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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第2章 英雄の成長
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ナイトメア討伐



俺はブラッドアーマーの剣戟を避けながら、その巨体を利用してナイトメアの猛攻を凌ぐ。



ブラッドアーマーは典型的な物理タイプのモンスターだ。攻撃力が高く、基本一撃死する。防御力の方がもっと高く、対策をしなければダメージを与えることすら出来ない。



更に『呪い返し』というスキルがあり、ブラッドアーマーに物理でも魔法でも攻撃を加えるとランダムで状態異常にかかってしまう。即死が選ばれることも多く、攻撃して防御力を超えられず0ダメージで、こちらが即死するなんてことはよく起こる。



しかし、俺にとってはこのダンジョンで一番戦いやすい敵だ。まず斬鉄剣を持つ俺は防御力を無視できる。それに神兵の腕輪によって状態異常は無効化できる。



素早さも低いので、俺にとってはただモーションが大きく、回避しやすいだけの敵だ。



やはり最大の問題はナイトメアだ。ナイトメアは縦横無尽に変形し、攻撃の手を一切緩めない。



今も細い棘のように先端が伸びてくる攻撃と同時に爆弾のように弾けて細かいかけらを浴びせてくる。



身体が勝手に動き出している。少しずつ全盛期の回避術を取り戻しつつあることが分かった。



視界の端に弓矢となったナイトメアが見える。俺は次の攻撃を予想して、身体を操る。分身した他のナイトメアは剣と斧になっている。剣は死角にあるが、風を切る音で距離が掴める。剣の攻撃モーションは頭に入っている。見なくてもどのように攻撃しているのかは分かる。



脳内で膨大な情報を処理していく。流れるように動きながら、一瞬先の未来を完璧な精度で予測する。



目まぐるしく変化する戦況を一瞬で理解し、最善手を打ち続ける。



そして、俺は部屋の奥にある宝箱にたどり着いた。



開けた瞬間、槍に変化したナイトメアに背中を狙われ、辛うじて回避する。離れながら斬鉄剣の先で宝箱の中の腕輪をひっかけ、空中に飛ばす。



そのまま、壁に向かい転がる。散弾銃となったナイトメアの銃弾を避け、俺が移動していた先を狙っていたハンマーを壁を蹴り上げることで回避する。



壁走りの要領で、空中に飛び出し、宙を舞う腕輪を掴む。同時に自分自身にファイアーボールを放ち、吹き飛ばされることで空中で方向を変える。先程まで俺がいた空中を無数のナイフが貫いていた。



爆風に吹き飛ばされながら、俺は声を張り上げる。



「アラン!」



俺の喉元で刀となったナイトメアが止まった。間に合った。



俺はゆっくりと立ち上がり、動かないナイトメアを見る。『ドッペル』を使用し、分身して刀となって空中に静止するナイトメアを斬鉄剣でひたすら打ち付けた。



すぐにナイトメアはひび割れ、青い粒子になって消えていった。ダイアログにより、レベルが4も一気に上がったことが分かった。



俺はほっとして、神兵の腕輪を装備し、新しく手に入れた腕輪は外す。そして今度はのそのそ歩いてくるブラッドアーマーを攻撃する。最大HPもある程度高いが、すぐに青い粒子になって消えて行く。またレベルが上がった。



俺は敵がいなくなったのを確認し、地面に座り込んだ。さすがに今回は疲れた。アランが駆け寄ってくる。



「すげえな……あのクリスタルみたいな奴の攻撃、あれを全部避けきるなんて人間業じゃない」



アランは惜しみない賞賛をしてくれたが、彼は俺がこの戦いで何をしていたのか半分も理解はしていないだろう。



俺は右手に嵌っている腕輪を見つめた。アルデバラン迷宮の宝箱にあるのだから、かなり効果が良い装備だ。



凍土の腕輪。氷属性の攻撃力を3倍にする代わりに火属性の攻撃力をマイナスにする。



エルドラドでの無勝神話のためにもよく使われる装備だ。もちろん、正規の使い方として、氷属性が使える魔法使いキャラに装備させれば、威力が跳ね上がる。



このシリーズは全属性が揃っている。たとえば、灼熱の腕輪は火属性3倍の氷属性マイナス、暴風の腕輪は風属性3倍、土属性マイナスだ。



その中でも、凍土の腕輪が一番手に入りやすいので、重宝されている。



俺はこの腕輪を空中で装備して、ファイアーボールで自爆した。身動きの取れない空中で回避するための方法でもあったが、同時に『魔法剣』を発動し、俺の攻撃を火属性に変えた。



