最強を目指して
「がははははは、勝ちまくりだ!」
アランの前には山のようにチップが置かれている。異常な勝ち方に観客は増えていた。ディーラーは顔を青くして震えている。
俺は前にチップを押し出した。
「次は黒に5000枚」
ディーラーは明らかに怯えていた。しかし、断ることが出来ない。アランが次に心底楽しそうに言う。
「俺は赤にオールインだ!」
今の全メダルを赤に賭ける。ルーレットが回り始め、ディーラーはボールを投げ入れる。やがてルーレットが止まり、ボールが4の数字に入った。偶数つまり赤だ。
「また俺の勝ちだな」
どよめきが起こる。偶数奇数、つまり赤と黒の2択は、確率50%。アランは7回連続、全てオールインで当てていた。確率で言うと約0.7%だ。
そして、倍率は2倍なので、初期投資の128倍に膨らんでいる。
アランは5000枚のチップを俺に回してくる。俺はそれを受け取り、再度賭ける。
「黒に5000枚」
間髪をおかず、アランが宣言する。
「赤にオールインだ」
ディーラーは恐る恐る告げる。
「お客様……このフロアでの上限ベットを越えています、上限は10万枚までです」
「そうか、ならマックスベット10万枚」
ディーラーは祈るようにルーレットを開始する。しかし、無情にも赤のポケットにボールは入る。
アランは泣きそうになるディーラーと盛り上がる観客の前で、その後も50%を当て続ける。もはやテーブルに乗せられなくなったメダルを後ろで大量に積んでいる。
必勝法は単純なものだった。ただ俺がルーレットで赤に5000枚ベットし、アランに逆を張らせれば良い。
ルーレットは超常的な確率操作により、5000枚以上かけると、100%当たらないようになる。例え広く、バラバラに賭けても、必ずマイナスが出るようにしか当たらない。
ゲーム時代ではこのシステムのせいで、カジノで大金を稼ぐのは不可能だった。しかし、現実になれば違う。俺は100%負けるが、それは同時にアランを100%勝たせることができる。
プレイヤー以外に指示が出来る現実ならではの技だ。カジノで稼ぐのは不可能という先入観が俺の目を曇らせていた。
「はい!また勝利!」
アランは楽しそうに手を叩いて、観客を盛り上げる。俺たちの周りからは多くの拍手が巻き起こる。
そこへ、このカジノの新しいトップ、ガルシアが慌てた表情で走ってくる。アランが大勝ちしていることを聞きつけたのだろう。
アランが積んでいるメダルの量を見て、ガルシアは青ざめる。
「また貴様たちか!」
まるで疫病神のような扱いだった。明らかな敵意を向けられる。
「ガルシアオーナー、私たちはルール通りに遊んでいるだけです、それともこのカジノは運良く勝ち続けているお客を追い出すのですか?」
俺の正論にガルシアは歯を食いしばって拳を震わせる。そして、ある結論に達したようだ。
「頼む、もう勘弁してくれ、このままだとカジノが潰れる!」
いきなりガルシアは土下座を始める。方針の転換は効果的だった。さすがにこれはイジメのように思える。
俺は今の勝ち分を計算する。片手剣とエクストラマナポーションを交換する分に十分足りている。
「アラン、そろそろ十分だろう、俺がいればいつでも勝てる、今日はここらへんでやめておこう」
ガルシアは頭をあげて、目を潤ませながら俺の顔を見る。アランは少し不満そうにしながらも了承した。
「まあ、カジノが潰れたら稼げなくなるからな、今日は勘弁してやろう」
上から目線でそう言って、ボーイにチップと現金の交換を依頼する。
「本当にありがとうございます!」
ガルシアは深くまた頭を下げた。内心腹が煮えているだろうが、そこはサービス業、必死に耐えている。
俺も景品カウンターに行き、必要な分のエクストラマナポーションを大量に交換する。そして、景品の1つ目当ての片手剣を手に入れる。
