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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第2章 英雄の成長
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可愛いうさぎの倒し方



カジノの一件が終わった次の日、レイモンドの手配してくれた高級ホテルで泊まった俺たちは朝早く街へ出た。



エルドラドで必要な買い物を済ませ、出発した。エルドラドを出て、地竜に乗って草原を駆け抜ける。リュウは俺を乗せられたことが嬉しいのか、上機嫌な鳴き声を上げていた。



アランは付いて来ようとする部下達に厳しく怒鳴っていた。お前らみたいな雑魚は邪魔なだけだと。それは本心だとは思うが、部下の命を守りたいという優しさも垣間見えた。



俺は計画を思い返す。ここまでは順調に来た。ここからが一番の正念場だ。アルデバラン迷宮で一歩間違えれば、俺は死ぬ。一瞬たりとも油断できない。



30分ほど走ったところで、大きな川に着く。その川に沿って川上へと地竜を走らせる。しばらく進むと傾斜が急になり、地竜では進めなくなる。



俺たちは地竜を降りて、険しい岩の斜面を登っていく。ポチは一人で登ることが出来ず、俺の背中におんぶした。



そして、巨大な滝に行きつく。轟音でお互いの声も聞こえないほどだ。この滝の奥に隠されたアルデバラン迷宮がある。



俺たちは濡れた岩肌を慎重に進みながら、滝の裏に入る。青く光るコケによって洞窟が照らされている。



先へ進む。急激に気温が下がってくる。やがて巨大な石の扉が現れた。



扉には文字が刻まれている。



「強さのために、命を投げ出す覚悟がある者は、この先へ進め」



アランが一瞬こちらに視線を向けた。俺が頷くと何も言わずにまた歩き出す。ポチは非力なので、俺とアランが両手で思い切り押して、その石の扉を開いた。



同時に燭台の炎が手前から順番に灯る。その光は一列に並び、俺たちを誘っているようだった。



本来であれば推奨レベル250以上のダンジョンだ。250あっても無理ゲーの、鬼のように困難なダンジョン。命がいくつあっても足りない。



しかし、危険な分、手に入るアイテムや経験値はかなり良い。短期間で強くなるにはここより他はない。



迷宮内は大理石のような光沢のある床が続いている。燭台の青い炎により、十分な明るさは確保できる。



廊下が終わり、1つ目の部屋に着く。俺たちは部屋にすぐに入らず、入り口から中を伺った。



そいつはいた。



白銀の小さなうさぎだ。部屋の中央にポツンと座っている。愛くるしく、キョロキョロ辺りを見回している。



可愛いらしい愛玩動物に見えるが、超危険モンスターのデスラビットだ。何も考えず、部屋に入っていれば、瞬殺される。



まずデスラビットは素早さが異常に高い。しばらくは様子見でじっとこっちを眺めているだけだが、こちらがある程度近づいたり、様子見が終わると行動してくる。



このダンジョンに出現する敵の中では攻撃力が一番低いが、それでも俺は一撃死する。それにいくら英雄の回避術があっても反応できないぐらいの素早さの差がある。『格安石ころ結界』で閉じ込めることも出来ない。石を並べている間に殺される。



更にウルトラシリーズと呼ばれる補助魔法【ウルトラスピードアップ】を使用して来る。素早さを100倍にするこのぶっ壊れ魔法を使われると、もはやなす術がない。



更に群れで行動することも多く、ほかの敵に対して【ウルトラスピードアップ】を使用してくる。使われた瞬間に終わりだ。



倒すためには、先手必勝。動き出す前にHPを0にするしかない。しかし、それが難しい。



まず物理攻撃をするために接近すれば、デスラビットは行動を開始する。俺の素早さでは攻撃を当てることも出来ない。



そのため、遠距離からの攻撃をするしかない。しかし、デスラビットは全魔法属性半減のスキルを持っている。いくらウォーロックで魔法攻撃力が高くなっている俺でも一撃では倒せない。一撃で倒さなければデスラビットは行動を起こす。そうなれば、俺は死ぬしかない。



このダンジョンの雑魚敵一体すら、倒すのは無理ゲーだった。



だから、アランに手伝ってもらう。俺1人ではどうにもならないが、アランがいれば違う。



アランはこんな姿をしているが、レベルは200近くある。回復魔法から援護魔法、攻撃魔法まで幅広く揃えているバランスタイプだ。特に物理攻撃のパラメータやスキルが強めなので、アタッカー寄りではあるが。