そして、アランに合図をして、ナイトメアに『ブレイブ』を使用してもらう。これで30秒間、ナイトメアは動けなくなる。



あとはただ普通に攻撃すれば良い。凍土の腕輪さえ手に入れば、5秒のフィーバータイムになる前にナイトメアを倒せる。



凍土の腕輪の効果で、俺が火属性の攻撃をすると攻撃力がマイナスになっているため、ダメージ分相手が回復をしてしまう。しかし、ナイトメアは属性吸収のスキルがある。



つまり、火属性ダメージを吸収するナイトメアに、マイナスの火属性ダメージを与えることで、マイナスのマイナスとなり、通常のダメージを与えることが可能になるのだ。説明がややこしい。



終盤のダンジョンになると、吸収の敵が増えてくる。だから、この属性ダメージを特殊な装備でマイナスにして、吸収のスキルを持つ敵にダメージを与えることは必須のテクニックの1つだ。



問題は初めの弱点属性が火属性だった時だ。その場合、普通にナイトメアを回復させて終わりとなる。しかし、その点も大丈夫だとは思っていた。



弱点属性が火属性で回復しても、ナイトメアは弱点属性で攻撃を受けたと認識するので、すぐに『シフトチェンジ』で弱点属性を変えてくる。



『ブレイブ』はあくまで移動出来なくなるだけなので、その場で発動するスキルは普通に行われる。あとは弱点属性が火属性ではなくなった後に攻撃すれば良い。



これが俺がナイトメアを倒すことが出来たカラクリだ。凍土の腕輪さえ手に入れば、今後ナイトメアを倒せるようになる。



あとこのダンジョンに出てくる他の敵はアークメイジだけだ。ボロボロの赤いローブをまとった骸骨だ。骨の指に悪趣味な宝石をいっぱい着けている。



魔法使いタイプであり、上級魔法を使用してくる。魔法攻撃力がかなり高いので、属性対策しておかないと、発動したら最後、一撃死する。



更に回復魔法も使用でき、【フルケア】で全回復してくる。魔法防御が異常に高く、【マジックバリア】を使われると魔法でのダメージを与えられなくなる。【フィジカルリフレクション】も使用してくる。これらのバフで他のモンスターを強化されたら、かなり厳しくなる。



広範囲の魔法攻撃を使ってくるため、回避など意味がない。幸いHPは低めなので、魔法発動前に倒せば問題ない。そのため、物理遠距離攻撃は必須だ。もし離れた位置にアークメイジが現れてしまえば、接近する前に魔法を発動されて全滅する。



つまり見かけた瞬間に殺さないと詰む。そして、複数離れた位置に出現されたら詰む。この辺りはもはや運でしかない。



まあソラリスやアリアテーゼ、ネロなどの魔法防御が頭抜けているキャラに【マジックバリア】を張らせれば、全滅はしないので、対応の仕方はいろいろある。準備さえ怠らなければ、LOLの中では特に強敵ではない。高火力の遠距離物理手段がない今、俺が出くわせば死が確定するが。



俺は通路を進み、祭壇のような場所に出る。中央には石板のパネルが設置されている。よくある謎解きギミックの1つだ。



このアルデバラン迷宮にはいくつかこのようなギミックがあり、失敗した時のトラップも多い。全て致死率が極めて高いトラップだが、俺は全てクリア方法を知っているので問題ない。



「おい、このパズルみたいなの解けるのか?」



「まあね、簡単だよ」



俺達3人は中央の石版のもとへ向かう。太陽や月などのマークが書かれた石版を正しい位置に動かせば良い。実はヒントとして、謎めいた言葉の書いた石碑があちこちにあるが、答えを知っているので読む必要はない。



俺はパズルを解く前に準備を始める。ポチやアランにも指示を出しておく。アランはなぜこのタイミングでそんな指示を出すのか分からないみたいだが、了承してくれた。



俺もファイアーボールを自分に当てて吹き飛んだり、エクストラマナポーションを飲んで、先程のファイアーボール分を回復したり、準備を進める。



そして、準備が完了し、石版を記憶を頼りに配置する。すぐに赤い禍々しい光が石版から放たれ、地響きが起こる。



「おい、何か間違えたみたいな雰囲気に感じるんだが……」



床の魔法陣が赤く光り出し、そして、床がなくなった。俺たちは暗い空間に落下していく。



「馬鹿!てめぇ、間違えやがったな!」



アランは手を俺に向けたまま、落下しながらキレていた。



俺達は地面に着地する。ろうそくの青い炎が灯り出し、辺りの全貌が見えた。広い正方形の部屋の真ん中に俺たちはいた。



床に書かれた魔法陣が発動する。そして、トラップは発動した。



「おいおい……まじかよ、これは……」



アランは信じられない光景に言葉を失っていた。視界には、数も分からないほどの大量のモンスターがいた。



デスラビット、ナイトメア、ブラッドアーマー、アークメイジ、1匹でも軽く死ねるモンスターが所狭しと大量に並び、360度囲まれている。



俺はこのトラップ、俗に言うモンスターハウスにかかった。そして、こいつらを全員倒さないと、この部屋から出られない仕組みだ。



絶望という言葉も生ぬるい無理ゲーが、俺たちを包囲していた。




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