これは普通にプレイしていては絶対に手に入らない景品だ。もはや飾りでしかなく、その分のメダルを貯めるのは不可能。だからこそ、能力は破格だった。
俺がゲーム時代、後半まで主力で使っていた武器だ。
斬鉄剣。
見た目は柄が木で出来た日本刀だ。刀もLOLでは片手剣扱いされている。普通は両手で振るうものだが、そこはゲームの仕様だ。
攻撃力は魔剣ダイダロスを凌ぐ。ダイダロスが通常攻撃力が800、MPをフルに溜めて4000だ。この斬鉄剣は攻撃範囲こそ狭くなるが、攻撃力が2000ある。
さらにスキル【貫通攻撃】が付いている。これが斬鉄剣の価値を跳ね上げる。
【貫通攻撃】は敵の防御力を無視できる。どれだけ防御力が高くても、無視してダメージを与えられる最高のスキルだ。
これで今後、防御力を超えるための努力はしなくて済む。
俺は満足して斬鉄剣を腰に下げた。優秀な防具も景品には置いているが、俺は使わない。防具には重さという数値があり、素早さが下がる。英雄の戦いにはそれが命取りになる。それにボスレベルになるとやっぱり一撃死するから防御を固めても意味がない。
順調とは言えなかったが、目当ての武器とアイテムは手に入れられた。次のステップに進む必要がある。
絶対にしなくてはならないこと、それはレベリングだ。今のレベルではアリアテーゼにもプロメテウスにも歯が立たない。
「ポチ、そろそろ行くぞ」
俺とアランがいろいろと動いていた間、暇をしていたポチはいつの間にかバニーガール達のハーレムを形成していた。
別れを惜しむ女の子達からポチを引き離し、アランの下へ向かう。
「アラン、約束通りカジノで勝利させた、次は俺を手伝って欲しい」
断られる可能性はある。アランは自分の望みを叶えた。俺に従うメリットはない。
「ん? 確か魔王城に特攻するだよな?」
「ああ、アランは魔王城には来なくてもいい、レベル上げを手伝ってほしいだけだ」
「ふん、構わねぇ、元からそうゆう約束だからな、俺は約束は守る男だ」
俺は安堵した。アランがいてくれるだけで状況は随分と変わる。
「それで、どこでレベル上げをするんだ?」
LOLにはいくつかレベリング方法が存在する。初期は養殖ブルースライムレベリングや養殖シャドウアサシンレベリング。そして、今から俺が行おうとしているのは、ゲーム時代ではなかった新しいレベリング方法だ。正確には発想はあったが、実現するための条件が揃わなかった。
今なら条件が揃っている。俺の理論が正しければ、大きくレベルを上げることが出来るはずだ。
「アルデバラン迷宮」
魔王城に行くためのアイテムが手に入る高難度ダンジョン。敵のレベルは250以上。魔王城の前哨戦だ。
LOLの数あるダンジョンの中でも、特に無理ゲーと言われる。絶望的な難易度を誇る。
物語としては魔王城に行くために、ここのクリアは必須だが、プロメテウスに手引きしてもらえばそこは問題ないだろう。
しかし、ここで手に入るアイテムや経験値は貴重だ。
アランは表情を固くしていた。アルデバラン迷宮のことを知っているのだろう。
「もし無理だと判断したら俺だけ逃げるぜ、それに部下は連れて行けねぇからな、さすがにあいつらじゃ間違いなく死ぬ」
俺は頷いた。アランでもあの迷宮はクリア出来ない。自分の身さえ守ってくれれば良い。
強くならないといけない。不可能を超えるために、俺はさらに高みへと登らないといけない。
この世界で誰よりも強くなりたい。全てを守るために。この理不尽で残酷で救いようのない世界で、俺は最強を目指す。
俺とアランとポチは歩き出した。
「ありがとうございました、またのお越しを……しないで下さい!」
「ポチちゃんはまた来てね!」
ガルシアとボーイ、バニーガールからの声が揃った見送りを受け、俺たちは旅立った。