄剣を振り抜くと同時に、『霧雨』の効果で、その一振りが全体攻撃に変わり、部屋にいる全モンスターに広がる。



既に俺の攻撃は落下前に『魔法剣』で火属性に変わっている。今は、凍土の腕輪を外しているので、普通のダメージが与えられる。



アークメイジやブラッドアーマーなどの魔法耐性がないモンスターはその壮絶なダメージに一撃で消える。デスラビットも『魔法ダメージ半減』を持っているが、半減したらところで、『絶命斬り』の8倍には焼け石に水だ。青い粒子になって消えて行く。



唯一残るのは一部のナイトメアだ。火属性が弱点のナイトメアは全て今の攻撃で倒せている。火属性以外の弱点を持つナイトメアは健在だ。



落下してきたポーションが俺にぶつかった瞬間、移動スキルのバックステップで『ジャグリング』のモーションをキャンセル。自由に動ける一瞬で凍土の腕輪を装備するのと、頭上にポーションを投げるのを同時に行う。



ギリギリ『ブレイブ』が切れるまでに間に合う。『絶命斬り』を発動し、即座に『ジャグリング』でモーションをキャンセル。効果が発揮され、『霧雨』の効果で全体攻撃となる。



凍土の腕輪により、火属性は今度はマイナスになっている。今残っているナイトメアは全員火属性が弱点ではないので、通常ダメージを十分に与えられる。



俺の一撃で、残りのナイトメアは一掃され、全モンスターが消え去った。俺の肩にポーションが当たり、回復する。



そして、『ジャグリング』が終わり、俺の一連のコンボは完了した。



これは俺の所属していたブレイブ新技考案会で開発された有名な技の応用だ。



同時にスキルを使用できるので、『絶命斬り』の後『ジャグリング』でモーションをキャンセルし、『絶命斬り』発動後にポーションで回復することで、セルフで『お手玉エスケープ』を行うことができる。



その名も『スーサイドアタック』。ノーリスクで『絶命斬り』を発動できる優秀な技だ。



今の一瞬で俺に莫大な経験値が流れ込んだ。俺の目的は初めからこのモンスターハウスだった。



ここにたどり着くために、デスラビットやナイトメア、ブラッドアーマーと戦ったが、あの程度のレベルアップスピードでは足りない。



ゲーム時代からこのトラップを利用したレベリングの案はあった。しかし、実現しなかった。



それは『霧雨』が必要不可欠だからだ。



『霧雨』を手に入れるためには、霧の秘術書が必要となり、そのためには魔王城でプロメテウスを倒さないとならない。



そもそもプロメテウスを倒せるレベルがあれば、このアルデバラン迷宮でのレベリングは補正がかかってしまい、効率が一気に悪くなる。



だから、現実世界になり、霧の秘術書を早い段階で手に入れたことで、俺の頭にはこのレベリングがあった。



そして、このレベリングにはもう一つのメリットがある。



「よし! ドロップアイテムを拾おう!」



これだけ大量なモンスターがいれば、ドロップアイテムもかなりの量になる。だから、俺達3人は床に散らばったアイテムの回収を始めた。



魔王城の前哨戦となるアルデバラン迷宮だ。ドロップアイテムの価値もかなり高い。



しかもこれだけの数がいれば、レアドロップの可能性も上がる。



「お前は一体何者なんだ?」



アランはアイテムを拾いながら落ち着いてきたのか、俺に質問した。



「俺はただのプレイヤーだよ」



「プレイヤー?」



「ああ、この世界じゃ分からないか、えーと、俺のいた世界では英雄と呼ばれていたかな」



だいぶ辞書での意味とは違うが、英雄とは呼ばれるメンバーの1人に違いはない。



「英雄か、何だかてめぇなら魔王軍幹部でもあっさり倒しそうな気がしてきた」



光栄な評価だ。アランは実際に若い頃に魔王軍ウォルフガングと戦ったことがある。



「ああ、もちろん出来るよ、俺に不可能はない」



俺達は会話を続けながら、全てのアイテムを集め、壁に現れた梯子で上に戻った。



俺はエクストラポーションを自分でも飲み、アランにも渡す。



「おう、ありがとう、じゃあ先に進むか」



「えっ、いや、進まないよ」



「ん?じゃあ、もう帰るのか?」



俺は驚いていた。リンもそうだったが、やはりゲームのキャラクターと現実世界の人間とでは考え方に違いがあるらしい。



現実世界で暮らす人間なら、ここで先に進むことや帰るなんて発想は誰も持たないはずだ。



「いや、2セット目に行く」



「は?」



俺は呆けるアランを無視して、またファイアーボールで自爆して吹き飛ぶ。そして、エクストラマナポーションで今のファイアボール分を回復させる。



そして、再度石版の操作を始めた。



「アラン、早くブレイブかけて」



「お、おう」



俺は取り残されているアランに声をかける。アランは何か釈然としない顔のまま、ブレイブを発動した。









レベリングとは効率が全てだ。



経験値÷時間の効率を上げ、それを長時間行うことがレベリングの基本であり、極意だ。



出来る限り高い経験値を短い時間で手に入れる。この作業を何度も繰り返せることが最強のレベリング。



本来、モンスターが再ポップするには長い時間がかかる。だから、分裂するブルースライムや、召喚されるシャドウアサシンなどで今までレベリングしてきた。



そして、今回の『モンスターハウスレベリング』は再ポップは関係なく、トラップがもう一度発動すれば、魔法陣により、すぐに復活する。



これが俺が編み出した最強のレベリングだ。何十回でもこれを繰り返すつもりだ。



さあ、鬼レベリングを始めよう。







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