それにアランは優秀なユニークスキルを持っている。



「おい、お前ほんとにあれとやる気か? 多分お前じゃ一瞬で殺されるぜ」



アランがデスラビットの様子を見ながら、俺に問いかける。さすがにアランは強さを冷静に測っている。



「ああ、まずは攻撃力以外のステータスアップを念のため頼む」



アランは頷いて【ハイスピードアップ】【ハイガードアップ】【ハイマジックパワーアップ】【ハイマジックガードアップ】を俺にかけてくれる。



俺は神兵の腕輪を外す。ポチの『ワンナイトカーニバル』を発動して、状態異常の狂乱状態にする。これで魔法は使えなくなり、HPが1になったが、攻撃力が2倍になる。



さらにバーサーカーのスキル『狂戦士の怒り』により、減った分のHPが攻撃力に加算される。デュアキンスがいないので、ゾンビ化出来ないのが悔やまれる。



これに斬鉄剣のスキル『貫通攻撃』でデスラビットの防御力を無視できる。『ドッペル』による2倍ダメージを考えると、俺が『剛殺斬』を当てることが出来れば、デスラビットを一撃で倒せるだろう。



デスラビットがスピード特化でHPが低いことが幸いした。あとは俺の何倍も早く高速で動くデスラビットに、溜めがアホみたいに長い『剛殺斬』を当てられるかどうかだ。



「アラン、後はお前の『ブレイブ』に頼るしかない」



「お前……よく俺のユニークスキルを知ってるな」



元勇者アランのユニークスキル『ブレイブ』。それは究極の援護スキルだ。最大MPの100%を消費して、対象一体を一定時間、強化する。



アランの金色に輝くオーラが全身から立ち上り、光る線となって対象に降り注ぐ。効果は絶大であり、ステータスが2倍になり、同時に2つのスキルを使用できるようになる。



これは異常な強化だ。とんでもないのが、ステータス補正が他のスキルと併用可能な点だ。内部的にどうゆう扱いなのか分からないが、特別な処理をしているのだろう。狂乱状態と『狂戦士の怒り』で底上げされた攻撃力を更に2倍にできる。



それに素早さ2倍も破格だ。素早さが2倍になれば、体感で敵の速度が半分になる。他のステータス2倍と素早さ2倍では価値が違いすぎる。



更に2つのスキル同時使用もかなり有益だ。本来ならば、例えば『一刀両断』を使えばモーションが自動的に発生し、その間、他のスキルは使用出来ない。



しかし、それが可能になる。例えば『剛殺剣』を使用中に『一刀両断』を使用する。すると、モーションは『剛殺斬』から上書きされ、『一刀両断』になり、敵を攻撃する。攻撃中に『剛殺斬』が溜めが完了すれば、そのダメージと効果が加算される。



タイミングとスキルの組み合わせ次第ではモーションキャンセルしながら効果だけ発生させられるので、応用がかなり効くテクニックだ。



ソラリスやアリアテーゼの『トリプルスペル』は魔法を複数同時使用できる。それのスキルバージョンだ。



更にアランには先がある。



スキルにはスキル進化というものがある。ある条件を満たすことで、スキルが新しく強化される。アランを覚醒させた時に、『ブレイブ』は『トリプルブレイブ』に進化する。



これが本当にとてつもない効果を発揮する。一定時間、全ステータスを3倍にし、同時に3つのスキルを使用できる。



しかし、俺はゲームでアランをそこまで育てられなかった。仲間にはしていたし、英雄達が発足したブレイブ新技考案会の一員として、スキル組み合わせの新必発技を作ってはいたが、最終パーティに入れるにはステータスが高くなかった。



このようにアランの『ブレイブ』は破格の性能を持つ。しかし、そう上手くいかないのがLOLだ。『ブレイブ』にもやはり致命的な弱点がある。



まずは効果時間が5秒しかない。初めから何をするか決めておかないとあっという間に5秒を消費してしまう。



もう一つ、発動エフェクトがありえないほど長い。金色のオーラーが立ち上り、無数の線になって対象に降り注ぐ。それが全部終わるまで30秒近くかかる。その間、無敵時間などではなく、アランも平気で攻撃を食らう。



更にあり得ないのが、エフェクト発生中、効果を受けている対象もその場を移動出来ない。確かにかなり凝ったエフェクトなので、動かれてしまうと光の線を追尾させる処理が出来なかったのだろう。それにしてもこれは酷い。もちろん無敵時間などもない。



つまり、敵が多い乱戦の中では全く使えない。まず発動していて動けないアランが殺されるし、効果を受けている味方も動けないから殺される。30秒間、足を止めて無駄に豪華なエフェクトが終わるのを無防備に待つことしかできない。



30秒のエフェクトの後に5秒だけのフィーバータイム。どちらかといえば、使えないスキル筆頭だった。




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